星の在り処   作:KEBIN

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漆黒の福音(Ⅹ)

 遊撃士協会ツァイス支部一階のロビー。

 エステルとティータが冷たい床上に正座させられる。キリカ、ヨシュア(扮装は未だにカリンだが)、エジルの遊撃士関係者とカシウスに似たチョビ髭を生やした初老の工房長にグスタフ技師長とトランス主任のハード・ソフト両部門の責任者という工房の中心人物が顔を揃えて、複雑そうな視線で騒動犯を見下ろしている。

「申し訳ありません、マードック工房長。私の監督不届きでした」

 東方風衣装を身に纏ったキリカが恭しく頭を下げる。

 修行中の準遊撃士の身柄はツァイス支部の管轄下にある。受付の彼女が見習いの行動に全責任を負わなければならないが、鼻頭にバカでかい絆創膏を張り付けたエステルが正座の姿勢のまま即座に否定する。

「いや、悪いのは報告もせずに実験にゴーサインを出して俺であって、キリカさんは……」

「いえ、本当に悪い子だったのは僕です。「このままじゃ何時おじいちゃんが帰ってくるか判らないけど、僕でよければお手伝いします」とかお兄さんを唆して、興味本意で多くの皆さんに迷惑かけてしまってごめんなさいですぅー」

 ティータは瞳を潤まして、エグッエグッと泣き崩れる。

 この期に及んで互いに責任を擦り付け合わずに、自ら背負いこもうとするのは見上げた性根ではあるが、さりとて、それで罪が帳消しになる訳でもない。

 ただ素なのか計算かは不明だが、愛玩動物のように庇護本能を擽る少年の愛くるしい泣き顔で反省ポーズを拝まされると普段から坊やを可愛がっている工房関係者はもちろん、キリカやヨシュアのような恐い物知らずの女性陣さえも強く出れなくなってしまう。

「やれやれ、ワシのおらん間にとんでもない状況になっとったようじゃの」

 二人の処遇を思案しあぐねていた一堂の前に、角のような白髪を左右に残した禿げ頭の老人が確かな足取りでギルドに入室してきた。

「おじいちゃん?」

「ラッセル博士。何時、ツァイス市に戻られたのですか?」

 正座したティータや工房長が驚きの声を上げる。このトドの牙のような尖った口髭を構えた気難しそうな年寄りがリベールに導力技術を齎したアルバート・ラッセル博士。

「随分待たせたが、ようやく新型戦術オーブメントの方に目処がついたので、財団の専用飛空艇でリベールまで送ってもらったのじゃ。じゃが、まさか帰還前にワシ宛の調査依頼物に勝手に手をつけおるとはの」

 博士はフィンチ型の鼻眼鏡の奥の鋭い眼で怯えるティータを一瞥すると、スーッと息を大きく吸い込んだ。

「この馬鹿者があー!」

「ひっ? ご、ごめんなしゃあーい」

 老体とは思えぬ肺活量で衝撃波で窓ガラスが揺れる程の大音量で一喝。ティータ当人だけでなく周囲の人間も思わず身を竦め、穏健派の工房長は思わず仲裁に入る。

「ラッセル博士、お気持ちは判りますか、ティータ君も自分の所業を悔やんでいるみたいですし、ここは穏便に…………」

「小娘に恫喝されたぐらいで実験を取り止めるとは、どういう了見じゃあー? ワシはそんな惰弱な孫に教育した覚えはないぞ」

「はいっ?」

 エステル他、この場にいるほぼ全員が素っ頓狂な声をあげる。博士が怒っているのは、ここにいる人間とは全く異なった思惑からのようだ。

「けど、おじいちゃん。今回の件で僕は多くの人に迷惑を…………」

「ふむ、空の上から市の全域を眺めておったが、ワシの工房を中心にして町の光がどんどん闇に呑み込まれていく様は中々に壮観であったぞ。まあ、二次災害はほとんど発生しなかったようだし、市の被害額は数十万ミラといった所じゃろうて」

 かつての初代工房長だったラッセル博士は、昔を懐かしむような遠い目でしみじみと供述する。

「あれは今から四十年近く前、ワシが導力飛行船の開発に取り憑かれておった頃のことじゃ。最初は模型サイズから始まり、大小様々な失敗を経て二十四回目の実験にして、ようやく実用サイズの飛行テストへと漕ぎ着けたのじゃがのう」

 試運転は周囲に障害物がない安全なトラット平原道で行われた筈なのだが。制御を失い暴走した試験飛行船は、何者かに誘われように市の方角へと導かれ、ちょうど市街地のど真ん中で自然落下。ツァイス市は阿鼻叫喚の巷と化した。

「幸い人死には出んかったが、市に与えた損害額は数百万ミラ(※当時の物価なので、現在に換算すると数千万ミラ)に達して、それから周囲の掌を返すのが早いこと早いこと。オーブメント技術を普及させ生活を豊かにしてやった恩も忘れて、キチガイ博士を国外に追放しろと連日連夜のバッシング。神経が図太いワシも流石に堪えたわい」

 現在のツァイス中央工房(ZCF)の前身『ツァイス技術工房』は、閉鎖の危機に追い込まれる由々しき事態となる。無論、そんな逆風にめげる博士ではなく、当時即位されたばかりの二十歳の若きアリシア王女も亡きエドガー先代国王に次いで工房の支持を表明。開発計画は継続される。

 世間の冷やかな目を絶え凌ぎながら、累計三十九回に及ぶ実験の果ての、耀歴1168年。何の因果かティータの母親のエリカが生誕した当日、初の導力飛行船『カラトラバ号』を完成させて人々の賞賛を取り戻した。

「『科学の道は一日にしてならず』じゃ。それは何も科学だけに限った話じゃなく武術もそうだろうが、何事も一朝一夕で何らの代償も無しに成し遂げられる筈はない。もし、当時のワシが世論の圧力に屈し飛行船の開発を頓挫させていたら、今頃リベールはどうなっていたと思う?」

 歴史上の発明や発見は大抵の場合遅いか早いかの差でしかなく、仮にラッセル博士が挫折したとしても開発者の固有名詞が別の誰かに掏り替わるだけで、飛行船が永遠に空を飛ばないなどという未来図はまず有り得ない。

 ただし、その節にはアンチ導力の時流を引きずったリベールでは今ほどオーブメント技術に恵まれなかっただろうし、かの百日戦役でカシウス大佐の反抗作戦の要となった『飛行警備艇』が配備される道理もなく、戦争に敗北してエレボニアの属州に成り果てた可能性がある。

 歴史に『IF』という言葉は存在しないが、カシウスとラッセルの両翼抜きで小国リベールが軍事大国エレボニアに勝利するのは困難というのが、後の戦史家が見解を等しくする所。長い眼で見るなら、博士は与えた被害額に見合った貢献を王国に成したのだ。

「判ったか、ティータ。ワシとついでにお前の母の馬鹿娘が今までこの国に犯してきた数々の事変擾乱に較べれば、お前の仕出かした空騒ぎなど屁でもない。お尻に卵の殻を張り付けた雛風情がその程度でマッドサイエンティストを気取ろうとは片腹痛いわぁ!」

 ラッセル博士がクワッと両目を大きく見開いて、ガラガラドッカーン!っとバックに演出の雷が発生する。

 「負けたぁー」とティータはハンマーで殴られたような衝撃を受けてガックリと両手を地面について崩れ落ち、博士は公然と胸を反らして勝ち誇る。

 何を以って勝ち負けが講じられたのか、良識を備えた余人には今一つ良く判らなかったが。

「なあ、ティータよ。科学の発展に犠牲はつきものじゃが、世の中死亡事故さえ起こさなければ大概のことは償える。だから後々に与えた損害以上の恩恵を齎せれば、それこそが科学の勝利じゃ」

 ラッセル博士はニコニコ顔に戻ると、迷える小羊に救いの手を差し伸べる。干からびた草花のようにしょぼくれていたティータは水を浴びせた植物のようにシャキンと活性化。希望で満ち溢れた瞳をキラキラと輝かせながら、博士の手を強く掴んだ。

「うん、判ったよ、おじいちゃん。僕はこれからも実験で多くの人に迷惑かけてもいいんだね?」

「ああっ、もちろんじゃ。これからもジャンジャン…………」

「いい訳あるかぁー! ラッセル博士、あんたのいかれた哲学を無垢なティータ君に刷り込まないで下さい!」

 マードック工房長が血走った眼で絶叫し、仲良く手と手を取り合っていた祖父孫はお互いに抱き合ってビクッと震え上がる。

 工房長の地位と一緒に博士の尻拭い役も押し付けられた苦労人のマードック氏は、ゼエゼエと息を切らせながら「うっ」と呻いて急にお腹のあたりを抑えた。博士の不在中は沈黙していた持病の胃潰瘍が再発。胃壁に穴を穿ち始めた。普段は反目することが多いグスタフとトランスの両雄も、この時ばかりは互いに同調し諦観の表情で溜息を吐き出した。

「なあ、カリ…………じゃなくて、ヨシュアでいいんだよな? このマッド爺が本当に導力革命の父と呼ばれたラッセル博士なのか?」

「そうみたいね。この人に黒のオーブメントを預けるのはティータとは別の意味で不安ね」

 勝手に正座を解いて馴れ馴れしく金髪碧眼の義妹の肩に手をまわしたエステルは、第三者顔でそう問い掛ける。キリカ同様に目の前の事態に匙を投げたヨシュアは、軽くエステルの手の甲を抓りながら器用に肩を竦める。

 使い方次第で恵みを得られる反面、一歩取り扱いを見誤ると珍騒を引き起こすオリビエやデュナン公爵と似たトラブルメーカーの臭気をこの老人からも嗅ぎ取ったが、指向する目的意識と所持する能力が大きいので災厄の規模も桁違いだ。

 いずれにしても突然のラッセル博士の出現と意味不明な珍演説によって、なにやら責任の所在が有耶無耶になった感がある。今夜はこのままお開きの運びになった。

 

        ◇        

 

 昨晩の市への損害は数々の特許で潤ったラッセル博士の個人資産から賄われるという線で話は決着。メンテナンス窓口のヘイゼルが各工房や店舗の賠償請求を受け付け、ヨシュアも真っ先に『エジルお好み焼き店』の被害総額を算出し請求書を提出する。

 エジルはヨシュアのお手伝いの任を解くと、本人は副業に専念する為にこの件をエステル達に託してレオパレスビルに戻った。

 店にとって一番大事な書き入れ時にカリンという稼ぎ頭を失うのは大きな痛手であるが、今後エジルが一人で錐揉みしなければならない内情を鑑みれば、何時までもプリペイドカードのようなチート助手に縋ってもいられない。ヨシュアにきちんと借金を返済できようにカトリアと頑張るつもりだ。

 もっとも、トイチの金利だけは外してもらわないと永久に利息を払い続ける元本無限状態から抜け出せないので、今日までのヨシュアの働き(※多額の元手を無担保で貸し付けた分も含めて)を正当に査定し、店が軌道に乗ったら更に五十万ミラを上乗せして一括完済するという契約で手を打ってもらう。

 これでヨシュアはジルに続いて二枚目(※オリビエも含めれば三枚目)の『百万ミラの借用書』を取得したことになるが、なにぶん無利子、無期限、無催促ゆえに、この紙屑がボースの時のように何れきちんと現金化されるかはまさしく(エイドス)のみぞ知る所。

 

        ◇        

 

「それでは、昨日の実験で判ったことを報告しますです」

 ラッセル工房で一夜を明かした遊撃士兄妹とラッセル祖父孫。朝食を済まして実験室に集まると、講師役のティータが黒板にスラスラとチョークで手書きする。

(1)この黒いオーブメント(『黒の動力器』と仮名)は照明に限らず、自らに干渉しようとするオーブメントの機能を停止させる。

古代遺産(アーティファクト)を停止させたという証言もあり。

(2)その時の現象(『導力停止現象』と仮名)は、周囲で稼働中のオーブメントに連鎖して広がっていき、有効範囲はおよそ5アージュ。

※逆に言えば範囲内に稼働中の導力器がなければ、それ以上は広がらない。

 

「ほうっ、良く調べたな。流石はワシの可愛い孫じゃ」

 ラッセル博士がティータの頭を帽子越しにナデナデし、「えへへ、それほどでも」とティータは照れ笑いしながらポリポリと頬を掻く。

「じゃが、そういうことなら仮にワシが実験していたとしても、昨晩と全く同じ事象がツァイス市にそっくり再現されただけじゃろうな。だから、ティータよ。不必要に一時の失態を引きずる必要はないぞ」

「はいです。一晩寝てスッキリ忘れたですよ、おじいちゃん」

 昨晩の騒動も、あまり身に堪えていないみたい。負債を肩代わりした件といい、祖父の無制限な甘やかし振りがこの坊主の人格形成に一役買っているのだろうなとエステルは勘繰る。

「あとフレームの切断も試みましたが、材質は不明ながらよほど硬質の金属で出来ているらしく。特殊合金制のカッターでも傷一つつかず、丸ノコを備えた工作機械による裁断も例の導力停止現象で止められてしまうです。何か上手い工夫を考えないと、内部構造を検めるのは難しいと思います」

 色々と問題があるお子様だが、ティータが科学者の卵とは思えない鋭い見識と確かな技術力を兼ね揃えているのは疑いようがない。街に与えた災禍に見合っただけのデータはキチンと採取した。

「でかしたぞ、ティータ。後はワシの方で引き継いで何とかするからお前には別の任務をやろう」

 博士はそう宣告すると、ティータに修理依頼書を差し出した。何でもトラッド平原道の最南端にエルモ村と呼ばれる小さな温泉宿があり、温泉を汲み上げる導力ポンプが故障した。

「知っての通りアレは導力革命の黎明期に作られた骨董品のポンコツだから、最新鋭のオーブメントしか知らん若い技術者の手に負える代物ではない」

 だがティータならば、自宅の物置に転がっていた初期型のガラクタの山に囲まれ幼少時代を過ごしていて、幾つもの壊れたオーブメントを独力で再製させ出張帰りの博士を驚かせた実績があり、旧式オーブメントの修復にも馴れ親しんでいる。

「うん、判ったよ。おじいちゃん。僕もマオお婆ちゃんの力になりたいし、あの導力ポンプはおじいちゃんと初めて一緒にメンテナンスした思い出ある品だからね」

 最初ティータは、『黒の動力器』の研究チームから外されるのに不満顔だったが、女将のマオ婆さんはよほど懇意にしている人物らしく、「久しぶりに温泉にも入りたいし」と付け加えながら笑顔で了承する。

「おお、行ってくれるのか。そういうわけじゃ、カシウスの伜たちよ。ティータを宜しく頼んだぞ」

「はい?」

 突然、話を振られたエステルは、間の抜けた返事を返す。

「やれやれ、カシウスが愚痴を零していた通り、デカイ図体して全然気の利かん男じゃな。街道には危険な魔獣も出没するし、か弱い我が孫を守護してエルモ旅館まで安全に送り届けるのがブレイサーの務めじゃろが?」

「ひ弱って………………あんた、このガキをどういう眼で見ているんだ?」

 ガトリングガンのような危険極まりないオモチャを無造作に子供に買い与えた挙げ句(※魔改造したのはティータ本人だが)のこの言い草にエステルは呆れる。

 食材狩りとスニーカーの履き潰しマラソンでこの地方を五周ほどしたエステルだから断言するが、トラッド平原道にこのちっちゃな破壊神の脅威となる骨のある魔獣は棲息しない。

 Sクラフト『カノンインパルス』を発動させたが最後、魔獣は原型すら留めずに肉片と化す。

「まあまあ、エステル。確かに攻撃性能(STR&RNG)だけを見比べれば、ティータは大人のブレイサーと較べても飛び抜けているだろうけど、防御パラメタ(HP&DEF)は年相応であなたみたいに頑丈じゃないわ」

 金髪碧眼の美女カリンの変装を御用納めにし常の黒髪琥珀色の瞳を取り戻したヨシュアが、『治癒』の補助があるとはいえ折れた鼻骨を一晩でくっつけた義弟の爬虫類じみた再生力を揶揄しながら、平行線の両者の仲立ちを買ってでる。

 何よりも実戦は西部劇の決闘みたいに、1、2、3の合図で正々堂々と撃ち合う訳ではない。魔獣の奇襲に備えてガードする人間も必要だと不意打ち上等のバーリ・トゥードに特化した闇の眷属から実に説得力のある所見が提示され、ラッセル博士はウンウンと頷いた。

「ほう、そこの黒髪の娘。お前が養女のヨシュアか? 流石にカシウスが度々自慢するだけあって、美しく聰明じゃな」

「いやですわ、お祖父様。そんな本当のことを」

「はっはっはっ。無意味に謙遜しないのも、また良し。ワシなど常々天才だと威張っておらんと周囲の凡才共を反って惨めにさせるだけじゃというのに、身の程知らずとか増長しているとか若い頃からヤッカミが絶えなくてな」

「分かりますわ、パイオニアは何時の世も理解されないものですから、時代が博士に追いつくまでさぞかし歯痒い思いをされたのでしょうね」

「そうか、そうか、共感してくれるか。くうっー、今日は真に目出たき日じゃ。亡き我妻以来の魂の賛同者を得たような、清々しい気分じゃわい」

「そうじゃ、ヨシュアや。ワシはお前さんが気に入ったしティータに嫁ぐ気はないか? 財力まで得たらどんな災難を撒き散らすか知れんから馬鹿娘のエリカに遺産を残す気はないし、老後の面倒を見させようなんてケチな魂胆もない。ワシは生涯現役で工房でスパナを握ったまま大往生を遂げるつもりだから、いずれはラッセル家の莫大な財産は全てお主のものになるぞ?」

「まあ、それは中々に魅力的なご提案ですわね。けど、折角だけどご遠慮しておきますわ。お孫さんの女性の好みの問題もありますし、殿方に物品を貢がせても現金を直接強請らないのが私のポリシーですから」

「はっはっはっ。そうか、そうか。こりゃ、ますます気に入ったわい」

 何やら話が弾んでおり、ラッセル工房に明るい談笑の声が響きわたる。

 どこまで本気のオベッカかは分からないが、昨夜は博士に警戒心を抱いていた筈なのに腫れ物扱いするよりも懐柔する道を選んだようで、早速気難しげな天才科学者にまんまと取り入った。

「はえー、凄いです、ヨシュアお姉ちゃん。誰とでも打ち解けられる僕と違って偏屈なおじいちゃんは大いに人を選びますけど、こんな楽しそうなおじいちゃんの顔は久々に見たですよ」

 ティータの自己評価と祖父評は恐らくは正鵠なのだろうが、それを歯に衣を着せずに口にする神経はどうかとエステルは思った。

 導力砲と機関砲を同時装備可能など歳不相応な異常な体力を誇るこのお子様の防御性能に関しては一石を投じたい気もするが、街道の民間人の安全確保は遊撃士の義務なのでティータを保護すべしという意見の方が正論ではある。

 ヨシュアがラッセル博士をひたすらヨイショしてまで熱心にこの話題を推し進めているのは、多分当人が美容に優れると評判の天然温泉に逸早く浸かりたいという下心故なのは一先ず置いておくとしても。

 

 かくして護衛の依頼を引き受ける方向で話は纏まった。例のメモの添書の本来の指定者『R博士』と思わしきラッセル博士に黒の動力器の解析作業を一任した遊撃士兄弟は、ティータと連れ立って一路遥々とエルモ温泉を目指す次第となった。

 


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