転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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 祝!二十歳!
和「斬っていいですか?」
 なんでや!?


Untouchableゲーム

─『Untouchable』ゲーム。一回のプレイ価格は五百クレジット、ルールは簡単。ガンマンの攻撃を回避し、十Mを超えれば千、十五Mを超えれば千五百、ガンマンの体にタッチすれば今まで他のPLが掛けた金が全て手に入る。

 

「ま、ようするに弾避けゲームさ。簡単でしょ?」

 

 コウの言葉にキリハは顎を引く。確かにルールは簡単だ。しかし、その割にはクリアした時の報酬が良すぎる。つまり─

 

「─難易度が高いんですね?」

 

 ニコっと笑い「見ればわかるよ」と言ってゲームの方に顔を向けた。答える気がないんだなと軽く溜息を吐き、キリハも顔を向ける。ちょうど一人のPLが挑戦するところのようだ。

 入口にあるパネルにタッチ、カウントダウンが零になった瞬間に走り出した。が、突然ピタリと変な体制で止まる。一体何を、と思った瞬間に三発の弾丸がそのPLの側を通った。その避け方はまるで、弾丸がどこを通るかが分かっているかのようだった。

 

「今のが《弾道予測線(バレット・ライン)》ですね」

 

 その通り、と三人は肯定する。

 男は順調に進んでいる。七Mを超え、後三Mで千クレジット獲得というところで、ガンマンの撃ち方が変わった。今までは三発ずつ規則的に撃っていたのを、不規則に間を開け撃ち始めた。それに対応できず、体勢を崩したところを撃ち抜かれてしまう。

 

「左右に大きく動けるならともかく、ほとんど一直線にしか行けないから、どうしてもあそこらへんが限界なのよ。ガンマンも八Mを超えたら一秒経てずにリロードを終わらせるし」

 

 無理げーにもほどがあるわ、と呆れているように溜息を吐いた。

 どうする?と目線で問うて来るコウに、キリハは不適に笑い返し入口に歩いていく。シノンが止めようとしたが、コウに止められた。アレンは何もすることは無く、ただ立っている。

 新たな馬鹿者と見たか、周囲のギャラリーは騒めく。が、既にキリハには周囲の喧噪など聞こえていなかった。ただ減っていくカウントと目の前のガンマンにのみ意識を向ける。そしてカウントが零になった瞬間、キリハは床を蹴った。

 数歩も進まないうちにガンマンの腕が上がり、握られた銃から三本の赤い線が伸びる。それらは頭、右胸、左足の順にあたるが、その時には既にキリハは右前方に飛んでいた。直後、体の左側を予測線が伸びた順で弾丸が通過、すぐさま右足でタイルを蹴り中央の道に戻る。

 

(なるほど。予測線が伸びた順で弾丸も放たれる、と)

 

 分かりやすくて良い、と心中でキリハは呟く。

 無論、キリハが銃を持った相手と相対するのは初めてである。しかし、飛び道具を放ってくる相手というのはSAOにもALOにも多数存在した。それらの攻撃を回避する方法は、飛んできた瞬間にその軌道から外れる、もしくは相手の《視線》を読むことの二つである。これは晶彦のこだわりであり、カーディナル・システム上で動作されているmobは全て遠距離攻撃をする際には必ず軌道上を視線で見るのだ。勿論、《眼》に類する器官を持っているmobに限るが。

 そしてその原則は、目の前のガンマンも例外ではない。

 故にキリハはギョロギョロと動き続けるガンマンの瞳を見ていた。ガンマンの視線から弾丸を放ってくる気配を感じ取り、弾丸を回避していく。つまり、キリハは弾丸だけでなく、予測線すらも避けているのだ。

 ガンマンがリロードする時、十Mを超えたSEが鳴り響く。ギャラリーはその事実にどよめくが、当然のごとくキリハの耳には届いていない。

 空になった回転式弾倉(シリンダー)を背後にリリース、左手で新しい六発の弾丸を装填しフレームに戻すという一連の作業をコンマ五秒で終わらせたガンマンは再びキリハに銃口を向ける。放たれた弾丸は規則的なものではなく、不規則なものに変わった。二発、一発、三発と放たれた弾丸を全て回避、さらに五M詰める。空になった薬莢を捨て、再びガンマンの半秒リロード。

 ガンマンの瞳が胸辺りを水平に薙ぐ。左右への回避は不可能と判断、金属タイル上をスライディングした。マシンガン並みの連射で放たれた弾丸を潜り抜き、更に二M半ほど稼ぐ。これでガンマンは弾切れ、次のリロードが終わる前には触ることが出来るだろう。キリハが立ち上がりながらそう考えると、ガンマンの目が怪しく嗤ったように見えた。それに嫌な予感を察知、前に走り出すのを変更し、上に高く跳躍する。

 その瞬間、キリハが先程までいた場所を六発の()()()()が穴だらけにした。

 

(それは少し卑怯では?)

 

 少しではなく、かなり卑怯である。

 空中で一回転、ガンマンの前に着地し、また他の手を出してくる前にタッチ。その場を静寂が包み込む。

 

「Oh my goooooood!!」

 

 ガンマンが頭を抱えながらそう叫ぶと、背後のレンガから大量のクレジットが流れ出てきて床を跳ねた。それらが全て手に入ったことをウィンドウを開いて確認し、三人の元へ戻る。顔をあげ周囲を見渡すと、コウとアレンを覗いた全PLが唖然としており、シノンが呆れたような表情をしていた。

 

「あ、あんた…、最後のあれどうやって避けたんだ…?」

 

 あの距離では予測線なんて意味をなさないだろうと、ある男性PLが瞳を驚愕色に染めながら聞いてきた。その秘密を聞きたいのだろう、ギャラリーが耳をこちらに向けているのが分かる。

 はてさて、なんと説明しようか。正直に視線を読んだと言ってもいいが、それでは味気が無い。

 

「多分、キリハは予測線なんて見ていないんじゃないかな?」

 

 だよね、とコウは笑顔のまま言い放った。ギャラリーが、は?と声を出していそうな表情をしているなか、アレンは予想していたのか反応がない。

 自分もそうだが、コウも大概人の反応を楽しんでいるなと思いながら口を開く。

 

「このゲーム、予測線を予測するってゲームですよね?」

 

 指を一本立て首を傾げながらそう言うと、音が消えた。聞こえてくるのは店内を流れるBGMと、外の喧噪のみ。ついで

 

『『『はぁぁぁあ!!?』』』

 

 その場にいる全PLの叫び声が響き渡った。

 

 

 

 あの場から抜け出して、キリハは現在ショーケースの前で唸っていた。自分に合う銃が分からないので、メインにする銃を決めるのに時間がかかってしまう。

 

「三人のおすすめの銃はありますか?」

 

 ステータスは六:四でAGIよりであることも伝える。先程のゲームで三十万も稼いでいるのだから、出来るだけ良いものを買いたい。

 するとコウがキリハにおすすめの武器があると言って、あるショーケースの前で止まった。

 

「コウ、これはなんですか?」

 

 それを見たキリハは少し混乱した。その中に入っていたのは明らかに異質だったからだ。中に入っていたのは、直径三Cm、長さ二十Cmほどの筒だった。

 

「光の剣と書いて光剣。正式名称は《フォトン・ソード》。この世界の近接武器は、ナイフとこれだけだよ」

 

「威力はバカ高いけど、使う人なんて滅多にいないわよ。コウさんは使っているけど」

 

 理由は言われなくともわかる。が、コウが使っているということは使えるということだろう。そう考え、キリハは迷わず購入した。

 

「…コウさんの彼女さん、チャレンジャー?」

 

 コウはアレンの問いには答えず、肩をすくめるだけにとどめる。代わりにシノンが、あんたが言うなという視線を送った。

 購入した光剣の名は《ムラマサG2》。試しにスイッチをON、エネルギー状の刃を出し、それを軽く振り回す。

 

「…かなり軽いですね」

 

「基本的に軽いくらいしかメリットないもの」

 

 当然だが、護身・牽制用としてハンドガンは持っておいた方が良いだろう。残金が十五万まで減ってしまったので、考えて購入しなければ必要最低限なものすら買えなくなりそうだ。ということで購入したのはオススメされた《FN Five-seveN》、ではなく《ライヒスリボルバー》。三人が驚いたように視線を送ってきたが、自分でも何故これを購入したのか分かっていない。気づいたら購入していた。ぼそりと「…やっぱりチャレンジャー」とアレンに呟かれ、あんたが言うなと今度は声を出してシノンが言った。

 他にも予備弾倉や防弾ジャケット、ベルト型の《対光学銃防護フィールド発生器》などを購入すると、先程稼いだ三十万が綺麗さっぱり消えた。

 必要なものを購入し、総督府まで行くことになった。現在時刻は十四時半、エントリー締め切りは十五時、歩きでは間に合わないので走っていくことになる。いくらVR世では息が切れないとはいえ、三Kmを全力ダッシュというのは出来ればやりたくない。

 

「アレン君、そういえばこの近くにアレ、あったよね?」

 

 すると不意にコウがアレンにそう問うた。アレンはそれに頷くことで答えシノンの手を、コウはキリハの手をそれぞれ引いてとある看板のもとに行く。その看板には《Rental-A-Buggy!》の文字。そこにあったのは前輪が一、後輪が二の三輪バイクが三台。女性陣を後ろに乗せて、男性陣が前のシートに乗る。どうやらこのバギーは現実のバイクにあるマニュアル操作であるらしく、二人はスロットを思い切り回し、道路へと飛び出した。

 このバギー、運転するPLはかなり少ないらしい。考えるに、今時マニュアルで運転する人がいないからだろうなとキリハは思う。そもそも、教習所ですら基本的に習うのは電動スクーターなのだ。コウはもしものためにとマニュアル操作を習っていたのが良かった。アレンは知らないが、もしかしたらこの世界で練習していたのかもしれない。だとしたら、現実でバイクの免許を取るとき大変だろうな、と他人ごとに思いながらキリハは風を感じることにした。


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