神様死すべし慈悲はない   作:トメィト

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今回はちょっとキャラ崩壊&シリアスです。本当にちょっとです。


正直なのはいいことである(場合による)

 

 

 れれれれれれ冷静になれ。

 特異点の彼女は具体的にどういう感じの仲間かということまでは明言していない。普通に任務の途中で仲良くなった結果仲間として認められたということも十二分にありえる。何も焦る必要などない。

 頼むから、それ以上余計なことを話さないでくれよ。話をそらしてもいいんだけど、そうすると絶対にサカキ博士からの追撃が来る。この状況でサカキ博士を誤魔化すのは確実に不可能だ。

 本当に頼むぜ、神様アラガミ様、特異点様。

 

 

 「えーっと、仲間って言うのは……?」

 

 

 「?そのままの意味だぞ?仁慈は一緒、他の人たちより、私に近い。だから仲間だ!」

 

 

 「ち、近い?」

 

 

 「それってつまり……」

 

 

 「………」

 

 

 特異点の少女が放った言葉はほぼ決定的な言葉である。

 おかげで、第一部隊の人はみんな信じられないような視線を俺にぶつけてきている。この過去の世界において、超クールキャラのソーマさんですらぽかんと口を開けてこちらを見ている。サカキ博士は未来で何度も見た怪しい表情だ。

 

 

 誰もが、真実にたどり着きそうな中、ユウさんが最後の確認を込めた決定的な質問を投げかける。

 

 

 「近いっていうのは……つまり……アラガミ?」

 

 ユウさんの言葉にコクコクと頷いた特異点の彼女はこちらにトテトテと近付いてきた。

 

 

 「仁慈ー。私正直に答えたぞ。嘘つかなかったぞ!えらいか!?」

 

 

 「………うん。えらいえらい」

 

 

 あまりにいい子過ぎて涙が止まらないくらいにはね。

 

 

 まぁ、いい。今まで散々神様を殺し、平行世界で本物の神様も葬った気がする俺が神に頼みごとをした時点でこうなることはなんとなく予想できてた。幸い、この部屋はシステムが独立していて、ここにいる人たち以外に誰かが話を聞いている可能性はゼロだ。ヨハネス支部長も居ないし、彼らだけにばれたことを喜ぶべきだろう。うまくいけば今よりもよっぽど動きやすくなるかもしれない。

 

 

 「事情……説明してくれますよ、ね?(私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事私に隠し事……)」

 

 

 やべぇ。

 下手に隠すと俺の命が危ない。

 

 

 アリサさんの全身からあふれ出る負のオーラに気おされる。

 これがキチガイ地区極東を作り出した第一部隊隊員の実力だというのか。まぁ、アリサさんの迫力に他の人も戦慄して一歩引き始めてるけど。

 さて、1から10まで全部話すのはダメだ。アラガミなんて化け物が闊歩するこの世の中でも未来から着ましたなんて奇奇怪怪な話は受け入れられないし、受け入れられてもまずい。

 ここは常套手段である事実に嘘を交えつつ話す方向で行こうか。

 

 

 

            

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 仁慈さんの口から告げられた言葉はとても信じがたいものだった。小さい頃、アラガミに襲われて重体になったところをフェンリルの人間に助けられた。ここまでだったらフェンリルの美談で終わるのだけど、問題はここからだった。

 

 

 助けられた仁慈さんは生きてこそいたものの、肢体欠損で意識も不明、いつ死んでもおかしくない状態だったらしい。しかも身内はなし。

 どうせ死ぬならと、フェンリルの職員たちは彼の体に直接オラクル細胞を移植したり、偏食因子を入れたりと好き放題やったらしい。

 通常であれば、そこでアラガミになって死んでしまうのだけれど、彼はそうならず、奇跡的に生き返ったらしい。しかも、欠損した肢体をオラクル細胞で再現するということを実現して。

 そこから仁慈さんは、フェンリルのモルモットと神機使いを平行して行っていたらしい。で、つい最近そこを自力で脱出して、サクヤさんに会ったと話した。

 

 

 話を聞いた感想としては正直信じることは出来ない。けれど、新人というにはあまりにも強すぎる戦闘力と私達をはるかにしのぐ身体能力は彼の体が半分オラクル細胞で構成されているというのであれば全て説明が付く。

 サクヤさんの話では初めて会ったときの仁慈さんは神機使いには必須のものである腕輪をしていなかったらしいし……。

 

 

 「じゃあ腕輪をしていなかったのは……」

 

 

 「腕輪をしなくても、自分の中の偏食因子を支配できるからですよ。出すことも消すことも自由自在です。通常の神機使いは腕輪から偏食因子を注入していますけど、俺はそこらへんの機能はすでに作ってあるらしいです。俺をいじくった研究者が言っていました」

 

 

 仁慈さんの回答に特異点の少女以外の人のテンションが急降下する。そんな重いことさらりといわないでくださいよ……。

 でも、彼はそんな事を経験しながらも、私を心配してくれたんですよね……。

 やはり、彼は強い人です。

 

 

 「俺がアラガミに近いのはそういう理由です。………はい、これで俺の話は終わりです。心配しなくても、俺が急にアラガミ化して襲うことはありませんよ。アラガミ要素は完全完璧に叩きのめしましたので」

 

 

 にっこりと微笑を浮かべながら仁慈さんは言った。

 彼の言葉を最後に今日は解散の流れとなった。正直、今日はこれ以上居ても話は進まないと感じていたのでみんなは素直に従った。

 

 

 

 

 

 

 

             ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 さて、真実(七割)と虚実(三割)を交えた俺の過去(笑)話を話したわけだけど……失敗したかもしれない。あのマッドサイエンティストのサカキ博士ですら、俺の話に顔を顰めていた。てっきりいい実験対象だとか言ってノリノリで体を調べに来るのかとおもった。そのことを本人に直接言うと、彼は「態々他人のトラウマを呼び起こしにいくほど外道ではないつもりだよ」と優しい笑顔で答えてくれた。俺はこれがどうして未来ああなるのか分からなくなった。

 

 

 過去のサカキ博士は意外と人道的な人だと分かったところで、自室に帰ろうとすると、扉の前ではソーマさんが待機していた。

 どうしたのだろうか?サカキ博士に用だろうか?とおもいつつ話しかけてみる。

 

 

 「ソーマさんどうかしましたか?」

 

 

 「話がある」

 

 

 このソーマさんは本当に言葉数が少ないな。本人曰く黒歴史らしいが……。

 そんな事を考えながら俺は彼の後ろについていく。

 やがて彼の部屋に着いた。

 

 

 「入れ」

 

 

 「お邪魔します」

 

 

 おもったよりは綺麗な部屋だと我ながらひどい感想を抱きつつ、ソファーに座る。ソーマさんは葡萄ジュースを冷蔵庫から二つ取り出して、机に置くと、俺の対面側に座った。

 

 

 「……お前は、自分が生まれたことを後悔したことはないか?」

 

 

 そこからソーマさんが自分のことを色々話してくれた。自分が生まれながら偏食因子を持っていること。ちなみにこれはナナのような親が神機使いだからというわけではなく、受精卵の時点で偏食因子を投与されたらしい。だからどちらかといえば俺よりの存在なんだと。……彼がある意味神機使いの生みの親というわけか。確か、そのソーマさんをベースに色々して今の神機使いたちが居るんだとうことを本人から聴いた気がする。

 話がそれた。自分の所為で母親が死んだこと。アラガミが自分に釣られて来る所為で同行者が死んだこと。……そのほか色々と。

 

 

 彼も、アリサさんと同じなのだろう。

 支部長からはアラガミを殲滅するための存在と言われ、神機使いたちからはアラガミを呼び込む死神として扱われてきた……。胸のうちを打ち明ける相手が居なかった。

 そこで、自分と限りなく近い存在が現れたとあって、話を聞きたがったのだろう。ソーマさんの話を最後まで聞き終わると、俺のほうも口を開く。

 

 

 「では、ソーマさんの問いに対する答えですけど……俺は後悔したことはありません」

 

 

 俺自身は三年前に生まれた存在ではあるが、この三年間、色々なことがあった。最初の一年目で世界の崩壊を阻止したり、次の二年目でアラガミフェスティバルを乗り切ったり、二年と三年の狭間でフェンリルの黒い部分と戦ったり、三年目で事務作業に殺されそうになったり……色々、あった。

 

 

 でも、生まれてきたことを後悔するときはない。もちろん、嫌なことなんてこのご時世腐るほどあるし、気の迷いで死にたくなったこともあったし、ジュリウスは毎日毎日勝負を仕掛けてくるし、勝つまで止めないし、他のブラッドも自由気ままで後処理しないし、フランさんは毒舌だし、クラウディウス博士×2は節度を守らなかった。

 

 

 ―――――――だけど

 

 

 「後悔だけは、しませんでした」

 

 

 さっきは散々酷評した人たちも、なんだかんだで力になってくれた。相談に乗ってくれた。

 そんな人たちがいたからこそ、たとえまともな人間でなくても、この体元々俺のものでなくても、生きていけたんだ。

 それに俺が死んだら、元々の体の持ち主ににも悪いしね。

 

 

 「………そうか」

 

 

 「ソーマさんだって居るでしょ?そういう人」

 

 

 「何を根拠に」

 

 

 「エリックさんが言ってましたよ」

 

 

 あの人俺に会ったらエリナの話かソーマさんの話か自慢話しかしないからね。

 エリックさんの話を降った瞬間、ソーマさんは視線を逸らし始めた。その顔は若干赤い。よかったですね、エリックさん。貴方、そこまで嫌われていないようですよ。

 

 

 「だから、そんなに1人で抱え込まなくてもいいんですよ。なんだったら、同族の俺に色々吐き出して見ますか?」

 

 

 「……フッ、今は言い。……悪かったな。くだらない話に付き合わせて」

 

 

 「いえ。悩みは戦場において死を招きますから」

 

 

 「そうだな。……一応、礼は言っておく」

 

 

 薄く微笑んだソーマさんを背に俺は彼の部屋を出たのであった。

 

 

 この日から、ソーマさんと話すことが増えた。

 

 

 

 

 

 




ソーマの部屋を退出後

アリサ「仁慈さん」
仁慈「?」
アリサ「私とも話をしましょう」
仁慈「えっ」
アリサ「隠しごとの無いように、ね?」
仁慈「え」


その後、仁慈の姿を見たものは居ない。
















嘘ですよ?もちろん。

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