……できれば、投稿が早くなくても見てください(土下座)
喜ぶかともおもったけど、そういうわけではなかったようだ。
どうやらサカキ博士の興味は今シオに集中しているらしく、感応種のことに対してはそこまでくいついてくることはなかった。しかし、感応種の能力はいろいろ厄介だし、シオと平行して研究をしてくれるということ。
なので、その研究の助けとして俺がアンブッシュしたカバラ・カバラのコアを提供してきた。
「仁慈さん今日は助けていただき、ありがとうございます」
「あ、アリサさん。別に当然のことをしたまでですよ」
コアを提供し終えた後、アリサさんとたまたま出会った。先程のことでお礼を言われたので言葉を返す。
仲間を助けるのは当然だし、しかもあれどちらかといえば俺の所為っぽいし……感応種の処理は今でこそブラッドの専売特許じゃなくなったもののこの時代で処理できるのは俺だけだしね。
やだ、なんかこうして整理してみるとマッチポンプに見える!不思議!
「いえ……本当に仁慈さんには助けてもらってばかりで……申し訳なくおもってしまいます」
「別にいいですよ」
どうして今日はここまで卑屈なのだろうか。
いつにないネガティブアリサさんに困惑を隠しきれない。
「なので!」
「おうっ!?」
かと思いきや急に声を張り上げて顔をずずいっと近づけてきた。ちょこっと前に顔を出すだけでキスできてしまう距離感まで一気に近付かれたため、思わず情けない声を上げながら体をそらした。
躁鬱激しいよ。どうしたの一体……情緒不安定な昔のアリサさんが帰ってきてしまったのだろうか。
「せめてものお返しということで、カノンさん監修のもと、私の故郷の料理であるボルシチを作ってきました」
………ん?
「ん?」
聞き間違いかな。
せめてものお返しとして、アリサさんが俺に料理を作ってくれたというセリフが神機使いの強化された聴力を通して頭に入ってきたんだけど……。
「すみません。もう一度お願いします」
「日ごろの感謝を込めて、料理を作ったんです。よ、喜んでもらえると嬉しいんですけど……」
聞き間違いじゃなかったか……。もしかして、お返しのところを仕返しと聞き間違えた可能性も考えたが……俺に向けている眩しい笑顔がその可能性を否定している。いや、このいい笑顔で仕返しに来たかもしれないけど、その可能性はひとまず置いておこう。少なくとも嫌われるようなことをしたわけじゃないし。
それに、お返しだろうと仕返しだろうとアリサさんが俺に料理を作ってくれたことには変わりない。
………俺は覚えている。俺は知っている。かつてクリスマスで浮き足立っていた極東を恐怖のどん底に陥れたバイオ兵器の存在を。それが巷ではアリサさんの手料理と呼ばれていることも。あれを食したコウタさんとロミオ先輩は三日三晩寝込んだのを知っているんだよ。
要するにだ。善意であれ悪意であれ、今は下手なアラガミと対峙するとき以上に命の危機ということである。
「えーっと……」
「………もしかして、ご迷惑でしたか?」
くっ!美人というのはこういうときに便利だな。不安そうな顔をすればこちらはいやでも罪悪感が沸き、怒れば普段とのギャップの所為で死ぬほど怖い。ソースは俺。ナナとかがまさにそうだった。
「いえ、嬉しいです。この後仕事もないので、自室でゆっくり食べさせてもらいますね」
そういうと、アリサさんはパアァァと明るい表情を浮かべて料理を手渡し、ルンルンとスキップを踏みそうな上機嫌で自室へと帰っていった。
彼女が完全に自室に入ったことを確認すると、俺の表情は消えていた。完全に無の状態である。途中ですれ違った人たちがこぞって俺のほうに振り返ったりしているが、そこは気にしてはいけない。今から死地に向かうのだから。
自室の扉を開けて、アリサさんの料理を一分半ほど電子レンジに突っ込む。その間に俺は棚からある箱を取り出し、その後、精神を研ぎ澄ませるために二、三深呼吸を行う。
俺が挑むのは、数多の
――――逝くぞ、俺。胃薬の貯蔵は十分だ。
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症状、腹痛に頭痛、関節の痛み。
まるでインフルエンザにかかったかのような症状だが、残念ながら俺はウイルスなんかに感染しているわけではない。この身の半分はオラクル細胞で出来ているため、そう言ったものには耐性があるからだ。しかし、その人外ボディーを貫通するアリサさんの料理である。マジバイオテロ。
ぶっちゃけ、今すぐにでも布団に潜って体力の回復に努めたい、努めなければならないわが身であるが残念ながらそうも言っていられないのが世界で指折りの世紀末激戦区極東である。
昨日感応種のコアを提供したばかりにも関わらず、サカキ博士が感応種の特殊な偏食因子に反応するレーダーを開発したのだ。
曰く、対応できるのが俺だけなので早めに探知機は作っておいたとのこと。流石サカキ博士。略してさすさか。
関心ばかりもしていられない。先程も言ったとおり、対応できるのが俺だけなので、必然的に感応種が出れば俺が借り出されることとなるのだ。
ここまで言えばもうお分かりだろう。そう、この最悪のコンディションで感応種が出たのだ。今まで以上に俺に対する殺意が見える。
そんな完全アウェーな状態でこの極東に出現してくれやがった感応種はなんとスパルタカスだった。
あの「えっ?コイツ感応種なの?トウモロコシじゃね?」で有名なスパルタカスである。ジュリウスは、カラーリングが被るといって毛嫌いしていたスパルタカスである。ナナが名前を訳してカスと呼んでいたスパルタカスである。散々な扱いに定評のあるスパルタカスである。
コイツは周囲に居るアラガミのオラクル細胞を吸収してパワーアップする能力があるのだが、ぶっちゃけ、吸収中はめっさ無防備なのである。つまり、吸収しているところを正面から切りかかり、そのまま内部をズタズタに引き裂いたのだ。その中にコアも入っており、スパルタカスはあっさりとお亡くなりになられた。
相手がコイツで本当によかった。今の俺だと、下手すると負ける可能性がある。ホッと一息つくが、いつぞやのタイトルでも言ったとおり、嫌な事は往々にして連続して訪れるのもなのだ。
続けて入る、感応種の出現報告。場所はここ。数は3体。全員同じ反応から同固体だとおもわれる。
ヒバリさんが一生懸命くれる情報を痛い頭に叩き込みながら、敵の方を見る。
俺の前に現れた感応種はイェン・ツィーだった。しかも、3体。彼らが俺を発見して何時もの謎ポーズを取りつつ、チョウワンンを出現させた光景を視界に納めると俺は、
「何でこんなときにお前が来るんだ!!」
キレた。
そんな状況で出てきたのは面倒くさいことに定評のあるイェン・ツィー。無造作に味方を作り、そして1人に集中攻撃をしてくるから性質が悪い。それも3体。
万全の状態ならなんともおもわなかっただろうが、散々いっているとおりコンディションは最悪だ。そんな中、上記のような理由のやつらが出てきたらキレたくもなる。
「Arrrrrrrrrrr!!!!」
結果、俺は言語能力の一時期使用不可と引き換えに怨念とか恨みとか憎しみとか悲しさとか愛しさとか切なさとか心強さで肉体を強化して、チョウワンもイェン・ツィーも纏めて平等に葬った。
その後、極東支部に帰ってきた俺を、ソーマさんとユウさんとのディナーから帰って来たシオが撫でて励ましてくれた。泣いた。
前回仁慈を倒せるものはないと言ったな。あれは嘘だ。
全ての世界に通じる最終兵器(メシマズ)には勝てなかったよ……。