転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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はぁいギリギリですが宣言通りもう一話投稿です!


追跡

(…シノンはキリハさん(あの人)と一緒か)

 

 キリハ達のいる鉄橋から北東へわずか二Km地点の森の中、アレンは太い枝の上で端末を見ていた。自分の周囲には一人しかいないことを確認してから、シノンの安否を確認している。彼女がこの段階で脱落するなどまずあり得ないが、物事に絶対など無いので念のためだ。彼女の近くにキリハがいるが、恐らく戦闘はしていないだろう。まず二人の距離が近すぎる。それに加え、この距離で銃声が聞こえていないのだ。銃を撃つ暇もなく斬られたのなら、シノンのマーカーが灰色になっていなければおかしい。よって、二人は現在休戦状態、もしくはそれに近い状態なのだろう。

 

(…コウさんは)

 

 シノンのついでにキリハの安否も知れたので、ついでにコウも探そうとして─

 

「!」

 

─風切り音が背後から襲来、即座に枝から飛び降りる。飛んできたのはナイフ、着地して背後を確認する。はたして、そこにいたのは、黒いフードを深く被った男だった。

 

「Wow。今、音だけで避けたか?流石は二つ名を持っているだけあるな」

 

 そいつは拍手をしながら、ゆっくりと歩いている。何が面白いのか、唯一見える口には笑みを浮かべていた。

 アレンはそのPLの名前を思い出す。名前は《nymphaea》、読み方は分からない。確か、前回のBOBにも参加していたはずだ。その時はTOP5には入っていた、のだったか。シノンとは戦っていなかったはずだ。

 アレン自身は、このPLと戦ったことはおろか会ったことすらない。なので詳しくは知らないが、目の前で見て思う。

 

(…強いな)

 

 少なくとも、つい最近戦ったリヴァイアより強いのではないだろうか。まぁ良い、出会ったのだから殺りあおう。

 両手でナイフを取り出し、即座に距離を詰める。それに対し、男は右手で懐からスチェッキン・マシンピストル(ハンドガン)を取り出し撃ってきた。それをナイフで弾き、斬りかかる。

 

「ハッ、マジで弾きやがった!」

 

 男は歯をむき出しにしてそう言い、ハンドガンと左手に持った筒でそれぞれはじく。次いで弾丸を放ってくるが、素早く腕を引き戻し弾丸を斬り割いた。

 

「!」

 

 いつの間に近づいたのか、目の前に男の顔があった。男は右手に持ち替えた筒─光剣を左から振るう。

 光剣はその攻撃力の高さから、基本的に防御は出来ない。というより、防いだ物ごと斬られてしまう可能性が高い。故に仰け反って回避、そのままバク転。足を付けた瞬間、距離を詰めナイフを振るう。それをバックステップで男は回避、そのまま距離を取った─と認識した瞬間、何かを投げてきた。筒状のもの、それから煙幕が勢いよく吹き出る。

 

(スモーク…)

 

 バックステップをして、煙の中に入らないようにする。黒い煙のため、余計に中の様子が見えない。どう来られても対処できるよう低く構え、耳を澄ませる。しかし、いくら待っても仕掛けてくる気配が無い。首を傾げている間に煙が晴れると、そこに男はいなかった。少し拍子抜けだ。どんな目的で仕掛けてきたのだろうか。

 

(…どうでもいいか)

 

 襲ってきたらその時に考えるとして、取り敢えずシノンと合流するとしよう。

 

 

 

 

「っ!」

 

 弾丸予測線(バレットライン)の一本が顔の中心に伸びた瞬間、10m程の高さから飛び降りる。と同時にコウが先ほどまでいた場所に数発の弾丸が通った。このままだとダメージを食らってしまうので、壁にナイフを突き刺して勢いを殺してから着地。撃ってきたのは誰か、そんなこと、確認するまでもない。聞こえてくる足音の方向に顔を向けると、AKS-74S(アサルトライフル)を手に持ち、こちらに歩いてくる人物が一人。バジリスクだ。

 

「完全に不意打ちだったろぉ今。何で回避できたんだぁ?」

 

 首を傾げながら、彼はそうぼやいた。なんでも何も、見られていない狙撃銃の初弾以外は弾道予測線が見えるのだから回避できて当然、それを知らないはずがないのだが...。

 それらの疑問を排除し、コウは光剣を手に持ちバジリスクに斬りかかる。「うおっ!」と驚愕の声を上げながらも危なげなくバジリスクはそれを回避、アサルトを連射してきた。コウは光剣を予測線上に置き、それらを防ぎながら距離を取る。

 

(和葉の言う通りだね)

 

 予測線が伸びてきた順に弾丸も飛んでくる…なるほど、言われればその通りだ。今までは回避一択であったが、これで手数が増えた。とはいえ、わざわざ自ら銃弾の中に飛び込もうとはしないだろうが。今更だが、アレンにも聞くことが出来たなと思う。

 それにしても、とコウは疑問を浮かべる。

 

(彼、ホントにバジリスクなのか?)

 

 何かしら小さく呟いているバジリスクを見てそう思う。以前は5分ほどしか敵対していないが、ここまで喋るような人物ではなかったはずだ。確認してみるか、と思い口を開く。

 

「君、ホントにバジリスクだよね?」

 

 それに対しバジリスクは一瞬硬直した後、体中の力を抜いた。次いで、顔に片手を当て呟く。

 

「はぁマジかよ…()()()ともう会ってんのかよ…」

 

「…?何を言って…」

 

─突如、ナイフを手に持って斬りかかってきた。伏せて回避、下から光剣で斬り上げようとして、バックステップをされる。いつでも撃てるようにハンドガンを向けていると、バジリスクは既に弾丸を放ってきていた。それらを切り払う。と、バジリスクは背を向け一目散に駆けていった。それに硬直するが、追うことはせず武器をしまう。

 

(結局、誰なのかわからなかったな…)

 

 だが恐らく、バジリスク本人ではないだろうとコウは思う。出なければ、自分のことを"こいつ"とは言わないだろう。考えにくいが、ただアカウントを乗っ取られたか、あるいは─

 

(─殺されたか)

 

 とすれば、彼は死銃の関係者か。断定は出来ないので、この考えは保留しておくことにする。一応、キリハに会ったらバジリスクのことを言うつもりだ。

 

(さて、次のスキャンで彼女と合流できると良いけど…)

 

 それまではこの辺で身を隠すとしよう。

 

 

 

 

 キリト・シノンペアは《夏候惇》というPLをさくっと倒し、鉄橋より北に向かっていた。《死銃(デス・ガン)》は狙撃兵(スナイパー)、遮蔽物の無い開けた場所は苦手、かといって森は論外、よってそこそこに遮蔽物があり見渡しも良いマップ中央の都市廃墟へ向かったと判断したからだ。二十一時のスキャンで奴は次のターゲットを決めるだろう。それまでに、奴を止めなければならない。それはシノンにもわかっている。故にキリハに協力しているし、こうやって無理にでも付いて行っているのだ。だが、シノンには懸念事項があった。

 

(もし本当に…)

 

 キリハの言っていたことがあるのなら…。否、そんなことは無いはずだと、シノンは被りを振る。姿を消す能力(アビリティ)は一部のボス専用であるはずで、PL側に実装されたという(アナウンス)は聞いていない。しかし、もしそれが本当に実装されていて、手に入れたPLが隠していたのだとしたら…?

 そんなことを考えているうちに、フィールド中南部の草原地帯を抜け、ビル群が見えるところまで来ていた。

 

「追いつきませんでしたか…」

 

 川が途切れ、足を止めたキリハはそう呟いた。川を泳いで都市を目指していると予想している《死銃(デス・ガン)》に途中で追いつき、非武装状態で上がってきた所を追撃出来ればと思っていたのだ。

 

「まさか、途中で追い抜いたとか?」

 

「いえ、それはないでしょう。走りながら水中を見てましたから」

 

 シノンの言葉にキリハが即答した。「そう…」と答えつつ、疑問に思う。ダイビング機材(アクアラング)を背負っていなければ、水中に一分以上潜っていられないはずなのだ。L115A3という大型ライフルを持つ奴の装備重量に、そこまで余裕があるとは思えない。となると、自分達の見えない場所で岸に上がり、そのまま都市まで走っていったのだろう。

 二人が視線を向けた先は、川が暗渠(あんきょ)となって都市地下に流れ込んでいた。その入り口は鉄格子が設置されており、PLが通り抜けられないようになっている。あの手の障害物はプラズマグレネードをいくら当てても破壊することは出来ない《破壊不能オブジェクト》になっている。

 二十一時のスキャンまで残り三分。この都市のエリア内は、どこにいようとスキャンから隠れることは出来ない。前回の大会でも、高層ビルの一階にいたPLもスキャンされていた。ノーリスクで衛星の目を誤魔化すことは、恐らく出来ない。少なくともシノンは知らない。それらをキリハに言うと、「ふむ」と顎に手を当て考え始める。

 

「…それなら次のスキャンで、奴に強襲かけましょうか。ここにいる《死銃(デス・ガン)》候補者が一人だと良いのですが…」

 

 《死銃(デス・ガン)》の候補者、大会に初参加のPL《Pale Rider(ペイルライダー)》、《銃士X》、《バジリスク》、《Sterben(ステルベン)》の四名。この内、ペイルライダーは《死銃(デス・ガン)》ではなかった。バジリスクは大会には初参加だが、以前にコウが戦闘したことがあるらしいので、《死銃(デス・ガン)》本人の可能性は低い。

 

「では《ステルベン》と《銃士X》、どちらかしかいなかったらそちらに行けば良いですが、どちらもここにいたら近い方へ行きましょう。どちらの場合でも僕が突っ込みます。もし僕がスタンさせられても、シノンさんは慌てず撃ち抜いてください」

 

 その言葉を聞いた瞬間、シノンは目を見開いた。出会ってまだ二日、それで何故信じられるのか。

 

「…後ろを任せるのね。私があなたを撃ち抜くかもしれないのに」

 

 シノンのその言葉にキリハは苦笑してから口を開く。

 

「コウが信用していますし、僕自身あなたがそんなことをしない人物であると思っているので」

 

 さ、時間ですよ、とキリハは川床から都市に行くための階段を上り始めた。シノンは溜息を一つ、キリハの背を負い始める。

 

(ここまで信用されてちゃ、しょうがないわね)

 

 答えてあげたくなるのが、シノンという人物だ。冷静な部分が未だにキリハを疑っているが、これで全てが嘘だったら自分が浅はかだったというだけだ。

 

 

 コンクリートの短い階段上部、向こうからは見えない位置で二人は蹲り、スキャンを見始めていた。シノンは南から、キリハは北から。

 コウや《バジリスク》などの知った名前たちを流し見し、目当ての名前を探す。ここで二人の名前を見つけられなかったら、自分達の考えが根本から間違ってたことに─

 

「いた!」

「見つけました」

 

 ほぼ同時に二人は声を上げた。都市中央、スタジアム風の円形建設物の外周部。見晴らしのよさそうな狙撃ボジションに単独で表示されている光点をタッチ、名前は《銃士X》。二人は一度視線を交わし、同時に頷くともう一度マップに目を戻す。

 

「ここにいるのは《銃士X》だけね」

 

 その言葉にキリハは頷き、マップに指を走らせ、一つの光点に指を置く。

 

「狙われているのは恐らく、この《リココ》というプレーヤーでしょうね」

 

 場所はスタジアムからやや西のビル。孤立しているうえ、移動するには必ず《銃士X》に姿を現さなければならない。そうしたらスタン弾が放たれ、倒れたところをあの黒い拳銃で撃つだろう。スタンはともかく、拳銃で撃たれるのは防がなければならない。

 二人はすぐさま行動を開始、端末をしまい中央に向かって走り始めた。このエリアには自分達と《銃士X》の他に七、八人のPLがいたが、幸い自分達の向かう先にはPLがいないことを確認済み。更に路上には朽ちたタクシーやバスなどが転がっている隠れ場所には困らない。故にそれらの間を縫うように、中央まで速度を緩めなずに走りきる。

 七百Mほどの距離を一分かからずに走破し、目的地の中央スタジアムまで来ると、シノンのハンドサインで近くのバスの陰に隠れる。外装はビル三階ほどの高さで、東西南北のそれぞれに入り口が一つ。スキャンの時から動いていなければ、《銃士X》は西口の真上辺り─

 

「─いた」

 

 夕日に一瞬光ったものを見逃さず、シノンがそう報告する。間違いなくライフルの銃口で、キリハも確認できたようだった。恐らく、まだ《リココ》が出るのを待っているのだろう。ならば好都合だ。

 

「今のうちに後ろからやりましょう。シノンさんは向かいのビルから狙撃してください」

 

「分かったわ」

 

 キリハの作戦に頷く。シノンは狙撃手、遠くから撃ち抜くのが本来の役割なのだから。

 別れてから三十秒後に戦闘を開始すると言って、キリハはほとんど足音を立てずに走っていった。それと同時にシノンも目的地に向かって走り始める。

 都市エリアの建設物には入れる場所と入れない場所があるが、入れる場合は分かりやすい出入口が設置されている。スタジアム向かいのビルにも、壁面が大きく崩れている場所があった。そこから入り三階まで登ればスタジアムが見渡せるはずだ。距離が近いので向こうにも気づかれる危険があるが、近接戦闘中に周囲を見渡す余裕はないだろう。

 そこまで考え、ビル崩壊部分をくぐろうとした瞬間、背中に悪寒が走った。咄嗟に背後に振り返ろうとしたが、何も出来ずに地面に倒れる。

 

(なに…何が起こったの…!?)

 

 体を起こそうにも自由が利かず、動かせるのは両目のみだ。先程、何かの光を視界にとらえ、咄嗟に振り上げた左腕に衝撃が走ったのを思い出した。両目を動かし、ダメージ感の残る左腕を見下ろす。そこにあったのは─

 

(電磁…スタン弾…?)

 

 ペイルライダーを麻痺させた弾丸と全く同じものだ。電磁スタン弾を装填出来るのは大型ライフルのみ、そして発射音がほとんど聞こえなかった。サプレッサー付きの大型ライフルを持っている者など、そうそういない。

 そこまでシノンは考えても、自分を撃ったのが『あいつ』とは思いたくなかった。

 

(だって…今はスタジアムの方にいるはず…)

 

 弾丸が飛んできたのは通りの南、スタジアムは北側。スタジアムから降りてきたとしても、この短い時間では無理だ。そも、先ほどのスキャンで南側にいるPLがシノンを狙撃出来ることはないと断言できる。

 

─何故、分からない、理解不能─

 

 その問いに答えるように、一人のPLがシノンの前に姿を現した─シノンの視界先で突如、空気を切り裂くように。それはまるで透明化を解除したかのようだった。その不可思議な現象を、シノンは知っていた。

 

(メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)…!)

 

 装甲表面で光を滑らし、姿を不可視化する究極の迷彩能力。だがそれは、一部の超高レベルネームドmobにしか実装されていなかったはずだ。だがそれがあるということは、サイレント実装されていたということになるだろう。キリハの予想が最悪の形で証明されてしまった。

 ばさりとぼろマントをはためかせ、シノンの前に姿を現したPL─死銃(デス・ガン)がゆっくりと歩いてくる。そのマントの下に、サプレッサー付きの大型ライフルも見え、あのマントに迷彩能力があるのだろうと冷静な部分で考える。衛星は透明な者まではとらえられないのだろう。だからこいつは誰にも気づかれることなくスタン弾を撃つことが出来たのだ。

 フードの奥で二つの赤い光点を瞬き、《死銃(デス・ガン)》はシノンから二M離れた場所で立ち止まった。

 

「キリハ、お前が、本物か、偽物か、これで、はっきりする」

 

 どうやらこいつはキリハがスタジアムにいることを知っており、シノンではなく彼女に語り掛けているようだった。

 

「あの時のことを、まだ、覚えているぞ。お前の、目の前で、殺すことは、出来なかったが、この女を、殺して、狂えば、本物だ。さぁ、見せてみろ、キリハ。お前の、殺意を、怒りを、()()()に」

 

 シノンにはその言葉の意味のほとんどが理解できなかったが、こいつが自分を殺そうとしていることは分かった。それを分かったうえで、はいそうですかと納得できるはずがない。

 

(すぐに撃ってこなくて助かった…)

 

 シノンは目の前に《死銃(デス・ガン)》が現れてから、右手を腰に装着してある副武装のMP7(短機関銃)に伸ばしていた。そして今、グリップを握ったところだった。

 それと同時に、《死銃(デス・ガン)》が懐に手を伸ばす。

 

(大丈夫、間に合う…)

 

 こいつは撃つまでに十字を切るはずだ。それより、自分が銃口を向けてトリガーを引く方が早い。焦らず、早急に、着実に右手を動かす。それが見えているはずだが、何もしようとはしてこない。それに疑問を覚えつつも好都合と捉える。そして漸く銃口を向けたとき、相手の持っている拳銃の全体が目に入った瞬間─シノンの全身が凍るように動かなくなった。

 

(な…んで…いま…ここに…)

 

 それよりも凶悪な銃など山ほどある。なんども目の前で銃口を向けられたこともある。なのになぜ、シノンがここまで動揺しているのか。

 嗚呼、視界にとらえた銃が《デザートイーグル》や《M500》などだったら、シノンは動きを止めることなく今頃はトリガーを引いていただろう。だが、それは…()()()()()()()()だ。

 その黒い拳銃の名は《TT-33》。グリップに刻まれた星から、別名《黒星(ヘイシン)》。そして─

 

 

 

 

 

 

シノン(朝田 詩乃)()()()()()()()()だ。




銃殺…おやぁ?どっかで書いた記憶があるなぁ?どこだっけなぁ?(すっとぼけ)
和「切り刻みますよ」
怖っ

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