後、活動報告でアンケートもどきやってます。
「な、何だと!?どうなっている!?」
特異点たるシオを摘出されたにも関わらず、ノヴァはその動きを止めていなかった。先ほどまで確かに消えていた光は現在、特異点をそのうちに宿していた時と変わらくなっていた。
「どうした、親父」
「ソーマが話しかけてくれた……だと……?い、いや、今はいい。あれを見ろ!」
ヨハネスが指さした方向にその場にいた全員が視線を向ける。当然そこにあるのは今も元気に活動を続けるノヴァの姿である。
これにはさすがに度肝を抜かれた。
「アイエェェェェエエ!?ノヴァ!?ノヴァウゴイテルナンデ!?」
「えっ?だって特異点のシオはここにいるのよね?」
「何が起こっているんでしょう?」
「うわー……やっぱりヨハネス支部長を集団でボコっただけじゃ終わらないかー……」
「どういうことだ!?答えてみろヨハネス!」
「私知らない。というか、呼び捨て!?えぇい、こういう時はペイラー!」
「そんなキラーパスは求めてなかったよ。……仁慈君、君なら何か知っているんじゃないかね?
「知るわけないじゃないですか。基本脳筋ですよ?というか、ついさっきまでノヴァと同化していたシオなら知っているんじゃないですか?」
仁慈の言葉に皆一瞬言葉を失った。だが、それはないだろうと誰もが考え直した。特異点となっているときの彼女の意識は極めて薄く、自身の身に起きていたことなどは覚えていないだろうと考えたからである。
「知ってるよ」
『えぇぇぇえええええ!!??』
シオまさかの知ってます宣言。
それに対して仁慈以外の面々は自分のキャラをかなぐり捨てて驚きをあらわにした。一斉にシオの方に駆け寄り、体を触ったり頭を軽く叩いてみたりした。あまりに失礼な所業ではあるが、第一部隊にとって共通の妹(少々馬鹿っぽい)が唐突にこんなことを言い出したので、ノヴァに取り込まれていた影響ではないのかと心配になっているだけなのだ。多分。
「みんなして何だその反応ー。シオちょっと傷ついた……」
頬を膨らませてジト目を向けてくるシオに思わず駆け寄った第一部隊の面々+αはバツが悪そうに視線を逸らす。
一方、彼らとは違ってシオに聞こうと言い出した本人である仁慈は、彼らを無視してシオの近くにしゃがんで口を開いた。
「で、どうしてノヴァが動いていると思う?」
「んー……私が中に入っている間に、特異点の性質をコピーされたんだと思うぞ?」
元特異点同士の会話を聞いていた野外の反応は、
「シオが、ものすごく頭よさそうに話している」
「……もうすでにコウタより頭よさそうですよね」
「うるさいよ!」
「成長しやがって……」
「ソーマ、それでいいのか……?」
「素晴らしい。彼女の成長がここまで早いとは思わなかった!!」
「博士ちょっと静かに」
世界の危機が目の前に迫っているにも関わらず、この反応である。ほんとに緊張感がないな、こいつら。
「特異点の特性コピ……か……。オラクル細胞の性質を見る限り、無理ではなさそうだけど、本当にそんなことがあり得ると思うか?」
「シオ、ノヴァと一緒になったときに、いろいろ掠めてきた。その中に特異点は本来一個だけって、あった」
「それはそうだろうね。終末捕食を起こすことができる要因をそれこそ複数おいてしまうと、いずれは終末捕食同士で激突するようなことになることが考えられてしまうからね」
急に話に入り込んできたサカキがいう。
どうやら野外のくだらない話し合いは終わったらしく、頭がいろいろな意味でおかしい方々も一緒に考察をしてくれるようだった。
「その通りだ。だからこそ、私は彼女を見つけるのにかなり苦労した。本当、君たちが極東に来る前に捕まえていれば計画は確実に成就していたのに……」
「でも、ノヴァの母体を作ったコアを集めたのって主に仁慈さんとユウさんですよね」
「………」
「おい、こっち見ろよ」
視線を逸らすヨハネスに実の息子であるソーマの鋭いツッコミが突き刺さる。しかし、その雰囲気はどこか前よりも柔らかい感じである。
「だったらどうして、そうなったんだシオ?」
「なんていうんだろー……私が引きはがされることが分かっていたかのような感じだったぞー。ばっくあっぷ?とかそんな感じ。多分原因はジンジ」
「ファッ!?」
「なるほど。アラガミでも到底かなわない存在である仁慈君を抹消するために保険をかけていたということか。……これは、アラガミこそ地球の意思という仮説が現実味を帯びてきたね」
「終末捕食が地球環境のリセットの役目を担っているということを突き止めた時点でそのようなことだとは思っていたさ。……さすがに人ひとり葬るために、もう一つ特異点を作り出してそれを直接ノヴァにシュゥゥゥー!!するとは思ってもいなかったがね」
発言はなかなかあれだが、その内容はもともと技術屋としてサカキと肩を並べていた人物にふさわしいものだ。ほかの人も彼の言葉に大きな驚きと、少なからずの尊敬を込めていた。
しかし、そんな雰囲気も長くは続かない。なぜなら、彼らが現在いるエイジスが大きな音を立てて揺れ始めたからだ。
「しまった!呑気に話している場合じゃなかった!」
「そういえばノヴァはさっきからずっと動きッパだったね」
「そんなのほほんと言っている場合じゃないわよ!?」
そう、エイジスが揺れているということはそれすなわちエイジスに絡みついているといっても過言ではない状態のノヴァが動き出そうととしているということである。簡単に言うと、今から終末捕食が起こりそうでマジやばい。
「くっ、皆私が用意しておいた宇宙船に早く乗り込むんだ!」
エイジスの通路の一つを指さしながらヨハネスは叫ぶ。だが、仁慈とユウは自身の得物である神機を担ぎ上げるとノヴァの中心である女性の頭のような部分に歩き出した。そんな彼らに続いてソーマとアリサも歩き始める。
「何を考えている!?早く宇宙船に……っ!」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいヨハネス支部長」
「これが落ち着いていられるわけがないだろう!?相手は終末捕食、発動はそれ自体が世界の崩壊と同義なのだぞ!?」
「大丈夫だ、問題ない。どこかの刺し穿つ死翔の槍だって放った時点で心臓に突き刺さるように決定づけされるらしいが、全然当たらないし」
「なんの話だ!?」
想定外の事態、未来に希望を見出した瞬間に発動する終末捕食。とことんタイミングが悪い自分の運命を呪いつつ、何としても仁慈を止めようとする。
彼は次世代に必要な人材だ。それはソーマの友人であるということもあるし、彼ならどうにかしてくれるという盲信にも似た確信を抱かせる男だからだ。だからこそ、初めから勝てないような勝負に行かせるわけにはいかないと彼は考えていた。
ヨハネスの考えと言葉はまさに正論。言った本人がこの事態を引き起こしたことをか差し引けば、100人中100人彼と同じ言葉をかけるだろう。
だが、仁慈はそんなヨハネスの言葉に穏やかな微笑みで口を開くのだった。
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ヨハネス支部長が焦りすぎてもはや誰これ状態な件について……あ、いつも通りですね。それはともかく、まぁ彼の言い分はわかる。というか、ノヴァに正面切って喧嘩売ろうとしている俺たちが異常なのだ。
ノヴァとは、それ自体は嵐や地震といった現象と同じに過ぎない。唯、規模が世界規模なだけである。だからこそ、これを止めるというのは並大抵のことではない。人類は自然現象の予知予測はできても未然に防ぐことなど出来はしないのだ。本来であれば。
だが、ここで思い出して欲しい。
ノヴァは確かに現象だが、他の現象とは違う点がひとつだけある。そう、特異点だ。ノヴァという強力な現象を引き起こすには特異点という膨大な偏食因子を制御する特異点という核が必要なのだ。つまり、逆に考えれば
ノヴァとはアラガミがお互いに喰らい合った末に生まれるアラガミとされている。ということは当然ノヴァもアラガミなのだ。
「だから支部長は、信じていてください。俺たちを……
俺の言葉にヨハネス支部長は普段からは考えられないくらいに間抜けな顔を晒す。しかし、だんだんと意味を理解してきたのか、暫くしてからフッと微笑んだ。
「……そうだな。今まで、親らしいことを何1つとして出来なかった私だが、ここで1つとらしいことをしようじゃないか。……行ってきたまえ、
その言葉に、全員が頷いて一気にノヴァの方へと駆けていく。そこには、満面の笑みを浮かべて、自身の体の一部を神機に変形させたシオもヤケクソ気味になっているコウタさんとサクヤさんも一緒だ。あの2人も覚悟を決めたらしい。正直助かる。人では多いほうがいいからな。取り敢えず、
「うおおおおおおりゃぁぁあああ!!」
特異点よこせ。
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ヨハンは彼らを見送った後、とても嬉しそうな顔を浮かべだ。きっと彼にとって今の仁慈の言葉はこれ以上ないくらいの救いになったはずだ。
人類の存続を願い、ひたすら行動を続けてきた彼にとって、神機使いを作り出すマーナガルム計画は成功でもあり失敗でもあった。自身の大切なものを一気に失って作り出した神機使いという存在は人類の滅亡を遅らせるためだけの効果しか持たなかったからである。
だからこそ彼は一度人為的なリセットを計画したのだ。
が、今はどうだろう。大切なものを失い、得た神機使いは今や人類の希望と言えるものまでになった。彼らがいれば、この世からアラガミが消え、平和な世界が訪れるかもしれない……そう思わせるまでになった。人生最大の過ちとヨハンが思っていたであろう出来事が、十数年の時を経てついに成就したのだ。
「私は、この一点においては負けを認めるよ、ヨハン。確かに君のやり方は納得できなかったが、成果は認めざるをえない」
「………あぁ、そうだな」
彼の回答を聞いた後、自分たちは彼らの邪魔にならないよう進言する。
間髪入れずに頷かれると思っていたが、ヨハンは私の予想を超えた回答を出した。
「……いや、私も戦う」
「な、なんだって!?」
我が耳を疑った。まさか、ヨハンがそんなことを言うなんて考えてもいなかった。
バカなことはよせ、と急いで私は止めに入る。しかしヨハンは無駄に胸を張りながらドヤ顔で口を開いた。
「ペイラー、私がなんの準備もなしにアルダノーヴァを機動せたと思っているのかね?」
「ま、まさか……」
「実はあのアルダノーヴァは……遠隔操作が可能なのだよ」
自身満々に言い切った彼を見てやはり、ヨハネスも極東の支部長なのだなと、仁慈君のような感想を抱いた。
ヨハネスも伊達に極東にいないってことです。