星の在り処   作:KEBIN

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魁・武闘トーナメント(Ⅷ)

「はーい、皆さん、こんばんは。ツァイスラジオ局DJのヘイゼルです。原因不明の導力停止現象で、一時的に麻痺していたスタジオの機能もようやく復旧したので、恋の悩み相談室を再開します。えーと、今回もまたお葉書でなく、ボイスレターが届いているので、ポチッと再生します。ラベルに貼られたP.Nは、某所に潜伏する『逃亡少年T』君ね。あらっ? 音質変換器(はつねみく)によって機械音に編集させているわね」

 

『ハウッー、ヘイゼルオネエサン、ゴブサタデスゥー。ボクハイマ、アルオンナノヒトイッショニセイカツシテイルノデスガ、サイキンムネノドキドキガオサマリマセン。キビシイケドイロイロとキヲツカッテクレルワイルドナツンデレオネエサント、ネルトキギュットヌイグルミミタイニダキシメテクレルナキムシノヤサシイオネエチャン。ボクハドウナッテシマッタノデショウカ?』

 

「…………あのー、口調がその儘だから、音声だけアフレコしても誰なのかモロバレだけど元気でやっているみたいで安心したわ。君のファンクラブ会員ナンパー0027の副書記としては娘の嫁入りを見守るお父さんみたいな複雑な心境だけど、それはずばり恋よ。異なるタイプの二人の年上の異性を同時に侍らせるとはやるじゃない。人は愛の数だけ強くなれる生物なのだから、二股なんて気にせずにどちらのお姉さんも幸せに…………って、何なのですか、貴方たちは? 今は放送中………………えっ? ボイスレターの消印の送付元を確認させろ? 駄目ですよ、相談相手のプライパシーを守るのは法律によって…………きゃああ! 力ずくは止めてぇー! あーれぇー!」

 

(※謎の黒装束の集団が局内に押し入ってスタジオが混乱したので、今夜の演奏はまたまた延期になりました)

 

        ◇        

 

 マーシア孤児院にカプア兄弟が転がり込んでから、幾ばくかの時が過ぎる。ジョゼット達の病症も少しずつだが回復に向かいつつあった。

 しかし、ベッドに縛りつけられた手持ち無沙汰な身の上では思考を遊ばす以外に時間を潰す方策はなく、そうなると、どうしても思い浮かべてしまうのはキール達の犠牲となり敢えて死地に留まった一家の連中。永久監獄送りの絶望的な未来図を思えば、胸が締め付けられるように心が痛む。

 従犯の手下に悪事の尻拭いを押し付けて、主犯格だけがオメオメと安穏を甘受する厚顔さを恥じ入ったドルンは生来の短気で思慮不足の性格を暴発させ、歩けるようになるや否や強行手段に踏み切った。

 

「ちょっと、ドルン兄さん、そんな身体でどこへ行くつもりなのよ?」

「離せ、キール。俺はあいつらを助けにいく!」

「…………本気で言っているわけ?」

 数々の軍事設備と数百人の兵士が駐屯する難攻不落の城塞に、単身戦いを挑もうという無謀を通り越した自殺行為に姉弟は慄く。

 長兄の正気を疑ったのは、例のハイジャック指示と皆殺し命令以来三度目だが、今回は極めつけ。ヨシュアの合理的な思考フレームのような演算能力に頼らずとも、ゼロ以外の成功確率が有り得ないのはよほどの馬鹿でも察しがつくが、ドルンは更にその上を逝く大馬鹿のようだ。

「無茶苦茶だよ、ドルン兄。僕らの得物は墜落現場に置き捨ててきたし、徒手空拳の身一つで何が出来るっていうのさ?」

「ジッゼットの言う通りよ、兄さん。そもそもレイストン要塞に辿り着く以前にルーアン地方から抜け出ることすら叶わずにお縄になるわ」

 巨躯で極悪面のドルンの風貌は目立ちすぎる上に、王国軍は血眼になって脱獄囚を捜索しているであろうから、テレサに匿われなければとっくに留置所に送還されていた。

「一体、何事なのですか、キールさん?」

 その恩義ある院長先生が兄弟間の騒動を聞きつけたらしく、三人の子供と一緒に入室してきたのでキールは簡単に事情を説明する。

「そういうことでしたか。お仲間を案じるお気持ちは大変尊いことだと私は思いますが、せめてお身体を完全に治癒されるまで休養なさった方が宜しいのではないでしょか? それまでの間は、不束ながら私の方で面倒を診させていただいますので」

「ありがとよ、院長さん。今日まで本当に世話になったし、俺らみたいな犯罪者相手に、その心遣いは痛み入る。けど、俺はどうしても行かなければならない責任があるんだ」

 キール達に理論整然と諭されても、意志を曲げるつもりはない。巨体をクの字に折り曲げて深々と恩人に頭を下げると、ドルンはふらつく身体で部屋を出ようとする。

 詐欺に騙されて裕福なカプア家を破産させて盗賊稼業への鞍替えを提案し、あろうことか他国で終身刑ものの大罪を犯したのも全て頭領たる彼が元凶。その咎に同胞を巻き添えにした以上、一家を監獄から救わねばならない責務がある。

 不撤退の覚悟で取り縋る妹弟を振り払い軽くテレサを押し退けたが、ドアの前でクラムが通せん坊するように立ち塞がった。

「おい、おっちゃん。もしかして、勝ち目のない強大な敵に喧嘩を売る俺カッケーとか自己陶酔してねえか? だとしたら、あんたはオイラと同じ勘違い野郎の口だな」

「何だと、小僧?」

 左目に縦傷が入っている強面のドルンが凄む。ポーリィとダニエルの二人は思わずテレサの背後に隠れるが、クラムは臆することなく自らの経験則を言い放った。

「『勝算無しでも戦わなきゃいけない状況は確かにあるけど、他に選択肢がある中で暴走に身を委ねるのは、単に己の後ろめたさから逃れたいだけで、勇敢さとは違う』っていうのが、むかつく黒髪のババアのお説教だ。あと、『堪えるのは、実は戦う以上に勇気がいる行動なんだ』とオイラが尊敬するお兄ちゃんも明言していたぜ」

「この子の言う通りだよ、ドルン兄。捨て身で僕らを助けてくれた皆の頑張りを、独り善がりな感傷で全部台無しにするつもりなの?」

「そうよ、兄さん。なるだけ、もうリベールに迷惑をかけない遣り方で一家を救える策を私が考えるから、それまでは身体を治すことに専念して。お願いだから、今は我慢してちょうだい、ドルン兄さん」

「うっ…………ううっ…………うおおおお……!」

 ドルンは両手の掌を地面につくと、激しく号泣する。

 長兄で一家の人生を背負っている自分が、孤児院の児童も含めたこの面々の中で一番向こう見ずなガキだったという現実を思い知らされたからだ。

 

「テレサ先生、大変です。王国軍の兵隊さんがワンサカと敷地内に押し入ってきました」

 皆の必死の説得にようやくドルンが折れて、この場は何とかおさまりそうな雰囲気だったのに、マリィが別の凶報を携えて飛び込んできた。

 遮光カーテンの隙間から、チラリと外の光景を眺める。ゼルスト隊長に率いられたクローネ峠に駐屯する部隊が灯柱のアーチを潜って建物に近づきつつある。

 魔獣対策で四方を塞いだ孤児院の袋小路の地形上、唯一の出入口を抑えられた今、逃げ道はどこにも無い。万事休すだ。

「兄さん、ジョゼット」

「うん、判ってるよ、キー姉。やっぱり、そう簡単に逃げきれるほど甘くはなかったということだね」

 兄弟は互いの顔を見回すと、投降する決意を固める。

 今の満身創痍の状態で完全武装した十数人の兵士を振り切れるとも思えないし、下手に抵抗すれば大恩あるマーシア孤児院にも迷惑がかかる。

 我が身を生贄に捧げて、束の間の自由を与えてくれた仲間の好意を上手く生かせずに不意にするのは心苦しいが、ドルン達はこれ以上人の道を踏み外すつもりはなかった。

「けど、僕らを助けただけでも、院長さんは隠匿罪に問われたりはしないかな、キー姉?」

「なら、私達がこの子達を人質にして、逗留を強要したということにでもすればいいわ。どうせ終身刑に違いはないから、今更罪科の一つや二つ加わっても変わりはないからね」

 そうキールは達観したが、その彼女の一言からテレサは何かを閃いたみたいである。

 国事犯を庇いだてし職務に忠実な兵士を騙くらかす所業を果たしてエイドスは許してくれるのか? テレサには自信は無かったが、一度手助けした以上、自らの過ちを悔いているジョゼット達を見捨てるつもりはない。

 「せめて傷が癒えるまでの間だけでも持てなすのが福祉施設の役割だ」とキールに説いた上で奥の部屋に隠れているよう指示すると、子供たちを全員引き連れて院外へと赴く。

 ダルモア一派との抗争では結局、最後まで他人任せで何の力にもなれなかった非才の身だが、今度こそ自分らに出来る精一杯の戦いをこれから始める覚悟だ。

 

「お勤めご苦労様です。本日は何用でしょうか?」

 四人の子供の肩を抱いたまま、テレサは素知らぬ顔でそう問い掛ける。孤児院とは旧知の仲のゼルスト隊長は部隊の進行を止めると恭しく頭を下げる。

「お騒がせして真に恐縮です。実はレイストン要塞を脱獄した三人の凶悪犯がこの付近に逃げ込んだものと考えられているのですが、このような人物象に心当たりはないでしょうか?」

 地道な聞き込み調査によるマノリア村住民の目撃情報から、脱獄犯はこの近辺に潜伏していると見当をつけた。

 手渡された三枚の写真には懐かしい一家のユニフォームに身を包んだカプア三兄弟の姿が写されていたが、テレサは無表情に首を横に振る。

「存じません。狭い敷地内ですし屋敷の中も整頓されているので、もし第三者が侵入したら直ぐに分かりますからこちらからご連絡を差し上げます」

 ゼルストはテレサを正面から見つめながら、顎に手を当てて思案する。

 マザーテレサと称される院長の聖人振りは広くルーアンに広まっている。彼自身も婦人の人となりをよく存じているので、その言霊には視察と称して放埒し放題の王族(デュナン)よりも、よほど信頼と重みに溢れているのだが。

(犯人がこのあたりに潜んでいることは間違いないのだ。彼奴が子供たちを人質に院長先生を脅迫しているケースも考えねばならんな)

 世間慣れして頭が切れる隊長は上っ面の言葉だけを鵜呑みせずに、あらゆるシチュエーションを想定して、見知った児童の数勘定を行う。

(えっと、生意気盛で悪戯大好きのクラム君に精神年齢二十歳でIQ180のマリィちゃん。お花畑の脳味噌がお口と直結している天真爛漫のポーリィちゃんに影が薄いので個性が今一つ不明のダニエル君…………って全員揃っているじゃないか?)

 もし、彼の勘が正しく院内に犯人が籠城しているのなら、最低でも一人は幼子を手元に置いておかねば強制力が失われ、テレサが虚言を弄する必然性が無くなってしまう。

(俺の気の回し過ぎか。帰省した時に息子と一緒に見た刑事物のドラマに毒されたのかもしれんな)

 嘘は吐く理由も脱獄犯を庇う動機も消失したので、自らの先走りに軽く頭を掻く。

 類まれな善人だからこそ、自発的な意志で重傷の犯罪者を匿っているという可能性にまでは思い至らなかったが、念の為に施設内の探索許可を求めようとした刹那、写真と睨めっこしていたポーリィが思い出したように発言する。

「このおじさんたちなら、あたしみたよー。しましまのおよーふくをきていたなのー」

 一瞬、テレサやマリィの心臓が止まる。ゼルストは「間違いない」と貴重な手掛かりを握る幼女に顔を近づけ、副長のセーロス以下の部下も捕り物の予感に慌ただしくなる。

「ポーリィちゃん、どこで見たのか教えてくれるかな? そいつらは悪者なので、捕まえて牢屋に入れないといけないんだよ」

「みっかほどまえに、クローネさんどーのもりのなかであそんでたら、しましまでちまみれのおねえさんたちがほくじょーしてったのー。『こっきょーせんをこえんるんだー』とか、いっていたみたいなのー」

「ちっ、山狩りし尽くしたつもりだが、漏れがあったか。有り難う、ポーリィちゃん」

 ゼルストはボーリィの頭をナデナデすると、帝国領に禍根の種を逃がすまいと無線で連絡を取りながら、手勢の兵士を引き連れてメーヴェ海道にUターンする。

 これが利発少女(マリィ)狼少年(クラム)あたりの目撃談なら、隊長殿も証言の裏面を検討したかもしれないが、虚偽機能が有さない無垢な天然幼女(ポーリィ)の真言なので、信憑性は別にして真偽そのものは疑いすらせずに孤児院を後にする。

 「おしごと、がんぱってなのー」と手を振ったポーリィは、テレサ達の方を振り向くとニカッと白い歯を光らせて、満面の笑顔でピースサインする。

 何時もぼーっと惚けていながらも、見掛け以上に空気が読めるお子様のアドリブのお蔭でジョゼット達は絶体絶命の窮地を何とか脱したようだ。

 

        ◇        

 

「クエストだから仕方がないが、大会武者修行の最終調整なのに随分と面倒臭い魔獣と遣り合うことになっちまったな」

 釣公師団の秘密の抜け道から地下水路に降り立ったジンチームは、ボイルデッガーOの大群と渡り合う。

 純粋に戦闘力だけで図るなら最初に戦ったダインダイルの方がよほど手強いが、この殻の上に電球を乗せたような奇怪なフォルムの軟体魔獣の厄介な特徴は体内の発電器官を駆使して強力なアーツを唱えられることと、死亡時に内部に溜め込んだガスを爆発させ周囲の敵を道連れにする点である。

「くそっ、一斉にアーツの詠唱態勢に入りやがった」

 アメーバーのような不定形ボディーの中央に位置するコアが爛々と緑色に輝く。『プラズマウェイブ』の始動合図にエステルは強く舌打ちする。

 直線上を一気に貫通する高ランクの風というより雷魔法の特性上、橋のように狭い通路で互いに正面から対峙しているので、水中にでも飛び込まない限り避け場所はない。

 アーツ発動前に仕留めようにも、一匹でも自爆させれば次々にガス誘爆して、爆風ダメージが桁違いに増幅される。下手をしたら本戦出場前に、全員病院送りにされてしまう。

「オリビエさん、あなたもプラズマウェイブで対抗して」

「了解した、マイハニー」

 指揮官が作戦を決めたようだ。オリビエはヨシュアの命令意図を聞き返すことなく、直ぐさま印を組み身体を緑色に光らせる。

 同魔法で撃ち合うつもりなのか不明だが、詠唱で出遅れた以上はどう考えても敵の一斉斉射の方が早い。何か策があるのだろうか?

「前衛の二人は、ボイルデッガーを殴って適度にHPを削って。間違っても同じ固体を二発叩いて、戦闘不能にしては駄目よ」

「了解」「心得た」

 見掛けが全て同一のゼリーの固まりを逐一見極めろとは中々に難題だが、至近距離で連爆されたら生命すら危ういので、集中力を切らさないようにするしかない。

 エステルとジンがまるで間違い探しクイズのように、七匹のボイルデッガーをポコポコ殴打する。

 見間違えて既に瀕死の固体を小突きそうになり慌てて攻撃をキャンセルしたり、予想外のクリティカル発動でうっかり倒しそうになったりとヒヤヒヤしながらも、何とか全ての魔獣に均等にダメージを与えるのに成功する。

「二人とも、私の後ろまで後退して」

 そう指示すると、ヨシュアは魔獣の群の頭上に巨大な聖痕のイメージが浮かび上がらせて遅延効果を促して敵アーツの発動を遅らせると、自らもアーツの詠唱に入る。

 『魔眼』はSクラフトも含めて次行動が極端に早いヨシュアのクラフトの中では唯一待機時間を要する使い勝手の悪いスキルだったが、紺碧の塔でヘルムキャンサーの物理反射を防ぐ工夫をした副作用でダメージと引き換えに連続次行動すら可能な軽めの遅延クラフト『真・魔眼』に生まれ変わる。

 ジンとエステルがヨシュアの左右の脇を駆け抜けると同時にオリビエのプラズマウェイブが詠唱完了する。

「はっ、そぉれっ!」

 雷撃のエネルギーが地を這う大蛇の如く直進し、橋の両端ギリギリに突っ立って水路に落っこちそうな両雄を掠めて通過。当然、橋中央で印を組んでいるヨシュアにマトモに直撃するが、高い魔法防御力(ADF)に阻まれ擦り抜けるように魔力が素通りし、詠唱中のボイルデッガーの群を貫いた。

 戦闘不能に陥った魔獣が次々に自爆。圧力10kgv/cm2(家屋倒壊クラス)の凄まじい爆風が四方八方に襲いかかるが、その刹那、『駆動』クオーツの効果で高速詠唱が可能なヨシュアのアーツが完成する。

「アースウォール!」

 そう叫ぶと同時にヨシュア前方の地面から巨大な土壁がせり上がる。空気中を伝播する音速の圧縮波と火山弾のように降り注ぐ魔獣の肉片をシャットアウトして、パーティーを完全防御する。

 やがて土煙が止むと黒髪の少女は無傷で立ち尽くしている。軽く額の汗を拭うとアヴェンジャーを太股のベルトに収納しようとしたが、そのまま地面に取り零してしまう。

「あらっ? 武器が持てなくなったわね」

 どうやら味方のプラズマウェイブを浴びた余波で、『封技』状態に陥ったようだ。エステルが意外そうな顔をしながら、双剣を拾い上げる。

「お前でも、全てのステーテス異常をキャンセル出来る訳じゃねえんだな? けど、それって結構ヤバくなかったか?」

 大勢に影響は無かったものの、もし、雷魔法の追加効果が『封魔』だったりしたら、絶対防御壁のアースウォールが発動せずにパーティーが崩壊していた危険もあるが、「『たられば』言いだしたらキリがないし、あらゆる状況に対応可能な万全な戦術など有り得ない」とヨシュアは後出しジャンケンを問題視しない。

「とにかく、これで依頼は全部片づけたわね。陣形のバリエーションも結構増やせたし、明日の本番に備えて今日はこのぐらいで終わりにしましょう」

 実際は全滅と紙一重の際どいバトルにも少女はさしたる感慨も抱かずお開きを宣言し、男衆は互いに何とも言えない表情を見合わせる。

 考えてみれば、紙装甲故に一発も敵の物理攻撃を受けられないという呪いのような誓約を自らに課している漆黒の牙からすれば、全ての戦いがギリギリで今回も特別綱渡りをしている自覚は無いのだ。

 魔獣退治と銘打った所で実戦は一方的な狩りではなく互いの身命を賭した死合いなので、常にこのぐらいの緊張感を以って臨むのが対戦者への手向けなのかもしれない。

(アイツはアイツで、意外と苦労しているのかもな)

 外面的に優雅な白鳥が水面下では必死に足掻いているように面倒臭がり屋の異なる一面を肌で感じ取ったエステルは、少しでも華奢な義妹の負担を減らせるよう強くなろうと心に誓うのと並行し、他にも有効な状態異常が存在しないか調べてみようと何時か夢見る対ヨシュア戦勝利の為に弱点属性を貪欲に研究する。

 

 こうして付け焼き刃の訓練なれど、即席パーティーなりに遣れる事を全て試し終えたエステル達一行は、ギルドでの宴会を適度に切り上げ体調をベストコンディションに整えると、難敵が待ち構える王都武術大会に挑むことになる。


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