東方狐答録   作:佐藤秋

40 / 156
第三十七話 紅霧異変

 

「……見なさい咲夜、絶景よ」

「素晴らしいお力ですお嬢様」

「まだ昼間だというのに、日傘も無しに紅魔館の屋上にいられるなんて、清々しい気分だわ!」

「……お嬢様、あちらを」

「あら、あれが真の言っていた、異変解決にやって来る博麗の巫女かしら。 ……まずは美鈴相手に、その実力を見せてもらいましょうか」

「……美鈴は、戦闘力は確かですがここでの戦闘方法には不向きかと。それでも決して弱くはありませんが」

「……あの巫女、なかなかやるわね。美鈴の弾幕を全部紙一重で避けているわ」

「……お嬢様、私は屋敷の警備に戻ります。どうやら他に侵入者がいるようなので」

「そうなの? じゃあ、任せたわよ咲夜」

「はい」

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

 とうとう、異変を起こす日がやって来た。レミリアには言っていないが、俺がこの異変を勧めたのはフランのためである。

 フランは、自分の能力がコントロールできない。それゆえ自分の力を恐れ、あまり使わなくて済むように地下に封印されていた。

 ではどのようにすればフランは能力をコントロールできるようになるのか。俺の出した答えは、その能力を徹底的に鍛え上げることだった。

 圧倒的な力を持つものは、その力の強大さゆえに触れるものを傷つけてしまう。しかしその力を使うことを恐れて何もしないのでは意味がない。全てを圧倒できる力にまで鍛え上げた力で、傷つける力を押さえ込むのである。

 

 地下は、フランが全力を出すにはあまりにも狭すぎた。まずはフランを外に出してやる必要がある。

 しかしフランは、吸血鬼レミリアの妹であるため当然フランも吸血鬼。太陽が出ている時間帯に外に出るのは危険である。

 だからこうして幻想郷中を紅い霧で覆うことで、フランが外に出られることを可能にした。

 

 異変を起こす当日の夜、俺はフランの元まで訪れた。

 

「よ、フラン」

「真? もう寝る時間じゃない。一体なんの……あ、まさか一緒に寝てくれるの!?」

「それはまた今度な。 ……早速だがフラン、外に出るぞ」

「……え? 真ったら何を言ってるの?」

「なんで吸血鬼が夜寝てんだよ。夜こそ吸血鬼の力が最も発揮できる時間だろうが。今こそ外に出る時間なんだよ」

「……で、でも、お姉さまやパチュリーに怒られちゃう……」

「大丈夫。レミリアもパチュリーも、今は悪巧みの最中だ。気付かれることは無い」

 

 レミリアはパチュリーと協力して、夜の内に幻想郷中を霧で覆う真っ最中だ。

 昼間に徐々に幻想郷を霧が覆うよりも、朝起きたら幻想郷を霧が覆っていたほうが、より衝撃的だという理由である。これも俺の入れ知恵だが。

 パチュリーにはフランがここから出たことはバレるようなので、あらかじめ説得しておいた。

 

「で、でも力が暴走するかもしれないよ? それだと真が危ないし……」

「そりゃいいな。暴走するなら俺の前でのほうが安心だ。なんたって俺は強いからな」

「で、でも……」

「ええいまどろっこしい」

「きゃっ」

 

 俺はフランを持ち上げる。今を逃せば、フランを外に出せる機会は一気に遠のくのだ。多少フランが渋っても、ここは強引にでも連れ出してしまおう。

 

「外に出たいって言ってただろ。なら外に出りゃいいじゃないか。今なら俺がついている。絶対に大丈夫だ」

「…………うん」

 

 大人しくなったフランを抱えて部屋を出る。それでいいんだ、子どもは我慢なんかするものではない。

 

 俺たちは誰もいない図書館の窓から屋敷を抜け出し、そのまま飛んであっという間に紅魔館から離れていった。

 

 

「……どうだ、初めて外に出た感想は」

「……すごい。本でしか見たこと無いものばっかりだ。 ……キレイ」

 

 フランが空を見上げてそう呟く。雲一つ無い夜空には満天の星と、お月様が一つ輝いていた。

 

「ああ。たぶん明日が満月だな」

 

 紅魔館から離れたところに飛びながら、俺はフランの呟きに返事した。

 

 

 

 

「……さぁフラン。せっかく外に出たんだから、体を思いっきり動かして遊ぼうか」

「え? 一体何するの?」

「……弾幕ごっこ。この幻想郷で、みんなやってるお遊びだ。どういう遊びかというとだな……」

 

 俺はフランに弾幕ごっこの遊び方をおおまかに説明する。本当に遊びに来たわけではない。フランが力を使いこなせるようになるための特訓であるため、スペルカードとか細かいところはこの際無しだ。

 

「……それって少し危険じゃない?」

「どんな遊びも少しは危険だろ。まずは俺に一撃当ててから言ってみろ」

「……よーし」

 

 フランと共に高く飛び上がる。フランが手をかざすと、一つの弾が放たれた。

 

「えいっ!」

「……弱い弱い! もっと全力で俺に当てにこい! それっそれっそれっ!」

「うわ、わ、わあっ!」

 

 フランの攻撃を軽く避け、今度は俺が弾を撃つ。いくつもの弾がフランに飛んでいき、フランは慌てて避けようとしたが、そのうちの一つにぶつかってしまった。

 

「……いたーい!」

「さぁフランもやり返してこい! 遠慮なんかいらないから!」

「むー……えいっ! えいっ! えいっ!」

「いいぞいいぞ! もっと、もっとだ!」

「はぁぁああーー!!」

「おおっと、強烈だな!」

 

 フランの攻撃が、徐々に激しさを増してきた。余裕を出している暇はない。能力を使ってダメージを最小限に抑えよう。

 

 これは、弾幕ごっこと銘打ってはいるが、実際の弾幕ごっことは少し違う。弾幕には必ず逃げ場となる道が存在しなければならないのだが、フランはそんなことお構いなしだ。

 

「ぐっ!?」

「あはははは! 当たった当たった!」

 

 避けられない攻撃も存在する。その場合は当たる場所に妖力を集中させることで、極力被害を押さえ目にした。

 

「あはははは! もっともっともっと! もっと激しくしていくわ!」

 

 フランが高らかに笑い出す。予定通り、フランの狂気が現れ始めたみたいだな。

 

「きゅっとして……」

「来たか!」

 

 フランが右の手のひらを軽く握る。この攻撃はまずい、あらかじめ能力を使って知っておいた、食らってはいけない攻撃の最有力候補だ。

 

「ドカーン!!」

 

 ドォォォォォン!!

 

 フランが拳を強く握ると、俺のいた場所に爆発が起こった。

 

 『あらゆるものを破壊する程度の能力』。それがフランの能力だ。全ての物体には緊張している点があり、それを破壊することでその物体は形を保つのが不可能になる。フランはその緊張点を自身の手のひらの中に移動させることが可能であり、それを握りつぶすことであらゆるものを破壊できるのだ。

 

「うふふ……もう壊れちゃったのかなぁ……」

「へへ、生きてるんだなこれが」

「なっ!?」

 

 ではどうやってその攻撃を避けるのか。答えは簡単、その緊張している点の位置を、変化の術でズラせばいい。

 フランが拳を握る一瞬前、俺は自分に変化を使い姿形を変えていた。爆発で起きた煙の中から、俺は悠々とした姿をフランに見せる。

 

「……私の能力が効かないの? ふふふそれなら、それならそれならそれなら! 直接貴方を破壊してあげる! あはははは!」

「ああ、来い!」

 

 フランがものすごい勢いで俺のほうに飛んでくる。今のフランの笑顔は、外に出て感動していたものとは違う、狂気に飲まれた笑顔だった。

 ……次にフランが理性を取り戻したとき、フランは自身の能力が制御できているようになっている。

 

 それまでかかる時間は……だいたいおよそ二十四時間!

 

 

 

 

 フランとの死闘が始まって、二十時間以上経過する。一度夜が明けてから、フランの攻撃は少し大人しくなったが、再び夜が近付くにつれ、また激しくなってきた。

 

「はぁ……はぁ…… 持久力がないのが俺の弱点だな……」

「ふっ!」

「うおっと! ……いてー、これが子どもの腕力かよ」

 

 フランの薙ぎ払うような腕の横振りを、同じく腕でガードする。最初こそ妖力の弾を撃ってくる攻撃ばかりだったが、今フランの攻撃方法は多岐に渡ってしかも止むことはない。

 

「あはははは! すごいすごい! こんなに丈夫なオモチャ初めて!」

「そうか……でもこれからは、丈夫なオモチャを用意する必要は無い! フランが壊さないように手加減できるようになるんだからな!」

「無理よ! どんなに大切なものでも私が遊ぶと壊れちゃう! お姉さまのくれたぬいぐるみでさえ、私は自分の手で破壊しちゃったもの!」

「今までの話になんか興味はない! これからのお前は自分の力をコントロールできるようになるんだ!」

「うるさいなぁ……いい加減もう壊れてよ! きゅっとして……」

 

 フランが右手を前に突き出す。またアレか、『次はどう変化して避けるのが最善手……』ん! これは……

 

「……後は自分を信じるだけだ。 ……フラン、お前はもう自分の力を抑える力を持っているはず」

「!!?」

 

 俺は出していた妖力を全て収めて構えをといた。そのままフランが拳を握りしめたら、俺という存在は破壊される。

 

「ドカ…… う、ううううううう!!」

 

 突如、フランの握ろうとしている拳の動きが止まる。フランは両手で頭を抱えて、苦しそうな声を上げだした。

 

「い、いやだ……真は私の大切な人……私は真を壊したくなんかない……」

 

 動こうとしている体を無理矢理止めようとしているフランの姿は、まるで暴走しようとしている本能のフランが、理性のフランに抵抗されているようだ。

 頑張れフラン! 自分の力で己の狂気を抑え込め!

 

「この体は私の体…… 私の体なんだったら……言うことを聞けぇぇええええ!!」

 

 フランの握られた拳が一気に開かれ、丸まった背中が伸びていく。やがて大の字になったフランから、大量の妖力が放出された。

 

「あ……」

 

 フランから大量の妖力の放出が止まると、フランは空中に停止した。脱け殻のように動かなくなったフランは、体勢を崩して頭から地面に落下していく。

 

「……よっと」

 

 落ちていくフランの元まで飛んでいき、そのまま優しくキャッチする。フランの頬に手を当てると、火傷しそうなくらい熱かった。俺はその熱を冷ますように、頬にその手を当て続ける。

 

「……冷たい…… 真?」

「……頑張ったな。暴走する能力を、フランは制御できたじゃないか」

「……制御? 私はただ無我夢中で……」

「無我夢中でもなんででも、制御できたことに代わりはない。フランはもう、自分の能力を使いこなせる力があるんだ」

「そう……なの……?」

 

 全身の体重を俺に預けながら、しゃべるのも億劫だろうにそれでもフランが声を出す。俺はフランに優しく微笑むと、言い聞かせるように言葉を続けた。

 

「ああ、自分の体ならわかるはずだ。フランの中の狂気は、理性に完全に包み込まれたって」

「…………」

「もう暗い地下の部屋で暮らす必要は無い。紅魔館の一員、レミリア・スカーレットの妹として、堂々と屋敷の中で過ごしてやれよ」

「……お姉さまは、許してくれるかな。私の力が暴走しないって、信じてくれるかな」

「信じてもらうんじゃない。信じさせるんだ」

 

 俺はフランを抱えて、再び上に上昇する。さぁて終わるタイミングもバッチリだ。次は急いで紅魔館までもどらなくては。

 

「いま紅魔館には、フランの力を示せる絶好の相手がいるからな」

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

「……なかなか手強かったけどもう終わりよ! 霊符『夢想封印』!」

「うっ……まずい……きゃああああ!」

「…………ふう、勝った。さあアンタ、この趣味の悪い紅い霧を出すのを止めなさ……ん?」

「……こらー! お姉さまをいじめるなー!!」

「フ、フラン!? 貴女どうして外に……」

「……なんだ、まだ他にも吸血鬼がいたのね。いいわ、全員倒して終わらせるから。さあさっさと『かかってきなさい』」

「『いくわよ』!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいフラン! 貴女……」

「おっと、負けたんだから口出しは無用な。やられた姉のために妹がやりかえす。んー、美しい姉妹愛じゃないか」

「真!? 貴方どこに行ってたのよ! それよりフランが外に……」

「まぁ見てろって」

 

 フランを抱えながら紅魔館まで戻っていくと、今まさにレミリアが霊夢にやられるところに遭遇した。全てが予定通りに進んでいる。霊夢を指差し、あれがフランの相手だと俺が言う前に、フランは二人のもとへ飛んで行った。

 

「見てろって……真はフランのことを知らないから……」

「きゃあっ!」

「ああフラン!」

 

 フランが霊夢の弾に当たるのを見て、レミリアは叫び声をあげる。妹がやられて心配しているのか、やられたフランが暴走することを心配しているのか、おそらくそのどちらもだろう。

 

「……やったなー! 禁弾『スターボウブレイク』!」

「……あら?」

 

 普通にスペルカードでやり返すフランを見て、レミリアが頓狂な声を上げる。正しい弾幕ごっこの遊び方は、戻ってくる間に説明済みだ。

 

「甘い! そんな弾幕私には効かないわ!」

「あはははは! 貴女もなかなか強いわね!」

「……ま、まずい! 今度こそ……」

「禁忌『クランベリートラップ』!」

「……あれー? フランが普通に弾幕ごっこしてる……」

 

 フランが高い声を出して笑い出したときはヒヤリとしたが、どうやら純粋に勝負を楽しんでいるだけのようだ。先ほどまでレミリアをやっつけた霊夢に対して怒っていたのにもうその感情は見当たらない。

 隣で呆けているレミリアに、俺は笑いながら話しかけた。

 

「はは、見たかレミリア。フランはもう自分の狂気を制御できるようになったんだ」

「真? 何が何だか私には……」

「ほら、妹の楽しそうな姿を見てやらなくていいのか?」

「……たしかに、あの子が楽しそうに飛び回る姿なんて初めて見たかも」

 

 霊夢と戦うフランの姿を、レミリアと一緒に紅い霧の中でしばし見つめた。

 

 

 

 

「……ごめんお姉さま、負けちゃった~」

 

 フランが霊夢に弾幕ごっこで負け、俺とレミリアの元へ戻ってくる。 ……それにしても霊夢強いな。狂気に飲まれたフランよりかは若干力が劣るとはいえ、フラン相手にほぼ完勝とは。

 

「……それよりフラン、貴女能力は……」

 

 レミリアがフランの両手を握り、フランに現状を問いただす。フランと霊夢の弾幕ごっこを見ている間、俺は何も説明していない。

 

「……真のおかげで、力は自分で押さえ込めるようになったの」

「本当に? ……いえ、先ほどのフランの様子を見る限り、フランから狂気は感じなかったわ。 ……本当にもう大丈夫なのね」

 

 実際には狂気が消えたのではなく、狂気が現れてもそれを抑えるだけの理性を得たのだ。

 

「……フラン、今までずっと、あんな地下に閉じめちゃってごめんなさい。もう狂気が無いのなら、これからは一緒に暮らしましょう?」

「お姉さま…… ううん、謝らないで。あれは私の意思で地下にいたの、お姉さまたちを傷つけたくなくて…… でも、私もういいんだよね? お姉さまのそばにいていいんだよね? もう我慢なんてしなくていいんだよね?」

「当たり前じゃない」

 

 フランが涙声になりながらレミリアと話す。レミリアの言葉を聞いて、フランはレミリアに思いっきり抱きついた。背丈の変わらない二人だが、フランを抱きしめ返し頭を撫でるレミリアは、ほんの少しだけお姉さんに見える。

 

「……真。私が見た運命はこのことだったのね。フランが本当に私たち紅魔館の一員になったこと。これは何事にも変えがたい紅魔館の大きな発展だわ」

「……ま、そういうことだ。悪かったな、変な異変なんか起こさせて」

「……いいのよ、むしろ感謝してもし足りないくらい。 ……この霧も、もういらないわね」

 

 レミリアは指をパチンと鳴らすと、発生していた霧が心なしか薄まってきた。もう新しく霧を発生させるのを止めたのだろう。時間を置けば、いま幻想郷を覆っている紅い霧はきれいさっぱり無くなるはずだ。

 その証拠に、先ほどまで赤い霧ばかりだったこの空間にかすかに月の光が降り注いできた。

 

「うわぁ……見てお姉さま。月があんなに紅く光ってる。昨日真と見た黄色い月もキレイだったけど、私は今の月のほうがもっと好き」

「……そうね。月がこんなにも紅いから、長い夜になりそうね」

 

 二人が見上げる今日の夜空には、紅い霧の影響だろうか、真っ赤な満月が浮かんでいた。

 

 

 

 

「……ねぇ、ところでなんで真がここにいるわけ?」

 

 手を取り合う吸血鬼の姉妹を邪魔しないように気配を消していると、空から霊夢が降りてきた。

 

「よ、霊夢、お疲れさん。そうだな、なんでと聞かれたら、俺がこの異変の黒幕だからとしか」

「……は?」

「俺がそこの吸血鬼をそそのかして、この霧を発生させてもらったんだ。ちょいと太陽の光が邪魔だったんでな」

「何やってくれてんの!?」

 

 霊夢の叫び声が辺りに響く。まあ気持ちは分かるがもうちょっと俺の言い分をだな。

 

「俺にも事情があったんだよ。霊夢には申し訳ないことをしたが、悪いことをしたわけじゃないから俺は謝らない」

「はぁ!? この霧のせいで人里で体調をくずす人が何人も出たのよ!? 何が"悪いことはしてない"よ!」

「まじかよ本当にすいませんでした。俺ができることなら何でもします」

「あれ、霊夢と真じゃないか。おろ、もう霧が晴れてきてる。二人に先を越されちまったかな」

 

 霊夢に謝っていると、洋館のほうから魔理沙が現れた。いつも持っている箒の他に、分厚い本を何冊か持っている。

 

「魔理沙じゃない。アンタもここに来てたのね」

「私も異変解決にな」

「お嬢様!? それに妹様まで…… 一体何がどうなっているの?」

「フランがいる…… どうやらうまくいったみたいね。レミィに怒られずに済みそうだわ」

 

 続々と洋館から人が現れる。咲夜とパチュリーは少し服がボロボロだ。二人とも霊夢にやられたのだろうか。

 

「真、異変も解決したことだし人里まで向かうわよ。人里の人間たちに、もう危険は無いって教えて安心させてあげなくちゃ」

「ん、ああそうだな」

 

 霊夢が俺に話しかけてくる。どうやらこの紅い霧によって、少し人里に悪影響が出たようだ。霊夢の言う通り人里まで向かうべきだろう。博麗の巫女としてしっかりとした心がけだ。

 

「そして私が異変を解決したってことを教えて、お礼もたっぷり貰わなくちゃね!」

「……それでこそ霊夢」

「さぁ真! ついでに魔理沙! さっさと人里まで向かうわよ!」

「私もか? まぁもうここに用は無いみたいだしな」

 

 霊夢に引っ張られて宙に浮く。人里に向かって出発しようとしたところ、フランがこっちにやってきた。

 

「真、行っちゃうの?」

「ちょっと用事ができたからな。ま、今日のところは紅魔館のメンバーで長い夜を楽しんできな」

「……うん。また来てね! 絶対だよ!」

「ああ」

 

 フランに手を振り紅魔館を離れていく。

 俺が紅魔館に来た理由、それはフランを救うため。フランが能力を使いこなせるようになった今、俺が紅魔館にいる理由は無くなった。住む場所は博麗神社に戻るけど、これからはフランに会うために客人として遊びに行こう。

 

 

 

 

「……で、今回の異変は何だったんだよ」

「そうね、それを今から真に聞かないと」

 

 魔理沙と霊夢と並んで飛ぶ。俺のわがままに付き合わせてしまった二人には、きちんと事情を説明しないとな。

 さて、どこから話せばいいものか。まず俺が紅魔館に行った日のことから話そうか。

 ……全部話すのは面倒だが、ちゃんと説明しないと霊夢たちは納得しないだろう。うぅむ、しかし紅魔館が抱えていたフランの問題を全部教えてしまうのもどうだろうか。

 

 全く、長い夜になりそうだ。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。