転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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バレット・オブ・バレッツ

 五分も経たずに総督府に到着、中に入る。内部はかなり広いドームであり、いかにも未来的なディテールが施されていた。壁には巨大なモニターがいくつも設置され、いろんな告知から実在企業のCMが流れている。一番目立っているのは中心にある《第三回 バレット・オブ・バレッツ》のパネル。

 それらをサッと見渡してエントリーパネルの前に行く。分からないことがあったら言ってね、とコウに言われたので頷いたが、特に問題はなさそうだ。PLNを入力後、すぐさま現れたのは現実世界の情報を入力する場所だった。これには驚いたが、そういえば上位入賞者には商品が送られると聞いたことを思い出す。が、キリハは何も入力せず下にスクロール、SUBMITボタンを押した。そそられなかったと言えば嘘になるが、今回はGGOを楽しみに来ているのではないのだ。最悪な話、《死銃(デス・ガン)》が運営側の人間だった場合、自由にPL側の個人情報にアクセスすることが可能である。そいつの正体を暴かない限り、現実の情報を晒すのは良くないだろう。

 パネルに登録が完了した旨と、キリハの対戦日時が表示されていた。今日の十五時半だ。後四十分ほどある。他の三人も終わったようだ。

 

「皆はどこのブロック?僕はEなんだけど」

 

「私はFです」

 

「…F」

 

「Eですね」

 

 二人ずつ同じブロックになってしまったが、トーナメント票を見るとそれぞれ決勝戦で当たるようだ。となると全員本戦に行ける可能性がある。

 BOBは各ブロックで二人が予選を突破できる。つまり、決勝戦に行ければ本戦に出場できるというわけだ。よかったね、とコウが笑顔で言った。その言葉はまるで、この中の誰一人として予選落ちしないと思っているようで、実際そう思っているが故の言葉である。勿論、相手が親しい相手であろうと全力でぶつかるつもりだ。

 会場は地下にあるのでエレベーターで地下まで行くと、幾人ものいかついPLが武器を持って佇んでいた。ゲームの中だというのに騒いでいるものは誰もいない。数人で固まって囁いているか、一人で押し黙っているかのどちらかだ。その中の数人は、これまたいかつい銃を見せびらかすように持っている。基本的に対mobをしていたキリハにとって、対人(PVP)ばかりしてきたPLの出す空気は少し慣れない。特に怖気づくわけでもないが。

 情報を読み取ろうと鋭い視線を向けてくるPLらを通り過ぎ、男女で別れて更衣室に入る。

 

「まったく…バカな連中ね」

 

「あれでは対策してくれ、と言っているようなものですからね」

 

 シノンはキリハの言葉に少々驚いたようだった。

 GGOについては素人だが、SAOやALOでも対人戦闘は行ったことがある。その時にも相手の武器を見て戦闘スタイルを予想していた。故に大会前であり、多数のPLの目があるあの場でメイン武器を見せるのは悪手である。

 そうシノンに言うと、納得したようだった。

 

「キリハはPVPの経験が豊富なの?」

 

 そこそこと答える。が、詳しくは話すことはしない。シノンとは決勝で戦うことになるのだ。どうせ中央にあるモニターで試合風景が流れるだろうが、出来るだけこちらの情報は渡したくない。

 それをシノンも承知なのだろう。そっか、とだけ呟いて深く突っ込んでくることはなかった。

 

 

 

 戦闘服に着替え終わると四人は固まってソファーに座り、雑談を始めた。というよりは、改めてキリハにBOBのルールをレクチャーしているところだ。

 中央にあるモニターのカウントダウンが零になったら、ここにいるエントリー者は予選一回戦目の相手と二人きりのフィールドに転送される。フィールドの一Kmの正方形、地形タイプや天候、時間はランダム。相手との距離が最低五百m離れたところからスタートし、勝者はこの待機エリアに、敗者は一階ホールに転送される。負けてもランダムドロップは無し。勝者はその時点で相手が決まっていたらすぐに二回戦、決まっていなかったらそれまで待機。待ち時間をどう使おうと自由だが、基本的には中央モニターで試合風景を見ていることを推奨する。

 

「─とまぁこんな感じかな?僕は出たこと無いから、動画やサイト、二人から聞いたことをそのまま話したんだけど」

 

 合ってる?とシノンとアレンに確認を取ると、二人とも頷く。

 

「二人はBOBに参加をしたことが?」

 

「私は二回目ね。アレンは初めてよ。ルールを把握しているだけ」

 

 キリハの問いにシノンが答え、アレンは頷く。

 

「シノンちゃん、前回は三位だっけ?」

 

「えぇ、そうですね」

 

「…背後を疎かにしたから」

 

 アレンの静かな指摘にシノンが小さく呻いた。

 

「…初めて参戦して意外といけたから調子づいたのよ…」

 

「…それで油断したら元も子もない」

 

 シノンがテーブルに突っ伏した。彼は割と容赦がないようだ。

 

 

 そこからは本当に雑談に移行、途中で《シュピーゲル》という青年のPLも会話に参加。なぜかアレンとコウの二人に敵意のある視線を向けていたが、気にしていないようだったのでキリハも気にしないことにした。因みに最初はキリハにもその視線を向けていたが、性別を知るとその視線は綺麗に消えた。そこからキリハはあぁ、と納得し、面倒くさい奴という印象を付けた。出会って一日と経っていないが、シノンの雰囲気は男友達に対するそれであったからだ。

 残り一分を切ったので雑談は終了、それぞれが自分の気持ちを切り替えている。そしてそれぞれ決勝で会おうと言い、それぞれ転移された。

 

 

 

 転送された先は、暗闇の中に浮かぶ六角形(へクス)パネルの上だった。見上げれば薄赤いホロウウィンドウがあり、上部には【Kiriha VS 餓丸】、下部には【残り時間:58秒 フィールド:失われた古代寺院】と表示されている。

 恐らくはマップに適した装備を準備するために一分間の猶予があるのだろうが、キリハには意味がない。右手を振ってメニューを呼び出し、リボルバーを左の後ろ腰に、光剣を右腰に装備。装備し忘れたものがないかを確認し、メニューを消去。やることがないので減っていく時間を見る。その中で、ある可能性が思い浮かんだ。

 限りなく零に近いことであるが、アレンかシノン、どちらかが死銃(デス・ガン)である可能性だ。が、すぐに馬鹿馬鹿しいと首を横にふる。コウが一緒にいる時点で、あの二人はそれらとは─少なくとも直接的には─無関係だろう。それにどちらも聞いた音声とは喋り方や、声の雰囲気が違う。

 

(どちらにしろ本戦で二人と戦うでしょうし…)

 

 そうすればなにか分かるだろう。そう考え、キリハは再び転送された。

 転送された先は、陰鬱な黄昏の空の下だった。四方には草原が伸び、すぐ傍らには石柱が立っている。三mほどの間隔を置いて、コの字型に何本も連なっていた。ある柱は上部が崩れ、あるいは倒れており、はるか昔に滅びた神殿の廃墟といった趣だ。

 

(さて、浩一郎の説明によれば、相手は五百メートルは離れているということですが…)

 

 どうするかと柱の影に移動して考える。周囲を見渡しても人影は見えず、ただ草原が広がり、所々に遺跡であろう建造物が見えるだけだ。ひたすら隠れて相手がしびれを切らすのを待つ方が良いのだろうが、どうも『待ち』は性にあわない。わざと姿を表して相手が撃ってきた所を反撃するかとキリハが考えると、目の前の草むらががさりと揺れた。その瞬間、キリハは腰からリボルバーを取り出し、草むらからは人影が飛び出る。そして互いに目を見開いた。人影─餓丸─は飛び出る前に銃を向けられたことに、キリハは咄嗟に銃を向けることが出来た自分に。

 餓丸の構えたH&K G3A3(アサルトライフル)から予測線が出た、瞬間にキリハは右に回避しながら左手に持ったリボルバーで三発撃つ。向こうの弾丸は全て回避、こちらの弾丸は一発だけ命中。右足で急ブレーキ、その流れで光剣を右手に持ちスイッチを入れ、そのまま飢丸に向かって疾走。まさか接近してくるとは思わなかったのだろう、慌てたように銃を乱射してきた。再び数十本の予測線が伸び、今度は回避せずに前へ。現実よりも身長のあるアバターを捕らえている線は八本、他は掠めすらしていない。

 餓丸の銃から弾丸が放たれ、予測線上に光剣を振るい、八発全てを斬り裂いた。

 

「う…そだろっ!!?」

 

 驚愕しながらも餓丸は両手を動かし、空になったマガジンをリリース、スペアを取り出し本体に装填、銃を前に向けて─視線の先にキリハを見つけられず狼狽える。だがそれも一瞬、すぐしたからザっと地面を踏みしめる音。視線を向ければ、そこにキリハが低い姿勢のまま光剣を構えていた。ほんの数舜、目を離したのを見逃さずキリハは懐に入り込んだのだ。

 

「しっ」

 

 短く息を吐くのと同時に光剣を左から右へ振るうと、大した抵抗もなく餓丸を真っ二つにしポリゴンへと変えた。武器をしまい、息を吐きながら不思議に思う。

 

(…自然に動きましたね)

 

 体が勝手に動いた、まるで()()()()()()()()のように。だがそんなことはあり得ない、銃を使っての戦闘は今回が初めてなのだ。ではなぜ─

 

(─まぁ考えても無駄でしょう)

 

 そんなことより、と次からの試合のことについて考え始めた。それはまるで、先程までの考えを()()()()ように…。

 

 

 

 転送エフェクトが収まった時には、先程までの待機エリアだった。周囲を見渡しても三人の姿が見えない。まだ戦闘中なのか、と思い中央のモニターを見上げる。カウントダウンのみが映っていたモニターには、いくつもの戦場が映し出されていた。恐らく現在行われている数百の試合の内、交戦している場所のみを選んでいるのだろう。アバターが爆散するたびに試合を観戦していたPL達から歓声が上がる。

 さて三人はどこかなと探そうとするが、映る戦場が目まぐるしく変更されているため中々探せない。せめて髪色の目立つシノンを探そうと目を凝らし─

 

「─お前、本物、か」

 

「っ!?」

 

 反射的に飛び去りながら振り向く。ソイツを見たキリハの第一印象は、幽霊(ゴースト)だった。全身を包むボロボロにちぎれかかったダークグレーで深めのフード付きマント、フードの中は漆黒で、その奥に見えるのは仄かな赤に光る眼。

 

「…本物?それはどういう意味ですか?」

 

 が、そんな見た目をしてても目の前のコイツがPLなのは間違いない。突然背後から声をかけてきたことに若干腹が立ったが、笑みを浮かべてそう問いかけた。

 それに対し、PLは一歩こちらに近づき、再び金属を帯びたような声で口を開く。

 

「さっきの、試合、剣を、使ったな」

 

 だからなんだというのだろう。確かに珍しいかもしれないが、別にルール違反だというわけでもない。一体何が目的で─。

 PLはトーナメント表を呼び出し、キリハの名前を指さす。そして数センチ顔を近づけ、囁く。

 

「この、名前、あの、動き、お前、本物、か」

 

(─っ!?)

 

 その瞬間、キリハはSAOでの出来事が一瞬で流れた。それでキリハは理解する。コイツとはSAOで知り合っている、目の前のPLは《生還者(サバイバー)》であると。だがそれだけならそこまで驚くほどではない。なのに何故、ここまで動揺しているのか。

 キリハの視線が、トーナメント表を消してマントの中に戻ろうとしていた腕に視線が向く。ボロボロの包帯を巻きつけたようなグローブの前腕部分、その手首の少し上に細い隙間、そにはあるタトゥーが刻まれていた。

 カリカチュアライズされた西洋風の棺桶、蓋には不気味な笑顔が描かれている。その蓋は少しずらされ、中の暗闇から見るものを手招きするように骸骨の腕が伸びていた。

 そこまで認識した瞬間、キリハは声を上げそうになった。それは、ここでは見るはずのないエンブレムだったからだ。このエンブレムを使うのは、キリハの知る限り一つだけ。

 この世界ではない、魔法のない剣だけのファンタジーな世界。そこで数多のPLを殺し、恐怖を抱かせた集団─

 

(何故…ここに…)

 

─殺人ギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》。


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