和「どうしたんですか?」
いや、モンハンやらずに書いてたら終わった。
和「…そうですか」
─五年前のこと、
これが、自分の運命なのだろうか。それならば、受け入れるべきなのだろう。あの日、自分が撃ち殺した、あの男のように…。
─いやだ…!こんなところで…死にたくない…!─
だが、巨大な諦観の中で、シノンはそう叫ぶ。
諦められるわけがなかった。まだシノンは、本当の意味で『強さ』を持っていない。まだ、『克服』していない。
(それに…私はまだ…あいつと…)
そう考えたその時、銃声が鳴り響く。ついに
フードの中に見えていた《あの眼》が消え、赤い光点に戻る。視線を少し動かせば、右肩にダメージエフェクトが見えた。誰かが奴を撃ったのだと理解し、次いで二度目の銃声。シノンの背後から放たれた弾丸を
シノンの位置からは、まだ奴の挙動が見えた。
シノンは少しでも爆破地点から離れようと、体を動かす。とは言っても、その距離は微々たるもの。大ダメージを受けることは免れないだろう。だがそれでも、ここで死にたくはなかった。いっそノーマルに死んで楽になってしまえと心が囁いてくる─その瞬間、グレネードだと思っていたものから煙が放たれた。
(スモークグレネード!?一体…)
誰が、と思うと同時に転がるシノンの右手を誰かが掴む。そのまま乱暴に引き上げられ、肩の上に担がれた。所謂、消防士搬送と呼ばれる担ぎ方で、次いで走り出したのを感じ、スモークが晴れる。シノンは視界が回復すると、目を動かし自分を運んでいる人物を捉えた。
(アレン…)
真っ黒な髪に深紅色の瞳。いつもの無表情だが、心なしか必死になっているように見える。いや、実際に必死なのだろう。彼はAGI型のステータス。いくら楽な運び方を知っていようと、人の重心を理解していようと、アバター+大型ライフルを抱えては可搬重量を容易に超えているはず。その状態で普段より少し遅い程度のペースで走れているのが奇跡だ。
いったい何故ここにいるのか。それを聞きたいが、今はその余裕がアレンにないだろう。重心制御と走るのに思考の大半を取られているように見える。
置いてって良い。そう言った所で、彼はシノンを見捨てないだろう。代わりにシノンは、違うことを口に出す。
「北に向かって…」
煙幕の方から何故か戦闘音が聞こえるが、それらを無視して提案。それに疑問を挟まず、アレンはスタジアムの東を回り込み、北へ向かった。こちら側も南と同じようにメインストリートがまっすぐ伸び、壊れたバスや乗用車がいくつも転がっている。しかしそれでも、二人が完全に隠れられるような場所はない。
ストリートを走り続け、見えてきたのは【Rent-a-Buggy&Horse】のネオンサイン。首都グロッケンにもあった無人のレンタル乗り場だ。ほとんどのバギーが壊れていたが、何台かは走れそうなものがあった。
乗り物はそれだけではない。看板通りバギーの隣には、馬が数匹繋がれている。とはいえ生き物ではなく機械、ロボットホースである。こちらもほとんどが壊れていた。
アレンは一瞬の躊躇もなくバギーに走り寄り、シノンを後部座席に乗せる。次いで始動装置のパネルに触れてエンジンを掛け、アクセルを全力で回した。太い後輪が甲高く鳴き、バギーはターンする。
「…撃てる?」
フロントが道路の北側に向いたところでアレンはバギーを停め、シノンにそう聞いた。痺れが薄れてきた右手で、左腕に刺さっていたスタン弾を抜きながらシノンは少し逡巡した後で頷く。
「…やってみるわ」
未だ震えが残る両腕で肩からへカートを下ろし、銃口を二十M先の
「え…?」
トリガーを引けない。いつのまに安全装置が掛かっていたのかと、愛銃の側面を確認したがそんなことはない。もう一度トリガーを引こうとしたが、先と同じ結果に終わる。
「まさか…」
スコープから目を離し、代わりに自身の指に向ける。そのまま先までと同じように指に力を込めると─トリガーと指の間に数ミリ以上の空白が存在した。どれだけ力を入れても、その空白が埋まることはない。焦りが表情に現れ、何度も指を動かす。
「…」
それを見ていたアレンは、やはりと思う。今の彼女は『シノン』ではなく、『詩乃』の側面が大きく出てしまっている。恐らくは、先ほど突き付けられた拳銃が原因なのだろう。そう考えていると、視界の端、スタジアムの東側の煙幕が薄れてきたのが見えた。
「…捕まって」
「え、きゃっ」
一言の後、アクセルを全力で回し、バギーを走らせた。シノンはそれに驚きながらも、咄嗟にアレンの腰に手を回す。速度を緩めることなどせずバギーは加速し続け、すぐさまトップスピードに達し道を疾走し始めた。
逃げ切れるのだろうか。シノンは全身が恐怖で震えていることに気づきながらそう考えたが、振り返る勇気はなかった。少なくとも、先ほどまでは姿が見えなかったが…。
突然、アレンがバギーを右にずらした。一瞬何事かと思い─シノンの左頬を弾丸が掠める。勢いよくシノンは背後を向くと、一体の黒い機会馬が走り寄ってきているのが見えた。それに騎乗しているのは、
「なん…で…」
例え、現実世界で騎乗経験があったとしても、機械馬を操るのは簡単なことではない。少なくともシノンは、あの馬に乗れるPLを知らない。
だが奴は路上に転がる廃車を迂回、時には飛び越え、バギーと全く同じスピードで追いかけてくる。目測で二百M以上離れているが、やはり馬の方が踏破率が高いのだろう。それに加えこちらは二人で、向こうは一人…。否、よく見ればもう一人乗っているのが見えた。
「ア…アレン…」
シノンの弱弱しい声に、アレンは応えるようにアクセルを更に回す。しかし、道路上には小さな凹凸がいくつもある。それらをタイヤが踏むたびに小さくスリップし、距離を開けるどころか逆に詰められていく。
百Mを切ると、後ろから声が聞こえてくる。
「なぁなぁ!俺が撃っても良いんだよな!?撃つぜ!?」
そう
それを見た瞬間、震えが一層大きくなるのを自覚した。伏せることも、声を上げることも出来ず、銃を凝視する。銃口から
「嫌ぁぁぁ!」
今度こそシノンは悲鳴を上げて背後から顔を背けると、アレンの背中に顔を押し付けた。背後からちょっとした口論が聞こえたかと思うと、二発目の銃声。サイドミラーで確認していたのか、アレンは少しバギーをずらすだけで回避する。
「やだよ…助けて…助けてよ…」
今までトラウマを前にしていて、耐えられていたのが不思議だったのだ。シノンは赤ん坊のように体を縮め、そう言葉を繰り返す。それに対しアレンは左手をシノンの手に添えて、ただ一言。
「…大丈夫」
それだけでシノンは少しだけ、冷静さを取り戻すことが出来た。次いで、なにが大丈夫なのだろうと思う。
「─キリハ!」
その声と銃声が聞こえたのは同時だった。「ぬぉ!?」と聞こえたことからこちらを狙ったものではないらしい。いや、それは当然だろう。その声は、アレンの次に付き合いが長いPLのものなのだから。
蹄が着地する音にゆっくりと後ろを振り返ると、そこには一体の機械馬がいた。しかしその色は銀色であり、乗っていたPLは知っている者であった。
視線のあった者─コウはシノンに微笑を向けると、バギーと併走するように馬を走り出す。
「遅れてごめんね?ちょっと
ということは、コウが乗ったのはこれが初だということだろうか。この人の
「割り込んですみませんが、まだ追いかけてきていますからね」
コウの後ろに乗っていたキリハが、そう言いながら後ろに向かってリボルバーを二発放った。が、それを回避し、更に距離を詰めようとしてくる。
「まぁ、当たりませんよね」
言いつつ残りの三発も放つ。当然のように回避されるのを見ながら素早くリロード、銃口を向けるだけにとどめた。さてどうしましょうか、と小さく呟く。
「…前方…大型トラック」
アレンの言ったとおり、横転した大型トラックが見える。それを目にした瞬間、コウが懐からグレネードを取り出した。シノンは何をしようとしているのか分かったが、どうやってそれを実行しようというのか。
「キリハ、グレネードを道路に
その言葉は、キリハが外すとは全く思っていない声で発せられた。そして、キリハは納得したように頷く。
確かに、シノンから見てもキリハの狙撃の腕は悪くない。本当に銃の世界が初めてなのかと疑うほどだ。だが、それとグレネードを撃ち抜けるかどうかの話は別だ。こちらが動いている状態、それもかなりのスピードが乗っている状態で小さな物体を撃ち抜くのは至難の技である。シノンは狙撃銃を使えば出来る自信があるが、弾丸をばらまく
「─任せてください」
キリハの顔を見ると、小さく笑みを浮かべているのが見えた。「頼もしいな」と言いながらコウは、トラックを横を通ったときに、ピンを抜かない状態でグレネードを
「僕自身不思議なんですが─外す気がしないんですよ」
ちょうど