転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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 なんとか9月中に投稿出来た…
和「サボりすぎです」


死銃

「─狙撃…?」

 

 ペイルライダーが倒れた原因を狙撃されたと判断し、二人は耳を澄まして銃声を探す。しかし、いくら時間が経っても音が聞こえることは無かった。聞き逃したかとシノンは思ったが、キリハはそれを否定する。二人いてどちらも聞き逃すことはまずありえないだろうと。ということはサプレッサーを付けているのだろうと、二人は早々に結論付けた。そんなことよりもと、シノンには不可解に思う。先程の端末の情報では自分を含めて四人しかいなかったはずだ。どこから狙撃したのだろう?そこまで考えて、思い出す。

 

「ねぇキリハ、あんたどうやってここまで来たのよ」

 

 十分前に見た時は端末に映っていなかったことを伝えると、キリハは首を傾げながら言う。

 

「僕はペイルライダー()を後ろから追いかけていましたから、端末に映ってたはずですが…」

 

 うぅむと顎に手を当ててしばらく考え、そういえばと続ける。

 

「十分前は川を潜っていたかもしれません。ずっと潜っていたので、それで映らなかった可能性が…」

 

 は?と言いそうになった、というか口に出た。言っている意味は分かるのに、頭が理解を拒否した。川や水の中は侵入禁止ではないが、水の中に全身が浸かればHPは継続的に減少し、装備の重量でまともに泳げないはずなのだが…。

 それがわかったのかどうか知らないが、キリハは続けて言う。

 

「勿論、装備は全部外しましたよ。そうでないと泳げませんから。ウィンドウから解除した装備はストレージに戻るので、手で運ぶ必要がないのは《ザ・シード》規格VRMMOで共通ですから」

 

 ほんの数秒、思考が停止した。泳いで渡る、という発想が思いつくこともさながら、周囲が敵だらけの中で装備を全て外せるその度胸が信じられない。

 

「ん?装備全解除…?って、あんた女子でしょう!?」

 

「コウに知られると問題なので、彼には黙っててださいね?」

 

 笑みを浮かべてキリハはそう言った。それに頷きつつ、もう自分の常識は通じないのだと無理やり納得させ、それにしてもとシノンは口を開く。

 

「彼、いつまで寝ているつもりかしら」

 

「動けない、のかもしれませんね」

 

 キリハの言葉にスコープの倍率を上げよく見てみると、ペイルライダーのアバターを青いスパークがはい回っている。あれは確か─

 

「─電磁スタン弾…」

 

 名前の通り、命中した相手を麻痺(スタン)させる特殊弾。大型のライフルでしか装填できず、一発の値段がかなり張るためもっぱら大型のmobで使用されるものだ。

 そうキリハに説明している間にもスパークが薄れ始めている。後数十秒で回復するだろう。HPはほとんど減っていないはずで、これでは何のために難易度の高い超狙撃を成功させスタンさせたのか…。

 

「「───!」」

 

 そこまで考えたところで、二人が同時に反応した。

 今二人がいる場所から反対の位置にある柱を支える鉄柱の陰から、ゆらりとにじみ出る黒い人型のシルエットがあった。一見、PLに見えなかった。輪郭が微妙にぼやけているのだ。ぼろぼろのギリーマントを羽織い、それが風になびいてまるで小動物のように不規則に動いているのが理由だった。

 

「いつから…」

 

 シノンは思わず、そう呟いた。そいつがペイルライダーを撃ったのは間違いない。だが、一体どうやってそこまでたどり着いたのか。それらの疑問をシノンの頭から吹き飛ばす出来事が三つ、立て続けに起こった。

 まずは一つ、それはいままで 隠れていたそのPLの武器が見えたこと。

 

「《サイレント・アサシン》…」

 

 正式名称『アキュラシー・インターナショナル・L115A3』。専用サプレッサーを標準装備することを前提とした大型の狙撃銃だ。最大射程距離は二千m以上。撃たれた者は射手の姿を見ることなく、銃声を聞くこともなく命を散らす。故に、与えられた別名が『沈黙の暗殺者(サイレント・アサシン)』。

 それが実在しているとは聞いていたが実際に見たことなかったこと、そして自分以外でソロの狙撃手がいたこと。故に、シノンはぼろマントが何者なのかと考える。

  二つ目、驚くことにそのPLは狙撃銃をしまいながらペイルライダーに近づいて行ったのだ。スタンさせて、改めて精密射撃を行わず、姿を見せ、挙句の果てにメインアームをしまう。ヘッドショットを狙ったところで、HPを削りきるのは難しいだろう。もう理解できなかった。

 そして三つ目─

 

「─今すぐ奴を撃ってください…」

 

「え?」

 

「あのぼろマントを撃ってください!早く!」

 

 ペイルライダーのそばまで近づくと十字架を切り、そしてハンドガンをペイルライダーに向ける。すると先ほどまで見せていた冷静さを捨てたようなキリハの切迫した声に、シノンは反射的に従う。突然のキリハに疑問を思い浮かべながらも照準をぼろマントに合わせ─迷わずトリガーを引いた。彼女が、意味もなくそう指示するはずはないと思ったからだ。

 距離は三百m、外すはずがなく、シノンは大穴の空いたPLを幻視した。だが─

 

「なっ!?」

 

─外した、否当たらなかった。シノンがトリガーを引いたと同時に、ぼろマントは上半身を仰け反らせ、弾丸を回避したのだ。

 

「あいつ…こっちを認識してた…?」

 

 いつ?一体どうやって?疑問は浮かび上がるが、そうでなければあの避け方は予測線が見えていなければ説明できない。

 驚愕しながらもシノンは無意識のうちに次弾を装填させている。狙撃体勢を維持しつつも、彼女は迷った。ただでさえ狙撃手は第二射以降は不利なのだ。それに加えへカートは連射が出来ない銃である。マガジンに残っている弾を全て連射しても当たらないだろう。

 そう考えているシノンを余所に、ぼろマントは再びハンドガンをペイルライダーに向けた。そして─発砲。

 

「っ」

 

 隣で息を呑んだのがわかった。

 この世界では、小口径の弾丸をどこに当てようとも─それこそステータスに絶望的な差が無い限りは─即死は基本あり得ない。ペイルライダーのHPはまだ九割近くは残っているだろう。しかしぼろマントは、追撃をしない。ペイルライダーが後数秒で回復するのも、シノンが狙っているのも知っているはずだ。それなのに奴は身を隠そうともしないのは一体…。

 そこでペイルライダーがスタンから回復。飛び跳ねるように体を持ち上げ、霞むような速度でショットガンをぼろマントの胸に食い込ませるように打ち付けた。文字通りのゼロ距離、一度トリガーを引けばぼろマントのHPは消し飛ぶだろう。しかし─銃声は響かなかった。代わりに聞こえたのは、土の上に何かが落ちた音。ペイルライダーの右手からショットガンが零れた。ついで空いた右手で胸を強く掴みながら、両座を降り、最後には倒れる。シノンのスコープに、彼のヘルメットから除く口元が苦しんでいるように開いているのが見えた。そして─彼のアバターがノイズのような光に包まれ、突如消滅。その場に【DISCONNECTION】という文字が浮かび上がる。

 

「なに…今の…」

 

 数秒経って、シノンはそれだけを発せた。理解が追い付いていないからだ。

 ぼろマントはペイルライダーを撃った銃を空中に向ける。恐らくそこに大会を中継しているバーチャル・カメラのレンズがあるのだろう。それはつまり、今の状況を観客にアピールしているということ。何故そんなことをしているのかわからないが、シノンは一つだけ思い浮かべた。それはつまり─

 

「─あいつが…《死銃(デス・ガン)》か…」

 

 キリハがこの世界にやってきた本当の理由。どのような手を使ったかはわからないが、今奴は《ペイルライダー》というアバターを使用していた人間を、()()()。前もってキリハから《死銃(デス・ガン)》のことを教えてもらわなかったら、この考えは思い浮かばなかっただろう。

 そういえば、先ほどから隣のアクションが伝わってこない。どうしたのだろう思ったのと同時に、覗き込んでいたスコープに新しい人影が映る。

 

(いつのまに…)

 

 それはキリハだった。光剣とリボルバーを手に持ち、ぼろマントに向かっている。一体いつ、自分に気づかせずにいなくなったのか。気になることはあるが、今はキリハに協力した方が良さそうだ。故にシノンはへカートを抱え、キリハの後を追い始める。

 

 

 

 ペイルライダーのアバターが消滅した瞬間、キリハはぼろマントに向かって走り始めた。間違いなく奴が《死銃(デス・ガン)》であると確信したからだ。出来れば被害を出したくなかったのが本音だが、()()()()。助けられなかった後悔よりも、今は奴が優先事項だ。

 奴は今、拳銃をホルスターに戻してダインの方向へ歩き始めたところだった。彼も標的なのかと疑ったが通り過ぎたので、最初に現れた鉄柱に向かっているのだろう。橋まで残り百五十M、ここで奴を倒せればいいが、間に合うか?

 キリハが橋に到着したと同時に、奴の姿が鉄柱の向こう側に消えた。その場で止まらず、姿が消えたところまで走り、一段低くなっている川岸に目を通す。ここに隠れる場所はないはずだ。

 

「いない…?」

 

 だが、奴の姿はどこにも見えなかった。川に飛び込んだのかと、目を凝らしても影すら見えない。一体どこに消えたのか。

 

「ちょっと。いきなり走らないでよ」

 

 振り向けばシノンが走りよってきていた。

 

「シノンさん、スキャンを」

 

 ちょっとした抗議を受けたが、それよりも奴が重要だ。それをシノンも分かっているのか、軽くムッとした顔をしながらも指示に従ってくれる。

 スキャンは少しの隠蔽物なら容易く貫く。それを欺くには洞窟の奥に隠れるか、キリハが行ったように水の深くまで潜水しなければならない。スキャンが開始され、画面にいくつもの光点が現れる。南端には相変わらずリッチーがいた。恐らく大会終了間近まで降りてこないつもりだろう。放置に変わりはない。

 そこから更に北へ約1km、薄い光点が一つと通常の光点が二つ。薄い方がダイン、通常がキリハとシノンだ。恐らく他のPLは二人が近接戦闘中だと思うだろう。別にそこはどうでもいいので思考から排除。近くにあるはずの、もう一つの光点を探すが─

 

「─無い!?」

 

 見当たらない。シノンは再度食い入るように画面を見るが、どれだけ探しても近くにある光点は三つのみだった。森の方へ行ったのか、それとも川岸を走ったのか。だが、そうだったとしてもキリハが見逃すなどまずないだろう。となると…。

 

「水の中にいるんだわ…だったら─」

 

「─チャンス、だと?」

 

 キリハの言葉に頷く。奴は今、全ての装備を外しているはずだ。そして、再び装備するのに最低でも数十秒はかかる。その間に自分が撃てばいい。そう考えての発言だったが、キリハは何かしらの懸念事項があるようだ。

 

「なによ。心配事があるなら言ってよ」

 

 キリハはしばらく言うかどうか迷ったように口を開閉させ、やがて「可能性の話ですが」と前置きをする。

 

「透明になれる装備…光学迷彩のような装備があったとしたら─」

 

─それはサテライト・スキャンに映るのですか?─


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