転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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和葉「先月はもう一話投稿すると宣言しておいて、今月の最後に投稿したことはすいません。作者は切り刻んでおいたのでお許しください。


 ではどうぞ」


 アスカのリーファへの呼び方を変更しました。


スイルベーン

「─もしかして、キリトさんとアスカさん?」

 

 まず最初に抱いたのは警戒心、何故プレーヤーネームを知っているのか。そしてすぐに自分達の名前を知っている、というより教えた人物達を思い出した。

 

「リーファか?」

 

 キリトがそう名前を呼んだ瞬間、リーファが嬉しそうに顔を輝かせた。あぁうん妹だな、とキリトは確信した。顔の輝き方が全く一緒だった。

 ふとキリトはおや?とリーファと一緒にいるはずの人物がいないことに気づき、リーファに問おうとした。

 

「なぁリーファ─」

 

「─無視してんじゃねぇ!!」

 

 キリトの声を遮り、一人のサラマンダーがランスを構え突っ込んできた。キリトは怠そうに顔を向けるだけで一歩も動かない。それを恐怖で動けないと勘違いしたサラマンダーは更に加速した。後数センチでキリトの顔に刺さるはずだったランスは、横から伸びてきた腕に掴まれ、ガードSE(サウンドエフェクト)が響く。サラマンダー達の目が驚愕に開かれた。掴んだのは、無論アスカだ。

 

「せっかく姉妹が楽しく会話しようとしてたんだから邪魔すんな─よっ」

 

 そう言いながらアスカは掴んだランスをサラマンダーごと振り回して、飛翔しているサラマンダー達の方へぶん投げた。

 

「っ」

 

「はっ?ちょっうわぁぁあ!」

 

 カゲムネは上昇して避けたが、もう一人は咄嗟のことで反応出来ずに飛んできたサラマンダーとぶつかり、鎧の音をたてながら地に落ちた。

 キリトは溜息を吐きながら片手剣を抜いた。

 

「はぁ。取り敢えずこの人ら倒してからにするか。倒して良いんだよな?」

 

 最後のはリーファに向けて言ったものだ。それに対してリーファは、とても良い笑顔でサムズアップをしてきた。まさかそんな反応が帰ってくるとは思わなかったので「お、おう」と戸惑った。

 

(リー(スグ)ちゃん、佳奈と一緒にプレイするの楽しみにしてたからなぁ)

 

 邪魔されて怒ってるんだろうなぁ、と思いながらアスカは細剣(レイピア)を抜いた。

 

「そんじゃまぁ、やりますか。キリトどっち行く?」

 

「右」

 

「了解」

 

 そう言いながらも二人は、律儀にサラマンダー達が立ち上がるのを待つ。立ち上がったサラマンダー達は、剣を構えながらも攻撃してこないキリト達に気づいて怒りが湧いた。舐めてるのかと。武器を構える暇を与えたことを後悔させてやる、と思いランスを構えた。

 それを確認したキリトはゆっくりと、それこそ普通に歩き始める様に一歩踏み出し─掻き消えた。

 

「─はっ?」

 

 重く空気を切り裂く音が鳴り響き、間抜けな声を上げたサラマンダーの体は斜めにずれた後、リメンライトと化した。当のキリトはサラマンダーを挟んで先程と反対側におり、剣を振り下ろした状態で止まっている。

 隣の仲間が突然リメンライトとなり動揺した男は、キリトを探しているのか見当違いの方を見ていた。今度は待つことはせず、アスカは腕を引き絞る。それに気づいて反撃体勢を取るが─遅い。

 今度は先程より軽い空気を切り裂く音が鳴り響き、サラマンダーの上半身が両断された。リメンライトになったと同時に、キリトの隣にアスカが着地する。

 

「どうする?あんたも戦う?」

 

 先程、一瞬でサラマンダーの一人を倒した人物とは思えないのんびりとした口調でキリトはそう言った。一連の流れに唖然としていたカゲムネは、キリトの言葉で我に返り苦笑する。

 

「いや勝てないな。もう少しで魔法スキルが九〇〇なんだ。死亡罰則(デスペナ)が惜しい」

 

「正直な人だな。リーファは?戦うなら止めないけど」

 

 相変わらずな姉につい笑ってしまった。こっちに聞いたのは、自分が戦わないといえば見逃すという事だ。

 

「遠慮する。でも─次は倒すから」

 

 リーファは挑戦的な笑みを浮かべた。他の二人が生き残っていたら迷わず切り捨てていたが、一応この人は常識があるのだろう。少なくとも女性狩りを趣味としている人物ではない。

 

「正直、君ともタイマンで勝てる気がしないな」

 

 肩を竦めながらそう言ったカゲムネは、羽を鳴らして飛んでいった。

 数十秒してサラマンダーのリメンライトが消え、リーファは今まで我慢していたようにキリトに抱き着いた。

 

「佳奈ねぇ〜!」

 

「どわ!?」

 

 突然の事だったが、キリトは持ち前のSTR値で飛びかかってきたリーファを支える。そのままリーファはキリトに甘えるように頬擦りした。

 

「おいおいリーファ。この中でリアルネームは禁止だし、さっきまで一緒にいたろ?」

 

「えー、せっかくこの世界で会えたんだから甘えても良いでしょ?名前に関してはゴメン。でもなんて呼べばいい?」

 

 明日にぃ達はそのままだし、キリねぇだと被るんでしょ、と言うリーファは少し困った表情になった。確かにその呼び方だとキリハと被ってしまう。

 キリトが悩んでいると、アスカが提案した。

 

「じゃあ『キリト』の後半をとって『リト』っていうのは?そうすればキリハの場合は『リハ』になるし」

 

 なるほど、それならどっちが呼ばれてるか分かる。『リハ』というのは少々変わった呼び方だがリーファは『リハねぇ』と呼ぶだろうから、まぁ問題ない。

 

「じゃあリトねぇって呼ぶね」

 

 リーファがそう言った直後、一人のプレーヤーが空から降りてきた。キリトとアスカは即座に臨戦態勢を取ろうとしたが、リーファはそのプレーヤーに気付くと名前を呼び近づく。

 

「あ、コウにぃ。お疲れ」

 

「お疲れさま。そっちの二人は、キリトちゃんとアスカかな?」

 

「あぁ、兄さんだったか」

 

 名前を呼ばれた二人は目の前の人物が(義)兄(コウ)だと分かり、武器を下ろした。そういえば、とキリトは先程リーファに聞きそびれた事を思い出す。

 

「コウさん、どこに行ってたんだ?」

 

「サラマンダーの部隊が他にいてね。別行動してたんだよ」

 

「コウにぃの事だから大丈夫だと思ってたけど、そっち十人くらいいたよね?」

 

「あぁ、そのくらいいたね。もっと来てくれても良かったんだけど」

 

「「「うわぁ…」」」

 

 苦笑気味にそう言うコウに少し引いてしまった。多対一が得意な(コウが一)コウが負けるとは微塵も思っていないが、十人来て足りないというのは流石に引く。あぁでもキリハも同じ事言いそう、と三人は思った。

 そんなことをしていると、キリトが何かを思い出したように慌てて胸ポケットに声をかける。

 

「ユイ、出てきて良いぞ」

 

 するとキリトの胸ポケットから小さな光が出てきた。それはキリトとアスカの顔の丁度真ん中あたりで止まる。

 

「むー、酷いですよ。パパもママもわたしのこと忘れてましたよね?」

 

 不機嫌そうに頬を膨らます愛娘に、二人は必死にご機嫌取りをする。その姿に残りの二人は、少し笑った。

 

 

「一応説明してあるけど、顔合わせるのは初めてだから改めて紹介するな。このナビゲーション・ピクシーが俺達の娘、ユイ。で、こっちがママの妹のリーファ。こっちがパパの兄のコウさん」

 

「ユイです。よろしくお願いします」

 

「リーファよ。よろしくね、ユイちゃん」

 

「コウだよ。よろしく、ユイちゃん」

 

 五分程でご機嫌取りに成功し、現在はキリトがそれぞれ三人を紹介した所だ。キリトの言った通り顔合わせは初めてだが、お互いに説明してある。勿論、ユイの事も全て話した。それでも二人は、目の前でじゃれあっているのを見る限り受け入れてくれたようだ。それを、キリトとアスカは嬉しく思う。

 ユイは人間ではないが、本当の娘であることに変わりはない。だから、ユイが自分達の家族に認められた事が嬉しいのだ。

 

「さて、スイルベーンに行こうか」

 

 一通り交流をした後、コウがそう言い、全員が頷いたのを確認してコウは飛び立つ。リーファ、キリトと続き、アスカも飛び立とうとした時に気付く。

 

「あれ?兄さんもリーちゃんもコントローラいらないんだ?」

 

「まぁね。アスカ達も『随意飛行』練習してみる?」

 

 『随意飛行』とはコントローラ無しで飛ぶ事だ。両手が空くので挑戦するものは多い。しかし『随意』とは呼ばれているもののイメージ力だけで飛ぶことは出来ず、本来、人間にはない翅を動かす器官と筋肉を動かすイメージをしなければならない。それ故、『随意飛行』を習得した者はALO上で一流の剣士とされる。

 

 

 

 結論から言えば、キリトとアスカは『随意飛行』をものの数分で習得した。仮想の骨と筋肉をイメージするのは大変だったが二人とも筋が良く、少しコツを教えればすぐに安定して飛べるようになった。

 四人はそのままスイルベーンへ向かう。途中、キリトとアスカがどのくらいリーファ達のスピードに付いてこられるかという疑問から何故かレースに変わったが、無事に四人はスイルベーンに到達する事は出来た。まぁ、到達してからが問題だったのだが。

 

「いてて…。二人とも見捨てなくたっていいじゃないか…」

 

「まぁまぁアスにぃ、回復してあげるから許してよ」

 

「お前がライディングの仕方を教わらなかったのが悪い」

 

「てっきりアスカもライディングの仕方をリーファちゃんから教わったと思ってたんだけど。キリトちゃんだけだったんだね」

 

「ママと一緒にいて良かったです」

 

 問題というか、着地(ライディング)の仕方を教わらなかったアスカがスイルベーンのシンボルである建物に激突し、落下しただけだ。結論、何も教わらなかったアスカが悪い。

 リーファが魔法でアスカを回復し、ようやくキリトとアスカの二人はスイルベーンの街並みを見る。綺麗な所だと、素直に思った。

 色合いの差こそあれ艶やかなジェイドグリーンに輝き、それらが夜闇の中に浮かび上がっている。《翡翠の街》と呼ばれる由縁を垣間見た気がした。

 

「リーファちゃーん!コウさーん!」

 

 街並みを眺めていると不意にリーファとコウを呼ぶ声が聞こえた。声のする方を向くと、少年がこちらに手を振りながら走ってきている。

 

「あ、レコン」

 

 四人の元まで走り寄ったレコンは少し息を整えてから口を開く。

 

「良かったぁ、二人共無事だったんだね。それで、えっと…こちらの二人は?」

 

 そう言うレコンの目には、疑問とほんの少し別のモノが見えた。それにキリトが関心していると、リーファが二人を紹介する。

 

「女の人がキリトさん。男の人がアスカさん。私のお姉ちゃんとコウにぃの弟さんだよ」

 

「えぇっ!?こ、この人達が!?」

 

 リーファの言葉にレコンは大袈裟な程に驚愕する。「まってまだ心の準備が…」などと呟いているがなんの準備だろうと、リーファは疑問に思いながらレコン事も紹介する。

 

「で、こっちがレコン。私の相談に乗ってくれた同級生だよ。リトねぇ達が来る前に殺られちゃったんだ」

 

「は、はじめまして!レコンです!妹さんとお兄さんにはいつもお世話になってます!」

 

 気合いの入った挨拶を貰ったキリトは笑みを浮かべて、普通に返そうとした。

 

「アスカだ。キリトは俺の嫁だから手を出さぁっ!?」

 

「キリトだ、妹の相談に乗ってくれてありがとうな。こいつの事は気にするな」

 

「えっと…?」

 

「気にしない方がいいわよ。二人のこれはいつも通りだから」

 

 アスカがキリトの拳を食らった箇所を抑え崩れ落ちるのを見てレコンは困惑したが、リーファの言葉に戸惑いつつも従う。

 するとレコンが「あっ」と用件を思い出した。

 

「二人ともアイテムの分配どうする?シグルド達はいつもの店で待ってるけど」

 

「「行かない」」

 

 スッパリと迷いなく答えたリーファとコウに、レコンは特に驚愕することは無かった。

 リーファとコウは特に欲しい物が無かったので持っていたアイテムを渡して、四人はレコンと別れる。「何か決まったら連絡してねー!」という声を背に、四人はリーファが贔屓にしている店に向かった。

 レコンが見えなくなってすぐ、キリトが口を開く。

 

「あのレコンって奴、面白いな」

 

「何が?」

 

「殺気の隠し方が上手い。普通じゃ気づかないくらいにな。俺達がリーファ達の家族じゃなかったら殺すつもりだったんじゃないか?つかアイツ、本当に一般人かよ」

 

「あ〜、確かにレコンのステータスって隠密に向いている…かな?私にもよく分からないや。後、レコンは一般人だよ。調べたから間違いない」

 

 因みにリーファはスピード剣士型だ。シルフの中では一、二を争う速さだと自他ともに認めており、コウにも単純なスピードなら勝てる。しかしコウは隠密スキルとAGIを上げた、いわゆる忍者型のステータスをしており、決闘をするなら負けるだろう。

 

 

 《すずらん亭》、酒場兼宿屋の店でデザート系が多いため、リーファが贔屓にしている店だ。そこで明日からの予定を話し合う。

 

「取り敢えず、僕とリーファで《世界樹》まで案内するよ」

 

「その前に明日で良いんだけど、武器を買いたいな」

 

「流石に初期武器じゃ心許無いしな」

 

「了解、私のオススメの武器屋に連れてくね」

 

 やはり家族だからか、話し合いはすぐに終わった。それからは少し雑談をして、それぞれ部屋に向かう。勿論、キリトとアスカは二人部屋だ。

 

「…また少しの間会えないですね」

 

 ベッドに横たわりログアウトしようとした時、ユイが少女の姿に戻り寂しそうにそう言った。顔を下に向け、何かを我慢しているように見える。

 

「おいでユイ、一緒に寝よう」

 

 それを察したキリトは隣を叩いた。ユイは笑顔を咲かせて二人の間に飛び込む。

 ALOでは普通にログアウトするよりも、寝ながらログアウトすることも可能なのだ。故に三人はそのまま就寝した─。

 

 

 

 コウはベッドで仰向けになっていた。そのまま上に手を伸ばす。

 

「和葉、必ず君を助け出す─」

 

─だから待っていてくれ─

 

 強くそう思いながら。


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