「─それで、和葉がその
えぇ、とコウの言葉に肯定する。
誠二郎と会った翌日、場所はALO、シルフ領首都『スイルベーン』の近くのフィールド。そこでキリハは先日のことをコウに話していた。案の定、コウは呆れの溜息を吐く。それを予想していたため、キリハは苦笑するしかなかった。
「…
「そういうわけではありませんが、今のうちにコネを持っておいた方が良いと思いまして」
いずれは自分が桐ケ谷家を引き継ぐのだ。少なくとも、彼は敵ではない。ならば国に繋がっている彼とは繋がりを持っておいた方が良いだろう。もちろん、親のコネも使わせてもらうつもりだが、それだけに頼るわけにもいかない。
まぁその脅威が巡り巡って身内に来ることを防ぐため、というのが大半の理由なのだが。
「まぁ、和葉が決めたことだ。僕が何を言っても今更やめるつもりはないんだろう?」
それが分かっているコウは観念したようにそう言った。基本的に、コウは彼女の行動を縛るつもりはない。ただ、無理なことだと分かっているが、出来るだけ危険な事に首を突っ込むことはやめてほしいと思う。尤も、そんなコウの願いを分かっているうえで首を突っ込んでいくのだから余計にたちが悪いのだが。
「そういうわけで、向こうの準備が整うまである程度の知識を頭に入れておきたいんですよ」
一応公式サイトや攻略サイトも見ているが、せっかく身近にGGOをやっている人物がいるのだ。直接教えてもらった方が良いに決まっている。
「それだったら、本当はログインしていた方が説明は早いんだけど、駄目なんだっけ?」
「ログインしてからの経過を報告するらしいので、やめてほしいそうです」
そういえば、
コンバートとは《ザ・シード》で作り出されたVRでなら、他のゲームのデータをそのまま別のゲームに引き継ぐことだ。ただし、コピーをするというものではなく、他のゲームに移す、と言った方が正しいかもしれない。完全に引き継がれるのはステータスのみで、アイテムを持ち込むことは不可能。なのでコンバートする際には、持っているアイテムをどこかに預けなければならないのだ。
「姉さんの近づいたら斬るオーラが凄いな」
「まぁようやく恋人になれたからね」
「キリねぇ達は人のこと言えないと思う」
「そうね、あんたたちも近づくなオーラ結構出てるわよ」
「呑気に話してないで助けてくださーーい!!」
「あの!僕一人だときついんで誰か一緒にシリカさん助けてくれませんか!?」
その後助けられたシリカは、逆襲と言わんばかりに自分を吊ったmobを切り刻んだ。
─授業終わりのチャイムが鳴った。今日はバイトが無い日であるためGGOにログインするか、と考えた。そういえばと、ふと昨日の夜にGGO内で親しくなった人物の言葉を思い出す。
(…あの人の彼女さんが始めるんだっけ)
その時はよろしくと笑顔で言われた。ただ、人見知りの自分にどうしろと。誰かの後ろにいるイメージしか思い浮かばない。それを彼も知っているはずなのだが…。
そう心中で溜息を吐くのは
彼は将来、医者になるために予備校に通っている。普段ならこの後にバイトが入っているのだが、店長から急遽休みをもらった。曰く、「お金が必要なのもわかるけど、毎日入ってもらうのも悪いから週二は休みなさい」とのこと。別にきつくは無いのだが、反論する必要もなかったのでお言葉に甘えた。
そんなことを考えているうちに、いつのまにやら自分が住んでいるアパート前に着いていた。階段を上がると、自分の隣の部屋の前に人がいるのが見える。よく知っている少女だ。
「あら、蓮巳じゃない。今日はバイトないの?」
その少女は足音が聞こえたのか、こちらに振り向きそう言った。少女の名は朝田 詩乃、GGOではシノンと名乗っている。歳は16、蓮巳の一つ下である。
「…ない。…顔色悪いけど」
なにかあったか、と蓮巳は首をかしげる。一瞬動きを止め、ついで溜息を吐く。「隠せないわね」と言って今日あったことを話し始めた。
「─っとまぁいつものがあったのよ。新川君が来てくれなければ危なかったかも」
そして愚痴を聞かせてごめんねと言ってきた。蓮巳は別に構わないと答える。
いつものこと、詩乃はカツアゲをされているのだ。最初、詩乃に友達として近づき、そして彼女が小さい頃にあったことで脅してきたのだ。そのあることが原因で銃がトラウマとなってしまい、モデルガンを持ってくるようになってしまったのだ。助けてくれるような人は学校にいないので、詩乃にとって蓮巳ともう一人の男子─新川 恭二、詩乃の同級生であるが、現在は不登校となっている。ちなみに彼もGGOをやっている。PLNは《シュピーゲル》─は数少ない信頼できる人物なのだ。
最初はただのお隣さんだった。それが変わったのは、詩乃が蹲っているところを見たからだ。なんとなく放っておけなくて事情を聴いた。精神的に弱っていたのだろう、多少は渋っていたものの結局は口を開いた(とは言っても銃がトラウマになっているとしか聞かなかったが)。それを聞いた蓮巳は、これまたなんとなく自分がやっていたGGOに誘った。医療関係でもトラウマを治すためにVRを使うことになるかもしれないと聞いたから、本当に治るのか気になったからだ。もちろん、そのことは彼女にも伝えてある。ある意味では実験扱いだが、それで治るかもしれないならと彼女は了承した。最初はゲーム内でも銃を見ただけで震えが止まらなかったが、次第に慣れ始め、今ではまったく問題がない。しかし、これで全て解決とはいかなかった。
BOBの上位者報酬として、試しにGGO内に存在する光学銃のモデルガンを貰ったらしいが、駄目だったそうだ。VRで大丈夫なのは、これはゲームであり本物では無いと思っているから、つまり現実とゲームをはっきりと区別しているのではないかと推測している。普通に考えればこれは良いことなのだが、トラウマ克服という分野に関しては思い込みが強い者の方が良いのだろう。
まぁ、GGO自体は楽しいらしく今でも続けている。蓮巳にとっても誰かと一緒にゲームをするのは悪くないと思っているので、どうせならとパーティを組んだ。その縁から二人は現実でも親しくなった、ということだ、
「…今日はどうする」
「そうね…、もうすぐでBOBも始まるから、装備を軽く整えるために稼ぎに行くのはどう?」
詩乃の提案に分かったと頷き、それぞれ部屋に入る。蓮巳はすぐにログインすることはせず、風呂に入り夕飯の準備に入った。ログアウトしたらすぐに食べられるようにするためだ。
(…今日は食べるか聞いてなかった)
GGOで聞けばいいかと思い、念のため二人分作っておく。そうして全ての準備を終えて、漸く蓮巳はベッドに入り込み、ナーブギアを被る。
「…リンク・スタート」