それと、今回原作を読んでいない人には意味がわからなくなるかもしれませんが、ご了承下さい<(_ _)>
和葉「宣言通り長くなりましたね」
まぁね、これ前回のと合わせてしまったら七千字超えるんだけど...
和葉「分けて正解でしたね」
和&作「「ではどうぞ」」
十九層の圏外グリセルダの墓、今シュミットは窮地に陥っていた。
三人にDKBの本部まで送ってもらった後、シュミットはこの場に来た。そしてこの場には彼の他にそれぞれグリムロックとグリセルダの格好をしたカインズとヨルコがいた。キリハの予想通り二人はシュミットがグリセルダを殺害したのではと疑っていた。シュミットは彼女を殺してはいないが、彼女の泊まっている宿にメモ通り《コリドー》の転移場所を設置しただけらしい。そこまで話してからカインズとヨルコが生きていることを知り、肩の力が抜けた瞬間、
彼らの前に現れたのは四人の
シュミットはジョニー・ブラックの毒ナイフで体の自由を奪われたのだ。そしてPoHが口を開いた。
「Wow、とんだ大物がつれたなぁ。Its show timeといきたいところだが、さてどうするか」
「あれ、あれやろうよ!『殺しあって生き残ったやつを逃がしてやるぜゲーム』、まぁこの三人だとハンデつけなきゃッスけど」
「そんなこと言ってジョニー先輩、この前それで生き残ったやつも殺したじゃないですかぁ」
「おいモルテ、それ言ったらゲームにならないだろ~」
最初と最後に言ったのはジョニー・ブラック、途中で口をはさんだのはモルテ、ザザはシューシューと嗤っている。彼らはまるでどうやって遊ぶかを決めるかのように話している。彼らにとって殺人は、遊びのようなものなのだろう。
そんな時に乾いた音が聞こえた。音のする方に向くと馬に乗っている人物がいた。その人物は馬から飛び降りた。その人物はいつもの黒いフード付きコートを纏い、大鎌を背負った攻略組トッププレーヤーのキリハだった。
「ここまでありがとうございます。馬代はDDAに請求しといてください」
そんなことを言って馬の尻を叩き解約してキリハはPoH達に向き直った。そしてPoHに言った。
「よう、まだそんな悪趣味な格好をしていたのか?」
ただしその口調は荒れていた。キリハはブチ切れたり、怒りの感情が高ぶると口調が荒くなるのだ。
「...貴様に言われたくねぇな、《死神》」
PoHは殺意を隠さずに放った。直後、大きく一歩を踏み出してジョニー・ブラックは上づった声で喚いた。
「んの野郎、てめぇこの状況判ってんのか!?」
「ジョニーの言うとおりだぜ、キリハ。てめぇが攻略組だからといってオレ達四人にたった一人で戦う気か?」
「そうですよぉ、ここは大人しく殺されてくださいよぉ」
キリハはその言葉を鼻で笑った。
「ハッ、大人しく殺されてくれ?んなこと言われて、はい良いですよなんて言うとでも思ってんのか?てめぇらは。
それによぉPoH、そのセリフそっくりそのまま返すぜ。攻略組三十人と戦う気か?ここに来る前に連絡はしておいたからなぁ、十分耐えるぐらい造作もねぇ。
回復結晶はありったけ持ってきたし、なによりオレのユニークスキル、知ってんだろ?」
そう言って大鎌に手をかけるキリハ。軽く舌打ちをしたPoHは「Suck」といい、身を翻した。それを合図に残りの三人も撤退する体制をとる。立ち去る前にザザはこちらを向き
「次はオレが、馬に乗って、お前を、追い回してやる」
「やってみな。見たより難しいぜ?」
四つの影が丘を下り、視界から消えてもキリハは索敵スキルを使って警戒を解かなかった。キリハが警戒を解いたのはスキルの範囲から四つのカーソルが消えたときだった。恐らく次に会うときはお互い本気で殺しあうときだろう。
(あの四人が来たのは予想外でしたが、まぁ何とかなりましたね)
そしてキリハはウインドウを出し、こちらに向かってきているであろうクラインに〖ラフコフは逃げました。街で待機していてください〗とメールを送った。次にポーチから解毒ポーションを出しシュミットに飲ませてからヨルコ達の方へと向いた。ヨルコとカインズはポカンとしていた。二人とも、何故この場に攻略組のキリハが来たのか判らないのだろう。それにキリハは苦笑しながらフードをとった。
「また会えて嬉しいですよ、ヨルコさん。それに...初めましてと言うべきでしょうか、カインズさん」
ヨルコは一瞬目を見開き、ついで納得したように頷いた。
「なるほど、和葉さんは攻略組だったんですか...それならあのステータスも納得です。
...キリハさんって、女の人だったんですね...」
最後の方は小さく呟き、キリハはまたも苦笑した。
あの、というのはキリハが落ちたヨルコを受け止めた時のことを言っているのだろう。次に口を開いたのはカインズだった。
「初めまして、ではないですよ、キリハさん。あの瞬間一度だけ眼が合いましたよ」
カインズの言葉にキリハはその時のことを思い出した。
「そういえばそうですね。貴方の防具の破壊と同時に転移したときでしょう?」
「ええ。あの時、この人には偽装死のカラクリを見抜かれてしまうかもしれない、って何となく予感したんですよ」
「それは、運が良かった、と言うべきでしょうか。あの場にいたのが僕達じゃなければ、今頃貴方達は殺されていましたよ」
最後の方は冗談っぽく言ったキリハにシュミットは問うた。
「...キリハさん。助けてくれた礼は言うが、何で判ったんだ?あの四人が襲ってくることが」
キリハは少し言葉を濁しながら答えた。
「判った、って訳では無いんですがね。あり得るとは思いましたよ」
そしてキリハは自分達の推測を言い始めた。この事件を演出した理由とグリムロックのことも含めて...。
それを聞いたヨルコ達は唖然とした。
「グリムロックが...?あいつがメモの差出人...?」
「そんな...嘘です!グリムロックさんがそんなことをするわけありません!
それに、それなら何で私達の計画の協力をしたんですか?しなければ《指輪事件》が掘り返されることも無かったはずです」
ひび割れた声でシュミットが呻き、ヨルコは反論した。
そしてキリハはさらに言葉を重ねた。
「貴方達は彼に計画を手伝って貰うために全て話したのでしょう?それならこの《演出》の《ラスト》を知っていたはずです。ならそれを利用し《指輪事件》を闇に葬ることは可能です。
共犯者であるシュミット氏、解決を目指すヨルコさんとカインズ氏を、まとめて消してしまえば良いのですから」
膝から崩れ落ちそうになったヨルコをカインズが支えた。ヨルコは艶の失せた声で囁いた。
「グリムロックさんが...私達を殺そうと...?でもなんで...?結婚相手を殺してまで指輪を奪わなきゃならなかったんですか...?」
「さすがに動機までは推測できませんが、それは本人から聞きましょうか。
ねぇ?グリムロックさん?」
キリハが林の方を向くとまず目に入ったのは夜闇の中にも浮き上がる赤と白の騎士服を着ている《閃光》のアスカ。その隣にはよく見れば黒いフード付きコートを纏った《黒の剣士》キリト。そして二人に剣を突きつけられている革製の服を着込み、つばの広い帽子を被っている眼鏡をつけた男がいた。
その男はシュミット、ヨルコ、カインズ、最後にちらりと墓標を見てから口を開いた。
「...やぁ、久し振りだね、皆。」
ひどく落ち着いたその声に、数秒経ってからヨルコが応じた。
「なんで...なんでなの、グリムロックさん。リーダーを...奥さんを殺してまで指輪を奪ってお金にする必要があったの?」
「...金?金だって?」
グリムロックはピクリと反応してから口を開き、ウインドウを開きやや大きめの革袋をオブジェクト化した。持ち上げたそれを無造作に地面に放り投げた。どすんというお重い響きと金属音が重なった。それだけで中身はコルだということがわかる。
「これは、あの指輪を処分した金の半分だ。金貨一枚だって減っちゃいない。
...金のためでは無い。私は...私は、どうしても彼女を殺さなければならなかった。彼女が私の妻でいるあいだに」
視線を一瞬墓標に向け、独白を続けた。
「私達の頭文字が同じなのは偶然ではない。私と彼女はSAO以前のゲームでも常に同じ名前を使っていた。そして可能ならば結婚をしていた。なぜなら...彼女は現実世界でも私の妻だったからだ」
これにはさすがのキリハも、この場にいる全員も驚かされた。
「私にとって一切の不満のない理想的な妻だった。だが...この世界に囚われてから、彼女は変わってしまった...。
このデスゲームに囚われて畏れていたのは私だけだった。彼女は...《ユウコ》は戦闘能力、状況判断力を大きく私を上回っていた。そして私の反対を押し切り、ギルドを結成し、仲間を募り、自分を鍛え上げた。その時の彼女は今まで見た中でも一番生き生きとしていた。それを側から見ていた私は認めざるを得なかった。私の愛した彼女は消えてしまったのだと。このゲームがクリアされても大人しく従順なユウコは戻ってこないのだと...」
前あわせの肩が小刻みに震えた。それは自嘲の笑いなのか、喪失の悲嘆なのか、或いは両方か。囁くような声で更に続く。
「...私の畏れが君達に理解できるか?もし現実世界に戻った時...ユウコに離婚を切り出されたれでもしたら...そんな屈辱に、私は耐えることができない。ならば...まだ私が夫であるあいだに。ユウコを永遠の思い出に封じてしまいたいと願った私を誰が責められるであろう...?」
長く、おぞましい独白が途切れた数秒後、怒りを含んだ声がアスカの口から発せられた。
「たったそれだけの理由で...自分の妻を殺しただと...?」
「それだけ?私にとっては充分過ぎる─」
「ふざけるなっ!!」
アスカはグリムロックの言葉を遮り、剣を更に突きつけた。
「あんたも、その人の夫なら、何故変わったところも含めて愛してやらないっ!?」
「...君にもいつか分かるときがくるさ、閃光君。愛情を手に入れ、それが失われようとしたときにね」
「いいや、間違ってるのはあんただ。グリムロックさん」
アスカが口を開くより先にキリトは言った。
「あんたがグリセルダさんに抱いていたのは愛情じゃない。ただの所有欲だ。それに、アスカはあんたみたいにならない」
「何故そう言いきれる?」
キリトはフードをとり、腰まである髪をあらわにした。
「俺と明日香も、あんた達と同じように現実世界じゃあ婚約者だからな。明日香があんたと同じならとっくに殺されてる。
それと、あんたがグリセルダさんをまだ愛しているのならその左手の手袋をとれよ。指輪、はめてないんじゃないのか」
グリムロックは右手で左手首を掴んだ、だが外そうとはしなかった。
訪れた静寂を今まで黙っていたシュミットが破った。
「...三人とも、この男の処遇は俺達に任せて貰えないか。もちろん死刑にかけたりしない。しかし罪は必ず償わせる」
その声は数刻前までの怯えた響きではなかった。その言葉にキリハは頷いた。
「えぇ、もちろん」
グリムロックをつれて立ち去ろうとした三人をキリハは呼び止めた。
「あぁそれと、僕達の性別ことは秘密でお願いしますね。いずれバレるでしょうが」
その言葉に三人は頷いて、そして今度こそグリムロックをつれた三人は丘を下りていった。
小丘には、青い月光と夜風だけが残され、そんな中キリトがアスカにポツリと呟いた。
「明日香、もし俺に、まだお前の知らない一面があったらどう思う?」
アスカは一瞬キョトンとしたが、フッと笑ってキリトの頭を撫でながら言った。
「仮にまだ俺の知らない佳奈がいたとしても俺はそれでも愛し続けるよ」
「...ありがとな」
その言葉でキリトは赤くした顔を見られないように俯きながら礼を言った。
そして
「さて、帰ろうぜ。んでもって今日は久々に俺が作ってやる」
「お、マジか!やった!明日香の料理は旨いんだよな~」
「佳奈の料理も旨いよ」
二人の会話にキリハは微笑みながら後を追った。ふと後ろに気配を感じて振り向いてみると、墓標の隣に一人の女性プレーヤーがいた。
「貴方の意思は僕達が受け継ぎます。そしてSAOを創った一人として、このデスゲームをクリアし必ず皆を解放します。だから、見守っていて下さい、グリセルダさん」
グリセルダはキリハの言葉にニッコリと微笑み─
とキリハを呼ぶ声が聞こえた。
「お~い、姉さ~ん、今日は明日香が飯作ってくれるってよ」
「わかりましたよ」
キリハはキリトに返事をして、もう一度振り向いたときには誰もいなかった。
そして空を仰ぎキリハは再度誓った。
(ゲームは必ずクリアします。たとえ、僕が犠牲になっても)
やぁっと圏内事件編終わりました。
和葉「次回の話はラフコフ討伐戦です」
和葉と佳奈の過去の一部が明らかになります。
おかしいところがありましたら、報告よろしくお願いします。