後輩の俺と先輩の私   作:大和 天

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お久しぶりです大和 天です!

色々言わないといけないことがあるのであとがきに書きます(。-_-。)

それでは37話ですどうぞ!


彼に彼女は告白する。

 

 

 

 

「だから、聞いて欲しい。私の思ってること全てを」

 

 

 

彼女は泣いているところを見られまいとしてか、俺の胸に顔を埋めてはいるが、隙間から見える頬は涙に濡れ、微かな嗚咽と震えまでは隠せていない。

 

目の前に居る彼女は、いつも見てきた彼女とはまるで違う、ただの1人の女の子だった。

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか辺りは、傾いた陽によるオレンジの光に包まれ、グラウンドの方からは、部活動生の掛け声がかすかに聞こえる。

 

先輩は少しは落ち着いたらしく、未だ湿る目元を指で押さえていた。

先輩は、ふぅ、と息を吐くと、寒さと緊張で震える俺の右手に指を絡めてくる。

柔らかくて温かい手が俺の手を包み込んだ。

 

先輩の方を見ることができなくなり、俺は思わず顔を逸らしてしまう。

 

チラリと横目で先輩を見ると、先輩は何かを懐かしむかのように、どこか遠くを見つめていた。

 

 

 

「もし私が思っていることを言ったら比企谷くんとの関係は壊れちゃうかもしれない」

 

 

 

ぽつり、と呟いたその一言はスッと俺の中に入ってきた。

 

繋いでいる手からは微かな震えが伝わってくる。

 

 

 

「本当は要点をまとめて話せればいいんだろうけど、なにから話せばいいか分かんないの。だから最初から全部話すね。聞いてくれる?」

 

 

 

少しだけ先輩が手を握る力が強くなった気がした。

 

思わず先輩の顔を見ると、先程までとは違い、その濡れた瞳には先程までの揺らめきはなく、どこか一種の覚悟すら感じる。

 

あぁ、そうか、と俺はふと思う。

 

きっとこれからこの人が言う事は、ほんの一日、二日考えた位の事ではないのだ。

受験というプレッシャーに追い詰められながらも、悩み、苦しみ、否定と肯定を重ねながら、何日も、何日もかけて出した結論なのだ。

 

 

それと同時に俺はなんて馬鹿なんだ、と自分を罵りたくなる。

 

いつまでもこの関係が続いて欲しい、だなんて心のどこかで思っていた。

 

そんなことあるわけがない。

先輩は分かっていたのだ。

 

 

先輩が卒業したら、俺と先輩が何度メールをしようとも、何度一緒に出かけようとも、それは今までとは違うなにか別の関係なのだ。

 

だから言うのだろう。

この居心地のよいぬるま湯のような関係に終止符を打つために。

 

 

それなら俺も覚悟を決めなければならない。

 

人との関係なんていらないと思っていた。

でも先輩は優しく、でも時には強引に俺との関係を創りあげた。

 

言っても伝わらないかもしれない。言ったら壊れてしまうかもしれない。

 

それでも聞いて欲しい、と。

 

全部聞こう。全部受け止めよう。

言い訳や考え込むのは後でいくらでもできる。

 

 

俺は首を僅かに縦にふった。

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

 

「中学2年生頃かな、私初めて男の子に告白されたの。

告白されたのは初めてだったし、相手の男の子もかっこよかったし、何より私に告白してくれたのが凄く嬉しかった。

 

だから彼に聞いてみたの。

 

『私のどこが好きになったの?』ってね。

そしたらその男の子は『鹿波はみんなに優しいし、かわいいから、かな?』って言ったの。

 

なんだかそれを聞いた瞬間、嬉しかった気持ちが一気に冷めちゃった。

 

あぁ、この人は私じゃなくても優しくてかわいい子だったら誰でもいいんだなって。

私のことなんて見てないんだな、って思っちゃったの。

 

きっとこの人と付き合ってもこの人の事は好きになれないし、何かあってもこの人は私を守ってくれないなって。

 

そしたら、いつの間にか『男子に自分を可愛く見せる』っていう仮面を作り上げてた。

 

いつかこんな偽物で固めた仮面を顔に貼り付けた私の下にある、本当の私を見てくれる人が現れてくれないかな、って期待してね。

 

 

でもそんな人は現れなかった。

 

やっぱりそんな人なんて居ないんだ。もう諦めようかな。って思った時だったの。

 

 

たまたまその日は宿題をやってこなくて、居残りさせられて、終わった宿題を職員室に提出しに行ったの。

 

 

 

そこで比企谷君の話を聞いたんだ。

 

なんでも入学式の朝に車に轢かれそうになった犬を助けて逆に轢かれた人がいるって。

 

なんか運の無さに哀れみを通り越して感動しちゃったよ。

 

でもね、この人なんじゃないかな、とも思った。

 

 

 

それで比企谷君を探してたんだけど全然見つからなくてさ、大変だったんだよ?

だって、一年生に聞いてもみんな知らないっていうんだもん。

 

 

いろんな場所を探して、いろんな人に聞いて、それでようやくここで君を見つけたの」

 

 

 

そう言うと先輩は、キュッと繋いでいた手を握って、視線を俺へと向けた。

 

 

「初めて会った時さ、比企谷君すっごい嫌そうな顔をして私のこと見てたよね。

 

なんだかもうそれだけでわかっちゃったの。

 

あぁ、この人は私の上っ面なんか関係ないんだなって。

 

なんだか私それだけで舞い上がっちゃってさ。

自分から男の子とメアドなんて交換したことないのに交換しちゃったりして。

 

しかもその日にデートにまで誘ったりして。

 

 

そして君と話すたびに君のことが好きになっちゃった。

 

私ね、比企谷君と初めてデートした日、君に告白しようと思ったの。

 

そしたら言う前に遮られちゃった。

 

 

 

 

その時初めて気がついたの。私自惚れてたんだって。

ほんとバカだって。

 

相手の事を知った気になって、上辺だけを見て、自分の中で作り上げた相手が好きになってた。

 

そんなもの私が1番嫌いだったはずなのに。

 

 

家で思いっきり泣いちゃったの。

今までで1番自分のことを嫌いになった。

もう比企谷君に会えないとすら思ってた。

 

 

でもそうしたら君の方から会いに来てくれた。

君が私に『よかったらまたあそこに来てください』って言ってくれたの覚えてる?

 

それからかな、私から君のことをもっと知ろうって思ったのは。

 

いつも誰かに本当の自分を見つけて欲しいって願ってた。

でも今度は私から誰かのことを知りたくなった。

そして、比企谷君の新しい一面を知るたびに比企谷君のことを好きになっていったの。

 

 

わんにゃんショーや花火に行ってる時は幸せで胸がいっぱいだったんだよ?

 

 

 

でもね、本当はここで君と2人でたわいもない話をしながらご飯を食べてるのが1番幸せだったの」

 

 

 

いつしか辺りは暗くなり始め、冬の寒さが一層際立ってくる。

吐く息も白く、寒いはずなのだが、少しもそうは感じていない。

 

 

 

「比企谷君、私はね、比企谷君と一緒にいたいとか、話していたいとか、手を繋いでいたいとか、比企谷君としたい事やして欲しい事、してあげたい事は山のようにあるよ。

 

でもね、私が本当に欲しいのはそんなものじゃないの。

 

きっともっと不確かな何かなんだと思う。

 

 

 

誰かと一緒にいる時間かもしれない。

その時の空間かもしれない。

誰かとの関係性かもしれないし、その相手そのものなのかもしれない。

 

 

私が欲しがってるそんな不確かな何かを比企谷君ならなんて呼ぶ?

 

 

私はね、そんな不確かな何かの先にいる相手が比企谷君だったらいいなって思ってる。

 

 

 

 

私はやっと気付いたの。

 

 

 

理解されたいんじゃない。

相手の事を理解したいんだって。

 

比企谷君の事を知っていたい。もっと知りたい。わかっていたいの。

 

 

醜い願望だってことはわかってる。

 

でも、でもね……もし、比企谷君もそう思ってくれるなら。

 

お互いにそう思えるのなら、私は……わたしは………」

 

 

そう言いながらとめどなく流れる涙を必死に拭う彼女が、俺には何故か遠い存在に見えた。

 

 

言っている事は支離滅裂で、ただの感情論なのかもしれない。

それでも先輩の言ったことは、彼女自身の心の叫びなのだ。

何日も考え、苦しみ、自問自答を繰り返して辿り着いた答えなのだ。

 

 

それならば俺も応えなければならない。

 

 

 

彼女の告白に……

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

 

先輩と別れて、誰もいない冷たい廊下を1人で歩く。

足音がこだましてやけにうるさく感じる。

 

先程までとは違い、室内にもかかわらず、やけに寒く感じる。

 

 

 

誰にも会わないまま下駄箱に着くが、やはり下駄箱にも誰もおらず、ひっそりとした空気が流れていた。

 

 

 

今日はもう帰って寝よう。

 

ガラス扉から僅かに見える外の景色を見ながら、靴を取り出そうとした時だった。

 

コツン、と指先に何かが当たった。

見れば、小さな包みが俺の靴の上に鎮座していた。

 

 

 

「……は?」

 

 

 

思わず出た声が誰もいない校舎に微かに響く。

 

そっと包みを持ち上げると、几帳面に折りたたまれたルーズリーフの切れ端が出てきた。

 

包みを小脇に抱え、恐る恐るその簡易的な手紙を俺は開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チョコレート、よかったら貰ってください。

 

別に比企谷君に直接渡すのが恥ずかしかったから下駄箱に入れたわけじゃないです。

 

勘違いしないように。

 

三神美香

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ウブかっっ!」

 

 

 

校舎に俺の声が響き渡った。




いかがだったでしょうか?

ちまちまと書いてはいたのですが書きかた忘れてますね……

相も変わらず下手くそですみません(>_<)
精進します(。-_-。)

投稿が遅れた理由としては新生活が以外と大変でして、また、一応美大生なので、課題等が大変でした(。-_-。)
だいぶ落ち着いてきましたので、週一ペースくらいで更新を再開できたらな、と思っています

また、投稿していない間にも、感想や応援等くださった方々ありがとうございました(。-_-。)
感想など頂くたびに頑張らなきゃと奮起することができました!感謝しています!

残すところあと5話も無さそうです
そう思うと少し寂しいです笑

しっかり丁寧に書き上げたいと思っています
読んでくだされば幸いです

次回は三神先輩回です!たぶん!
頑張りますよ!!!笑

感想や評価等お待ちしております
久しぶりの投稿にもかかわらず読んで頂きありがとうございました(。-_-。)

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