東方狐答録   作:佐藤秋

71 / 156

真「今回は、本編にうまく入れることができなかった話を台本形式でお送りする。短い話の三本立てだ、それではどうぞ」




第六十八話 閑話

 

 『霊夢の髪を拭く話』

 

霊夢「……ふー、さっぱりした。寒くなってきたから、お風呂はお湯に浸かるに限るわね。お風呂好きな真の気持ちが少し分かるわ。 ……萃香ー、お風呂あがったわよー」

 

萃香「……はーい、すぐ入るー」トテチテトテチテ

 

霊夢「…………ふー」ガラガラ

 

真「……お、霊夢あがったか。萃香には?」

 

霊夢「もう言ったわ」

 

真「そうか。 ……霊夢、ちょっと」チョイチョイ

 

霊夢「?」

 

 

 

 

真「~♪」ワシャワシャ

 

霊夢「……ねぇ」

 

真「ん?」

 

霊夢「なんで急に『髪拭かせて』なんて言ってきたの?」

 

真「この前、霊夢の髪拭きたいなーって思ったからだよ」

 

霊夢「……理由になってないんだけど」

 

真「まぁいいじゃないか、急にそう思ったんだ。 ……もしかして嫌だったか?」ガーン

 

霊夢「……別に、嫌じゃないけどさ」

 

真「そうか。ならよかった」ホッ

 

霊夢「…………」

 

真「~♪」ワシャワシャ

 

霊夢「……楽しいの?」

 

真「楽しいよ。霊夢の髪は黒くてキレイだなー」

 

霊夢「そ、そう…… その……真は黒い髪のほうが好みなの?」

 

真「……んー、まぁキレイって思うのは、黒くて長いサラサラした髪だな。ほら、輝夜いるだろ?」

 

霊夢「うん」

 

真「輝夜は昔、絶世の美女って言われてたことがあってだな…… やっぱり人間の間だったらああいうのがキレイだって思うんだろう」

 

霊夢「……確かに。輝夜の髪はキレイかも」

 

真「ま、そいつに合ってる髪型が一番だけどな。今さら魔理沙が黒髪にしたところで違和感しか無いだろ。もしかしたら似合うかもしれないけど、魔理沙と言えば金髪だ」

 

霊夢「……そうね。真だって黒が似合ってるわ。赤いときもいいけど」

 

真「俺も自分は黒髪のほうが自分って感じがする。この状態でいるのが長いからな」

 

霊夢「…………真が尻尾と耳出してるの最近見てないわね」

 

真「……まぁ出す機会無いからな。別にわざわざ見たいってもんでもないだろ」

 

霊夢「(……見たい。そして触りたい)」

 

真「……っと、大体拭き終わっちゃったな髪」

 

霊夢「そう?」

 

真「……そうだ、ついでに耳掃除してやろうか」

 

霊夢「……え」

 

真「丁度風呂あがりだしな。今なら耳垢が柔らかくなってて取りやすいだろ」

 

霊夢「……じゃ、じゃあお願いしようかしら?」

 

真「ん。 ……じゃあ頭ここに乗せて」ポンポン

 

霊夢「…………」コテン

 

真「じゃ、ピンセットで取るぞ。出来るだけ耳の内壁を傷つけないようにしないとな」

 

霊夢「はーい」

 

真「…………」ゴソゴソ

 

霊夢「……(気持ちいい……)」

 

真「……くすぐったくないか?」

 

霊夢「全然。どうかした?」

 

真「この前文に耳を触られたとき、ものすごくくすぐったくってな。霊夢はそういうの大丈夫なんだな」

 

霊夢「……文のヤツ何してんのよ……」

 

真「ほんとにな」

 

霊夢「……私も気を付けましょ」

 

真「……よし、反対の耳だ」

 

霊夢「もう?」

 

真「取りにくそうなところにあるのはまた今度な」

 

霊夢「……そう」ゴロン

 

真「さて……」スッ

 

霊夢「……」

 

真「……」ゴソゴソ

 

霊夢「(……終わっちゃう……)」

 

真「…………」ゴソゴソ

 

霊夢「んー……」

 

真「ん、どうした?」

 

霊夢「いや、なんでも……」

 

真「もう少しだから動くなよ……」ゴソゴソ

 

霊夢「……」

 

真「……よし、終わり。お疲れ」

 

霊夢「……ありがと」

 

真「もう少しこのままでもいいんだぞ?」

 

霊夢「! じゃ、じゃあ……そうする……」

 

真「ん」

 

霊夢「……」

 

真「……」ナデナデ

 

霊夢「(……しあわせ……)」スリスリ

 

真「(猫みてぇ。かわいい)」ナデナデ

 

霊夢「(あぁ……このまま眠っちゃいそう……)」

 

萃香「あがったよーっと」ガラガラ

 

霊夢「!」バッ

 

萃香「およ? どうかした?」

 

霊夢「べ、別に…… っていうか、萃香もっとゆっくりお風呂に入りなさいよ! 早すぎ!」

 

萃香「えー? 霊夢の髪が乾くくらいの時間は入ってたっぽいけどなー」

 

霊夢「まだ入っててよかったの!」

 

真「(……萃香って髪を拭くときとか、角が邪魔そうだよなー)」

 

萃香「真、なんで霊夢怒ってんの?」

 

真「さぁ」

 

霊夢「ふん!」

 

  ~終~

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

『秋姉妹と秋について話す話』

 

静葉「貴方がどれくらい秋が好きかチェックしてあげるわ!」

 

真「……なんだいきなり」

 

穣子「まぁまぁ、いいじゃない」

 

真「いいけど……なんで俺が秋好きなの前提? いや嫌いじゃないけど」

 

静葉「ならいいじゃない。四季の中で一番好きなのって秋でしょ?」

 

真「いや冬だけど……」

 

静葉・穣子「!」ガーン

 

静葉「そんな……」

 

穣子「よりにもよって冬に負けるなんて」

 

静葉・穣子「……」ズーン

 

真「あ、いや……うん、秋もかなり魅力的な季節だよな! 食べ物は美味しいし紅葉はキレイだし!」

 

静葉・穣子「……」ピクッ

 

真「なんかもう『秋』って響きも素敵だよな! 『秋』って感じがするし!」

 

静葉「そ、そう?」

 

真「そうそう! それに俺って誕生日は秋なんだよ! いやー、やっぱり秋っていいよなー!」

 

穣子「……妖怪に誕生日とかあるの?」

 

真「無いよ。でもあったらいいなーと思って自分で決めた」

 

穣子「自分で!?」

 

静葉「それで……いつが誕生日なの?」

 

真「神無月の二十八日」

 

静葉「……なんでその日を誕生日にしたの? 何か特別なことがあったとか……」

 

真「いや、『真』っていう字って……『十月二八』って縦に書いてるように見えないか?」

 

穣子「結構適当な理由だった!」

 

静葉「しかも神無月の二十八日って、秋かどうか微妙なラインじゃない!」

 

真「俺の中では秋なんだよ! いいじゃないか水無月から師走まで全部秋で!」

 

静葉「……いいわね、それ」

 

真「(いいんだ)」

 

穣子「それで……他に秋のいいところは?」

 

真「え? えーと……そう! 秋は春夏秋冬の中で、あいうえお順に並べたら一番だ!」

 

穣子「おー!」

 

静葉「その発想は無かったわ!」

 

真「……まぁいろは順に並べたら最後なんだけど」

 

静葉「いいのよそれは言わなくて!」

 

穣子「……でも、貴方が秋を好きな気持ちは十分に伝わったわ」

 

真「(伝わったのか)」

 

静葉「じゃあ改めて……貴方がどのくらい秋が好きかのチェックをするわ! 準備はいい!?」

 

真「……チェックって何すんの?」

 

静葉「何問か問題を出すから、全部答えきれたら合格よ」

 

真「ほー。合格できたら何か貰えるのか?」

 

静葉「"秋マスター"の称号を授けましょう」

 

真「(いらねぇ)」

 

 

 

 

静葉「それではさっそくいくわよ。第一問!」

 

穣子「ジャジャン!」

 

真「まさかの効果音がセルフだと!?」

 

静葉「『秋の七草を全部答えなさい』」

 

真「七草? えーと…… セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ、これぞ七草」

 

穣子「わーすごい……ってそれは春の七草じゃない!」

 

真「冗談だ」

 

静葉「春の七草は食べられるから覚えてる人は多いけど、秋の七草は言えるのかしら?」

 

真「ハギ、ススキ、キキョウ、ナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、クズ、だろ」

 

穣子「おー正解、やるわね」

 

真「それほどでも」

 

静葉「でもなんでその順番? 覚え方通りだったら……」

 

真「『ハスキーなおふくろ』だろ?」

 

静葉「なにそれ? 『お好きな服は』でしょ?」

 

穣子「姉さん、どっちも同じよ」

 

 

 

 

静葉「第二問、『なんて読むか答えなさい』」

 

真「どこからフリップボードを……」

 

静葉『山茶花』

 

真「さざんか」

 

穣子『石榴』

 

真「ざくろ」

 

静葉『百日紅』

 

真「さるすべり」

 

穣子『木耳』

 

真「きくらげ」

 

穣子「わーすごーい」

 

静葉「……なんで読めるのよ」

 

真「いいじゃないか。得意なんだよ」

 

静葉「じゃあこれは? 木へんに秋」つ『楸』

 

真「ひさぎ」

 

穣子「こっちは? 魚へんに秋」つ『鰍』

 

真「かじか」

 

穣子「おーすごーい」

 

真「ちなみにお前ら、これは読めるか?」つ『柊』『鮗』

 

静葉・穣子「?」

 

真「秋以外には興味無しか」

 

※答え『ひいらぎ』『このしろ』

 

 

 

 

静葉「『帽子を被っている木の横に火があります。何の季節でしょう』」

 

真「秋」

 

穣子「漢字を見たら分かるわね」

 

 

静葉「『商人には存在しない季節があります。なんでしょう』」

 

真「秋」

 

穣子「商い(秋無い)だからね」

 

 

静葉「『網を逆さまにしたら居間になります。ではイカを逆さまにしたら何になるでしょう』」

 

真「……秋」

 

穣子「IKAを逆さまにしたらAKI、ね 」

 

 

真「なんだこれ」

 

 

 

 

静葉「……まさか全問正解するとは思わなかったわ」

 

穣子「本当に」

 

真「(俺も。さっさと間違えればすぐ終わったんだろうけど、勝負である以上わざと負けたくない)」

 

静葉「それじゃあ約束通り"秋マスター"の称号と……」

 

真「そうだった」

 

静葉「参加賞である秋の新茶を進呈するわ」

 

穣子「はい、どうぞ」

 

真「おお、こっちのほうが嬉しいぞ。お茶なら霊夢も喜ぶし……」

 

静葉「……霊夢に、分社を建ててくれたお礼って言って渡してくれていいわよ」

 

真「ああ、そうする」

 

穣子「良かったね姉さん、予定通り」

 

真「? 予定って?」

 

静葉「な、なんでもない!(穣子、シーッ)」

 

穣子「(ごめんなさい)」テヘッ

 

静葉「じゃ、じゃあ私たちはこれで! 今度は神社まで、余ってる秋の味覚を持っていってあげるわ! 頑張って処分することね!」

 

真「本当か? いやー、助かる。食べ物はいくらあっても困らないからな、変化の術があるから腐ったりする心配も無いし」

 

穣子「便利ねー」

 

静葉「言っておくけど、ものによっては少し置いたほうが美味しくなることもあるんだからね! 次に機会に教えてあげるわ、穣子が」

 

真「ああ、頼むよ」

 

穣子「私なんだ」

 

静葉「帰るわよ穣子」

 

穣子「うん。またね、真」

 

真「またな、二人とも」

 

真「…………」

 

真「あいつら、問題を出すためだけに来たのかな」

 

  ~終~

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

『冬の話』

 

真「おい霊夢! 魔理沙! 雪積もってるぞ雪!」

 

霊夢「あー、そーね。うー寒い寒い……」

 

魔理沙「こんな寒い日はこたつでゆっくりするに限るぜ」

 

真「いや、こんなに積もってるなんて珍しいぞ! かまくら作ろうぜかまくら!」

 

魔理沙「じゃあ完成したら見せてくれ。私はここで待ってるから」 

 

霊夢「行ってらっしゃい。あ、外に出るならついでに賽銭箱までの道の雪かきよろしく」

 

真「……しゃあない、一人で行ってくるか」

 

魔理沙「萃香は?」

 

霊夢「紅魔館に行ってる」

 

 

 

 

真「よっしゃあ作るぞ! まずはスコップを用意して……」ボンッ

 

真「まずは雪かきがてら一ヶ所に雪を集めよう」ザッザッ

 

真「作ろうと思えば変化でかまくらくらい作れるけど……今回は自力で作るんだ」

 

真「妖力にもなるべく頼らないようにするぞ」セッセッ

 

真「……」モクモク

 

真「ゆーきやこんこん、きつねもこんこん♪ 参拝客は今日も来ん来んーっと」

 

真「よしっ! こんなもんでいいかな」フー

 

真「次は固めながら形を整えて中をくりぬいていくんだ」

 

真「……ここからはスコップじゃなくて手でやるか」

 

真「うー、手袋越しでも冷たいぜ」

 

真「っていうかかまくらってこの作り方が一般的なのかなー、俺は昔からこの作り方だけど」

 

真「幻想郷には塩が無いからなー、完全に固めるには数日置かないといけない」

 

真「結構重労働だな、これ。霊夢たちと入れるように少し大きめに作ったせいか」

 

真「トレーニングに丁度いいな」

 

真「……」

 

真「完成! 後は固まるまで放置するだけだ!」

 

 ヒュ~

 

真「おぉ寒っ! 戻ってこたつで暖まろう……」

 

 

 

 

真「ただいまー……ってあれ? 霊夢も魔理沙もいねぇ」

 

真「お茶の湯気が立ってるからさっきまではいたみたいだし……今だけちょっと外してるのかな?」

 

真「まぁいいか、こたつは暖かいままみたいだし…… ん? 足に何か……」

 

魔理沙「ばぁっ!」バッ

 

真「うわっ!」ドサッ

 

霊夢「ぷはぁっ」

 

魔理沙「あはははは! 驚いたな真!」ギュー

 

霊夢「……」ギュー

 

真「お前ら!? こたつの中に隠れてたのか!」

 

魔理沙「そうだ!」

 

霊夢「わ、私は魔理沙に言われて……」

 

真「うお狭い! こたつで一箇所に三人も集まると狭いだろこれ!」

 

魔理沙「まぁまぁ。 ……おー真の顔冷たいぜ」スッ

 

真「……おー、魔理沙の手あったけー」

 

霊夢「む…… 真、両手も冷えてるでしょ。私があっためてあげる」スッ

 

真「あ、ああ。霊夢の手もあったかい」

 

霊夢「……真の手、大きい……」ギュッ

 

真「(……まいったな、両手を取られたら狭くて身動きが取りにくい)」

 

魔理沙「なー。今日の夕飯は何だ?」

 

真「もう夕飯の話か? そうだなー、冷えるから鍋にでもしようか」

 

霊夢「魔理沙今日も泊まるの?」

 

魔理沙「ああ。雪が止んだら帰るぜ。そうか鍋かー、楽しみだ」

 

真「鍋は作るのが楽だからな。それにうまいし」

 

魔理沙「鍋の具と言ったらやっぱり……」

 

霊夢「お肉よね」

 

魔理沙「キノコだな」

 

真「油揚げだろ」

 

霊夢「相変わらず魔理沙はキノコが好きねぇ」

 

魔理沙「……肉は分かるけど、油揚げは無いだろ」

 

真「油揚げと肉はほぼ同じだろ」

 

魔理沙「どこがだ!」

 

真「肉はたんぱく質と脂質だろ。んで油揚げは豆腐を揚げたもの。豆腐はたんぱく質だから、油揚げは肉と言っても過言じゃない」

 

魔理沙「過言すぎる!」

 

真「いいじゃん、うまいだろ油揚げ。鍋の味が染みてさ」

 

霊夢「お腹空いてきた……」グゥ

 

魔理沙「昼飯ミカンだったからな」グゥ

 

真「……もう少ししたら作り始めるか」

 

霊夢「……そうね」ギュー

 

  ~終~

  

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。