後、前に出て来た友達のオリキャラ出て来ます。画像貼っときますね
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↑のキャラについて詳しく知りたい方は36話『辻斬り』をご覧ください。
ユイの事から数日、現在キリハはヒースクリフに呼ばれ、KOB本部の団長室に来ている。因みに、休みは本当に一週間もなかった。
「来て貰って早々に本題に入るが、ボス部屋を見つけた」
「早くないですか?」
「休暇の前に言っただろう。君のお蔭でマップの七割は埋まっていたと」
そう言えば、と休暇を貰う前にヒースクリフが言っていたのを思い出す。確かに、残り三割なら数日で埋まりきってもおかしくはないか。
「それで、僕が呼ばれた理由は偵察隊ですか」
「相変わらず理解が早くて助かるよ。君以外はKOBのメンバーだが、なに心配することはない。
何故その事が分かるのか。確かに嫌われているわけではないことは分かるが。顔に疑問が出たのか、ヒースクリフは苦笑しながら答えた。
「君達とあまり亀裂のないメンバーで行こうと、手っ取り早くキリハ君と行きたい者はいるかと声をかけたんだ。そしたら思った以上に人が集まってね。デュエルで勝った者がメンバーだ」
かなり盛り上がっていたよ、と語るヒースクリフの顔は少し疲れているように見える。苦労をかけたようで申し訳なく思った。
「いつ出発ですか?」
「午後からだ。まだ時間はあるから、今の内に顔合わせくらいはしておいた方が良いだろう」
既に他のメンバーは集まってるらしいので、大部屋に向かう。部屋の扉を開けると、KOBのメンバーが和気藹々と会話をしていた。キリハの、というより一般プレーヤーのイメージしているKOBとは違う。
予想外の事に少し面食らっていると、会話をしていたプレーヤーの一人が扉のそばに立っているキリハに気づき、目が合う。するとそのプレーヤーはこちらに歩いてきた。
「キリハさん、こうして話すのは初めてですね。ルークです。よろしくお願いします」
「こんにちは、キリハです。こちらこそよろしくお願いします」
言って互いに握手を交わす。
キリハは挨拶をしながらも相手を観察していた。ヒースクリフの言葉を鵜呑みにしたわけではないが、彼の言った通り、どちらかと言えば好意を持たれているようだ。嫌われるならともかく、何故好意を持たれるのか分からない。
そんなことをキリハが考えているなど知るよしもなく、KOBのメンバーの一部は若干興奮気味に名前を名乗っていった。それをルークが抑えている。どうやら、この中では彼がリーダーのようだ。
全員と挨拶が終わり、それぞれの使用している武器や隊の組み方を確認することにした。盾持ち武器が六、タンクが四、両手武器が五、片手武器が五となっている。よって隊を二つに分け、前衛に盾持ちが三、タンクが二、両手が二、片手が三。後衛に盾持ちが三、タンクが二、両手が三、片手が二とした。キリハは前衛だ。
「さて、では行きましょうか」
隊が決まった所でキリハがそう言う。後衛の指揮はルーク、全体の指揮をキリハが取ることとなった。キリハからしたら本当に自分でいいのかと思うが、
「キリハさんが指揮官で文句ある奴いるか?」
「「「「んなわけあるか!!」」」」
とのこと。
そんなこんなで現在、七十五層の迷宮区のボス部屋前に来ている。全員が攻略組なのもあり、ここまでさして苦労せず来ることが出来た。
「これから前衛部隊がボス部屋に入ります。後衛部隊は部屋の外から観察してください。僕達はあくまで偵察隊なので無理をする必要はありませんが、もし万が一、前衛の誰かが死ぬことになったとしても助けようとしないように。死者を増やす可能性があるので」
それでは行きましょう、とキリハが扉を開け部屋に入ろうとしたとき、ルークがキリハの肩を持ち止めた。
「待ってください。部屋に入るのは俺達後衛に任せて下さい」
「何故です?」
キリハは振り向いてルークに問う。
「万が一の場合を想定してのことです。確かにボスを相手にした場合、キリハさんがいた方が生き残る確率は高いでしょう。ですが、もし貴女が死んでしまったらこの先の攻略は辛くなります。貴女の代わりはいないんです」
ルークの判断は正しい。キリハの実力は攻略組でも頭一つ抜き出ており、更にユニークスキルも持っている。もしルークの言うとおり、キリハが死んでしまったら攻略が大幅に遅れるだけでなく、
「…分かりました。ですが、貴男方の代わりもいないという事を忘れないでください」
それが分かってるからキリハは反論しなかった。だが、先のルークの言葉は言外に自分達の代わりはいると聞こえたので、キリハはそう言う。ルークは軽く目を見開くが、口元に笑みを浮かべ頷いた。
「気をつけて下さいね」
「えぇ、もちろん」
そう言ってルーク達後衛は扉を開けボス部屋へ入っていった。キリハ達前衛は念のため扉から一歩下がる。そして後衛の者達が全員入り、部屋の中央まで到達したその時─突然扉が閉まった。
「「「「なっ!?」」」」
「っ!」
キリハは扉にソードスキルを放つ、が弾かれた。当たり前だ。ボス部屋の扉は【破壊不能オブジェクト】なのだから。
「【開錠スキル】を持つ方は!?」
「います!!」
キリハの叫びに一人が答え、扉を開こうとしたが、無理だった。
(考えろ考えろ考えろ!!以前にも扉が閉じた部屋はあったじゃないですかっ!)
あの時はボス部屋の外から開けるタイミングがあった。だが今回は?分からない。街のNPCからは何も情報は無かった。ギミックがあるなら情報がないとおかしい。ならば、これは仕様なのだろうか。例えば、一度部屋に入ると、ボスを倒さない限り出られない、などという。
そんなことがあってたまるかと、キリハは思考を続け、考え得ることを全て試したが、扉を開くことは出来なかった。
迷宮区から帰還したキリハは現在、ヒースクリフへ報告に来ていた。その表情は、暗い。
「以上が、報告です」
「ご苦労、しかし参ったものだな。一度入ってしまえば出られない、か」
結論から言えば、ルーク達が入ってから十分後に扉は開いた。だが、そこには何も無かった。ルーク達の姿も、ボスの姿も、何も。
もしかしたら転移結晶で脱出したのかもしれないと、フレンドリストを見るがメールは送れず、黒鉄宮の《生命の碑》も確認したが、無情にもルーク達の名前には横線が引かれていた。
「これから上は《結晶無効空間》なのかもしれないな。もう少し情報を集めてみよう。君は少し休みたまえ」
ヒースクリフはそう言ってくれたが、キリハは首を横に振る。
「…いえ、僕の方でも集めてみます。休暇は既に貰いましたから」
ヒースクリフは、少々心配げな表情をしたが「そうか」と頷く。何故、ヒースクリフがそんな表情をするのか、問い詰めたい所ではあるが今のキリハにそんな余裕は無い。キリハは「失礼しました」と頭を下げてから部屋を出て行った。
キリハが出て行った後、背もたれに寄りかかり、彼は一人呟く。
「あれくらいで折れるような子ではないが…。やはり、少し心配だな…」
ホームのベッドで仰向けに転がり顔を腕で隠すキリハは、普段の彼女からは考えられないほどに、自分を責めていた。
(彼らを殺したのは…僕だ…)
─やはり自分が行くべきだったのか。それでも自分以外に九人も道連れにしてしまっていた。それならば、自分だけで行くべきだったのだ。そうすれば彼らは死なず、死人は自分だけで済んだのだ。だが、今更それを考えたことでなんになる?もう彼らはいない、死んでしまったのだ。自分が彼らを殺した─
(─自惚れんじゃねぇっ!)
拳で自分の顔を思い切り殴った。
─自分が彼らを殺した?自分のせいで彼らが死んだ?そんなことを考えて、一体誰に赦しを乞うつもりだ?いや違う、自分は楽になりたいだけだ、逃げてるだけだ。
確かに、彼らが死んだのは自分の責任であり、それを取るのは隊長であった自分だ。だからこそ、部下の仇を取るのは自分の役目だ。
自分を責めてる暇があんなら仇を取ることを考えろ!─
自分の顔に拳を突き付けたまま、しばらく動かなかった。
そのまま五分、時が止まったかのように停止していたキリハは、深く息を吐いて拳を顔から離した。
(久しぶりですね。ここまで自分を責めたのは)
そう思うキリハの表情は、既にいつも通りとなっていた。自分に喝をいれたおかげか、スッキリしたようだ。情報集めに行こう、と立ち上がった時、家にノックが響いた。
「はい、今出ます」
来客の予定はあったか?と内心首をかしげながら、ドアを開ける。そこにいたのは、
「おや三人とも、どうしたんですか?」
「団長に呼ばれてな、今行ってきたところだったんだ」
「で、ついでだから姉さんのとこに寄ろうかってなって、近くまで来たときユイが、姉さんが自分を責めてるって言いはじめてさ」
「今のねぇねは落ち着いているみたいですが…」
そう言えば、とキリハはユイがMHCPだということを思い出す。大元のシステムから切り離されてはいるが、近くのプレーヤーの感情なら分かるらしい。親しいプレーヤーなら特に。
これは感情面の隠し事は出来ないな、と思いながらキリハは三人を中へ入れる。
「まぁ、玄関で話すのもなんですし、中へ入ってください」
そう言って三人を中に入れ、コーヒー(とついでに砂糖、ミルク)とケーキを出す。全員が一口飲むのを確認してから、キリハは口を開いた。
「君達がここに来たのは、僕を励ますため、といったところですかね」
「正解、団長から話は聞いたよ。少し心配したけど、まぁ大丈夫そうで良かった」
「どうせ、十人が死んだのは自分のせいだって思ってたんだろ?」
キリトの問いに、キリハは苦笑で答える。キリトは、やっぱりとでもいうように溜息をつきケーキを頬張った。
「そう言えば、君達がヒースクリフに呼ばれたということは、やはり次のボス戦に参加するのですね」
「当然だ。それに、今回はクオーターだからな。サボるわけにもいかねぇだろ」
「ユイちゃんはサーシャさんのとこで預かって貰うつもりだ」
「本当はついていきたいのですが、流石にこの容姿で攻略組を名乗るのは…」
シュンとユイは落ち込んでしまい、慌ててキリトとアスカが慰める。
もしユイがついて来たとして、攻撃が当たった瞬間にプレーヤーではないことがバレてしまうので、やはり来ないで正解だろう。
そんなことを考えキリハがコーヒーを飲もうとしたとき、キリトがこんなことを言った。
「あ、そうそう。俺達、今日ここに泊まるから」
「…はい?」
ピタッと、カップを口につける直前で止まった。聞き間違えだろうか。今、泊まると聞こえたが。
改めてコーヒーを口に含みもう一度聞く。
「すいません、もう一度言ってくれませんか?」
「今日、俺達三人とも、和葉のホームので泊まるって言ったんだ」
「お泊まり会っていうんですよね!」
思わず眉間を抑えた。
聞き間違えではなかった。いや、別に泊まりに来るのは構わない。だが、こういうのは事前に連絡をするものだろう。
それを三人に言うと
「そういうものなのですか?」
「「知らせない方が面白いと思ったから。反省も後悔もしない」」
「二人とも、ちょっと表出なさい」
笑顔で親指を外に向ける。二人は顔を青ざめた。ユイは疑問符が浮かんだ。
溜息を一つつき「それで」とキリハが口を開く。
「いつですか?」
「明日の午後だ」
「分かりました」
明日の情報を持ってる限り纏めようと立ち上がろうとして、キリトに腕を掴まれた。
「待った待った、そんなことよりこれ、やろうぜ?」
「はい?」
ニッと笑いながらキリトが取り出したのはトランプ等のカードだった。攻略は明日なのに何を呑気に…、と断ろうとしたが、ユイの目が輝いている。それはもうキラッキラと。目を輝かして楽しみにしてる少女を前に断れる者はいるだろうか、いやいない。
ようやく二人の本当の狙いが分かった。無理矢理にでも、キリハをリフレッシュさせに来たのだ。
キリハは両手を挙げ降参のポーズをとる。
「はいはい分かりました。トランプでも何でもやりますよ」
「「「いぇーい!」」」
この後滅茶苦茶トランプした。因みに、ユイには手加減したがキリトとアスカはボコボコにした。
翌日、ユイをサーシャに預け三人は七十五層『コリニア』のゲート広場に来ている。三人が転移門から歩み出ると、何やら騒がしい。何があったのだろうかと、騒ぎから離れてたクラインとエギルに事情を聞くことにした。
「クライン、エギル、何かあったのか?」
「ん?お前らか」
「いやな、『辻斬り』って呼ばれてる奴があそこにいるらしいぜ」
「俺らは会ったことないけどな」とクラインは続ける。
突然、ピクッとキリハが反応した。それにアスカが気づき尋ねる。
「キリハ?どうし─」
─ガギン─
否、尋ねようとしたとき、重い金属音がした。
「久しぶりですね、エンバさん。ですが再開早々、このあいさつの仕方はないでしょう」
音の発生源は、キリハの逆手に持った刀と─
「久しぶりであります、キリハ殿。いやなに、キリハ殿を見かけのでつい」
─『
刀を弾いて、鞘に収めながらキリハは尋ねる。
「何故ここに?」
同じく、鞘に収めながらエンバは答える。
「街中をふらついていたら、こんな物を目にしたであります」
そう答えてエンバが取り出したのは一枚の紙。それにはこう書かれていた。
『七十五層はこれまで以上に厳しくなることが予想される。よって、腕に覚えのある者は午後一時までに七十五層『コリニア』のゲート広場まで来て欲しい。
血盟騎士団団長 ヒースクリフ』
なるほど。だが、これが目についたからといってホイホイ来るような人物ではないと思っていたが。そのことを伝えると
「有象無象のデータ如きに
肩をすくめてニヤケながらそう言った。ここまで執着されていると考えると、正直怖い。
「姉さん、そろそろ俺達にも紹介してくれねぇかな」
二人の会話が途切れたのを見計らって、キリトが話しかけてきた。
「あぁすいません。この人は『辻斬り』と噂されているエンバさんです。そしてこっちが妹のキリトと、その夫のアスカです」
「ほう、キリハ殿の妹?これは一度、手合わせ願いたいものであります」
目を細め好戦的な気配を漂わせたエンバに、素早くアスカがキリトの前に立つ。同時に二人は、エンバがキリハに近い人物ということを感じた。
「はいはい、そういうのは今度にしてくださいね。エンバさん、こっちの野武士面はギルド『風林火山』のリーダー、クライン」
「何度目か分かんねぇけどよキリハ、その紹介やめてくれねぇか?」
「そして「無視かよ!」うるさいですクライン。こっちの黒人はエギル。ぼったくり商人ですので気を付けてください」
「おいまて、それじゃあ俺が詐欺師みたいじゃねぇか。安く買って安く売るがモットーなだけだ。今回だってえらい苦戦しそうだって聞いたから商売を投げ出して来たんじゃねぇか。この無私無欲の精神が理解できないたぁ」
「OK、その精神はよーく分かった。つまり、エギルは今回の戦利品はいらないってことで良いんだな?」
そう笑顔でキリトが言うと、途端にエギルは口篭もる。
「い、いや…それはだなぁ…」
それらのやりとりを見たエンバは一言呟く。
「…キリハ殿のお仲間は個性的なのが多いでありますなぁ」
「否定しません」
それに苦笑と肩をすくめて答える。
『月夜の黒猫団』も合流し雑談に花を咲かせていると、午後一時丁度、転移門からヒースクリフ率いるKOBが現れた。雑談をしていた面々は口を閉ざし、ヒースクリフの言葉を待つ。ヒースクリフは全員を見渡し頷いた。
「
ヒースクリフの力強い叫びに、プレーヤー達も力強い叫びで応える。そんな中、キリハだけはヒースクリフに懐疑的な視線を向けていた。それに気付いたのはエンバだ。彼だけが、今日この攻略戦で何かが起きることを予想し、楽しみにしていた。
「では出発しよう。ボス部屋手前までコリドーを開く」
そう言ってヒースクリフが濃紺色の結晶を取り出す。
ヒースクリフの取り出した結晶は《
ヒースクリフは結晶を高く掲げ「コリドー・オープン」と発する。すると、結晶は砕け散り彼の前に光の渦が出現した。
「ついてきてくれたまえ」
全員を見回すと、ヒースクリフは紅衣の裾を翻し光の渦へ足を踏み入れる。それを合図に次々とプレーヤー達も続いていき、キリハ達も互いに頷き合い光へと体を踊らせた。
目眩に似た感覚の後に目を開けると、そこはもうボス部屋前だった。キリハとKOB数名は二度目、他は初となる。
「いやぁ、これがボス部屋でありますか。禍々しい雰囲気でありますなぁ」
エンバはボス部屋に来ること自体が初なのか、呑気にそんなことを言う。キリハ含め他の面々は、そんなエンバに構うことなく自分の装備やアイテムを確認していた。
ヒースクリフが十字盾をオブジェクト化し、口を開く。
「皆、準備はいいか。今回はボスについての情報が全くない。基本的にはKOBが前衛に立ち攻撃を食い止める。その間に攻撃パターンを見切り、柔軟に攻撃してほしい。
では─行こうか」
あくまでもソフトな声音で言うと、扉の中央に手をかけた。
「全員、死なないでくださいね」
「へっ、あったりまえよ。おめぇらもくたばんなよ!」
「「「「「うす!」」」」」
「今日の戦利品で一儲けするまでくたばる気はないぜ」
「データ如きに殺される自分ではありませぬ」
「さーて、いっちょやるか」
「油断は禁物だぞ、キリト」
「お前ら!サチだけは何としてでも守るぞ!!」
「「「おうっ!!」」」
「ちょっと!恥ずかしいからやめて!!」
キリハ、クライン達『風林火山』、エギル、エンバ、キリト、アスカ、ケイタ達『月夜の黒猫団』。それぞれが自分に気合を入れるように声を響かせる。
「戦闘開始!!」
そして、ヒースクリフの号令を合図にボス部屋へと足を踏み入れた。
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