もしかしたらキャラが違ったりもするかもしれませんが、きっと年齢を重ねた結果ですので気にしないようにお願いいたします。
……いやー、感想が欲しいナー(チラッチラッ
感想が来ればこの続き書く気が起きるかもしれないなー(チラッチラッ
その日、人類最後の砦……否、人類を逸脱した者たちが集う世界の最前線である極東に衝撃の噂が駆け巡った。その内容は、とっくの当に人間どころか並みの神機使い達すらも超越した極東支部の神機使いでも恐怖にその顔を引きつらせ、自室の端っこで頭を抱えてうずくまる始末である。
さながら世界の滅亡を目の前にした人々の如く、あるいはとっくに忘れてしまったアラガミたちに対する恐怖を思い出したようであった。
その噂の内容とは、以下の事である。
近々、極東であるミッションが発注される。それはヨハネス支部長直々の命令であり、極東の神機使いでも彼が信頼を寄せたものにしか受けさせないというものである。別にこれだけであれば珍しいことはない。嘗ての極東支部第一部隊隊長の雨宮リンドウも似たようなミッションを受注していたのだから。しかし、今回はそうもいかなかった。それは何故か?……それは、支部長が指定した人物にあった。
――――このミッションを行うものは以下の人物である。クレイドル所属、雨宮リンドウ、神薙ユウ。極東支部所属ブラッド隊隊長樫原仁慈並びにその隊員であるジュリウス・ヴィスコンティの四名である。
そう、極東支部に居ればその存在を知らない神機使いはいないと言われている極東七大キチガイたちの内上位四名がそのミッションに選ばれているのだ。彼らは一人でも付近の地区のアラガミを狩りつくすことができる生粋の狩人にして根っからのキチガイである。溢れんばかりの才能をアラガミ討伐に傾倒させ、人類が届かない―――むしろ届きたくもない領域に足どころか体全体でどっぷり浸かっているような連中なのだ。
世界からの評価が総じて頭おかしいと表現される極東の神機使い達にここまで言わせるという段階でその評価は推して図るべきである。故に極東支部の神機使いは誰しもが例外なく嘗て何度もこの極東で起ころうとしていた終末捕食よりもやばいものが来たと半狂乱になってしまったのだ。
今回の話はそんな絶望的な状況(少なくとも極東の神機使い達にとっては)からはじまる。
―――――――
「仁慈。時間だ、行くぞ」
「はいはい行きます、行きます………なので書類をその辺に捨てないでください。後で片付けるの誰だと思ってるんですか?」
「……?仁慈に決まっているだろう?」
「ぶっ殺すぞ」
全くもうこの元隊長はいつまでたっても空気が読めないんだから……。何を言っているんだと言わんばかりの表情を浮かべるジュリウスに手加減なしの鉄拳を撃ち出し、意識を素早く刈り取ってから空中にフライアウェイしそうになっていた書類を回収。俺の机の上に束ねておく。まだ半分くらい残ってるのに……。というか、フェンリルは事務員も雇うべきだと俺は思うよ。隊長格がこれを兼任とかおかしいでしょ。極東だけ?
ジュリウスの首根っこを掴んでずるずる引きずりながら部屋をでて支部長室へと向かう。時々道を曲がるときにジュリウスの身体が角にぶつかったりしてしまうけれどもこれは不可抗力であり故意ではないのでノーカン。
「……あれ、仁慈。珍しいな、ジュリウスと一緒なんて」
支部長室に向けて歩いている途中でコウタさんに会った。ここ最近―――正確に言えば俺達が今から支部長室へ行く理由となっているミッションが来てから異常に沈んだ極東支部の中で、普段通りを貫き通している数少ない神機使いの内の一人である。普段常識人枠に収まりがちな彼ではあるが比較対象がおかしいだけで十分この人もおかしいのだ。実際、傍から見ればジュリウスを引きずっているだけにしか見えない俺に向って一緒にいるだなんて言葉で片付けるところにも現れている。
「こんにちはコウタさん」
「……なんかお前に敬語を使われるのは変な感じだなぁ……」
「本来はこれが普通なんですよ」
むしろ過去に行き、同期として神機使いやっていたこと自体が異常なのだ。元々俺はブラッド隊のメンバーであり極東支部第一部隊ではなかったのだから。
「うーん。まぁ無理強いするのもよくないよな。仁慈の好きな方で話せばいいと思うよ」
「アリサさんは許してくれないんですけどね」
「あ、うん」
アリサさんの話を出すとあからさまに目線を逸らしたコウタさん。気持ちは痛いほどよくわかる。怖い話なんて進んでやるような人でも聞くような人でもないし。そんなことを思いつつ、少しだけコウタさんと談笑した後に再び目的地に向かって歩き始めた。途中、ジュリウスが起きそうになっていたので今度は首の後ろに手刀をぶつけて再び眠ってもらった。
ノックを三回ならして、中からの許しを得るとそのまま中へと入る。どうやら俺とジュリウスが最後らしく既に支部長室にはリンドウさんとユウさんの姿があった。リンドウさんは相変わらず能天気な顔で金の籠手を着けた腕を上げて俺を呼びかけ、ユウさんも笑顔で迎えてくれた。
「おう、来たか仁慈」
「久しぶり、仁慈さん」
「さん付けはやめてくださいよ。……いや冗談抜きで」
本来のこの世界では俺の方が後輩なのである。しかもユウさんは極東にこの人ありと言われたぶっちぎりでやばい神機使いなのだ。さん付けさせてるなんて知られたらユウさんのファンに殺される。
「……どうやら揃ったようだね。若干一名寝ているようだが」
「あ、直に起こします」
支部長に指摘されたので意識を落としたジュリウスの頭を地面に叩きつける。そうすることによってジュリウスには快適な目覚めが約束された。死人すら目覚めると評判の起こし方法である。やってほしい人は限界まで俺のストレスを貯めて、その後止めに挑発行為を行うと条件が満たされ、発動する。
「ごはっ!?………仁慈、流石にこれはないんじゃないか?」
「次はないと思ってください。いや、次はない」
「これで軽い方なのか……」
戦いなら大歓迎なんだがなぁと呟くジュリウスに白い視線を向けた後に支部長に向き直る。中身はともかく、これだけの面子を集めるにはそれ相応の理由があるのだろう。自分で言うのもなんだけど、誇張なしで一人一人がその辺にある支部と同等の戦力と言っても過言ではないだろう。それを四人も集めた……ということは新種のアラガミが現れたとか、既にそれがとんでもない数集まっているとか二つの終末捕食が極東に向っているとかそんな感じのものなんじゃないかな。
「―――今回諸君に集まってもらったのは他でもない。実力、人柄ともに信頼できる君たちにしか頼めない仕事を持ってきたのだ」
まぁ、座り給えと俺達を席に案内しながら支部長はフェンリルのエンブレムの近くにある椅子に腰かける。俺は来客用のソファーに腰を下ろす。その正面にはユウさんとリンドウさんが、ジュリウスは近くの壁に寄りかかった。
「んで、俺達を集めた用件はなんだ支部長。フェンリル本部でも攻め落とそうってか?」
「それはリンドウさんの願望じゃないですかね……」
どうやら自分たちの活動を支援してくれない本部に対して思うところがあるらしい。本部襲撃はやめて差し上げて。何時かエリックさんがその辺スッパリと変えてくれると思うから。多分。
「フェンリル本部の襲撃なんてくだらないことではない。もっと重要な案件だ」
顔の前で手を組み、こちらを睨むような目線を送る。どうやらマジもマジモードらしい。ここまで真剣なのは嘗て対峙した時以来ではないだろうか。
「君たちを呼び出した件―――それは……ソーマと喧嘩したのだが、どうやって仲直りすればいいのか、意見を貰いたい」
「はい。解散です」
「お疲れさまでした」
「おう、お疲れー。さて返ってレンの様子を見に行くか」
「仁慈、余った時間俺と一緒に狩りに行かないか?」
「書類仕事があるのでギルさんでも誘ってください」
みんな即決だった。
それはそうだ。深刻そうな表情から繰り出されたのは息子とのかかわり方を若干間違えた親父の情けない泣き言だったのだから俺たちが協力する理由はない。むしろ、神機使いである俺達を何故呼んだのかとツッコミを入れたくなるレベルだ。もっとましな人はいなかったのだろうか。
「ちょっと待ちたまえ、いや待ってくださいお願いします。もちろんこの件は四分の一くらいは冗談だとも。本当の本題があるのだ」
「どうしてそっちを先に言わないんですか、支部長」
ユウさんの言葉は全員の代弁だったと思う。
その問いに対する答えはこちらもこちらで支部長にとっては同じくらい深刻な問題だったらしい。……リンドウさんだけ、何時か俺もああなるのか……みたいな視線を向けていたことが印象に残った。
「オホン……では改めて君たちを呼び出した理由を説明しよう。……問題は螺旋の木の付近で発生している。数日前、あの木を調査していた調査隊の行方が唐突に途絶えた。レーダーなどに反応はなく、アラガミに襲われたのかそれとも事故なのか……それすらも判別がつかないとのことだ」
「なら何故我々が行くことになるのですか?今の話からすれば、向かわせるべきは神機使いではなく捜索隊では?」
「言いたいことはもっともだ。しかし、場所は螺旋の木の近く。今も尚、終末捕食が喰らい合っている領域だ。レーダーにも気取られないアラガミが唐突に発生したとしても不思議ではない」
言いたいことは分かる。アラガミの進化速度は異常の一言に尽きた。個体は同じでも性能だけは段違いに上がっていたり、短い期間の間に様々な種類のアラガミが発見されたりと上げれば上げるだけキリがない。そういった可能性を見て、どんな状況でも対応できそうな人たちを集めて言い方は悪いけど人柱にしてやろうということか。
「ヨハネス支部長。その話、少なくともジュリウスと仁慈は受けます」
「勝手に巻き込むな。了承を取れ。行きますけども」
螺旋の木を作り出した張本人としてはあの付近のことには多少の責任を持つ。それにこのキチガイバナナは放っておいても絶対に行くだろう。なんて言ったって目が輝いているのだから。
俺達の様子にユウさんとリンドウさんも苦笑しながら同行の旨を出した。……いや、リンドウさんは仕方ないなって表情だけどユウさんは若干笑ってる。そういえばあの人もジュリウスと同類の人類だった……。
「……とりあえず、変に暴走しないようにだけ見守ってましょうか」
「そうだな。……にしてもお前さん、随分苦労してんだな。確かブラッド隊では一番年下じゃなかったか?」
「まぁ……。けど、正直ここまで来れば年齢とかは関係ないですよ」
「……今日帰ったらおごってやるよ」
「どうも」
――――――――
「これはまた豪勢な面子ですね。流石です旦那」(シュコーシュコー
久しぶりに見たベーダーは相変わらず変わっていなかった。あの時本部にすらつけていったマスクをつけて妙な三下口調でこちらの様子を見ている。彼の年齢が全く分からない。声にも何故か機械処理が入ってるしシルエットは基本的に後姿―――それも頭しか見えないから確認もできないし。マジで謎だ。
「……仁慈、知り合いか?」
「よくお世話になっている操縦士さん。腕は保証できますよ」
「そこまで言われたら気合を入れないわけにはいきませんね……あ、そろそろ目的地の上空っす」
「早いな、オイ」
パーフェクトだベイダー。
流れるような操縦と相変わらず時間を切り取ったかのような……キンクリでもしたかのような素早い操縦技術であった。
そこから高度を下げ、神機使い達が飛び降りても問題ない高さまで行くことができた。俺達は顔を見合わせると一人ずつヘリから飛び降りていく。
「終わったらお知らせください。迎えに行きますから」
「よろしく」
俺の僅か上から遠ざかっていくプロペラの駆動音を聞きながら地面に意識を向ける。何度も何度も繰り返してきたため特に問題もなく着地すると一先ず周囲を見渡した。どうやら割かし螺旋の木に近いところに来たらしく、木の根っこが幾重にも地面に絡みついていた。
しかし、アラガミの気配はない。新種は疎か、小型アラガミの気配すら存在していなかった。どうやら他の人たちも同じらしく全員無警戒とまではいかないモノのそこまで張りつめてはいない。
「どーやらこの近くにはいないようだな」
「ですね。けど、今までの経験から言って新種は居そうな気がしますよリンドウさん」
「ユウもそう思うか?……極東は新種の宝庫だからなぁ」
「どうしますか?一先ず分かれますか?」
「一応ここは今も終末捕食が行われているところですし単独行動は得策じゃあないと思いますよ」
ジュリウスの言いたいこともわかる。けれど、ユウさんが言った通りここは螺旋の木の近くであり何より極東支部なのだ。新種のアラガミの一匹や十匹余裕で出てくることだろう。
そうして四人とも行動を共にして、探索行動に勤しんでいたのだが、三十分くらいしてもアラガミを見かけることはなかった。もちろんそれは新種に限った話ではない。
流石にこれはおかしい。ここは確かに終末捕食が行われている場所だが、アラガミは元々この終末捕食を起源としている節があると思われる。いわば産みの親とでもいえばいいのだろうか。サカキ博士もラケル博士も同じことを考えていたらしい。それを前提にすると、ここは母体となっておりアラガミがいつ出現してもおかしくはない状態なのだ。にも拘らず、小型アラガミの一匹も見ることができない。……つまりそれは―――
そこまで思考を巡らせたところで、俺の生存本能に何かが触れ、そのまま反射的にその場から飛退いた。普段であれば首を傾げられるかもしれない行動だが、問題ない。此処に居るのは普通じゃないやつらばかりであるし、何より咄嗟に同じ行動を取っている。これはこの場に置いて正しい対応だった。
俺の考えを肯定するように先程まで居た場所に大きな影が出現する。気配もなく現れたそれはまるで瞬間移動でもしてきたかのようであった。
「おい、支部長。アラガミの反応はあるか?」
『待ちたま―――これは!?』
リンドウさんの問いかけに支部長は驚愕の声を上げる。あの支部長がここまで露骨に驚きを露にするのは意外に珍しいことだ。まして、今は完全なるシリアスモード。普段の逆モードならともかく、これで驚愕するということはただ事ではないということである。
支部長からの返答を待っている間、俺は目の前に現れたアラガミを観察する。全長はマルドゥークと同じくらい、そのフォルムもマルドゥークに似ており、狼を模しているかのようにも思える。カラーリングも身体は銀色、瞳は赤い。予想として考えられるのはマルドゥークの新種とかかもしれない。要所要所似ているし。
しかし、マルドゥークやガルムという系統に共通してみられるガントレッドの類は装着されていなかった。代わりに武器となるのだろうか、背中から触手のようなものが複数本生えており、その先端は鎌のようなフォルムを描いていた。
「―――――――」
『驚かないで聞いてほしい。目の前に居るそのアラガミは、』
支部長の声が耳に届く。
だが彼が言葉を言い切る前に目の前のアラガミは俺達に襲い掛かってくる。初速は素早く無駄のない動きだ。背中の触手は独立しているのかバラバラにうごめき俺達を襲う。それにどう対応しようかと考えを巡らせていると、ようやく支部長の返答がきた。
『―――
「「「「……はっ?」」」」
最後の最後でぶっこんで来たなオイ。
用語説明
極東七大キチガイ
極東支部に置いて、最もぶっちぎり人類から逸脱したとされる七人の神機使いの事。その基準は様々だが大体が満場一致で認める位には頭おかしい連中である。
一人目雨宮リンドウ
二人目神薙ユウ
三人目ソーマ・シックザール
四人目アリサ・イリーニチナ・アミエーラ
五人目藤木コウタ
六人目ジュリウス・ヴィスコンティ
七人目樫原仁慈