2ヶ月も更新せず、読んでくださっている方々申し訳ありません(>_<)
明日は国公立大学の試験ですね
受験生の方、共に頑張りましょう!
飛行機の中で仕上げた35話ですどうぞ!
キッチンに充満した甘い香りが鼻腔を擽る。
先程までカシャカシャと音を立てながら混ぜていたボウルの中身を、スプーンにひと匙すくって口に運ぶ。
口に含んだ瞬間に口いっぱいにひろなる甘味、そしてその後にひろがる程よい苦味が絶妙にマッチしていて思わずはぁ、とため息が出た。
甘味がくどくなく、それでいてしっかりとした存在感を放つトロリとしたソレはいくらでも食べられそうである。むしろ私が今ここで全部食べてしまうまである。
「なに人が作ったものを勝手に食べてるんですかね、お嬢さん?」
「いーじゃん味見くらい!このけちんぼ!」
「……いや、あんた『はぁ』とか、『ふぅ』とか言いながらぱくぱく食べてたよね?」
そう言って美香は私の手からスプーンをパシッと取り上げると、先程私が味見してあげていた(普通に食べていた)ボウルから味見をするためにチョコレートをすくい口に入れる。
実家の神社で神主をしている美香の父親はなにやら頭の固い人らしく、また家業のことも相まって、ハロウィンやクリスマスなどの行事を家ですることが無い。
小学校の頃から美香は、毎年ハロウィンやクリスマスの時期になると口にこそ出さなかったが、浮れるクラスメイトを見て、羨望の眼差しを送っていた。
だから毎年親が帰ってくるのが遅い私の家に呼んで2人で楽しんでいたのも今となっては良い思い出だ。
そんな美香が今、私の家で何をしているのかというともちろんアレしかない。
そう、何を隠そうバレンタインの為のチョコレート作りである。
美香はお菓子作りがとても上手い。
と言うか料理全般得意なのだがお菓子作りはずば抜けて上手い。
なんでも実家が神社の為、菓子折りやらなんやらで家にあるお菓子が全部和菓子らしい。
小学生の頃に家に遊びに来た時に、おやつとして出してあげたドーナツを美味しそうに頬張る美香の笑顔は今でも覚えている。
そのせいなのか、それともただの美香の食欲のなせる技なのかは分からないが、メキメキと美香の作る洋菓子の味があがっていった。
今では買ってきたケーキを食べていて『これなら美香の作ったやつの方が美味しいかも』なんて思ってしまうくらいに腕が上がってしまった。
もっとも家では作れないで毎回私の家に来て作るのだが。
美香はお菓子が作れて私は味見ができる、まさにwin-winな関係である。
しかし今日はそんな事で私の家に来てもらったのではない。
私はスプーンを咥えたままうーん、と首を捻っている美香に向き直るとガバッと頭を下げた。
「美香、いや、師匠!どうか私にお菓子作りの真髄を!」
「誰が師匠だよ」
事の発端は数日前に遡る。
× × ×
「ぐぬぬぬぬ……」
頭を抱えながらうめき声を上げる私に、向かい側の席に座っていた美香がペンを走らせていたノートから顔を上げた。
「どれ、どこが分かんないの?」
「違うの、勉強じゃなくて……」
私の呻き声の原因が今やっている問題集かと思ったのか、美香は自分の勉強を一時中断してわたしに教えようとしてくれる。
「じゃあどうしたのさ?」
美香は机を爪でトントンとしながら少し眉をひそめる。
いや、そのー、と言葉を濁す私にイライラしたのか、眉間のシワが深くなると同時に、だんだんとトントンという机を叩く間隔が狭くなっていく。
「いやー、その、なんていうか、チョコレートどうしようかなー、なんて……」
あぁ、なるほど、と美香は言うとニヤリと少しわたしを馬鹿にしたかのような顔をしながらピッと人差し指をわたしに向けた。
「比企谷君に作ってあげればいいじゃん。愛情がたっぷり入った『ふ・つ・う』のチョコレートをさ」
「普通ってところを強調しないでくれるかな?」
これだから美香が嫌いなのだ。
ここぞとばかりに嫌なところを攻めてくる。しかも私にだけ。
「ていうか美香は作らないの?毎年大量に作ってサンタの如く女子にばら撒いてるけど」
「今年は作らないかなー……てかばら撒いてないからね?」
自宅のキッチンで洋菓子が作れない美香は毎年私の家に来てチョコレートを作る。
しかもそのチョコレートがこれまたヤバいのだ。
どれくらいヤバいかというと、裏で美香特製のチョコレートをもらった女子ともらってない女子の間で高値で取引されているという噂が、友達のいない私の耳に入ってくるくらいにはヤバい。
なんなら本人も知ってるんじゃないの?って位には情報が飛び交っている。
そのくせ、彼氏欲しいとか2日に1回は言ってるのに、男にはチョコレートを渡さないのがイマイチ私には理解ができないんだけどね。
しかしまぁ人格はともかく、お菓子作りにかけては天才的な美香にバレンタインのチョコレート作りを指導してもらえば、認めたくはないが私が作る普通のチョコレートよりは幾らかは美味しく出来上がるのではないだろうか。
比企谷君なら美味しいと言いながら食べてくれそうではあるが、初めてできた好きな人に少しでも美味しいものを食べてもらいたい、そんな気持ちが私の美香に教わりたくないというほんの少しの意地を瞬く間に消し飛ばした。
「そのー、ね?私の作った料理って普通の味になるからさ、美香につくりかた教えてほしいなー、なんて思ったんだけど……」
私がそう言うと美香は一瞬目を見開いたが、瞬く間に口の片端を上げ、ニヤリと笑う。
「そうだなー、君知ってるかい?親しき中にも礼儀ありと言ってだね、やはり私としては頼みごとをする際はしっかりと頼まなければならんと思うのだよ。そうだろう?ん?」
テレビドラマにでも出てきそうな嫌味な社長の様な喋り方で聞いてくる美香に対してうーん、と頭を抱えながら 30秒程悩んだ末、私は机に手をついて頭を下げた。
「くっ……ご教授の程よろしくお願いします三神様」
「私に教えられるのそんなに嫌なの?」
美香の悲痛な声が頭上から降り注いだ。
× × ×
全ての作業を終え、後はオーブンの中で焼いている焼き菓子が焼き終わるのを待つのみとなった私達はコーヒーを淹れ、リビングで失敗作をポリポリと処理していた。
机に肘をつきながら失敗作をパクパク食べていた美香が不意に私の方も見ずに尋ねてきた。
「香奈ってやっぱりバレンタインで告白するの?」
何気なく聞かれたこの一言で私の心がぐらりと揺れた。
そうなのだ。私達は後1ヶ月もせずに卒業する。
別に会えなくなるわけではないが彼と会える機会は極端に減る。
彼に言えば避けられそうで、でも伝えたいこの気持ちは今もなおどんどん膨らんでいる。
そろそろ伝えなければならないのかもしれない。
私が言えずに逃げてきたこの気持ちを。
机の下でキュっと手を握ると、私はオーブンの方を見ながら頬杖をつき、自分で余った材料で作り上げたクッキーをポリポリ食べている美香の方に向き直る。
「うん、伝えるよ。今思ってること全てを」
「ふふっ、そっか」
私の方をチラリと見て、優しげな笑みを浮かべた美香はよしっ!、と言って立ち上がるとキッチンへと向かう。
それと同時に焼きあがったことを知らせる機械音が鳴る。
私も椅子から立ち上がると味見をするべくパタパタとキッチンへと向かった。
× × ×
師匠にギリギリ及第点を貰った私は、焼きあがった焼き菓子を綺麗にラッピングし終える。
横で鼻歌を歌いながら自身の作ったチョコレートをラッピングしている美香に、ふと私は疑問に思ったことを尋ねる。
「なんで美香まで作ったの?私に教えてくれるだけでよかったのに」
美香は頬をポリポリかきながらえーと、と言葉を濁す。
因みに美香が作ったチョコレートは先程まで我が家の冷蔵庫のど真ん中を占領していた。
美香はコーヒーを一口飲むと、言いづらそうにぼそぼそと呟いた。
「えーと、チョコあげようかなー、なんて……」
「ほぇー、誰に誰に?もしかして男子?」
思わず身を乗り出して詰め寄る私から顔を背けると、美香はボソッとある男の子の名前を口にした。
「……ひ、ひきぎゃや君です」
キッカリ3秒後、私の絶叫が家中に響き渡った。
いかがだったでしょうか?
更新していない間にもお気に入りや感想、評価などしてくださった方がいて心苦しかったのですが取りあえず書き上げることができました(。-_-。)
ありがとうございます!
久しぶりに書いたので感想等いただけると幸いです(。-_-。)
完結までもう少しです
嬉しい様な寂しい様な……
最後まで彼と彼女の物語にお付き合いください!
読んで頂きありがとうございました(*^^*)