立花響ちゃんがシンフォギアを発現して一か月。この一か月間俺は、
「ども、今日も歌いに来たぜ!」
「あら、いつも悪いわね。奏ちゃん、今日もバサラ君歌いに来たわよ。」
天羽奏さんの入院している特異災害対策機動部二課御用達の病院に毎日歌いに来ている。
「う、ん。・・・き、今日も来た、んだね。」
「おう!俺の歌を聴けぇってやつだ。まぁ、病院内だからいつもと同じバラード中心の楽曲になっちまうけどな。」
「い、いよ。君の、歌を、き、聴くと、この体に力が戻って、く、くるような・・・感覚な、なんだ。」
「それは良かった。じゃ、今日もおっぱじめるぜ!!ファ「院内では分かっていますよね?」いやぁぁ...ハハハ、何をおっしゃる看護師さん。無論他の人に迷惑がかからないよう細心の注意を払って歌いますですハイ。」
こうして看護師さんに釘を打たれる事も慣れ
「奏さんの負担になる様な事があれば、即刻叩き出します。分かっていますね。バサラ君?」
「サ、サーイエッサー!!」
てませんね。毎回毎回怒られてます。
「偶には熱狂系が歌いたいけど...まっ、それはもっと良くなってからの楽しみってことで。『SUBMARINE STREET』」
一か月前、響ちゃんと翼さんが対峙してから二人の溝はそのまま。翼さんには響ちゃんが、奏さんを憤死の重症に追い込んで、さらにガングニールを奪ったようにしか見えないからな...こればっかりは本人同士で解決してもらわないとどうにもなりませんわ。まぁ、俺の歌で少しは緩和出来るだろうけど、そんな横槍はダメだな。
「奏ちゃんは、重病人だから激しい運動を促す歌はあまり看護師的には許可出来ないのよね~。」
彼、バサラ君の歌を聴いている奏ちゃんは気持ちよさそうに笑って聞いてた。彼女がここに入院してから、あまり笑わなくなってしまっていたけど彼のお陰ね。歌による心の癒し...かは分からないけど、最近体調も良くなってるし。このまま行けば、普通の生活に戻るのに2年と掛からないかもね。・・・
響ちゃんと翼さんの仲はぎくしゃくしているのが現状である。けれど、俺と響ちゃん、俺と翼さんの仲は悪くはない...と信じたい。
「じゃあ、今日はこれで帰ります。」
「う、ん。い、いつも、あ、ありがとう。」
「いえいえ。こんな俺の歌を聴いてくれて、有り難いとこっちは思っているんですよ。また明日も来ます。そろそろ、十八番の『突撃ラブハート』をアコギで披露しますよ。」
「うん。期待してるよ。」
さて、奏さんの病室を出たのはいいが、どの曲が一番効果的か未だ掴めていない状態だ。バラード系を一週間周期で聴いてもらい確かめているんだが、十八番の熱狂系を試せていないのはちょっといたい。でも、俺の歌治療で大分顔色がよくなってきた。それを、響ちゃんと翼さん両方...いや、この特異災害対策機動部二課全員が喜んでいる事だ。
「おや?赤城さん今日も奏に歌を?」
考え事をしていたら翼さんが前から歩いてきた。いつものお見舞いだな。
「はい。それに"さん"付けはいりませんよ。翼さんは俺の先輩にあたる人なんですから。」
「いや、済まない。年上だから自然と出てしまってな。」
「じゃあ、前言ったように『バサラ』って呼び捨てで呼んでくれたらいいですよ。そっちの方が呼びやすいでしょう?」
「まぁ、考えておく。それに、あか...バサラも敬語はやめてくれ。」
「了解ッス!!」
「「フフ、フフフフ。」」
「じゃ、俺は明日の収録の為に休むわ。」
「ああ。・・・明日も奏に歌を歌ってやってくれ。お前の歌を聴いた後は本当に調子が良いみたいだからな。」
「任せとけ!明日もご機嫌なサウンドを聴かせてやるぜ!!」
以前より翼さんが俺に接してくる回数が増した。まぁ、誰もが思いつくだろうが、奏さんに歌を歌っているときに病室に入ってきた事が切っ掛けだった。んで、その時から"翼さん"と呼ぶことを了承してもらい、気分転換と称して俺の歌を聴いてもらっていると説明をした。ぶっちゃけ、歌で治すなんて信じてもらえないだろうからそう云う事にしている。
「あ!?バサラさん!!」
今度は響ちゃんか。
「よう!元気か?」
「ええ!元気ですよ!!そう言えば、千葉さんが探していましたよ?何か新しい楽器が出来たって。」
「おお!!早速千葉さん作ってくれたか!!伝言ありがとう!じゃ行ってくるわ!!」
「はい!!」
俺はシンフォギアを扱えない。何度か試したが、一度も俺の歌ではシンフォギアが起動することは無かった。だが、俺にはそんなもの無くても"歌"がある。響ちゃんが言っていた千葉さんとは、特異災害対策機動部二課の研究員の一人だ。俺の"歌"に興味を持ち、独自の理論を完成させつつある人物だ。それと、俺の対ノイズ用の楽器を最初に造ってくれていた人で、俺の無理な要望を叶えてくれる唯一の人でもある。
バックパックに楽器をチューニングし、スピーカーを
ノイズと戦っていた二人とは別に
「私の不手際で、奪われた物を忘れるものか!何より、私の不手際で傷ついた者が居るのに、忘れてたまるか!!」
それは、鎧を纏っている彼女に言い放ったのか。それとも、その時何も守れなかった自分への言葉か本人しかしらない。そして、翼は覚悟を決め対峙した相手へ自身の武器の切っ先を向けた。
「やめてください翼さん!!相手は人です!!同じ人間です!!」
「「戦場で何をバカなことを!!」」
「「ッ!?」」
「寧ろ、貴女と気が合いそうね。」
「だったら、仲良くじゃれ合うかい!!」
謎の少女と翼の戦闘が拮抗していたのは最初だけ。驚いた事に、謎の棒状の物から少女は『ノイズ』を出現させ立花響を確保。謎の少女の目的は初めから響を確保する為だったのだ。その間にも翼は攻撃をし続けるが、ネフシュタンの鎧の武装である鞭でいなされ反撃も喰らっていた。
「・・・そうかい。脱がせるものなら、脱がして...何!?」
ボロボロの翼だが一瞬の隙を突き、影縫いを相手に仕掛けていた。
「防人の生きざま。覚悟を見せてあげる!!貴女の胸に焼き付けなさい!!」
■□■□■□■□
「翼ちゃん、歌うつもりなのね。」
「・・・」
櫻井博士と司令はネフシュタンの鎧を相手が持っていると知り、それを奪還するために車を翼達の所へ走らせている。
(間に合ってくれ。
そして、ソレとは別に戦場に向かうヘリが一機。
「ノイズの出現警報が鳴って、そこに向かっているけど...状況がさっぱり分からん。んで、緒川さんもう一回状況説明お願いします!!」
『じゃ、最初から。バサラ君は知らなかっただろうけど、二年前のあの日僕達はもう一つあったシンフォギアをあの騒動で取られてしまっていたんだ。』
「で?」
『そ、それが今翼さんと対峙している少女が纏っていて攻撃してきている。そして、何らかの方法でノイズを操り、立花さんが捉えられてしまった。』
「...俺達とは違う組織?何で対立する必要が?ノイズには皆困ってんだぞ!?あ゛ぁ゛ー!!もう分からん!!もういい!!全部まとめて俺の歌を聴かせてやる!!」
『ちょ、まっ!?』
ブチィと指令室の緒川と繋いでいたインカムを切り、バサラは楽器のチューニングに入ってしまった。
バサラ君!!)
■□■□■□■□
「______!!」
翼は歌った。絶歌を。今の状況をひっくり返すため。躊躇することなく。
「ぐ、あぁぁー!!」
ネフシュタンの鎧を纏った少女は数十メートル弾き飛ばされ、翼も
「ぐふ...」
口から血反吐を出し、倒れてしまった。そして、
『熱狂ライブの始まりだぁー!!俺の歌を聴けー!!』
彼の声がその戦場を激しく包んだ。
■□■□■□■□
畜生!!間に合わなかった!!俺の目の前では翼さんがあの"絶歌"を歌ってしまっている。奏さんのような事はもう見たくない!!今の俺は二年前とは違う!!そう、俺にはあの時とは比べ物にならないような声が、歌がある!!
「ちょっと遅刻気味だが、そんなの関係ぇねぇ!!この場にいる全員に俺の歌を聴かせてやるぜ!!『熱狂ライブの始まりだぁー!!俺の歌を聴けー!!』」
こいつは、まだ収録してないとっておきの一曲だ!!皆存分に楽しんでいってくれよ!!
「アァァァァァァァアァァァァァー!!」
『HOLY LONELY LIGHT!!』
バサラの歌が聞こえた途端、ノイズ達は次々と消滅していった。それも、逃げ惑うことなく歌っているバサラの方向を見上げながらという奇妙な行動を起こして。
「ぐ、うぐ...」
(クソッ、デカいの喰らっちまった。これじゃあ当分まともに動けねぇ・・・あ、あれ?痛みが少しずつ和らいで行く!?シンフォギアの壊れた装甲が修復されていくだと!?)
謎の少女は自身に何が起きたか分からず混乱し、
「こ、この歌は...」
(間違いない。バサラの歌だ。この、体の中から湧き上がってくる力は何だ!?私は満身創痍で絶唱を歌ったんだぞ!?力が抜ける事はあっても、力が湧いてくるなんて...)
翼は満身創痍だった自身の内から湧き上がる力に驚愕した。
「す、凄い...」
(バサラさん凄い!!この場を、戦場だったこの場を一気にコンサート会場に変えちゃいました!!)
そして、響はバサラの歌に唯々圧倒されていた。
「ちぃ」
(クソッ、援軍かよ!!もっと呼ばれる前に早くこの場から離れるか。)
少女はその場を去ろうと飛び立つが、
「おいテメェ!」
「あ゛?」
バサラに呼び止められた。
「俺の歌を最後まで聴いて行きやがれ!!」
「はっ、知るか!!じゃあな!!」
が、そんな事無視し飛び去って行った。
「あ、テメェ!俺の歌を聴きやがれー!!」
■□■□■□■□
「____!!」
バサラは歌い続ける。
「大丈夫ですか翼さん!!」
「あぁ、何とかな...」
傷ついた翼や響の為。
奏が言っていた事は本当だった。彼、バサラの歌に癒されたと。こいつの歌は何なんだ...
司令と櫻井博士や救護班が来るまで彼は歌い続けた。
や、やっと投稿できた...仕事が忙しすぎて倒れそう。次回はもう少し期間が空くかもしれません。