東方狐答録   作:佐藤秋

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第五十四話 永夜異変①

 

 夜の八時以降に物を食べたら太りやすい……ということを気にしているわけではないが、基本的に夕食後には何も食べないようにしている。しかしそれは絶対ではなく時には守れないこともあるだろう。いま俺は無性にラーメンが食べたい。

 時刻は深夜、もうすぐ日付が変わるであろう時間である。恐らく霊夢も萃香ももう眠っている、俺だっていつもなら寝ている時間だ。

 

 実は妖怪である俺には睡眠とは必ず必要なものではない。『答えを出す程度の能力』を多用したときには体力の回復に努めるために睡眠をとるが、それ以外では別に一晩中起きていることも可能である。

 にも関わらず俺が毎晩寝ているのは、純粋に寝ることが好きだからだ。寝ることが好き、というのには語弊があるな。実際には寝る前の明かりを消して、横になって、目を閉じて、考え事をする時間が好きなのだ。考え事の内容は様々で、一日どうだったか思い返してみたり、昔のことを思い出してみたり、下らない妄想をしてみたり。風呂が好きなのも同じ理由で、あのリラックスした状態で考え事に耽るのが楽しいのである。

 

 ただ、今の俺は眠ることよりもラーメンを食べることのほうが欲求が強い。どうして真夜中にそんな物を食べたくなるのかは分からないが、食べたいんだから仕方がない。不健康だという自覚はあるが、たまにはそういう日があってもいいと思う。人里では深夜に店をやっているところがあるのだろうか。あるかもしれないし無いかもしれない、それは行かないと分からない。

 別に無いなら無いで、木の葉に変えてストックしてある食料にラーメンもあったはずだからそれを食べればいい。しかし今は、深夜の人里に繰り出してみたい気持ちもある。

 ともかく俺は今から神社を抜け出して、人里まで行くことにした。

 

 

 

 

「……起きなさい霊夢。異変よ」

「……ん~、なによ紫…… まだ夜中じゃない……」

「……幻想郷の月がおかしいの、早いところ元に戻しましょう」

「……月?」

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

 人里までの道を歩いていく。暗い夜道を一人で行くのは少し怖いが、これはこれで味がある。

 もうすぐ人里に到着する、俺の聖地(ホーリーランド)はすぐそこだ。そういやあの漫画にも、シンって呼ばれてるキャラがいたな。あのシンは戦闘能力はからっきしだったけど、俺は少しは腕が立つはず。夜は妖怪が活発になるようだが、もし妖怪に襲われても俺なら無傷で突破できる自信がある。さぁどっからでもかかってきやがれ。

 

「ってあれ!? 人里が無え!」

「! 誰だ!」

 

 人里に着いたはずだが、人里があるべき場所には何も無い。思わずオーバーなリアクションを取ってしまうと、近くにいる何者かが反応した。

 

「うわっと、えーと別に怪しい者じゃないんだけど……」

「ん、その声……真か?」

 

 何者かが手に持った明かりを上に掲げる。薄暗い闇の中から、声の主の顔が浮かび上がった。

 

「……慧音?」

「ああ。こんな時間に一体どうした? まさか……」

「慧音! なんか人里消えてんだけど! 異変だ異変!」

「……まぁ真なわけ無いか。人里を消したのは私の仕業だ」

「なんだって?」

 

 あっけらかんと慧音が言い放つ。慧音が人里を消した? 一体どうやって……そもそも何の目的があって? 慧音が人間に危害を与えるとは思わないが、理由を聞かずにはいられない。

 

「そんな……一体何のためにそんなことを……」

「勿論人間たちを守るためだ。 ……真はいま幻想郷に起きている異変に気付いてないのか?」

「異変?」

 

 予想してなかった言葉に首をかしげる。異変と言われても、特に目に見える不自然なものは見つからない。紅い霧も発生してないし、雪が降っているわけでも無い。もしかして萃香がやったように、無意識に行動させられていることがあるのだろうか。

 

「……そういえば、いきなりラーメンが食べたくなった気がする。まさかこれが何者かによる潜在意識の操作……」

「何の話だ。上を見ろ上を」

「上?」

 

 慧音に言われて上を見る。いたって普通の綺麗な星空だ、真ん丸の月が一つぽつんと浮いている。

 

「……えーと、月が綺麗ですね? ごめん私まだ死にたくないよ?」

「……真は本当に妖怪か? 半妖である私でも気付くというのに」

「……そのはずだけど、なんだか自信なくなってきた」

 

 別に俺は人間だろうと妖怪だろうと、差別するつもりは無い。というか意思疎通ができるものは全部人間にカテゴライズしていいと思う。つまり俺もある意味人間であるといってもいい。

 

「ほら、月をよく見てみろ。今日は満月のはずなのに、端っこが少し欠けてるだろう」

「言われてみれば…… え、これが慧音の言ってる異変なのか? 別に少し欠けるくらいいいじゃないか、月だってそんな気分になることもあるさ」

「ち・が・う! あの月は偽物なんだよ! 妖怪にとって月の光は重要なんだ、なのに何者かによってその月がすりかえられている。本当は今日私もハクタクの姿に戻るはずなのにこの通りだ。何が目的で本当の月を隠したのかは知らないが、万が一のために私が能力で人里を隠したというわけだ」

「ああ、そういえばあったなそんな設定」

「設定言うな!」

 

 慧音は人間と妖怪のハーフであり、満月の夜には妖怪の姿に戻ってしまう。またその妖怪の歴史を操作する能力で、物事を隠すことができるのだ。となると今ここに見えない人里は、隠れているだけで実際はそこにあるということだろうか。

 ただの平地にしか見えない元人里のあった土地を見てみると、上空に誰かが飛んでいるのを発見した。

 

「……おーい慧音、バッチリだ。人里はうまいこと全部隠せてる」

「ああ妹紅ありがとう。とりあえずこれで一安心だな」

「慧音は一晩中起きて人里を見張るつもり? それなら私も……あれ、真?」

「よ、妹紅。こんばんは」

 

 飛んでいたのは妹紅だった。おそらく慧音の能力で人里がちゃんと隠せていたか確認していた妹紅は、慧音のすぐそばに着地する。偽物の月ではあるがその淡い光に照らされて、妹紅の白い髪はキラキラと輝いているように見えた。

 

「こんばんは。どうして真がここに……」

「そうだ丁度いい。私はここで人里を警備する必要があるので離れられないが、二人には異変の原因を探ってきてもらおうかな」

「「え?」」

 

 慧音が手をパンと叩いて提案する。俺と妹紅は同時に間の抜けた声を漏らした。こんな真夜中に異変を解決しに行くのか? いやまあ夜限定の異変っぽいとは思うけど。

 

「えー……」

「そんな面倒そうな顔をするなよ真。これは人里からの正式な依頼だ。真は博麗神社に住んでいるんだろう? それなら別にいいじゃないか。なに、一人じゃ心細いだろうから、ここにいる妹紅を持っていけばいい」

「おい、私は道具か」

「な? いいだろ真」

 

 慧音が俺の目を見て言ってくる。決定権は俺にあるのか、妹紅にもちゃんと聞いてやれ。

 

「……まぁ俺はいいけど。妹紅はいいのか?」

「……私も別にいいよ。でもいいの? 慧音は一人で」

「大丈夫だ。それじゃあ二人とも頼んだぞ」

 

 妹紅と共に、慧音に肩をポンと叩かれる。別に俺が神社に戻って霊夢に異変を知らせに行ってもいいのだが、今ごろぐっすり寝ているだろう。わざわざ起こすのは憚られるので止めておく。

 

「じゃ、行くか妹紅」

「ああ。じゃあ慧音行ってくるよ」

 

 妹紅と共に宙に浮く。歩いて異変解決に行くなんて悠長なことはしていられない。慧音をあまり長い間一人で待たせることはしたくなかったし、今までの異変解決だって空を飛んで移動していた。

 

「頑張れよ妹紅! 別に途中報告なんてしに来なくていいからな! 戻ってくるのは異変を解決するか、全容が分かったときでいい!」

「あ、ああ」

 

 人里から離れていくときに、慧音の大声が聞こえてきた。あまり時間を気にしなくていいというありがたい言葉だが、そんな大声を出して妖怪たちを引き付けることにならないだろうか。折角人里を隠したのに、見つかってしまえば元も子もないだろう。というか妹紅だけを応援するのか。俺にも頑張れって言ってくれよ。

 

「相変わらず慧音は人の話を聞かずに一方的に話してくるよな」

「まぁ……それが慧音だし。それより真、行く当てはあるのか?」

「……ちょっと待て」

 

 さて、飛んだはいいがどこへ向かおうか。今は低速で妹紅と並んで飛んでいるが、異変の解決の糸口が見つからない。誰かに話を聞こうにも、こんな夜中に訪ねるなんて迷惑極まりないと思う。しかし適当に飛んでいくのもなんだし……

 ん、こっちは確か紅魔館がある方向だったな。よし、まずはあいつらに話を聞いてみよう。もしかしたらレミリアが犯人かもしれないしな、吸血鬼だし満月好きそうだし。

 

「よし、とりあえずこのまま真っ直ぐ行こう。あ、妹紅も行く当てがあるなら言ってくれよな」

「……無いから真についていくよ」

 

 月が偽者とはいえ、夜の空はぼんやりと明るい。無駄に炎を出して辺りを照らさなくても十分見える。それに炎なんか出したら周りから目立つし、消したときには一気に視界が真っ暗になる。妹紅もそのことが分かっているのか、炎を出したりはしなかった。

 

「……そういえばさ、真はなんで夜中にあそこにいたの?」

「……そうだ、ラーメンが食べたいと思って人里まで来たんだった。今からでも戻って慧音に頼んで人里を元に戻してもらうか。そしてまずは腹ごしらえを……」

「……そんなんで戻ったら怒られそうだ、止めておこう」

「あ、やっぱりそう思う?」

 

 元よりお腹が空いているわけではない。今すぐ食べられないのは残念だが、全てが終わってからでもいいだろう。

 

「でもさぁ、月が偽物だからってなんか問題でもあるのかな」

「……さぁ」

 

 あまりこの異変に危機感を感じることが無い以上、そこまで急いで異変を解決する気にはなれなかった。

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

「今から行くのは吸血鬼の館? あの紅い霧の異変を起こしたっていう……」

「そうだ。もう見えてきたぞ」

 

 妹紅と飛んで紅魔館までたどり着く。屋敷の門の前に降り立つと、深夜だというのに美鈴が腕を組んで立っていた。

 

「……こんばんは真さん、こんな夜更けに珍しいですね。随分可愛い子を連れていますけどデートですか?」

「よう、こんばんは美鈴。こんな夜更けによく起きてたな。この子とは残念だけどデートじゃない。ほら妹紅、自己紹介」

 

 着地した俺たちに気付いた美鈴が、先に声をかけてくる。俺は隣にいる妹紅に自己紹介するように促すも、妹紅が喋りだす前に美鈴が先に自己紹介を始めた。

 

「初めまして、この紅魔館で門番をやっています紅美鈴です」

「……藤原妹紅だ」

「よろしくお願いしますね妹紅さん」

「……ああ、よろしく」

 

 愛想のいい美鈴とは逆に、妹紅は無愛想に返事する。機嫌が悪いとかではなく、妹紅は初対面の相手にはこんな感じだ。慣れてくると普通に話せるようになるのだが、そんなんだと友達できないぞ?

 

「妹紅はな、美鈴の前に一緒に旅してたヤツなんだよ。美鈴の前の弟子に当たるようなもんだ」

「え、そうなんですか!? うわあ何か親近感湧きますね! 真さんとどんな旅をしたか教えてくださいよ! それによろしければ今度私と手合わせを……」

「え……あ……う……」

「落ち着け美鈴」

 

 なんとか共通の話題を振って仲良くなるきっかけをと思ったのだが、美鈴が予想以上に食いついてきた。美鈴のテンションに妹紅がついていけていない。

 

「……あ、すいません」

「いや……ちょっと驚いただけ。美鈴も真と旅してきたんだ」

「はい。倒れていたところを真さんに助けていただきまして」

「あー、真ならやりそうだ。人妖問わず出会ったヤツを助けるからな真は」

「あー分かります! 私以外にも出会う妖怪出会う妖怪助けてましたからね。人間だって助けてたでしょうねあれは」

 

 美鈴がうんうんと頷いている。そうだったかなぁ…… 妹紅はともかく、美鈴とはそんなに長く旅してないからそこまで助ける機会は無かったと思うんだが。助けた妖怪とかそんなにいたっけ?

 

「あ、そういやあれだぞ、美鈴は慧音とも知り合いだ。多分妹紅よりも早く知り合ってる」

「え、そうなのか?」

「慧音さん! 懐かしいです……やはり人里から感じてた気は慧音さんのものだったんですね。人里に行く機会はほとんど無いので会ってませんが……」

「へー。慧音とはどうやって知り合ったんだ?」

「とある人里から追い出されて落ち込んでた慧音さんを、真さんと一緒に泣かせたんですよ」

「泣かせた!?」

「待て、誤解される言い方はやめろ」

 

 正しくは、落ち込んでた慧音と酒を飲んで、慧音が愚痴をこぼす過程で泣いたんだ。ストレスは言葉や涙と一緒に出してしまったほうがスッキリするし、正しいことをしたと思っている。美鈴の説明じゃあ、完全に追い討ちをかけてるじゃないか。

 

「違うからな妹紅。これはかくかくしかじかで……」

「……なんだ、そういうことか。そういえば慧音が昔、真と一緒に酒を飲んだことがあるって言ってたっけ」

 

 妹紅にきちんと説明しておく。妹紅にも思い当たる節があるようだが、なんでそんな話になったのか気になるところだ。

 

「ということは美鈴も真と酒を飲んだのか……いいなぁ」

「はい、一度だけですが。妹紅さんは真さんとお酒を飲んだことは無いんですか?」

「私も旅の間は一度だけだ。しかもそのときは大勢の天狗に囲まれてたし、考え事もしてたからあんまり楽しめなかったんだよなぁ……」

「そうだったな。じゃあ異変が解決したら、慧音も入れて飲むかー。もう妹紅は酒の飲める年になったんだなー」

「千年以上前にはとっくにな。というかこの前阿求の家でも飲んでただろ」

「……異変?」

「あ、そうだった」

 

 美鈴の呟きを聞いて、俺たちが何しに来たのかを思い出す。超個人的な独断と偏見でレミリアが異変の犯人じゃないかと疑ってたんだ。

 

「異変って、月が偽物になってることですか?」

「なんだ、気付いてたのか。いや、もしかして紅魔館の連中の仕業だったり……こんな時間に美鈴が門番してるのもおかしいし……」

「あはは、違いますよ。私も月がおかしいことに気付いたから、個人的に見張りをしているんです。別に屋敷の中にいても怪しいヤツが来たら分かるんですけどね。咲夜さんに、しっかり働いてますよアピールを……」

「……本当に?」

「本当ですよ。なんなら、いま屋上にお嬢様と咲夜さんがいますからお二人にも話を聞いてみては?」

 

 美鈴が門を開けて屋敷の屋上を指差した。確かに人影が二つある。レミリアと咲夜のようだが、よくこんな時間に起きてるな。

 

「そうするよ。ありがとな美鈴」

「ええ。妹紅さんもまた」

「うん。またね」

 

 手を振る美鈴をあとにして、俺と妹紅は紅魔館の屋上まで飛んでいった。

 

 

 

 

「……だーかーらー! ほら見てよあの月、満月じゃないでしょう? それどころか普通の月でもない。何者かが盗んだんだって!」

「……それは何度も聞きましたよ。確かに欠けていることは分かりますが、何者かが盗んだというのは話が飛躍しすぎでは? あるじゃないですか一応」

「あれはちゃんとした月じゃないんだって! なんで分からないの!?」

「分かりませんよそんなの。いつもの月とどう違うんですか」

「……はあ。夜に咲いても所詮は十六夜。貴女には満月の力が分からないのね」

「なんですかそれ。仮に私が望月咲夜でも分かりませんよ」

「分からないならそこでぼけーっとしときなさい。私は今から月を取り戻すために奔走するから」

「朝が来たり途中で雨が降ったりしたら、お嬢様が戻って来れなくなりますから」

 

 紅魔館の屋上では、レミリアと咲夜が面白い言い争いをしていた。このまま見ているのも面白そうだが、妹紅に付き合わせるわけにはいかない。俺は人間と吸血鬼の間に飛び降りた。

 

「よっ。こんばんはお二人さん、こんな良い夜……でもないのか。悪い夜だから喧嘩してるのかな?」

「わっ……真?」

「あら、こんばんは真様。どうされたのですか?」

「異変の手がかりを探しに来たんだけど、どうやらここはハズレみたいだな」

「異変……? もしかして真様も、月がどうのとかおっしゃるのでしょうか」

「ああ」

 

 言ってたのは慧音だけどな。どうやら咲夜も人間だからか、異変だと感じていないようだ。

 

「なんでも、いま見えてる月は偽物らしい。人間には影響は無いようだけど、妖怪にとっては月の光は重要だから気付くんだろうな」

「……となると先ほどからお嬢様がおっしゃっていたことは……」

「本当のことに決まってるじゃない!」

 

 レミリアが腰に手を当てプンプンと怒り出す。必死に説明しても信じてもらえないのは悲しいことだ。

 

「……で、紅魔館はこの異変に特に関与していない、と」

「当然よ! だから私が今すぐこの異変を解決してやろうって言ってるの!」

「……お嬢様のおっしゃっていたことが本当であることは分かりました。しかしやはりお一人で行かれるのは……」

「……じゃあ、真と一緒なら問題無いのね? 真はいま異変を解決しようとしてるんでしょ? 私も連れていきなさい」

「え? えーと……」

 

 チラリと上空にいる妹紅を見る。宙であぐらをかきながら俺たちが話している様子を見ていた妹紅だったが、俺が見ているのに気付いて降りてきた。

 

「どうした真? こいつらが異変に関係ないなら、さっさと他の場所に行こうよ」

「……真、どちら様?」

 

 妹紅を見たレミリアが俺に対して尋ねてくる。妹紅は美鈴とも初対面だったのだ、レミリアとも当然初対面だろう。

 

「えーとだな、こいつは妹紅って言って、俺はもう妹紅と一緒に異変について調べてるんだ」

「……そう。ねぇ妹紅、私も二人に同行していいかしら」

「え? えーと……」

 

 妹紅がチラリと俺を見てくる。先ほどの俺と全く同じリアクションだ。

 

「(別に俺はどっちでもいいぞ。妹紅の好きにすればいい)」

「(……いいの? 断ったら泣いたりしない?)」

「(多分…… って断るのか?)」

「(うん)」

 

 妹紅と目で会話する。そうか妹紅は断るのか、結構意外だな。三人ってのは多すぎるのか、初対面のヤツといきなり一緒は嫌なのか、ともかく妹紅がそう言うなら俺はそれに従うだけだ。

 

「えーと……」

「レミリアよ」

「そう。レミリア、残念だけど今回は……」

「え……?」

 

 レミリアの顔に落胆の色が表れ始めた。すっぱりと断ろうとした妹紅だったが、レミリアの反応に言葉を濁す。

 

「(……真、どうしよう、この子泣きそう)」

「……えーっと、ほらあれだ。月が偽者だからレミリアは力がうまく出せないだろ? 俺たちなりの優しさと言うか……」

「……そう、この私が足手まといだというのね。いいわそれなら、この妹紅を相手に私が勝ったらそうでないと証明になるかしら」

「え? えーと……」

「いいよ、分かった。レミリアが勝ったら私たちについてくるといい。その代わり負けたら大人しくしてなさいね。大丈夫、貴女の分まで頑張るから」

 

 そう言って妹紅が飛び上がる。まぁ俺としては二人が納得できるのならばそれに越したことは無い。

 

「勝った気になるのはまだ早いわよ!」

 

 妹紅を追うようにしてレミリアも飛び上がる。

 吸血鬼は不死の存在だと聞いている。そして妹紅もまた不死の存在だ。不死の妖怪VS不死の人間、なんとも面白いカードの戦いの火蓋が、真夜中に切って落とされた。

 

 


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