神様死すべし慈悲はない   作:トメィト

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続きです。
頭を空っぽにして読んでネ☆


物語はあっけなく……

 樫原仁慈の登場により、一触即発の雰囲気が霧散する。というか、ヨハネスと融合した人工アラガミ、アルダノーヴァがその場から一歩だけ引いたようだった。気持ちはわからなくもない。人工アラガミだとしても中にはヨハネスがいる。彼がどれだけ理不尽で無茶苦茶な実力を持っているのは数多くの難題を突き付けたヨハネスが一番よく知っていたからである。

 

 「間に合った?」

 

 「……そうね。これ以上なくらい、いいタイミングだわ」

 

 「むしろ狙ってるんじゃないのか?」

 

 「仁慈さんキタ、これで勝つる」

 

 「約束された勝利のキチガイ(樫原仁慈)さん、遅かったですね」

 

 「いいところに来た。ちょっと親父殴るのを手伝え」

 

 「おぉう。なんだこいつら」

 

 帰ってきた反応の混沌さに動揺する仁慈。アルダーノヴァはその隙をつき、女性体の細い腕からオラクルの弾を連続で射出した。

 不意打ちとは世間一般には卑劣な行為として認識されている。しかし、こと戦いにおいて、人に嫌われ、さげすまれる行為は軒並み有効的なのである。その行いを誰も責めることはできない。

 最も、今言ったことは一般論であり、常識の外にいる第一部隊の面々には全く関係のないことだ。不意打ちにしたって同じことがいえる。

 軽く談笑タイムに入っていた彼らは一瞬で意識を切り替え、先ほどの流れからは想像もできないくらい鋭い目つきで己が獲物を振るう。ユウ、アリサ、ソーマ、仁慈は自分に向かってくるオラクル弾を切り裂き、銃型の神機使いであるコウタとサクヤはほかのすべてのものを打ち落として逆に反撃に出ていた。ヨハネスノーヴァ涙目である。

 

 『クッ……君たちが常識の外側に存在していることは既に理解していたつもりだったが……まさか、ここまでとは……。これでもこの人工アラガミ、アルダノーヴァはその名のとおりノヴァのオラクル細胞を使用したものだというのに……』

 

 アルダノーヴァと同化したが故に、電子音を通したような言葉でそういうヨハネス。彼は完全に測り損ねていた。彼らの実力を、世界の中でも指折りの激戦区で戦ってきた彼らのポテンシャルと、さらに拍車をかけた未来からやってきた仁慈の技術を吸収して身に着けた強さを。

 特に、仁慈に至っては既にノヴァと一戦交えており、真正面から終末捕食を無力化した経歴も持っている。

 ぶっちゃけ、ヨハネスに万が一の勝ち目もなかった。

 

 

 ―――――――だが、そんなことはわかっている。自分の不意打ちを受ける前に接触禁忌アラガミを倒した姿と不意打ちの対処で自分がかなう相手ではないとヨハネスの優秀な頭脳は結論をたたき出している。それでも、あきらめるわけにはいかないのだ。例えそれが、レベル1の勇者にラスボスとその幹部を連れてきて戦うような戦力差があろうとも。人類の未来と、何より自分たちの都合で今までの生を犠牲にしてきたソーマのためにも、彼は勝たなければならなかった。

 

 それこそが、彼自身と今は亡き妻に誓ったことだからだ。

 

 『だが、そんなことであきらめるくらいなら、私は今ここにこの姿で立ちはだかってはいない。すべてを飲み込む濁流を、小石の防波堤で防げるとは微塵も思ってはいないが、せめて時間くらいは稼いで見せよう―――ッ!』

 

 自身の持てる覚悟をすべて載せて、ラスボス(ヨハネス)勇者(キチガイ)達に、立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、残念なことに、奇跡はめったに起こらないから奇跡なのである。

 一対一ですら厳しい人が数人いるのに、それらを含めたすべてを相手取るのはさすがに無理だった。

 

 こうして、ヨハネスは3分と経過することなく倒されることとなってしまった。

 

 

 

 ―――――――――

 

 

 『うっ……グッ……今、私の勇姿、が……丸々カットされた、気が……』

 

 「気にするな」

 

 「おら、そんなことどうでもいいからさっさとシオをあれから引きはがせ」

 

 『………うちの息子がシオキチ過ぎて妻に顔向けできない』

 

 「ソーマェ……」

 

 「ドン引きです」

 

 「ま、まぁ、妹みたいな子が心配で仕方ないとすれば……ね?」

 

 「ソーマ……惜しいやつを亡くした……」

 

 シリアスとは何だったのか。

 支部長の決意とか、世界の崩壊を止めるための熱い戦いとか、そんなものはなかったといわんばかりの会話が繰り広げられる。

 ただ一人、実の息子であるソーマだけは動かなくなったヨハネスノーヴァに蹴りをゲシゲシ蹴とばしている。しっかりと男神の方のみを。それに対してヨハネスは『うちの息子が反抗期過ぎて辛い……』とこぼした。だが、今まで自分が行ってきた所業を思い返し、それも必然と悟った。

 

 『ぐふっ……ソーマ、我が……息子よ……いい加減蹴り入れるのやめて(切実)』

 

 「いいからさっさと引きはがせオラァ!」

 

 『ぐっは……!?……………(チーン』

 

 「ヨハネス支部長が死んだ!?」

 

 『この人でなし!』

 

 ここまでテンプレ。

 最後までやり切って妙に満足した第一部隊の面々。だがしかし、ヨハネスは割とマジで限界だった。

 ただでさえ、人工アラガミとの融合という無茶をやらかしたのにその上、人類でも指折りの実力者(キチガイ)達にぼこぼこにされたのだ。当然と言えば当然……むしろ、彼らと一緒に悪ふざけしている方が異常なのである。本人は大真面目だが。

 いつの間にか、安全地帯からこちらに戻ってきていたサカキがヨハネスに問いかけた。

 

 「君の体もそろそろ限界なんじゃないかね?」

 

 『………そう、だな。唯でさえ、己の限界を超えたことをやらかしたのだ。それに加えてあそこまで徹底してボコボコにされては、こうなるのも道理だろう』

 

 「なら引きはがしますわ」

 

 『えっ?』

 

 ここから、長年の友人たちによる最後の語りが始まるかと思いきや、全員の度肝を抜くようなことを仁慈が言い出す。

 周囲の反応なんてなんのその。マイペースに歩みを進めた仁慈は、動けなくなっているアルダノーヴァの男神に近づき、いつもと同じ動作で神機を捕食形態に移行させる。しかし、いつもとは違う部分が一つだけあった。捕食形態の時に出てくる、神機の本体ともいえる黒い口が、今回に限っては赤く染まっていたのである。まさかの色違いに全員が言葉を失う。

 さっきから驚きすぎて全くついてきていない周囲を完全に置き去りにしつつ、仁慈はその赤く染まった口を男神に突っ込んだ。それからしばらく彼は神機の持ち手のところにあるアイテム判別機とにらめっこをしたのち、思いっきり男神から神機を引っこ抜く。

 するとどうだろう。アルダノーヴァと完全に融合したはずのヨハネスが、アルダノーヴァと融合する前と何ら変わらない状態で引っ張り出されたのである。

 

 「なん……だと……?どうやって……?」

 

 「おぉ……!」

 

 「融合解除です」

 

 呆然とする博士×2。

 そんな二人に対して仁慈はどや顔で速攻魔法は偉大と言いながら返した。

 

 ここの人たちは知らないが、彼はかつて特異点として終末捕食を疑似的にではあるが起こしたことがある。その際、終末捕食の中に入って当時の敵であったアルマ・マータを自分の代わりに特異点を制御するための礎にしたことがあった。

 終末捕食の中とはそれすなわち、数多くの偏食因子とオラクル細胞の中だ。それを自由自在に操った彼は、自分の中のオラクル細胞や偏食因子だけでなく、他者のものにまで干渉できるようになったのである。もちろん、それを行うためには並々ならない集中力と様々な条件が重なり合わなければならない……だが、今回はその条件が見事に満たされているのだ。だからこそ、アルダノーヴァとヨハネスを引きはがすということができたのである。

 

 「は、はは、はははは!仁慈君、君は本当に私の予想を軽々と超えてくれるね!!私にとっては実にうれしい存在だよ!最高だ!!」

 

 「サカキ博士のテンションが極まってる……」

 

 狂ったように歓喜の笑い声をあげるサカキにドン引きのコウタ。ほかの面々も、顔の表情がわずかに引きつっている。

 

 「………おい、仁慈。お前のそれならシオを引きはがせるんじゃないか?」

 

 「待て、息子よ。さすがの彼でもそれはないだろう。彼はドラ〇もんではないのだk」

 

 「できるよ。多分」

 

 ソーマの言った言葉をヨハネスが否定しきる前に仁慈が肯定する。その直後、仁慈は軽く自身の両足に力を入れると軽々とノヴァの頭部らしき場所まで跳び上がる。そのまま空中で神機を引き絞ると、戦闘時でも見せないような鋭い目つきでシオの体がくっついている部分を視る。そして―――

 

 「――――――速攻魔法発動!融合解除!」

 

 再び現れた赤い口がシオの体をノヴァから引き抜いた。それと同時に、ノヴァの体についている穴のような部分からあふれ出す金の光がなりを潜める。

 仁慈はそのまま地球の重力によって地面に引きずられていき、ストンと軽々と着地を果たす。

 神機の中からシオの体を取り出し、地面に横たえると、彼女はまるで何事もなかったかのようにぱちりと目を覚ました。

 

 「ジンジ、久しぶりー」

 

 「2週間ぶりだな。シオ」

 

 

 

 ――――――奇跡とは、めったに起こり得ないがために奇跡と呼ばれる。しかし、人類の中ではそれらを狙ったかのように引き当てる人間がいる。十回中一回しか勝てなければ、その一回を本番でたたき出し、偶然にもとった行動が、やがて大きな意味を持って自身に帰ってくる。……そのようなことをなすものを、人々は皆、口をそろえてこういうのだ。

 

 

 ―――――英雄、と。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――

 

 

 

 

 目を覚ましたシオに第一部隊の神機使いたちはこぞって集まった。ソーマはあれだけ心配していたにも関わらず、ただ近くにいて微笑んでいるだけだったが、それでも彼は十分に幸せそうだった。

 シオも、自分の身に起きていたことが分かっていたのか、現在の状況を受け入れるとみんなととてもうれしそうに抱き合っていた。主に、アリサやサクヤと。男性陣はこういう時でもハグは許されないのだ。だって絵面がひどいから。

 

 そんな彼らを、ヨハネスとサカキは遠巻きに眺めていた。

 

 「…………」

 

 「どうだいヨハン。僕の研究もなかなかのものだろう?」

 

 「……やっと、やっと君に勝てたと思ったんだがね。どうやら、この分野ではとことんかなわないらしい。やはり、手を引いておいてよかったよ」

 

 悔しそうで、しかしどこか嬉しそうにヨハネスは言う。ヨハネス・フォン・シックザールは人類の存命を願い続けてこれまで歩んできた。そこに自身の感情が入る余地はなく、ここに用意していた宇宙船も自身が使おうとは思っていなかった。それは、こんな計画を実行した自分には次世代へと行く価値はないと考えていたと、同時にソーマだけはという彼唯一の親心でもあった。

 

 しかし、彼の計画が成功していれば、こんなソーマが自然に笑いあっている姿を確認することは決してなかっただろう。

 皮肉にも、人類を憂いていた男は、その生涯にわたって培ってきたものを失って、親としての幸せに巡り合ったのである。

 

 「(アイーシャ。私たちの息子は、私たちが願った通りに人類に光をもたらす存在になってくれた。……それだけではなく、しっかり人としての幸せもつかみ取れる、強い子に育ってくれたよ……)」

 

 今は亡き妻にそのことを伝えようと、ヨハネスは天を仰ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――そこで、彼は気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――特異点たるシオを抜かれ、光を失っていたノヴァに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――再び、光が宿っていたということを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




タイトルの「……」の後には「終わらないんじゃよ」と続きます。

ここで仁慈の行った支部長&シオの融合解除の条件に付いて。
ぶっちゃけ、仁慈がこれを行えたのはアルダノーヴァと戦闘を行ったからです。この作品ではアルダノーヴァはノヴァのオラクルを使って作り出されたということになっています。当然、それに比例して数多くの偏食因子を含んでいます。

今回仁慈はこれを神機で捕食しながら戦っていたため、意図しない形で大量の偏食因子を吸収しました。その結果、GE2編で特異点となった状態と限りなく似た状態になったのです。
で、特異点となったことに加え、終末捕食で中のオラクルやら偏食因子やらを自由に操った経験から、彼らだけを取り出すことができました。

シオが合体しているノヴァはいわゆる終末捕食と同じ存在ですし、それから作られたアルダーノヴァも同様です。一度、操作も成功しているため、こういう反則技がつかえました。


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