神様死すべし慈悲はない   作:トメィト
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ちなみに私に足りないものは更新速度と運(ガチャ)と執念(ガチャ)です。


お前に足りないもの、それは―――





 仁慈と全く同じ反応―――それを意味するのは少なくともレーダーなどの機械類は目の前のアラガミを樫原仁慈として認識しているということだ。すなわちそれはフェンリルのデータベースに登録されている仁慈の情報と同じものを所持しているということに他ならない。ここでいう情報として最も用いられるのは当然彼に投入されている偏食因子だろう。つまり、目の前のアラガミは樫原仁慈と全く同じ偏食因子を所持しており、それはある意味で《《樫原仁慈がアラガミ化した姿》》と言っても過言ではなかった。

 通信機越しに聞えて来た答えを受けた四人は正面から目の前に佇むアラガミを見据える。その姿はまさに威風堂々、ここら一体は己の縄張りであり仁慈達はその中に入って来た憐れな獲物として判断している。だが、その瞳に本能に忠実な獣のような獣欲は感じさせない。むしろ、彼らと同じく狩人としての理性ある瞳を携えていた。

「こいつ……唯のアラガミじゃねえな」
「仁慈と同じ反応という時点でそんなことは分かり切ってますけど……随分と理性的な印象を受けますね」
「これは絶対に強い……!いいぞ、俺はこういうのを待っていた!」
「勝手に突っ込むのはやめてくだs――――行った!?」

 警戒心を露にする三人に対してジュリウスのみは警戒を見せながらも我慢できなかったようである。一目散に地面を蹴り、初速からトップスピードへ移行する。仁慈と同じ反応を示すアラガミですら理性的判断から様子見を決行しようとしたにもかかわらずこの先制攻撃……余程満足できる戦いができていなかったのだろう。他の三人は呆れつつも情報収集の礎となってくれた彼の様子を観察する。

「■■■■■■■■■■■―――!」

 ジュリウスの突撃に対して未確認のアラガミが取った行動は咆哮。遠吠えのような生易しいものではない。ジュリウスに狙いを定め、重圧な音による物理攻撃でジュリウスの身体を後方に吹き飛ばした。それはまるで仁慈が初めてマルドゥークに見せた咆哮のようだった。
 アラガミという化け物から放たれてた音波攻撃にその身体を返されながらもジュリウスに焦りの色は見られない。何故なら、彼はブラッド原初のキチガイ。むしろ彼の所為で仁慈が修羅の道に落ちたことを考えると全ての元凶のキチガイと言い換えることもできる。その師匠・オブ・キチガイであるバナナが吹き飛ばされたくらいで退場するわけがなかった。彼は空中で神機を銃形態に移行。そのまま背後に標準を合わせて連射。その反動で後ろに働きかけている衝撃を相殺する。そしてそのまま何事もなかったかのように仁慈達の元へと戻って来た。

「流石にあれでは届かなかったか……」
「元隊長にあるまじき浅はかな行動お疲れ様です。そろそろ自重してください。いや、マジで」

 キリッとした表情で宣うキチバナナに仁慈のツッコミが炸裂する。それも仕方のないことだろう。今の行動の所為で未確認のアラガミは完全に彼らを敵として判断した。背中から生えている触手染みた部位を全て伸ばして仁慈達を切り裂こうとうごめかす。それにいち早く反応したのは極東の例の人、神機使いの業界で知らないものは居ない元第一部隊隊長の神薙ユウだ。
 彼は手に持った神機を無造作に下段へと振り切った。傍から見ればたった一度の斬撃。しかし、結果は視覚したものとは程遠いものだった。四方八方から襲い来る触手に対してただの一度しか神機を振るわなかったわけだが、どういうわけか全ての触手を斬り倒していたのだから。そう、先の一撃。振るわれたのは一度ではない。視覚出来ない速度で振るわれた結果、唯の一度振るわれただけにしか見えなかったに過ぎないのだ。驚くべきことはこれがブラッドアーツによるものではなくユウの純粋な技量によってなされたものである事。これには流石のジュリウスも苦わら――――

「フッ、流石だ」

 ――――微笑んでいた。こいつらはやはり頭がおかしい。
 触手を一瞬に撃退されたにも拘わらず、未確認のアラガミに動揺の色は見えない。むしろこのくらいはして当然だろうという雰囲気的余裕すら見て取ることができた。故に未確認のアラガミはすぐに次の行動を取る。鋭い牙を一瞬だけ見せるように大きな口を吊り上げると、その場から姿を消した。

『―――!?』

 気配は、ない。音も聞こえない。だが、長年戦場で生きながらえて来た彼らの勘が未確認のアラガミは自分たちのことを狙っていることが理解できた。一番初めに動いたのは――元祖キチガイであるリンドウだ。彼は自分の直感に従い、自分の神機を振るう。

 振るった先には巨大な口を開けリンドウをマミらせようとしていたアラガミの姿があった。アラガミと正面からぶつかりあう胆力は流石、半分アラガミ化しているだけのことはある。

『―――!リンドウ、すぐに神機を放して!侵食されてる!』
「ちっ……!」

 神機に宿った意思―――レンの忠告にリンドウは舌打ちをすると、自分の偏食因子から変形してできた神機の形をしたオラクル細胞擬きを未確認アラガミに突き立てる。しかし、それは背中から生えた触手に防がれてしまった。ならばと思い、足を振り上げ顎を外そうと抵抗するが、それも前足で防がれてしまった。普通の神機使いであれば絶対にしない攻撃方法であるし、それ故に学習能力があるアラガミたちでも対応することができなかった攻撃方法。しかし、未確認のアラガミはまるで見て来たかのように迷うことなく対応を繰り返していた。

『うわ――!リンドウ、これはちょっとシャレにならない!このままいったら、黒いハンニバルになるよ!』
「んなこと言われてもよ……」
「任せてください」

 リンドウではどうにもできない状況ということで割り込んできたのは今もっともホットなキチガイ。未確認アラガミと同じ反応を示す元特異点。樫原仁慈である。彼は神機の形を変形させ、リーチを伸ばす。そして伸ばすために利用されたオラクル細胞を全て捕食形態に変形させた。
 普通であれば、自分が捕食されないように細心の注意を図って行う捕食形態。しかし、体内の偏食因子を手なずけ、神機を完全に支配下としている仁慈には全く以って関係がない。どんな状態で捕食形態にしようとも彼が神機に捕食されることなどはないのだから。

 流石にこれはマズイと判断したのだろう。未確認のアラガミは迷うことなくその場から飛退いた。
 捕食の本能に打ち克ち、自身の命を優先した。これはアラガミの中でも一部の者にしか見られない行動である。ルフス・カリギュラやハンニバルなどの上位に位置するアラガミなどがいい例だ。

「あの状況で引く行動ができる……尚且つこちらの戦術にも通じているとなるとかなり厄介な相手だね」
「少なくともジュリウスよりも理性的なのは確かですね」
「一々俺を引き合いに出すのはやめろ」
「こうでもしなきゃやめないでしょうが」
「漫才はそこまでだ二人とも。久しぶりの大物だ。こりゃ、全員で掛からないとこっちがやられるぞ」

 横一列にならび、神機を構える四人。同時にそれぞれの構えを取る。リンドウは長年連れ添ってきた相棒とも言える神機を肩に担いで。ユウはいつも通りの自然体で、ジュリウスはブラッドアーツを発動できる構えで、仁慈は神機を隠すように身体を半身にした。本気中の本気である。

『諸君、私はサカキ、ラケル女史等と話し合った結果あのアラガミをフェンリルと呼称することにした。できればコアを持ち帰ってもらいたいのだが……それは余裕がある時だけでいい。目的は新種アラガミ、フェンリルの殲滅だ。健闘を祈る』

 神機使いを生み出している大本、フェンリル。その名を冠するアラガミが現れるなんて人類にとって質の悪い冗談だろう。この話、極東であればいつものことで済むかもしれないがそれ以外の地域で出現するようなことがあれば大混乱間違いなし。故にここで絶対に食い止めなければならない。
 そう。誰も見て居なくても、ごく一部の人間にしか認識できなくとも確実にこれは人類に対して大ダメージを与える出来事であることには変わりない。それと対峙するということは疑似的に世界を背負うことと同義である。己が弱い人間であれば耐え切れないであろうプレッシャーをこの四人は平然と背負い込む。なんせ、極東にて世界の命運なんてしょっちゅうベットに上がってくるものであり、もう珍しい賭け金でもないのだ。世界なんて日常単位で救っている彼らからすればありふれた日常の一コマである。

「じゃあ、改めてアラガミ・フェンリルの討伐を開始するぞ!」
「フェンリル対神機使い(フェンリル)か、胸が熱くなるな……」
「どちらかと言えば、イレギュラー対イレギュラーって感じの方がしっくり来るけどね」
「一番手はいただこう―――――疾ッ……!」

 再び一番槍はジュリウス。ブラッドアーツを放てる構えのまま、地を蹴り神機を振るう。すると、先程ユウが放った斬撃のように一度の振りに対して複数の斬撃がフェンリルに襲い掛かる。だが、フェンリルはこれを触手で対応―――することはなく上に飛んで回避、そのまま触手を伸ばすと空中で縦回転を行いつつ降下してきた。
 しかしそれを赦す四人ではない。ユウとリンドウの元第一部隊コンビが攻撃が飛んできていない側面から接近、お互いの神機を振り切る。それも予想で来ていたのか、回転しながらでも横に触手を飛ばして来たフェンリル。リンドウの胆力を以てしてもその触手を振り払うことはできなかった。
 だがここまではすべて前座、本命は―――――

「―――――――!」

 フェンリルよりも遥か上空に位置を陣取っている奴が居た。仁慈と同じ反応ということは、仁慈がアラガミ化したと同義である。――――だが、それでも《《所詮は二番手。こちらには本家樫原仁慈がいるのだ》》
 上空から強襲する際にヴァリアント・サイズの長さを最大にして、先程と同じようにそれら全てのオラクル細胞を捕食形態に移行させる。ワンパターンと罵ることなかれ、捕食形態とはあらゆる装甲を貫通して喰らう防御無視の絶対攻撃―――それが捕食なのだから。

 ―――そもそも、仁慈が何故怖ろしいのか。それは並みはずれた身体能力……ではない。常軌を逸脱した発想とそれを即座に実行する行動力が何よりも恐ろしい能力なのだ。それは別の神機使い達にも言えることだ。極東においてどれだけキチガイかということが実力に直結している場合がある。極東七大キチガイなんて最たる例だろう。彼らはキチガイであると同時に人類最高峰の戦闘力を持っている神機使いなのだから。
 では、例え仁慈と同じ偏食因子を持ち、仁慈と同じような能力を有していてもそれは本人程の強大な壁となり得るのか。答えは否である。ましてやいくら知性があると言っても相手はアラガミ。生まれながらにして絶対の強者。捕食をするもの。そんな彼らに弱い立場から反逆し、アラガミを虐殺し始めた仁慈に近づけるはずがないのだ。

「喰らえ」

 直前でフェンリルが気付くがもう遅い。既に仁慈が構えた捕食形態の神機はフェンリルの身体を捕らえており脱出はほぼ不可能である。尤もフェンリルはそれでももがき、自分が背負っている触手を操る器官を犠牲に全体の捕食からは逃れたのであった。
 しかし、その姿は初めに見たときのような余裕は見られない。美しい銀色の毛並みは赤く染まり、身体を支えている足も震えている。

「■■■■■■■■■■■ーーー!」

 それでも、己が不利と理解していてもフェンリルは鼓舞するかのように吼え、自分のオラクル細胞を狂う様に働かせた。無理な進化を行うが故に身体から血液が飛び出し、体格も歪んでいく。ここで思い出されるのは嘗ての終末捕食、アルマ・マータである。様々な形態変化を及ぼしたあれを思い出した仁慈とそれを察したリンドウは一目散に変形しようとしているフェンリルに襲い掛かった。ワンテンポ遅れてユウが飛び出し、ジュリウスがユウの後方へと続く。

 接近する四人のキチガイを前にしても、フェンリルはその巨体を動かすことはなかった。ただひたすらに己の変化に細胞をつぎ込んでいく。仁慈に食い散らかされたはずの触手も再生すると同時にむしろより強固に、より数を増やして再結合を行っていた。それは既存のアラガミから考えると驚異的な結合力だった。不死身のアラガミ、ハンニバルとはまた別のベクトルで驚異的な生命力を持っていると言ってもいい。並みの神機使いには脅威となるだろう。

 しかし、この時、仁慈達は気づいたのだ。反応は仁慈と同じ能力も既存のアラガミを大きく上回る高スペック。これを神機使いをアラガミに変えてみると確かに仁慈と瓜二つの存在と言ってもいいだろう。だが前述した通り、仁慈を相手に―――いや、極東支部の上位陣神機使いのを相手にする際に最も警戒するべきなのは常識から大きく逸脱した行動なのだ。それがあるからこそ、彼らはこの世界の絶望にも鼻歌交じりで戦う抜くことができる。
 フェンリルが仁慈達の行動を読めていようとも、彼らは分単位で己を更新しすることができるのだから。

 フェンリルは自身の身体を改造しているが故に動けないのか、自らの身体を動かさない攻撃方法を取った。再生したばかりの触手をウロヴォロスのように地面へと潜らせると、その位置を気取られないまま近づいてくる仁慈達を狙い撃つ。
 しかし、そんな攻撃アルマ・マータから似たようなものを既に受けているのだ。一度見たような攻撃に引っかかるキチガイ陣営ではない。ジャンプによる回避なんて容易なことをせず、むしろ地面を裂いて突き進んでくる僅かな音を聞き取り触手の速度と場所を割り出して回避を行っている。常識はずれ?そんなことは誰もが分かっている。常識として考えられない行動を連発するからこそのキチガイなのだ。
 ここでリンドウが何かに気づいたのか仁慈やユウ、ジュリウスを先に行かせ速度を落とす。そして自分を狙って地面から生えて来た触手を神機を地面に刺してフリーとなった腕で抱え込むようにして掴みあげる。

『え゛っ……リンドウ……?』
「俺、まだるっこしいのは苦手なんだよなぁ」
『それは知ってるけど……ちょっと待って。いくら君でもそんなことは……』
「そぉら!!」
『ほんとにやった―――ッ!?』

 一部の人間にしか聞こえないレンの声が木霊する。最早悲鳴としか言えないようなものであったが、残念彼の声は誰にも届かない。届いたとしても彼の感性に近しいものなどは居ないのだからこの驚愕も共有できないだろうが。……しかし、神機に宿った意思という異常極まりないものが一番常識的というのはどうなのだろうか。それに対してツッコミを入れる者は誰一人としていなかった。

 繋がっていた触手を急に強い力で引っ張られたことにより、フェンリルはその態勢を崩した。足を崩し、その動体を地へと接触させる。余りにも在り得ない力。胆力で越されることはないだろうと高を括ったが故の押し負けによってフェンリルは一瞬だけアラガミには過ぎたくらい高い知能を放棄する。 
 そして、それこそが彼最大の過ちなのだ。彼の優位性はアラガミには到底備わっていない知能と予測能力であり、それを捥がれてしまっては翼の捥がれた鳥のようなもの。それでも己が持つ偏食因子の名に懸けて。このままやられることは許されない。

 フェンリルは自分の触手でリンドウに拘束されている触手を断ち切ると、一つ咆哮を上げてその場から跳躍しようとする。だが、其れよりも先に彼の肢体を撃ち抜く影があった。音すらも置き去りにするような早打ち。それを行ったのは銃身にスナイパーを装着している仁慈である。彼はここ最近極東のゴルゴことシエルが開発した新たなブラッドバレッドを使い、肢体を撃ち抜きそれと同時に地面へと縫い付けたのだ。これは仁慈が偏食因子、オラクル細胞に対して絶対的な強制権がある故に可能となる現象である。
 自身の身体が動かせないことを悟ったフェンリルは触手をなんと神機の形に変形させ、仁慈達に殺到させた。いったいどこで何を捕食すればそんな状態になるのかというツッコミはさて置き、この集中飽和攻撃に対策を取ったのはジュリウス。彼は戦闘狂であり普段から真っ先に斬りかかる姿からバーサーカーと間違われることが多いのだが、実は遠距離での腕前も確かなものである。
 ユウが神機を振るい、作り出した道に身体を滑り込ませると、自分に殺到する神機型の触手をむしろ道としてフェンリルの本体に近づく。そして、射程圏内に捕らえたのだろう。一定の距離で神機を銃形態に変形させると寸分の狂いもなくフェンリルについている二つの目玉を撃ち抜いた。
 唐突に視界を奪われたフェンリルは触手の制御が甘くなる。その隙に合流したリンドウ。やる気満々のユウ。そして再び神機の形態を変化させた仁慈とジュリウスが一斉に懐に駆け出した。

 やるべきことは唯一つ、目の前のアラガミの駆除それだけである。神を喰らう者は二体も要らず、自分たちの役目であると示すように。二度とこのようなアラガミが現れないように、徹底的に喰らいつくす。

 そこから決着がつくまでそう時間はかからなかった。