東方狐答録   作:佐藤秋

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第十九話 西行寺幽々子

 

 前回に引き続き、妖怪の山で紫の式神候補を探す。とはいえそこまで急ぎの用事ではない。今日は萃香とのんびり会話をしながら妖怪の山を歩き回っていた。

 

「そういえば、なんで真はこんなことをしてるの? 増えた妖怪をいちいち把握なんてする意味なんて別に無いだろう?」

「いや、別にそういうわけでは無くてな。知り合いの妖怪……紫って言うんだけど、そいつが使える妖怪を欲しがってたからさ。いいヤツがいないか探しているんだ」

「紫? 紫ってまさか、八雲紫?」

「あれ、知っているのか?」

「まぁね。紫とは結構前に……」

「私を呼んだかしら」

「うわっ」

 

 突如俺と萃香の前に隙間が現れ、紫が姿を現した。なんだ? 別に俺は紫を呼んではいないぞ。勿論左手に結んであるリボンも使っちゃいない。

 

「……なんてね。真がこの山に来ているって知ったからちょっと覗いてたの」

「……なるほど、紫も丁度近くに来ていたのか」

「うーん、ちょっと違うわね。私が国を作るっていう話は知っているでしょう? 国に必要なのは土地と人。私はまずその土地の用意から始めたの。この山は私の国の土地の一部ってわけ」

「……あー、だから萃香が紫のことを知ってたのね」

 

 俺は一人で納得する。この分だとおそらく、妖怪の山に住んでいる者はみんな紫のことを知っているのではないか。

「そうそう。結構前に紫がいきなりこの山に来て『この山を私がつくる国の一部にするわ』なんて言い出してね。一悶着あったのさ」

「そりゃあまた豪快な……」

 

 萃香の補足説明を聞き、改めて紫の行動力の大きさに驚愕する。いやこの場合神経の図太さにだろうか。萃香の説明通りならば一悶着どころではないと思うのだが。

 

「そうだわ、丁度真に紹介したい人がいるの! 私の式探しは一旦止めて、ちょっとついてきてよ」

「式? ああ、式神のことか」

 

 どうやら、いま俺が何をしているのか分かる程度には覗いていたらしい。紫はまるで名案でも思い付いたかのように軽く手を叩いて、俺に対してそう言ってきた。

 

「そうだな、紫がそう言うなら別に構わないが」

 

 用事は紫のためにやっていることだ。紫本人から別の誘いがあるのなら、そちらにいっても問題はあるまい。

 

「それじゃ、決まりね。行きましょうか」

「ああ。じゃあ萃香、ちょっと行ってくる」

「いってらっしゃーい」

「じゃあ紫。その紹介したい人ってのはどこに……うわっ」

 

 萃香に片手を挙げて軽く挨拶した後、改めて話を聞こうと紫のほうを向こうとすると、急に地面にスキマが開いた。急に感じる浮遊感は、いつぞやの落とし穴を思い出す。咄嗟に空を飛ぼうと思ったが、これは紫の移動術。そのまま受け入れていいだろう。

 俺は重力に身を任せ、紫のスキマに吸い込まれていった。

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

「うえぇ、気持ち悪っ」

 

 紫のスキマの中は、正直言って不気味だった。真っ暗な闇の中に所々開いてる目に、自分がどの方向に落ちているのかも分からない状態。そんなスキマの中で感じる気持ち悪さを我慢していると、気がついたらとある場所に吐き出されていた。吐き出したいのはこっちである。

 

「ここどこだよ…… それに紫もいないし……」

 

 辺り一面、真っ白な空間に俺はいた。紫のスキマの中とは真逆で真っ白な、どこか寂しさを感じる空間。ただ、ここに道があると示さんばかりに、両端に木が等間隔に並んでいる。

 道の先には大きい屋敷が見えた。紫が紹介したい人ってのはおそらくあの屋敷にいるのだろう。

 

「……どうでもいいけど、『真に紹介したい人がいるの!』って紫の台詞…… 父親に彼氏を紹介する娘みたいだな……」

 

 紫に限ってそんなことは無いだろうが、しかし可能性はゼロではない。少し悶々とした気分のまま、俺は屋敷に向かって歩き出した。

 

 

 

 

「入り口に誰もいない…… すいませーん! 誰かいませんかー!」

 

 屋敷についた。門番もいなく、声を出してみたが反応がない。

 勝手に屋敷の中に入るのも無作法だと思い、屋敷の周りを回ってみることにした。

 

 

「うわぁ、でっけぇ……桜の木? これが満開になったら絶景だろうなー」

 

 少し歩くと庭に出た。庭には一本の木が立っている。花は咲いていないものの、なにか不思議な魅力を感じさせる木だ。俺はその木をしばし見つめた。

 

「……はっ?」

 

 突如、得体の知れない感覚が俺の中に沸き上がってきた。---『死にたい』。理由も無くいきなりそう思った。

 なんだこの感情は。鯨の目に見つめられた者が感じる死への義務感。自殺ウイルスにかかった者が感じる死への羨望。それらが幾重にも重なったような感情が俺の中で渦巻いて、気がついたら俺は変化の術でナイフを作りだし自分の胸に突き刺そうとしていた。

 

「がっ!? く…… と、止まれっ!」

 

 勝手な行動を取ろうとする自分の体に向かってそう叫び、己の妖力を解放する。俺は一気に尻尾を五本顕現させ、寸でのところで死への誘惑から解放された。

 

「はぁ……はぁ……何だったんだ一体」

「……貴方は……だれ……?」

「っ!?」

 

 いきなりのことで混乱していると屋敷のほうから声が聞こえてきた。俺は咄嗟に警戒しながら振り向く。

 見ると屋敷の縁側に、桃色の髪をした少女が立っていた。

 

「……その木に魅入られてまだ生きていられるなんて…… それにその尻尾……動物の妖怪さん……?」

「……『お前は一体……』」

「紫様……一体何だったのです? 儂には門番の仕事がありますからお戯れは困ります」

「まぁまぁいいじゃないの。 ……あら?」

「むっ! 侵入者か!?」

 

 得体の知れない少女に向かって能力を使おうとしたら、どこかから紫が現れた。隣には少し歳を感じさせる、白髪の男が立っている。男は俺の姿を視界に捉えると、目付きを細めて持っていた剣に手をかけた。

 

「待ちなさい妖忌(ようき)。彼は私が呼んだのよ」

「は? 紫様、それは一体……」

「紫……説明して貰おうか?」

「はーい、まぁ二人とも落ち着いて」

 

 紫は男を制止させる。俺と男の奇怪な視線も意に介さず、紫は屋敷にいる少女の元にとてとてと駆け寄った。

 

「紫……今日も来てくれたの……?」

「当たり前じゃない。友達でしょ?」

 

 そう言って紫は少女に微笑みかけ、少女のほうも表情の変化は少ないがわずかに口元が笑っている。

 紫は少女の手を取ると、俺のほうに向き直って言ってきた。

 

「真、この子が紹介したいって言ってた人よ。西行寺(さいぎょうじ)幽々子(ゆゆこ)っていうの。幽々子、こっちは真。たまに私の話に出てくる狐の妖怪よ」

「……あら。貴方が、紫がよく話してる真さん? ……どうも初めまして。幽々子とお呼び下さい」

「あ、ああ……真だ。よろしく」

 

 幽々子に先に頭を下げられ、遅れて俺も挨拶する。しかし警戒は依然解けない。五本の尻尾を出したままだ。

 

「真。私が貴方をここに呼んだ理由、能力を使って知ることを許可するわ」

「……『紫が俺を呼んだ理由』」

 

 俺は紫に言われた通り、すぐに能力を使って理由を調べた。頭にいくつもの紫の考えが流れてくる。 

 ……なるほどね、そういうことか。紫め、そういうことならあらかじめ説明してくれれば良いものを、危うく死ぬところだ。

 俺は幽々子の前まで歩き、手を差し出してこう言った。

 

「改めまして……俺は鞍馬真。幽々子、俺とも友達になってくれないか?」

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

「……ご馳走様でした」

「なんだ幽々子、もう食べないのか?」

「……ええ。もともと私は少食なの。真さんの料理が美味しくないわけではないから安心して」

「……そうか」

「……私は一足先に部屋に戻るわ。お休みなさい」

「ああ、お休み」

「お休み、幽々子」

 

 あれから俺は、紫と共に幽々子の屋敷で夕飯を取っていた。先ほど紫と共にいた妖忌とかいう男は、どうやらこの屋敷の門番らしく、今も門の前に立っている。俺がここに来たとき門の前に誰もいなかったのは、紫がどこかに連れ出していたようだ。

 

「……さて、真。単刀直入に言うわ。あの木……西行妖(さいぎょうあやかし)は封印できると思う?」

「……難しいな」

 

 俺を死に誘ったあの桜の木、名を西行妖という。見るもの全てを魅了し死へと誘う妖怪の木だ。実は紫が俺をここに連れてきたことの最大の理由はそれだった。

 

 幽々子は厄介なことにあの木に魅入られていて、幽々子自身もまた『死に誘う程度の能力』を持ってしまっている。常に発動しているその能力のため、幽々子の周りには数えるほどしか人がいない。

 門番である魂魄(こんぱく)妖忌はその一人。なんでも半人半霊という種族らしく、半分死んでいるようなものだから幽々子の能力が効かないのだという。紫は紫で、生と死の境界を弄っているため平気らしい。

 

 幽々子には友人はおろか知り合いはほとんどいない。凡人なら知り合った瞬間自らで命を絶ってしまうのだ。

 

 幽々子は自分の能力、ひいては西行妖のことを気に病んでいる。

 紫と幽々子がどんな風に知り合って、今どんな関係にあるのかは分からなかったが、紫はそんな幽々子のために西行妖をどうにか封印できないかと画策しているようだ。しかし……

 

「……完全に封印するのはおそらく無理だ。できて力を弱めるか、一時的にといったところだろう」

 

 医者が患者に不治の病を告げるような、言い難くもハッキリとした言葉で紫に事実を告げる。これは、俺が封印術を苦手としているからではない。俺の妖力を紫に渡すことで効果的な封印術を施すことが可能だろうが、あの木の力は大きすぎる。俺が封印術を得意としていても高が知れているだろう。

 

「……真。真が能力を無駄に多用しないことは知っているわ。そこを承知でお願いする……あの木を封印する方法を教えて」

「……分かった。『西行妖を封印する方法』。 ……!?」

 

 紫に頼まれて能力を使用する。もともと俺は自分のために能力を使うことを制限しているのであって、頼まれて使用することに特に抵抗は無い。もっとも、必要が無ければ『答えを出す程度の能力』のことは話さないので、俺の能力を知っている者は少ないが。

 

 今日会ったばかりの幽々子のためというよりかは、紫のために能力を使用する。そして能力で出した答えに対し、俺は思わず愕然とした。

 

「どうしたの真!?」

「……無い」

「えっ」

「無いんだ、あの木を完全に封印する方法は…… 少なくとも俺たちだけで、なんのリスクも負わない状態では不可能だ」

「…………そう」

 

 俺の答えに紫はそう言って黙ってしまった。それ以上何も言わなかったのは、紫自身それを理解していたからだろうか。どちらにせよ、せっかく紫が頼ってくれたのに不甲斐ない答えしか出せない自分の能力にため息が出る。

 

「……まぁそう深刻になるなって。今の幽々子には紫がいるじゃないか、お前が支えてやればいい。それに俺もいるしな」

「……そう、ね」

 

 俺は強がってそう言うことしかできなかった。

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

 それから、妖怪の山と幽々子の屋敷を行き来する生活が始まった。紫と共に行くわけではなく、場所は分かったので左腕に巻いた紫のリボンを使い自力で行く。大抵は紫もいて、三人で他愛もない会話をする日々である。

 

 ある日、紫が忙しくて顔を出せない日があった。

 

「……こんにちは、真さん。今日は紫は来れないそうよ」

「こんにちは幽々子。あぁそうなのか。あいつはあいつで忙しいからな」

「ええ。別に私はかまわないのに、何度も謝っていたわ」

 

 そう言って幽々子はくすりと笑った。幽々子につられて俺も笑う。

 

「はは、それだけ幽々子のことが好きなんだろ。紫が気に入るヤツは少ないからな」

「ふふ、そうなの? ……ところで真さん」

「……なんだ?」

 

 ほんの少しだけ幽々子の声のトーンが下がる。

 

「……貴方と紫、あの西行妖を封印しようとしていたでしょう?」

 

 幽々子の急な質問に、思わず胸がドキリとする。無駄に幽々子に期待させても仕方ないと思い黙っていたのだが、幽々子から聞かれたとあれば隠すつもりは無い。それに嘘をつき通す自信もないしな。

 俺は正直に話すことにした。

 

「……まぁな」

「……やっぱりね。紫に聞いてもはぐらかされるでしょうけど、真さんなら嘘はつかないと思ったわ。ついてもすぐ分かるし」

「ははは、厳しいな。でも封印するのは無理だったよ。俺と紫じゃ力不足だ」

「……そう。私が協力しても?」

「…………ああ。一人増えても変わらないよ」

「……そう」

「……つーか幽々子よ、お前まだ飯食ってないだろ。ダメだぞ少食だからって食べないのは。今から作るから待ってろ」

 

 この話は、いくらしても不毛なだけだ。俺は強引に話を終わらせた。

 紫のために幽々子に優しくしていた俺は、いつの間にか自分の意志で幽々子に良くしようと考えていた。

 

 

 

 

 翌日、幽々子は死んでいた。自らの胸をナイフで貫き、西行妖が見える縁側で冷たくなっているのを発見した。

 

 幽々子の死体のそばには手紙が置いてあった。おそらく幽々子が遺したものだろう。中を見るとこう書いてあった。

 

『紫、真さん、勝手なことをしてごめんなさい。二人が私のためにあの木を封印しようとしてくれたのは知っているわ。私は自分の能力に悩まされていたし、それ以上に私のせいで死んでしまう人々を見るのはとても辛かった。私はずっとあの木を封印することが夢だった。何に変えても封印したかった。

 そしてその方法を、昨日やっと見つけたの。真さん、貴方は私の協力では何も変わらないって言ってたわよね。ふふ、でもやっぱり貴方は嘘が下手ね。貴方の反応で分かったわ。私が犠牲になればあの木を封印することができるって。おそらく紫もそのことに気付いていたんでしょう? 二人とも知っていて黙っていてくれたのよね。でも、私はもう逝くわ。自らの手で命を絶つのがあの木に魅入られた女にとってふさわしい最期だと思わない?

 二人とも、今までありがとう。あとはお願いね』

 

「……わかんねぇな」

 

 読み終わって俺は一人そう呟く。今までどんなに絶望に落とされても生にしがみついてきた俺にとって、自殺する人間の気持ちは分からなかった。

 

 

「……なによ、これ」

 

 気がつくと紫が近くに現れていた。紫は倒れている幽々子と、俺の持っている紙を見て愕然とする。

 

「そう……なのね」

 

 紫はとても頭が良い。見ただけで現状を全て把握したのだろう。更に紫は無駄なことはしない。悲しんだところで、取り乱したところで、幽々子が生き返るわけではないことを紫はよく知っている。

 

「……紫も、俺が嘘をついていたことに気付いていたのか? 西行妖を封印するのは不可能だって」

「……まぁね」

「そっかぁ……やっぱ慣れないことはやるもんじゃねぇな」

 

 いま俺たちがすべきことは、幽々子のために西行妖を封印すること。幽々子の体を媒体にすればそれは可能だった。幽々子の亡骸を持ち、紫と共に西行妖の封印を開始する。

 

「!!?」

 

 幽々子を抱きかかえ西行妖まで運ぼうとすると、突如西行妖から膨大な妖力が吹き出し花を咲かせ始めた。幽々子が死んだことで何かしら暴走状態になったのだろうか。

 

「真!」

「……関係ないね」

 

 俺は全妖力を解放した。この姿はあまり好きではないが構うものか。尻尾九本全てを顕現させ紫に言う。

 

「紫……封印は頼んだ」

「!! ええ、分かったわ」

 

 紫に幽々子を渡し、紫がなにやらぶつぶつと呟き始める。封印を始めたのだろう。俺は尻尾の一つを紫に触れさせ、自分の妖力を紫に譲渡する。

 西行妖から更に妖力があふれ、鋭く尖った木の枝が何本も俺と紫に向かって伸びてきた。

 

「調子に乗るなよ、たかが木が」

 

 伸びてくる枝たちを、俺は妖力のみで拘束した。かなりきついがそれが何だというんだろう。この木は封印される、それはもう決まっているのだ。

 

 動けないだけの木を相手に、紫はすぐに封印を終わらせた。

 

「……終わったわね」

「……ああ」

 

 西行妖は封印された。封印を解かない限りもうこの木が花を咲かせることは二度と無い。もう妖力を出して抵抗しなくても、俺が死に誘われることは無い。

 紫と、元の姿に戻った俺は、今はもうただの木となった西行妖を見つめていた。

 

 

「……どうしたの、ぼーっとしちゃって。その木がどうかしたかしら」

「「!?」」

 

 不意に背後から声がする。急なことに驚いて振り向き、そこにいる人物を見て俺たちは更に驚いた。

 

「……幽々子?」

 

 紫がそう声を出す。

 俺たちの目に映った存在、それは間違いなく幽々子だった。幽々子の体は先ほどこの木と共に紫が封印したはずだ。なぜ死んだはずの幽々子がここに……

 

「幽々子? それはもしかして私の名前かしら…… さっき気が付いたらここにいて、それ以外何も思い出せないの。なんだか体がふわふわしているし、もしかして私は死んだのかしら。この体は幽霊のもの?」

 

 幽々子はどうやら記憶が無いらしい。先ほどから首をかしげて考え事を口にしている。

 

「……そうか。人は死んだら体から魂が離れ黄泉の国に行く。だけど幽々子の体をこの木ごと封印してしまったから幽々子の魂は体から完全に離れられず、亡霊として今ここにいるんだ……」

「……なに?」

 

 紫が、俺に聞こえるくらいの大きさでぼそりと呟く。幽々子にはそれが聞こえなかったようで、気にかけることなく俺たちに話しかけてきた。

 

「ねえ、貴方たちは私のことを知っているの? ちょっと教えてくれないかしら」

「…………ああ、いいよ。でもまずは……」

「自己紹介からね。私は八雲紫。貴方の友人だった妖怪よ」

「俺は鞍馬真。同じく幽々子の友人だった妖怪だ」

「まあ! 二人とも私の友達だったのね! それも妖怪だなんて……」

 

 幽々子が亡霊になったからといって、だからどうしたというのだろう。幽々子が記憶を無くしたのならば、もう一度はじめからやり直せばいい。

 

 記憶を無くしたおかげで幽々子は、前よりも明るい性格になっていた。俺と紫は、おそらく同じことを考えている。人を死に誘う能力に悲しんでいたことや、その結果自殺して、いま肉体が木下に埋められていることをわざわざ教えることは無いだろう。

 

 そして今はただ、幽々子と再会したことを喜ぼう。

 

 


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