東方狐答録   作:佐藤秋

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第百十五話 こっくりさん

 

 ~博麗神社~

 

霊夢「……」チラリ

 

魔理沙「……」コクリ

 

霊夢・魔理沙「「こっくりさん、こっくりさん、もしおいでになられましたら『はい』のところに来てください」」

 

霊夢「……」

 

魔理沙「……」

 

 しーん……

 

霊夢「……動かないわね」

 

魔理沙「……動かないな」

 

霊夢「……なによ、面白い遊びがあるっていうから付き合ってあげたのに何も起きないじゃない」

 

魔理沙「……あれー? 寺子屋の子どもたちに教えてもらったときは勝手に動き始めたんだけどなぁ。二人じゃ霊力が足りないのかも」

 

霊夢「……まったく、こんな紙なんか用意させて。何も起きないなら片付けちゃうわよ」スッ

 

魔理沙「仕方ないかー…… って、なにさりげなく私の10文も一緒に片付けようとしてんだ!」

 

霊夢「……いいじゃない。紙とかいろいろ用意してあげた手間賃よ」

 

魔理沙「この貧乏巫女! 私はこの金で帰りに水飴買うんだ! 取られたら買えなくなっちゃうだろ!」

 

霊夢「これっぽっち取られただけで買えなくなるとかどっちが貧乏よ!」

 

真「……どうしたお前ら、大声出して。ケンカか?」ガラッ

 

魔理沙「あっ、真!」 

 

真「ケンカしてもいいけど仲良くしろよ~」

 

霊夢「(どっち!?)」

 

魔理沙「聞いてくれよ真! 霊夢が私のお金を取ったんだ!」

 

真「……む、それはいけないなぁ。霊夢、本当か?」

 

霊夢「……別に、たったの10文だし……」

 

真「少なかろうと、人のお金を勝手に取っちゃあ駄目だ。ほら霊夢、魔理沙に返してあげような」

 

霊夢「……はぁい……」

 

真「ん、いい子だ」ポンポン

 

霊夢「えへへ……」

 

魔理沙「へっ、霊夢め怒られてやんのー!」

 

真「……魔理沙もだ。困るなら取られないようにちゃんとしまっとけ」

 

魔理沙「まさか私も怒られる流れだと!?」

 

真「お金は大事なものなんだからなー。ったく、こんなの取り出して何してるんだよ」

 

魔理沙「う…… こっくりさんを呼び出すのに必要だったんだよ」

 

真「……こっくりさん?」

 

霊夢「真もこっくりさん知らないの? 私もよく知らないんだけど、こっくりさんは何でも知ってる妖怪で、どんな質問にも答えてくれるんだって」

 

真「ふむ……」

 

魔理沙「そうなんだぜ! 平仮名の書かれた紙と10文さえあれば、後は勝手に動いて答えを教えてくれるんだ!」

 

真「(……一応聞いたことあるな。俺が知っているのは10円玉を使うやつだが……)」

 

霊夢「……なんでも、こっくりさんは狐の妖怪らしいわよ? 真と同じね」

 

真「へー、そうなのか」

 

魔理沙「……ん? そういやこっくりさんを呼び出そうとしてたら真が来たんだよな……」チラッ

 

真「……む?」

 

魔理沙「……ま、まさか!」ハッ

 

真「……いや違うからな? そんな、『気付いちゃったぜ!』みたいな目をしてこっちを見るな」

 

魔理沙「冗談だ。でもせっかく来たんだし真も一緒にやろうぜ。三人だと成功するかもしれないからな」

 

霊夢「そうね。このまま何も起きないなんてつまらないわ」

 

魔理沙「よし真、人差し指を私たちと一緒に10文の上に乗せるんだ」

 

真「あ、ああ…… いつの間に俺もやる流れになったんだろ」スッ

 

魔理沙「……乗せたな? それじゃあ……」

 

霊夢・魔理沙「「こっくりさん、こっくりさん、もしおいでになられましたら『はい』のところに来てください」」

 

真「(……紙には一文字ずつの平仮名の他に、『はい』『いいえ』の文字と鳥居も書かれてる。そう言えばこんなんだったかな。でも……)」

 

霊夢「……」

 

魔理沙「……」

 

真「(……ま、動かないよな)」

 

霊夢「……動かないわね」

 

魔理沙「三人でも少なかったか……」

 

真「……」

 

真「(……仕方ない。ここはひとつ、俺がこっくりさんになって動かしてあげるとするか)」スーッ

 

 『はい』

 

魔理沙「……! おい、『はい』のところに動いたぜ!」

 

霊夢「やっと来たのね……! なんでも知ってるこっくりさんが……!」

 

真「(まぁ『答えを出す程度の能力』があるから、ある意味ではなんでも知ってるけど)」 

 

魔理沙「早速質問してみようぜ! まずは軽い質問から…… こっくりさん、こっくりさん、私の名前はなんですか?」

 

真「……」

 

 『ま』『り』『さ』

 

魔理沙「おおっ、本物だっ!」

 

霊夢「す、すごい……! 10文からは特に妖力を感じないのに……」

 

真「(……こいつらは疑うことを知らんのか。純粋なのはいいとして)」

 

魔理沙「よーし、どんどん訊くぜー!」

 

霊夢「おー!」

 

真「(……いつ終わろう…… ボロが出る前に早く終わって、こいつらの夢を壊さないようにしないとな……)」

 

 

 

霊夢「ねえこっくりさん! 貴方が来たら最初に訊こうと思ってたんだけど、二週間前に私が楽しみに準備していたお饅頭が無くなっちゃったの! これってなんで!?」

 

真「(お饅頭……そういや霊夢が騒いでたっけ。大体予想はついてるけど一応調べてみるか)」

 

魔理沙「……お饅頭? そんなのどうせ霊夢が食べたのを忘れてるんだろ?」

 

霊夢「いーえ! 絶対に食べてない! っていうかあの日も魔理沙が来たから、正直アンタが食べたと思ってるんだけど!」

 

魔理沙「む。私はそんなことはしないぜ。食べるなら霊夢の前で食べる」

 

霊夢「どーだか!」

 

真「……おい、動くみたいだぞ?」

 

 『す』『い』『か』

 

魔理沙「す、い、か……? おいこれ、萃香が食べたってことじゃないか?」

 

霊夢「……確かにその場には萃香もいたけど、ずっと寝てたって言ってたわよ? 鬼は嘘が嫌いらしいし、嘘をついてるとは思えないんだけど……」

 

真「……もしかしたら、寝ぼけて食べてしまったから覚えてないのかもしれないぞ? それならほら、嘘はついていないことになる」

 

 『はい』

 

魔理沙「お、こっくりさんもそう言ってるぜ! これで私への疑いは完全に晴れたな!」

 

霊夢「……そうみたいね」チッ

 

魔理沙「なぜ舌打ち!? 霊夢霊夢、それより私に言うことは?」

 

霊夢「……ごめんなさい、魔理沙」ペッコリン

 

魔理沙「おー、謝るなら許してやろう」

 

真「……よかったな魔理沙。でも人のを勝手に取ったりすることが多いから疑われるんだぞ?」

 

魔理沙「最近はあんまり取ってないぜ私」

 

真「……"あんまり"ではなく"全く"と言ってほしいところだな」

 

霊夢「……萃香には、わざとじゃないにしろしっかりと注意しておかなくちゃ。今からちょっと萃香に……」

 

魔理沙「……と、駄目だぜ霊夢。こっくりさんは途中で指を離したら怒って帰ってくれなくなっちゃうんだぞ?」

 

霊夢「え、そうなの?」

 

真「(……怒らないし、帰らないというか俺はここに住んでるんだけど)」

 

魔理沙「だから萃香への注意は後にしようぜ」

 

霊夢「む……別に帰ってくれなくても、妖怪なら私が退治してあげるわよ」

 

真「(退治されてしまう)」

 

魔理沙「いやいや、まだこっくりさんに訊きたいことはたくさんあるし、悪いことをしてない妖怪を退治する必要は無いだろう」

 

真「うん、そうだな。いい子だ魔理沙」ポンポン

 

魔理沙「お? ……へへっ」

 

霊夢「……わかったわよ。でも途中で指を離したら駄目って、それじゃあどうすれば終われるの?」

 

魔理沙「ああそうそう。終わり方は、『こっくりさんこっくりさんお帰りください』って言って、10文が『はい』のところと鳥居のところに行けばいいんだ」

 

真「(……ふむ、そうなのか。覚えとこう)」

 

霊夢「……『いいえ』に行って、帰ってくれないときはどうなるのよ?」

 

魔理沙「そういうときは、『どうやったらお帰りくださいますか?』って訊けばいい。大抵は油揚げを要求してくるらしいから、それを供えれば終われるはずだ」

 

真「(ふむふむ。それなら、ちょっと要求してみようかな。そして藍とでも山分けに……)」

 

霊夢「……なるほど。じゃあ魔理沙は、油揚げを用意してるのね?」

 

魔理沙「え、用意してないけど?」

 

霊夢「……は? ちょっと、なんのための前情報よ!? 帰ってくれなくなるじゃない!」

 

魔理沙「いいじゃん、どうせ真が持ってるだろ。いざってときには藍呼ぼう」

 

真「(……やっぱやめとこ)」

 

 

 

魔理沙「よし、私もこっくりさんに訊きたいことたくさんあるんだー。こっくりさんこっくりさん、今ちょっと魔法の研究で行き詰まってるんだけど、私はどうしたらいいでしょうか?」

 

真「……なんだそのフワッとした質問」

 

霊夢「それ、こっくりさんがちゃんと答えてくれるとして、ものすごく長い返事にならない? 時間かかると思うんだけど」

 

真「(ほんとそれ)」

 

魔理沙「私はこっくりさんに訊いてるんだ。二人は黙っててもらおうか」

 

真「ふむ……」スッ

 

霊夢「……え、動き出した?」

 

魔理沙「ほら! 答えてくれるんだぜ!」

 

 『ぱ』『ち』『ゅ』『り』『い』

 

霊夢「……あ、短い」

 

魔理沙「……ぱちゅりい? もしかしてパチュリーのことか?」

 

霊夢「そうでしょうね。パチュリーに教えてもらえってことじゃない?」

 

 『はい』

 

霊夢「ほらやっぱり!」

 

魔理沙「……えー、もうちょい具体的な答えを期待してたんだが……」

 

霊夢「端的かつ結構具体的な答えじゃない。五文字で答えるとはさすがね……」

 

真「……この紙、半濁音や小文字は書いてあるのに、伸ばし棒は無いんだな」

 

霊夢「あ、ほんとだ」

 

魔理沙「忘れてたぜ。今から追加しておこう」カキカキ

 

 

 

真「……お、都合のいいことに、霊夢は萃香に、魔理沙はパチュリーに、それぞれ用事ができたな。それじゃあもうこっくりさんには帰ってもらおうか。ほら、こっくりさんも忙しいだろうし」

 

霊夢「……いや、別に萃香への用事は後でもいいから続けていいわよ?」

 

魔理沙「そうだそうだ。こっくりさんだって暇だからここに来たんだろうぜ」

 

真「(否定できん)」

 

魔理沙「真もこっくりさんに何か訊いてみたらいいじゃないか。なんでも答えてくれるんだぜ?」

 

真「む……しかし」

 

魔理沙「遠慮はいらないから訊いてみろって!」

 

真「(……これがほんとの、自問自答、ってか?)」

 

霊夢「(……真は何を訊くのかしら? ちょっと楽しみだったりして)」

 

真「……あー、じゃあこっくりさん、明日の天気はなんですか」

 

 『は』『れ』

 

真「お、晴れるってさ。明日は人里に買い物でも行こうか」

 

霊夢・魔理沙「……」

 

真「……どうした?」

 

霊夢「……質問がしょうもない」

 

魔理沙「なにやってんだよ真」

 

真「いや……だって訊きたいこと無いし」

 

魔理沙「……もういい、私が真の代わりに質問してやるぜ!

 

真「お?」

 

魔理沙「こっくりさんこっくりさん、真が将来結ばれる結婚相手の名前を教えてください!」

 

霊夢「!」

 

真「えぇ……? 魔理沙お前、なにを訊いて……」

 

魔理沙「真も男だし気になるだろ! これで知ってるヤツの名前が出てきたら面白いぜ!」

 

真「(……いや、こういうのは『答えを出す程度の能力』で調べてもいいものなのか……?)」

 

霊夢「(……結婚しても真には神社にいてほしいし、真の結婚相手も神社に住むんだったら、変なのとは結婚してほしくないなぁ……)」

 

魔理沙「さぁて、いったい誰の名前が……!」

 

真「……」

 

霊夢「……」

 

魔理沙「……あれ?」

 

霊夢「動かない?」

 

真「……み、みたいだなー。あまりに質問がくだらなすぎて、こっくりさんも帰ってしまったん……」

 

魔理沙「こ、これはもしや、真は結婚できないということか!?」

 

霊夢「あ、そういうことも考えられるわね」

 

真「え?」

 

魔理沙「悪い真! 残酷な結果を知らせちまった!」

 

真「……い、いや、別にいいけど……」

 

霊夢「……結婚できなくても、真はずっと神社にいていいからね? 寂しいときは私がそばにいてあげるから」

 

真「……あ、ありがとう……?」

 

魔理沙「おお! 霊夢めかっこいい発言しやがって!」

 

霊夢「でしょ? 真って結構さびしがり屋なのよね」フフン

 

真「(……なーんか複雑な気分だな……)」

 

 

 

魔理沙「……さて。真の結婚相手の結果は残念に終わってしまったけど、恋バナってのはなかなかガールズトークっぽいぜ」

 

霊夢「……ガールズ?」

 

真「おい、男もいるぞここに。それもボーイと呼べるような若さでもない中年が」

 

魔理沙「次は霊夢の事情を訊いてやろーっと」

 

真「スルーか、おい」

 

霊夢「……え、私の話?」

 

魔理沙「こっくりさんこっくりさんー、霊夢の好きな人の名前を教えてください」

 

霊夢「……ちょっ、なに訊いてんのよ!」

 

魔理沙「いいじゃないかー、ちょっとくらい」ニヒヒ

 

真「(……これも踏み込んだ質問だなー。勝手に覗くのはいけないだろう。でも……)」

 

魔理沙「お、動くぞ」

 

霊夢「ちょ、ちょっとま……!」

 

 『ま』『り』『さ』

 

真「(……ま、同性なら別にいいんじゃないか?)」

 

魔理沙「……へ? 私?」

 

霊夢「……え? ……あ、まだ動く……」

 

 『さ』『く』『や』

 『さ』『な』『え』

 『も』『こ』『う』

 『ら』『ん』

 『ゆ』『う』『か』

 『も』『み』『じ』

 『お』『り』『ん』

 『ゆ』『う』『ぎ』

 

真「(……面倒になったからこれくらいいでいいか)」

 

魔理沙「……なんかたくさん名前が出てきたぜ。なんだ、好きってそっちの好きかよ」

 

霊夢「……あ、ああ好きってそういうことね! 確かにまぁ嫌いじゃないけど……」

 

真「……霊夢、クールっぽい雰囲気を出しときながら、結構惚れっぽいんだな」

 

魔理沙「むぅ…… 男の名前が出てきたら面白かったんだが、霊夢はまだ好きな男もいないお子ちゃまだったか…… まぁ私もいないけど」

 

霊夢「……ちょっと魔理沙! 急に変な質問しないでよね!」

 

魔理沙「いいじゃんか別に、知られて困る結果でもなかっただろ。あ、それとも私が一番好きってことがバレて恥ずかしかったのか?」

 

霊夢「……なんで魔理沙が一番になるのよ?」

 

魔理沙「だって名前が出てきたの、あれ好きな順だろ? いや、照れるぜ」

 

霊夢「違うわよ!」

 

真「(……まぁそこらへんは適当だが…… それより、紫の名前を出さなかったのはかわいそうだったかな……)」

 

 

 

霊夢「次は魔理沙の好きな人を訊いてあげるわ!」

 

魔理沙「ああ、いいぜ。アリスとかが出てくるんじゃないかな」

 

霊夢「こっくりさんこっくりさん、魔理沙の好きな人を教えてください!」

 

真「(……またか。面倒だから『みんな』じゃ駄目だろうか…… 霊夢のときからそうしとけばよかった……)」

 

魔理沙「おお、二回目だからかすぐ動くぜ」

 

 『れ』『い』『む』

 

霊夢「……あ、私だ。ほーら、魔理沙のほうも私が最初じゃない! 魔理沙も私のこと一番好きなのね!」

 

魔理沙「ほんとだ。私たち相思相愛じゃん、結婚しようぜ」

 

霊夢「年齢的に無理よ!」

 

真「いやいやいや、性別性別」

 

 『あ』『り』『す』

 『ぱ』『ち』『ゅ』『り』『ー』

 『ふ』『ら』『ん』

 『よ』『う』『む』

 『す』『い』『か』

 『に』『と』『り』

 『あ』『や』

 

真「(……こっちもこれくらいにしとこう)」

 

魔理沙「……ほら、やっぱりアリスとかだったぜ」

 

霊夢「……ちっ、こっちにも男の人の名前は出なかったわね」

 

真「(そりゃあ、『同性の中で好きなヤツの名前』を調べてるからな)」

 

魔理沙「ふっ、まだ私を夢中にしてくれる男はいないみたいだな」

 

霊夢「霖之助さんの名前くらいならあると思ったのに……」

 

魔理沙「……あれ、そう言えばそうだな。こーりんは嫌いじゃないんだが…… というか真の名前もなかったな、どっちにも」

 

真「……む」

 

霊夢「あ、確かに……」

 

魔理沙「……」

 

霊夢「……」

 

魔理沙「(……こーりんも真も、私に都合がいいから好きなはずだが、こっくりさん的にはこれは"好き"にならないのか?)」

 

霊夢「(……真の名前だけ出たら焦ってたけど、あの流れの中だったら真の名前があっても不自然じゃないのに……)」

 

真「……」

 

魔理沙「……ま、まぁこっくりさん基準では外れてしまったけど、私はちゃんと真のこと好きだからな! うん!」

 

霊夢「……そ、そうよ! 私も真が神社に来てからいろいろ助かってるし、嫌いになるはず無いじゃない! ねぇ!?」

 

真「……え? あ、ああ……」

 

魔理沙「多分あれだな、異性って指摘が無かったからこういう結果になったんだな!」

 

霊夢「もしかしたら結果が多すぎて、一部省略になったのかもね!」

 

真「(……別に気にしてないのに、どうして俺は二人に励まされているんだろう。子どもに気を使われるってどうなんだ……)」

 

 

 

魔理沙「……では気を取り直して、次は真の好きな人に行こう。人っていうか妖怪かな」

 

真「……思ったんだが、なんでここにいるヤツの好きな人を訊くんだよ。こっくりさんじゃなくて、本人に直接訊けばいいだろうが」

 

魔理沙「……ふっ甘いぜ。こっくりさんなら嘘をつかずに答えてくれるからいいんじゃないか。霊夢に好きなヤツを訊いたところで、はぐらかされるに決まってるだろ」

 

霊夢「(まぁそうね。わざわざ答えるのも面倒だし)」

 

魔理沙「……っつーわけでこっくりさん、次は真が一番好みの異性の名前な!」

 

霊夢「!」

 

魔理沙「さっきみたいに同性の名前をたくさん持ってこられても困るし、一人だけ頼むぜ。幻想郷の中のヤツにしよう!」

 

真「……ふむ、好みといわれてもよく分からんが、パルスィの目は綺麗で好きだなぁ……」

 

霊夢「……誰?」

 

魔理沙「真の答えじゃなくて、こっくりさんの答えが知りたいんだぜ。さぁ結果は……」

 

 『ぱ』『る』『す』『ぃ』

 

真「あ、ほら、パルスィの名前が出てきた」

 

魔理沙「む……」

 

真「(……まぁ俺が動かしている以上、俺への質問は自由に答えられるな。嘘じゃないし、これが一番無難な答えだろ)」

 

魔理沙「知らないヤツの名前が出てきてもつまらないぜー」

 

霊夢「……真は、女の人の目が好きなの? 胸とかじゃなくて」

 

真「……さー、あまりよく分からん。見た目だけで判断するのは相手にも悪いし、考えたこともあまり無いな。ただ、目ってのは意識するかも知れん」

 

霊夢「……へぇー、そうなんだ……」

 

真「(……というか、なんだ今の霊夢の質問。『いいえ女性の胸が好きです』とか返せるわけないだろ)」

 

霊夢「ねぇねぇ真、私の目は?」

 

真「ん、霊夢の目もいいと思うぞ」

 

霊夢「……そっか、えへへ……」

 

真「(……霊夢のヤツも、見た目を気にする年ごろになったのかなぁ)」

 

魔理沙「……考えてみれば、結婚できない男の好みとか聞いても仕方なかったな。次行こう次」

 

 

 

真「(……ふー、疲れた…… 能力を使い過ぎたか? いや、それ以外にも……)」

 

魔理沙「……なんか、今回のこっくりさんはちょいちょい歯切れが悪いな。どうしたんだろ」

 

真「(……魔理沙の質問って、誰が誰を好きなんだとか、誰々の秘密を教えてくれとかばっかりなんだもんなー。失せ物さがしとかに使ってくれれば答えやすいのに…… でも、こっくりさんってこういうもんだっけ)」

 

霊夢「でも、答えてくれるところはちゃんと答えてくれるじゃない。それもかなり納得ができる答えで。こっくりさんって凄いのね」

 

真「(霊夢はいい子だ…… でも、何もしなくてもお金がたくさん手に入る方法とかを訊かないでくれ。そんなんだと駄目人間になるから……)」

 

魔理沙「……うーん、凄いっちゃ凄いんだが、凄いと面白いは別なんだよなぁ。 ……まぁいいか、最後に博麗神社の夕飯がなんなのかを訊いて帰ってもらおう」

 

真「いや俺たちに訊けばいい質問だろそれ。別にいいけど」

 

魔理沙「豪華なものだったら食べて帰るぜ」

 

真「そんなことだろうと思ったよ」

 

魔理沙「……よーし、こっくりさんこっくりさん、博麗神社の今日の夕飯はなんですか?」

 

霊夢「えーっと今日のお夕飯は……」

 

 『お』『で』『ん』

 

霊夢「……え?」

 

魔理沙「……ほほうおでんか。きのこは入っているんだろうな?」

 

 『はい』

 

真「……まぁ、魔理沙が食べていくから入れるんだろうけど」

 

魔理沙「やったぜ! だったら今日も食べて帰ろう!」

 

真「『今日()』って、魔理沙がどんだけここでご飯を食べてるのかがよく分かるとこだな」

 

魔理沙「……真が来てからここでの飯が豪華になったからなー。真が来る前だったらおでんなんて考えられな……」

 

霊夢「……待って、今日のお夕飯はおでんじゃないわよ? 余ってたお魚を使い切ろうと思ってたんだから」

 

魔理沙「……え、そうなのか? でもこっくりさんはおでんって言ってるが……」

 

霊夢「……どういうことかしら?」

 

魔理沙「さぁ……」

 

 コン コン コン

 

真「む、扉を叩く音……来客だ」

 

藍「失礼するよ」

 

霊夢「あ、藍」

 

藍「……お前たち、夕食はまだだろう? おでんを少し作りすぎてしまってな、よければ一緒に……」

 

霊夢「……!」

 

魔理沙「おぉ……!」

 

藍「……? どうした、おでんは嫌いだったか? それなら一緒に食べるのは真だけでも……」

 

魔理沙「すげええええ! 完全に当たったぜ!」

 

霊夢「これほど見事に当たるものなのね……! いままで答えてきたのも、きっと全部正しいんだわ!」

 

藍「わっ、どうしたいきなり」

 

魔理沙「その、手に持ってる鍋がおでんなのか?」

 

藍「ああそうだが…… ところでお前たち、ちゃぶ台の上に紙を広げて何をして……」

 

真「あ、あはは、ちょっとこっくりさんを呼び出す儀式をな? 手が離せないから、鍋は台所に置いといてくれ」

 

藍「りょ、了解した……」

 

 

 

真「……とまぁこういうわけだ」

 

藍「……なるほど、こっくりさんとはそういう遊びなんだな。何をしているのかと思ったぞ」

 

魔理沙「む。遊びじゃないぜ、こっくりさんは立派な降霊術だ。藍と同じ狐の妖怪を呼び出すんだよ」

 

藍「……ふむ、私や真はそこらの狐妖怪と一線を画した存在であるわけだが……」

 

魔理沙「なんだ、こっくりさんより自分のほうが上等だって言いたいのか」

 

霊夢「(……藍って結構、自分がすごい妖怪だって思ってるところあるわよね)」

 

藍「……まぁ、なんでも分かるなら見せてもらおうじゃないか。見事当てられたら認めてやらんこともない」

 

魔理沙「……言っとくが、今回のこっくりさんは特にすごいんだからな! きっと藍の問いかけにも、見事答えてくれるはずだ!」

 

真「(……少し前、面白さが足りないとか言われた気がするんだが……)」

 

藍「……いいだろう。では……今日紫様が食べた間食がなんなのか当ててもらおうか」

 

魔理沙「はっ。そんなもん、こっくりさんにとっちゃ朝飯前の質問だな」

 

霊夢「もう時間はお夕飯の前だけどね」

 

真「(……ふむ、藍はこっくりさんを信じてないみたいだな。それで、この三人が知らないであろう質問をぶつけてきた、と。まぁ俺だって同じようなことがあればこんな感じの質問をするか……)」

 

藍「……さぁ、こっくりさんとやらの回答はなんなんだ? ふふ、まぁ迷い家の場所からして知られていないのだし、分からなくても無理はない……」

 

 『い』『ち』『ご』『だ』『い』『ふ』『く』

 

藍「……な、なにぃっ!?」

 

霊夢「あ、当たったみたいね」

 

魔理沙「……ふっ、見たか! これがこっくりさんの力だ!」

 

真「どうして魔理沙が偉そうなんだ……」

 

霊夢「……それにしても、おやつにいちご大福ですって? 紫め、なんて贅沢な……」

 

藍「……しかし、こういう偶然も無くはない。次の問いにも答えられたら信じてやるとしよう」

 

魔理沙「いいぜ! いくらでも質問しろってんだ!」

 

真「(……藍って結構疑り深いんだな)」

 

霊夢「(……九尾としてのプライドかしら)」

 

藍「……ではこっくりさん。私には橙という式神がいるのだが、その橙が……」

 

 『ま』『た』『た』『び』

 

魔理沙「お? もう動いた」

 

藍「……なっ!?」

 

霊夢「藍が質問する前に答えたわね…… しかもその反応だと当たりかしら?」

 

藍「……こ、これは偶然当てられるようなものではないぞ……!」

 

真「(……どやぁ)」ニヤリ

 

魔理沙「おお、驚いてる藍を見て真もやらしい顔をしてるぜ。気持ちは分かる」

 

真「(……ちなみに質問は、橙に言うことを聞かせるために藍が用いる小道具は何か、だ)」

 

藍「むむむ……認めるしか無いようだな…… こっくりさんに知らぬものは無い、と。紫様のように、どこからか幻想郷を見ているのか?」

 

魔理沙「確かにそう思ってしまう的中率だがそれだけじゃない。人の心の中だってこっくりさんにはお見通しなんだ。知ってるか? 咲夜はああ見えて、美鈴のことが大好きなんだぜー」ニヒヒ

 

藍「な、なんと……!」

 

霊夢「……心が読めるのが凄いなら、さとりも十分凄いことになるけどね」

 

真「まぁ地底の主だし凄いだろ」

 

藍「(……こ、心が読めて、誰が誰を好きとかも分かると言うのか? ……ということは真の……)」チラッ

 

真「(……む、藍が俺のほうを見てる? コインを動かしてるのが俺だと気付かれたか? 藍は『答えを出す程度の能力』を知らないはずだが……)」

 

魔理沙「……さーて、藍の驚く顔も見られたことだし、こっくりさんには帰ってもらうかー」

 

藍「えっ、も、もう終わってしまうのか?」

 

霊夢「そうねぇ、もうすぐお夕飯の時間だし…… 紫たちもこっち(博麗神社)に来て食べていくの?」

 

藍「あ、ああ、もう少ししたら来られると思うが……」

 

真「ふむ、それだと少々大所帯になるな。全員が取りやすいように、鍋を二つにしたほうがいいかもしれん」

 

魔理沙「おっ、それいいな! 私のほうの鍋はきのこ多めで頼むぜ」

 

霊夢「じゃあ私のほうにはお肉多めで」

 

魔理沙「……おでんに肉って入ってるっけ?」

 

霊夢「入ってるでしょ普通」

 

藍「(……な、なぁ真)」チョンチョン

 

真「(ん、どうした藍)」

 

藍「(……こっくりさんはもう帰ってしまったのか? もう一度呼び出すことはできないのだろうか……)」

 

真「(いや、帰す儀式はまだしてないが)」

 

藍「(そ、そうか……)」

 

魔理沙「……ん? お前らなにをヒソヒソ話してんだ」

 

真「いや、藍がこっくりさんのことが気になるみたいで」

 

藍「わっ! し、真!」シーッ

 

魔理沙「……ははーん? 藍もこっくりさんになにか聞きたいことがあるんだな?」

 

真「(あ、そういうことか)」

 

霊夢「(藍も意外と好きねぇこういうの)」

 

藍「べ、別に、夕食の準備は終わってるのだから、もう少しそれで遊んでいても構わないなと思っただけだ」

 

魔理沙「……あ、そう? でも別に、したい質問ももう無いし……」

 

藍「ふむ……それなら私が代わりに質問しよう。あくまで紫様たちが来るまでの時間つぶしとしてだが」

 

霊夢「(素直にしたいって言えばいいのに)」

 

魔理沙「ふーん。じゃあまぁすればいいだろ」

 

藍「で、では……」

 

真「(藍がしたい質問ってどんなのだろ。まぁどんな質問が来ようと、俺は能力で答えを調べるだけだが)」

 

藍「……実はこの幻想郷にだな、個人的に仲良くなりたい相手がいるのだが、どうも向こうの反応が淡白なんだ。それで、ひょっとして私はそこまで好かれてないのかと少々不安になってきてな。相手がどう思ってるか気になるのだが……」

 

真「(それなりの悩みを相談して来たー!)」ガーン

 

藍「……こっくりさんとやら。そこのところ、どうなんだろうか」

 

真「(……藍にもそんな心配があるんだなー。まぁ藍はいいヤツだから、嫌われてるはずは無いと思うが……)」

 

霊夢「(……真のあの顔。藍の仲良くなりたい相手が自分だってことに、全く気付いてないんでしょうねー)」

 

真「(……っと、ほらやっぱり)」

 

 『だ』『い』『じ』『ょ』『う』『ぶ』

 

藍「む……」

 

霊夢「心配すること無いってさ。きっと藍の勘違いよ」

 

藍「……では、どうすれば仲を深めることができるだろうか?」

 

 『お』『さ』『け』

 『と』

 『お』『し』

 

魔理沙「……お酒と、押し?」

 

真「(……ふむ。酒を飲んだ勢いで、なれなれしいと思うくらい積極的に行けってことかな?)」

 

藍「(……ふむ、お酒を飲ませて少々強引に、ということだろうな)」

 

霊夢「へー、いい作戦じゃない。確かにお酒は、仲を深めるのに使えるわね」フフフ

 

魔理沙「……ところで、藍の言ってる相手って誰なんだ? もしかして男か?」ニヒヒ

 

真「む……」ピクッ

 

藍「……まぁそうだ」

 

真「……!」

 

魔理沙「おー! 藍もスミには置けませんなぁ!」ニヤニヤ

 

霊夢「……魔理沙ってそういう話好きよねぇ。自分のには興味無いくせに」

 

魔理沙「藍は、いつからそいつのことを気にしてんだ?」

 

藍「それはもう、魔理沙が産まれるずっとずっと前からだが」

 

真「……」モヤッ

 

魔理沙「ひゅー!」

 

真「(……あれ、なんださっき俺モヤッとしたんだろ)」

 

霊夢「(……お?)」

 

真「(……藍がどんな男と仲良くなろうが俺に口出しする権利は無いのだが…… 変な感情が湧いてきたな)」パルパル

 

霊夢「(……あらら、ちょっとだけ効果アリ? こっくりさんで最初のほうに、結婚できないって言われたのが響いてるのかしら?)」

 

真「(……よく分からんが、気にしないことにしよう。それより、ずっと10文に指を触れているこの体勢がいい加減キツくなってきたな)」

 

魔理沙「じゃあさ、藍、そいつは……」

 

真「……もういいか? そろそろこっくりさんも飯時(めしどき)だろうし帰してやろうぜ」

 

魔理沙「え? あ、そうだな」

 

霊夢「……ふふっ」

 

魔理沙「ん、霊夢どうした? なにかおかしかったか?」

 

霊夢「いーえ、なんにも」

 

真「……せっかくだし、こっくりさんにおでんの餅巾着でも供えておくか。藍、悪いが取ってきてくれるか?」

 

藍「ん? ああ分かった」

 

魔理沙「楽しかったなー! それじゃ、こっくりさんには帰ってもらうかー!」

 

霊夢「ええ」

 

真「ああ」

 

魔理沙「せーのっ」

 

「「「こっくりさんこっくりさんお帰りください……」」」

 

 

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 

 

紫「……うんやっぱり、寒いときに食べるおでんは美味しいわね~」

 

橙「あったかいおこたで、あったかいおでんを食べる…… 幸せですね~」

 

紫「ほら橙、冷ましたからこれも食べ……って、からしが少しついちゃったわ。鼻にツンとくるから、橙にはまだ少し早いかな」

 

橙「う…… 私は辛いのは苦手です…… 藍様は辛いのは大丈夫なのですか……ってあれ、藍様?」

 

紫「ああ、藍なら……」

 

 

魔理沙「おー、いい感じに味が染みててうまいなー」

 

霊夢「きのこは、後から入れてもすぐに味が染みるからいいわよね」

 

魔理沙「それもだが、おでんに入ってる大根ってどうしてこんなにうまいんだろ。全然辛くないしなー」

 

霊夢「じゃあきのこと大根は全部あげるわ。私はお肉をもらうから」

 

魔理沙「それはおかしいだろ、肉も食わせろ」

 

萃香「……おでんの具は、全部お酒に合って美味しいよね~。色々食べないと勿体無いよ~」グデー

 

霊夢「あ、そう言えば萃香、この前私のお饅頭を食べた犯人…… あれやっぱり萃香だったみたいよ」

 

萃香「……え、本当? ごめんね~、代わりにこれあげるからさ~」

 

霊夢「……おでんに入ってた餅巾着じゃない」

 

魔理沙「餅巾着も味が染みててうまいよなー」

 

霊夢「いや美味しいけど、餅巾着とお饅頭は全然違……」

 

萃香「……ところで、真のヤツはどこ行ってるの? このまんまだと餅巾着無くなっちゃうよ?」

 

魔理沙「ああ、真なら……」

 

 

 

 ~博麗神社、縁側~

 

真「(……藍に、ちょっと二人で話をしようと誘われて、おでんを少し皿に移して縁側まで来たのはいいとして……)」

 

藍「真、おでんには熱燗がよく合うぞ。グイッと行けグイッと」

 

真「(……なんか藍がやけに酒を勧めてくるんだが……)」

 

藍「熱燗が苦手なら冷酒も用意してあるからな」ササッ

 

真「……いやまぁそれはいいとして、どうした急に?」

 

藍「む……? 急に、とは?」

 

真「俺をここに誘ったことに決まってるだろ」

 

藍「ああそれか。別に、たまには真と二人で酒を飲みたいと思い立っただけだが?」

 

真「そ、そうか……」

 

藍「ああ、そうだ」

 

真「(……なんか今日の藍は積極的?だな…… 何か意図があるのだろうか……?)」

 

藍「……ふふ、宴会のような場では、こうして真と二人で落ち着いて飲むことはできないからな……」

 

真「……まぁ、確かに……」

 

藍「……さ、分かったらどんどん飲もうじゃないか。甘いのがよければ果実酒もあるぞ」トクトク

 

真「(……こっくりさんよ、もしまだここにいるのなら、どうすればいいか教えてくれ……)」

 

 

 『お』『し』『ま』『い』

 


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