無事ALOにログインした
「へぇ・・・」
ゲーム内時間が夜というのもあり、落下中ではあるがなかなかに絶景だ。そのままグングンと建物が近付いてきて─突然、世界がフリーズした。ついでノイズが走り、真っ黒に染まる。
「なっ、何が起こったんだぁぁぁぁあ!?」
キリトは悲鳴を上げながら暗闇に落ちていった。
暗闇を抜けると下に先程の街は無く、ただ森だけが広がっていた。バグが起きたのか。取り敢えず異常事態ということは分かった。
確か空を飛ぶためのコントローラを出すことが出来たはず、そう思ったキリトはコントローラを出そうと─
「おぅわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???」
─して上から男の悲鳴が聞こえた。聞き覚えのある声だと思いながら上を見ると、そこにいたのはウンディーネの男だった。
「明日加!?」
ウンディーネ特有の青味のかかった髪色になっているが、キリトにはすぐに
アスカも下から聞こえてきた声に顔を向けると、黒い耳と尻尾を生やしているキリトを見つける。
「え?はっ、佳奈!?何で!?」
「知らねぇよこっちが聞きてぇよ!!」
そんなことよりも、とアスカは自分より下にいるキリトの所まで加速、ついで頭を守るように抱きしめた。自分が少しでもクッションとなれれば良いのだが、と思っていたアスカだがいつまで経ってもぶつからない。というか、落下感覚は無くなり頭が上に向いているような・・・?
「アホだろお前。このゲーム飛べるんだぞ」
「あっ」
キリトの左手にはコントローラのようなものが握られており、背中にはオレンジ色の透けている翅が生えていた。なんてことは無い。落下感覚がなくなったのも頭が上に向いたのも、キリトが飛んでいただけだ。
キリトはアスカを抱えたままゆっくりと地上に降りる。
「取り敢えず、色々と確認してみるか。あ、ウィンドウを出すのは左手だぞ」
「あいよー」とアスカは返事をし、二人はウィンドウを開いたのだが・・・なんか色々おかしかった。
まず目に映ったのは所持金額、桁数がおかしかった。明らかに
「これ、SAOのスキル・・・だよな?」
アスカが確認するように問うと、キリトは頷く。
正直な所、キリトはこうなることを予想していた。サーバがSAOのものをそのまま使っているのなら、そのデータの一部くらいは受け継がれるのではないかと。まさか全てだとは思わなかったが。
そんな事をキリトが思っているとアスカが突然アイテムウィンドウを開き、文字化けしている中から何かを探し始めた。何を探しているのか─
(─なんて、聞く必要ないか)
SAOで持っていたアイテムも共有されているのなら、
その少女を、二人は良く知っている。
「ユイ・・・」
キリトが小さく名前を呼ぶと、うっすらと目を開けた。ついで、アスカが声をかける。
「ユイちゃん・・・ママとパパだよ」
視界に二人を映したユイは大きく見開き、目に涙を溜め微笑んだ。
「お久しぶりです…ママ、パパ」
「「ユイ(ちゃん)!!」」
そして二人は勢い良くユイに抱きつき、しばらく三人は互いを抱き締めたまま離そうとはしなかった。互いの体温を確かめ合うように・・・。
それから十分程してようやくユイから離れた二人はこの世界の事を伝えると、ユイは「ちょっと待ってください」と言って目を瞑った。因みに、ユイはキリトの膝の上に座っている。
「間違いないようですね。この世界はSAOのサーバをそっくりそのまま使っているようです」
目を開けてそう言ったユイに、キリトは「そうか」と返して頭を撫でた。するとアスカ自身が気になった事を聞いてきた。
「そういえば、この熟練度とか大丈夫なのか?いやまぁ、好都合なんだけど」
「確かに、お二人のステータスはSAOのものです。プレイ時間と比較すればかなり不自然ではありますが、GMが直接確認しない限り大丈夫でしょう。
あ、文字化けしてるアイテムは破棄した方が良いでしょう。元々この世界に存在しない物ですから、持っているとシステムエラーが発生する可能性が高いです」
それもそうか、と納得した二人は戸惑い無くアイテムを全て破棄する。中にはあの世界での二人の思い出のアイテムも入っていたが、これから思い出を増やしていけばいいと判断した。
「先程、パパは好都合と言っていましたが何故ですか?」
二人がアイテムを破棄したことを確認したユイは理由を聞く。ただゲームを楽しむだけなら先の言葉は出てこないのでは、と思ったからだ。隠す必要は無いので、この世界に来た目的を話す。
全てを聞いたユイの目は悲しみの色を見せた─という事はなく、むしろヤル気に満ち溢れていた。
「お二人のサポートはお任せ下さい!ねぇねを助ける為なら、わたしの出来る範囲ならハッキングだろうと何だろうと何でもやります!」
その心意気は嬉しいがハッキングはしなくて良い。その事を伝えると少しむくれた。この娘、少し親に似てきていないだろうか。
ところで、とキリトが口を開く。
「ユイはこの世界だとどんな扱いなんだ?」
「わたしは《ナビゲーション・ピクシー》というものに分類されるようです」
「ナビゲーション・ピクシー?」とオウム返しをしたアスカに、「はい」と返したユイは光に包まれた。いきなりの事に反応出来なかった二人は、光が収まりユイの姿が見えない事に焦った。
「「ユイ(ちゃん)!!」」
「下ですよ。ママ、パパ」
下からユイの声が聞こえたので顔を向けると、そこに確かにユイがいた。ただし手の平サイズになっており、妖精の翅を付け耳も妖精の様にとんがっているが。
「これが、ナビゲーション・ピクシーとしてのわたしの姿のようです」
少々唖然としながらも手の平にユイを乗せたキリトは、指で軽く突っついた。「くすぐったいですぅ」と抗議するが、その顔には笑みが浮かんでいる。その後もキリトはユイの頭を撫でたり、また突っついたりしていた。
キリトがケットシーを選んだ理由もそうだが、こう見えてキリトは可愛いものに目がない。ただでさえ娘が可愛くて仕方ないのに、それが妖精の姿になれるときた。故に、キリトが少々(?)暴走するのは仕方ない事だ。
「おーいキリト〜、そろそろ戻ってこーい」
「はっ」
しばらくそれを見て堪能したアスカはそろそろ戻そうと思い名前を呼び、それで戻ってきたキリトは撫でる手をやめた。夢中になっているのを見られて恥ずかしいのか、顔を赤くしている。
「わたしを撫でるママ、とっても可愛かったです!」
「だよなぁ。ユイちゃんなら分かってくれると思った」
「頼むからそれ以上言わないでくれ・・・。恥ずかしさで死にそう・・・」
暫く弄られたキリトはコホンとわざとらしく咳払いをし、無理矢理に話題を変えた。
「と、ところでユイ、一番近い街はどこだ?」
ユイはキリトが話題を変えた目的が分かったが、追求はせずに質問に答える。
「ここからはシルフ領の首都、『スイルベーン』が一番近いようです」
「シルフ領か。丁度いいな」
「何故ですか?」
「ん、あぁ、ある人達と待ち合わせしてるんだ。っていっても俺の兄さんとママの妹だけどね」
なるほど、とユイは納得した。この娘には既に、あの世界で自分達の家族の事は話してある。
最初は吃驚したものだ。あの人はともかく、あの子がゲームを始めるとは思わなかった。しかもその理由が自分達と楽しみを共有したいかららしい。
─うん、うちの妹可愛い─
キリトは再認識した。
「さて、じゃあ行きますか」
アスカの声で三人が立ち上がった時、ユイが何かに反応するように顔を後ろに回した。
「ユイ?どうした?」
「あちらで複数のプレーヤー反応があります。どうやら二人のプレーヤーが多数のプレーヤーに追いかけられているようです」
索敵機能まで持っているとは、もうユイがいれば何も必要無いのではないだろうか。この娘、優秀すぎる気がする。
「お、PVPか?行ってみようぜ」
キリトの言葉に、やれやれと肩を竦めながらもアスカは止めない。
そして「こっちです」とユイに先導され、二人人は夜の森を飛び立って行った─。
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