神様死すべし慈悲はない   作:トメィト

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大体仁慈の所為


大体アイツ(仁慈)の所為

 

 

ここは極東のベテラン地区。そのなかの一室である自室でサクヤはターミナルにリンドウが残したとおもわれるデータを再び閲覧していた。

 このディスクを発見してしばらくがたった。新人だった新型神機使いは第一部隊の部隊長となったし、アラガミが人間に近しい進化をとったシオという存在にも遭遇した。極東支部には新しい風が入りつつあるが、彼女が行っているデータの解析はまったく進んで居らず、どこかイライラしていた。

 

 

 「……やっぱりダメね。重要な部分にはリンドウの腕輪認証がかかってる……」

 

 

 ハァ、と溜息を吐いてディスクを取り出す。

 すると、コンコンとドアが叩かれたアリサかと思いサクヤはどうぞと声をかけるが、その声と共にドアを開いて入ってきたのはアリサではなく仁慈であった。

 

 

 「あれ、貴方だったの?」

 

 

 「一体誰だとおもって許可出したんですか……」

 

 

 「ここに来るのはアリサくらいだし」

 

 

 「微妙に悲しい言葉を聞いてしまった……」

 

 

 ぼそりと呟かれた一言に仁慈はなんともいえない気持ちになりつつも、自分の用件を告げるために口を開いた。

 

 

 「っと、そんな事言っている場合じゃなかった。サクヤさん。ひとつお話してもよろしいでしょうか?」

 

 

 仁慈は既にアリサの話からサクヤがリンドウの腕輪を探していることを知っている。そして、彼女はそれがあの時自分達を取り囲んだプリティヴィー・マータだとおもっているのだ。

 が、この男。極東きっての人外のユウと神機使いのプロトタイプであり、仁慈を除いた全ての神機使いの中で最もアラガミに近い神機使いのソーマを引き連れてリンドウの仇(仮)のプリティヴィー・マータをもう絶滅させる勢いで狩りつくしていたのである。そのことをサクヤに伝えにきたのだ。

 

 

 「そう……腕輪は出てないの?」

 

 

 「えぇ、一日五体のペースで一週間ほど狩りに行きましたが、腕輪はありませんでした。別の場所に逃げたという可能性もありますが……いくら閉じ込められたとはいえ、リンドウさんがプリティヴィー・マータ如きに負けないとおもうんですよね」

 

 

 「(接触禁忌アラガミを如きって………)」

 

 

 さらりと仁慈が告げた言葉に戦慄しつつ、彼女は考える。

 あの状況でプリティヴィー・マータがリンドウを殺していないのすれば、一体リンドウは何にやられたのかというのか。

 

 

 「そのあたりは流石にわかりません。あそこ、アラガミなら誰でも入れますし」

 

 

 ついでに俺も入れますという声は幸運なことにサクヤに届くことはなかった。

 サクヤは仁慈が持ってきた情報にさらに頭を悩ませた。

 

 

 「……腕輪はあきらめたほうがいいかしら……」

 

 

 「サカキ博士に解析してもらうのはどうでしょう?」

 

 

 スターゲイザー……傍観者を気取っている彼でも、この案件は流石に看過できない問題だ。なにせ、観測するものがまとめてなくなってしまう終末捕食に関係することがらだからである。だからこそ、今も彼は自身の研究と平行して特異点であるシオをかくまっても居るのだ。

 そして、何より彼は初めてアラガミ装甲壁を作り出した天才中の天才である。腕輪認証をどうにかすることだってなんとかなるかもしれない。

 

 

 

 「……でも、サカキ博士は今一信用できないのよね……。あの、何を考えているのか分からない雰囲気がちょっと」

 

 

 「あっ(察し)」

 

 

 心当たりがありすぎて、思わず納得してしまった仁慈。彼を責めることは出来ない。何故なら今サクヤが考えたことはこの極東にいる神機使いなら誰もがおもったことだからである。

 

 

 「で、でも大丈夫ですよ。今回だけは確実に俺達の味方ですから」

 

 

 「どうしてそんな事が言えるの?」

 

 

 「今、サカキ博士が行っている研究・観察の対象が俺達だからですよ」

 

 

 サクヤはその耳に入ってきた言葉をすんなりと信じることが出来た。なんというか仁慈の言葉には物凄い実感がこもっているのを感じ取ったのだ。確実に自分のほうが極東で働いてきた時間が長いと断言できるのに、この妙な説得力はなんなのだろうと疑問に思いつつ、

 

 

 「そうね。相談してみるわ」

 

 

 「そのほうがいいですよ。大体こういう案件を1人で抱え込むと失敗するので」

 

 

 どこか先ほどよりも明るい表情でサクヤはさっそくサカキの元へと向かっていった。主が居ない部屋にとどまるわけにも行かないので、仁慈もサクヤと共に部屋を出る。今日は珍しく仕事が入っていないため、自室でゆっくりしようかと考えならが廊下を歩く。

 が、それは叶うことが難しい願いだと仁慈は考えていた。何故ならその思考がフラグということを過去の経験から理解しているからである。

 今回も例に漏れることなく、彼の平穏は手の届かないところまでいってしまった。

 

 

 『第一部隊所属、樫原仁慈さん。至急、エントランスに来てください!繰り返します!第一部隊所属、樫原仁慈さん。至急、エントランスに来てください!緊急任務です!』

 

 

 切羽詰った声が極東の放送から聞こえてくる。

 仁慈もそれを聞くと全速力でエントランスへと向かった。

 

 

 「仁慈さん。緊急任務です。先程、第一部隊のアリサさんとコウタさんが新種のアラガミと遭遇しました」

 

 

 「そのアラガミの特徴は?」

 

 

 「女性の上半身のようなものをくっつけた巨大なアラガミらしいです!」

 

 

 「……ヴィーナスか」

 

 

 仁慈の居た世界で居たアラガミである。一説にはサリエルが美しさを求めて多くの捕食を行った結果といわれている。上半身の人間部分はその追求の成果かとても美しい女性の姿だが、それ以外は肥大化してみるに耐えない醜悪な姿のアンバランスなアラガミだ。

 しかし、仁慈は解せなかった。

 いくら新種のアラガミでも、仁慈とユウと共に戦って成長したアリサが追い詰められるとはどうしても思えなかったのである。コウタのほうもそうだ。直接教えてなどいないが、異能生存体とも呼べるフラグブレイカーっぷりを知っている。そんな2人がピンチになるにはヴィーナス程度では足りないと考えている。

 

 

 「他にも居ますか?」

 

 

 「実は、近くに強力なアラガミの反応があります。しかも、それが今までにない反応を繰り返していて……それがアリサさんとコウタさんの偏食因子の活動を弱めているんです。効果は神機の攻撃力が下がっているくらいのものですが……それが新種の相手ということと重なってかなり不利な状況に……」

 

 

 「マジか……」

 

 

 ヒバリがいう現象を起こすアラガミたちを仁慈は知っている。

 彼が思っていることが本当ならば今すぐ自分が助けに入らないとまずいということだ。

 

 

 「分かりました。ヘリの用意をしてください。今から出ます」

 

 

 「ヘリは既に準備してあります!どうか、アリサさんとコウタさんと共に、無事帰ってきてください!」

 

 

 「了解」

 

 

 

 

 

            ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 まさか、ヴィーナスと感応種擬きが現れるとは思わなかったわ……。なんだろう。ここ最近強さのそこが見えない極東人を殺すために地球が殺意の波動に目覚めたのだろうか?

 

 

 「未確認のアラガミのところに着きました」

 

 

 「了解」

 

 

 ヘリの操縦士の言葉に返事をすると、ヘリの扉を横にスライドする。

 肉眼でも確認できる奇抜なカラーリングのアラガミを真下に捉えることが出来た。パッと見た感じ、カバラ・カバラのようだ。

 

 

 ……出てきたのが、カバラ・カバラでよかった。

 コイツは偏食因子を活性化させたりと、何かと俺達の役に立つことが多いからな。予想だけど、自分の性質で押さえ込んだ偏食因子をこれまた自分の性質で活性化させているからアリサさんとコウタさんは神機の威力が少し下がったくらいですんでいるのだろう。

 これが他のやつらだったら最悪だったぞ。

 

 

 カバラ・カバラの真上を陣取り、空中で神機を捕食形態にする。そして、重力を加算した勢いをもってして無理矢理カバラ・カバラの体を食い破る。

 これぞ、俺の得意技アンブッシュである。相手は死ぬ。

 

 

 「よし、完了。後は……」

 

 

 カバラ・カバラを軽く食いつぶした後、ヴィーナスが居るところに向かって跳躍をする。そこには、丁度ヴィーナスにひき逃げされそうなアリサさんとコウタさんが居た。絶賛大ピンチ中らしい。

 

 

 地面を抉るような勢いで蹴り上げて、一気に体を加速させる。まるでジェットコースターに乗っているかのように変わっていく風景の中、しっかりと目標である2人を見逃さないようにし、轢かれるか轢かれないかのギリギリのところで抱え込み、ヴィーナスの車線上から外れる。

 俺が通り過ぎた後、ヴィーナスは気味悪い笑い声と共に通り過ぎていく。あっぶねぇ。

 

 

 「うぉ!?仁慈か!?」

 

 

 「助けに来てくれたんですね」

 

 

 「はい。緊急用のヘリを使って普通ならまだ着かない時間で急遽駆けつけました」

 

 

 「おいィ?言ってる場合じゃないんだが?このままでは俺の寿命がストレスでマッハ。はやく何とかしてくだふぁい」

 

 

 「どうしたんですか、コウタ」

 

 

 黄金の鉄の塊の魂が乗り移ったんだよ(震え声)

 

 

 冗談を交えつつ彼らを地面に下ろすと、脇に抱えていた神機を構えてヴィーナスと向き直る。

 下ろされた二人も気を取り直して神機を構えた。

 

 

 「仁慈、気をつけろよ。アイツ、別のアラガミの攻撃も使ってくるぞ」

 

 

 「クアトリガのミサイルに、謎の毒触手。グボロ・グボロの水鉄砲とバリエーション豊かです。これが噂の一粒で二度おいしいというものなのでしょうか」

 

 

 「全然違います。まぁ、あれとは戦ったこともあるので、俺の指示に従って行動してください」

 

 

 頷く2人を見て、声を張り上げヴィーナスに向かっていく俺達。

 

 

 こんな化け物を相手している間、ソーマさんとユウさんはシオちゃんとディナーしていると想像すると物凄くイラつくわ。

 

 

 自分でも理不尽と思われる感情を神機に乗せながら俺たちはヴィーナスに襲い掛かった。

 

 

 

 

    

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 なんか強敵に向かっていく的な雰囲気を出しましたが、普通に倒しました。

 だってヴィーナスとは戦ったことあるし、アリサさんやコウタさんが手こずっていた原因であるカバラ・カバラも葬った後の戦闘だったから終始こっちが有利ですよ。今更複数の攻撃を出来るくらいで勝てると思ってもらっては困る。

 

 

 まぁ、それは別に問題ないんだ。

 問題はこんなに早く感応種が現れたことだ。未来ではまだこの時期感応種は出ていなかったはずだ。

 いろいろ陰謀はびこっているこの状況で感応種まで出てこられたらかなりまずい。

 ………これも含めてサカキ博士に相談したほうがいいかもしれない。

 

 

 あの人も、新しいアラガミの出現だとか言って喜ぶだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やってしまった感応種の出現。
まぁ、頻度はそこまで高くありませんけどね。これからもちょくちょく出てくると思います。




FGOで、エレナ・ブラヴァツキーさんが欲しくて10連引いたらアルジュナとナイチンゲールさんが出ました。

複雑ですが、すごく嬉しいです(ゲス顔)

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