あ、イスカンダルさん出てくれました。
資料に目を通して、情報を確かなものとしているとすぐに時は過ぎ去り、いつの間にか指定していた1時間後がやってきた。はてさて、一体何人がいなくなっているのやら。
我ながら割と酷いことを考えつつ、先程と同じ部屋に行き、壇上に上がった。
するとなんということでしょう。半数以上は消えると思われた各支部のエリート様方は誰1人としてかけることなくその場に立っていたのです。
これには流石の俺も予想外だった。何人かは確実に反発して出て行くと思ったんだけどな。一応自分たちは選ばれたという意識があるのか、参加したほうが妨害しやすいことに気がついたのかはわからないけど。
まぁ、そこは気にしないでおこう。なにがあろうと俺のやることは変わらないし。
「全員きたんですね。よろしい、それでは指導を始めます。と言ってもここでタラタラと言葉を弄して指導をしても全く持って意味がないので、既に任務を1つ受けています。なのでこれからその場に向かいましょう。そこで実際に身体を動かしながら指導を行います」
ここに居る神機使いはその半数以上が新人だが、資料によると全員実地訓練を終えて、初陣を果たしていたらしいので批判的な意見はなかった。逆に知識だけ教えられてもそんなのもう聞いているし、としかおもわないだろう。
そんなことを考えつつ、俺は結局暗黒面を被ってヘリの操縦を行おうとしている人のヘリに乗り込んだ。
……はい後から首筋をアンブッシュして強制的にマスクを外させたけど。
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私たちの教官になるという極東から来たという神機使いは思ったより若い人だった。予想では勝手ながらいかにも百戦錬磨といった感じなおじさまが来るのかと思ってけど……いや、かっこいい人ではあると思うけどね。銀髪赤目なんてなかなか見ないし。
その意外にもかっこいい彼は他の神機使いからとんでもなく否定的な視線をぶつけられていた。もし私があの人と同じ状況にあったら、なにも喋れないで逃げ出すかもしれない……そんな感じの中にいるのに、彼は予想はできていたと言わんばかりの表情で口を開いた。
「えー……これから一ヶ月ほど皆さんの戦闘に対する指導を行う樫原仁慈と言います。早速ですが、私が今回行う指導は自由参加です。強制はしません。受けなかったからといってなんらかのペナルティが発生する事もありません。もし、参加するのであれば、1時間後に再びここに来てください。以上です」
絶句である。言葉も出ないということはまさにこのことだと思った。この時ばかりは彼を批判していた神機使いたちもなにも言えないといわんばかりに固まっている。彼はそんな私たちを物の見事にスルーして部屋から出て行ってしまった。
途端、周りがザワザワと騒ぎ出した。
「なに、あれ?」
「あんなのに教わって本当に強くなれるのか?」
「でも、アラガミの討伐数は圧倒的らしいぜ?一ヶ月で百匹近くの大型を葬ったとか」
「ハッ、あいつは神機使いになってからまだ一年も経ってないんだぜ?どうせ、どこかの裕福な家の出で、コネ使って改竄したんだろーぜ」
「まじかよ。あいつ最低だな」
話が人を通して行く度に、どんどん膨れ上がっていく様を見せつけられた私は本当にそうなのだろうかと考えていた。
素人の私でもあの人は普通の神機使いとは違うと感じることができた。なんだろうか、外見は自分たちと同じだけど、内から溢れ出る力の桁が違うという感じだ。
そのようなことを考えていると、周囲のざわめきは収まっていた。どうやら、みんなで彼に教えをこうふりをして陥れることで自分たちを騙した彼に仕返しを行うらしい。私はその話を聞いた時とその後でも呆れた。
それではまるで子供ではないか。ベテランの神機使いもその集団の中に混ざっていることを確認した私はもう考えるのをやめて、唯彼の行う指導を受けようと思った。
––––––––
「戦いにおいて、最も重要なことは観察です。相手の様子をこと細かく観察し、行動パターンを発見しましょう。それが被弾しない一番の近道と言っていいですね」
「だからと言って、完璧に覚えすぎると、予想外の攻撃が飛んできた時対応できないんじゃなのー?」
「そんなこといつも通りでしょう?それに、誰も完璧に覚えろと入っていません。大体の攻撃のタイミングがわかればいいのです。それさえ分かっていれば、すぐに回避行動に移ることができますから」
「それは無茶ぶりだと思いまーす」
「この程度もできないなら神機使いやめたらどうですか?近いうちに死にますよ。まぁ、あなたが死のうが関係ありませんが」
「なっ………ッ!」
うわぁ……バッサリいった……。
場所は彼が用意しておいた任務先である開けた場所。今回の任務はコンゴウの討伐となっていたらしいけど、コンゴウの姿が見当たらないので、彼が戦闘にとってなにが大切かということについて説いていた。まぁ、それの邪魔をしようという人もいたけど、あのようにバッサリと切り捨てられていた。ちなみに今ので三人目である。全く懲りてない。いい加減諦めればいいのに。
生徒役の私達の反応には全く興味がないのか、バッサリと切られた神機使いのことなど気にするそぶりも見せず、そのまま話を続ける。
「では、この観察から戦闘までをやってみましょう」
「……ふざけんなこのガキ。どうして俺がそんなことをやらなきゃいけねーんだよ。こっちはお前より長く神機使いやってんだよ、テメェみたいなガキに教わることなんかなにもねぇ」
「じゃあなんでここにいるんですか」
至極当然の疑問を彼は発した。確かに、この行事?に強制参加の義務はない。嫌ならばこなければいい話だ。というか、やる気のない人は正直さっさと帰ってほしい。邪魔だし。私はこの人の教えで強くなって、「ドイツの蒼い縞々」なんて不名誉なあだ名をつけた奴らを見返すって決めたんだから。
「うちの支部のやつから言われたんだよ。配給ビールをくれるって言ってたし、そのためだ。それでよぉ〜教官サマ。これで俺が完璧に対処できたら、お前は自分の支部へ帰ってもらおうか」
「何故?」
「俺たちの実力を正確に測れない奴なんて教官として信じることができないだろォ?」
「一理ありますね。では、お願いします。相手はそこにいるオウガテイルでいいですよ」
彼はそう言って数百メートル離れているアラガミのオウガテイルを指差しながら、自分に話しかけてきた神機使いに言った。一方、オウガテイルの討伐をお願いされた神機使いはニヤリと不気味に唇を歪ませると、楽勝だと言いながらオウガテイルに向けて一気に肉薄した。
オウガテイルの方も自分に接近する神機使いの存在に気がついたのか、咆哮を放った後、尾からトゲを射出する。しかし、それは神機使いのとった最小限の動きで回避された。
棘を放った後のわずかな硬直の隙を利用し、神機使いは神機を振りかぶってオウガテイルに向けて振り下ろす。その攻撃は見事にオウガテイルの胴体を斬り伏せた。体の損傷が大きく、再生できないオウガテイルに神機使いは捕食形態に神機を変形させると、今倒したオウガテイルのコアを飲み込んだ。
「ふっ、どうだこのガキ。たかがオウガテイルくらい余裕だって––––」
「……!?サメロ、上だッ!!」
「なに……?」
オウガテイルを倒し、彼に自信満々に向き直った神機使いは胸を張る。
ドヤ顔を浮かべつつとるその格好は大変イライラしたが、別の人の切羽詰まった言葉を聞いた瞬間、そんなことを思っていられなくなった。
何故なら、ドヤ顔でとてもムカつく仁王立ちをかましている神機使いの上から、卵のような部分を開けたザイゴートがドヤ顔をかましている神機使いにかぶりつこうとしたからである。いや、そんな生易しいものではない、おそらくあの神機使いは数秒後にはマミってしまうことだろう。誰もが想像できるくらいに無残な死を遂げることとなる彼に対してみんながみんな一斉に背を背けた。あの神機使いも自分の末路が見えたのか、諦めの表情をしていだ。
––––そう、樫原仁慈さん以外は
今回、私たちの教官と言っても過言ではない彼は、自分の神機を銃形態へと移行させた後、ろくに照準をつける間もなく、引き金を引いた。すると、その弾は見事なにザイゴートのど真ん中に突き刺さる。 どうやらちょうどコアもあったらしく、ザイゴートはぐずぐずに崩れながら地面に不時着した。
そこから神機を通常形態にすぐさま移行すると、自分が庇った方向とは反対側から神機使い(サメロ)のことを襲おうとしているオウガテイルの側面に一瞬で回り込んだ。そのまま、そこに移動するまでの力を殺さないように空中で体を横回転させながら神機を振るった。
一太刀にてオウガテイルの首を切り落とした彼は、首の切れ目から露出しているコアを素早く摘出する。それから数秒、周囲を警戒していた彼だが、もう敵はいないと判断したのか神機を下ろした。
その後、彼はおもむろに神機を担ぐと、そのままたった今殺されそうになった神機使いの元へと向かった。
私は正直慰めに行くのだろうと思っていた。だが、現実は違った。
「無様だな」
「なん……だと…?」
「無様だといっているのだ。サメロ・サッザーハ」
その場にいる全員の動きが一斉に止まった。今のでの雰囲気とは明らかに違う。先程まで表面上だけとはいえ、丁寧で優しそうな顔をしていたとは思えない。
そこにいるのはもはや、己に仇なす神々を次々と屠る、神機使いとしての樫原仁慈だった。
「俺の言うことを疎かにし、慢心した結果が今お前が晒している姿だ。お前が馬鹿にした基礎の基礎、それすらできていないお前が神機使いを名乗るなど、全神機使いに死んで詫びてほしい事態だ」
はぁ、と溜息を吐きつつ道端のゴミを見るようかの視線を向ける彼。今の雰囲気とは相俟って、サメロと呼ばれた神機使いは下を向いていた。
「サメロだけではない。お前とそこのお前、その周囲にいる奴らも、同じだ」
彼が口にしたのは、彼のことを馬鹿にしていた神機使いたちだった。突然、自分に話が回ってきて、なおかつ自分だがなにを思っていたのかが暴露た彼らはそれはもう見事なうろたえっぷりだった。
そのことを気にせず、彼はことばを続ける。
「この程度で怯えているのならば、お前らはさっさと自分たちの支部に帰るんだな。まぁ、今のお前たちならすぐに死ぬだろうけどな」
否定はできない。
ここにいる神機使いは何度も言うが新人。サメロと言う神機使いよりも弱い人が大半を占めているのだ。自分たちよりも強いサメロでもああなってしまうと自分たちはもっと早く死ぬだろうと簡単に推測できてしまう。
「………しかし、これだけは覚えておけ。弱いと死ぬことになるのはお前たちだけではない。同じ任務を受けていた仲間、自分の家族や恋人を含めた愛するものまで死なすことになる」
その言葉にその場にいた神機使いたちは一斉に顔を上げ、真剣に彼の言葉に耳を傾け始めた。
「耐えられるか?自分のせいで、愛するものが死ぬこという事態を」
全員が黙る。
それは彼の言葉を真剣に捉えて、考えているからだ。
「––––––––もし、それが嫌でそのために自分が抱いた恐怖すら捩伏せる覚悟があるなら、ここに残れ。決して後悔させないようにしてやる」
と言って、獰猛な笑みを浮かべながらこちらを振り向いた。
そんな彼に私たちは知らず知らずのうちに首をたてに振っていた。
神機使いたちがあまりにもなってないので、ついつい本気になった仁慈の図。
近々黒歴史に入る模様。