あ、別にまってないですね。すみません調子に乗りました。
アリサさんの話を聞いてまたしばらくたった。ここ最近変わったことといえば、リンドウさんに代わりユウさんが第一部隊の隊長に就任したことである。新人がいきなり部隊長をやるという前代未聞のことだが、彼の今までの戦果と戦いに関する抜群のセンス、そして何より遠距離や至近距離と言った距離を含めた全ての状況に対応できるために選ばれたらしい。実に納得できる理由である。
そのことはサカキ博士にも廻っているらしく、彼は自室でコンピュータを操作しながら難しい顔をしていた。
「ふむ……ヨハンはソーマ君と彼を使って特異点を見つけ出す気か……」
「何で俺にはその話が来なかったんですかね?」
「君はヨハンが発掘した人材ではなく、私が発掘した人材……ヨハンにとってはイレギュラーな存在だからね。もし、万が一にでも裏切られたら対処が難しいからだろう。君が信じられないくらい強いことも関係しているとおもうがね」
「手綱が握れない猟犬は要らないと」
「君は猟犬というより、まさしくフェンリルに相応しい神機使いだと私は考えている。狼に首輪は付けられないさ。それは自分が育てた狼ではないのならなおさらね。まぁ、残念なことに実際は特異点のことも既に知っており、ついでに手なずけているのだけどね。……本当に君が味方でよかったよ」
「まぁ、貴方に並ぶ人に色々調教されましたからね」
狡猾で自分本位な狼なんですよ、と返しておく。俺をここまでにしたのは
心中でそう考えながらサカキ博士はコンピュータの操作を終えたらしく、机から椅子を少しだけ放すと、体を弛緩させ背もたれに寄りかかった。
「……よし。準備は完了だ。仁慈君、数日後に特異点をこちら招待する。第一部隊宛に任務を出しておくからその時、彼女を呼んでくれたまえ」
「了解です。……でも、今呼んでいいんですか?十中八九支部長にばれますよ?」
「それは、問題ない。ヨハンにはちょっとばかりヨーロッパに旅行に行ってもらうことになるからね」
ニヤリと薄く笑うサカキ博士。どうやら何か秘策があるらしい。
支部長のほうが問題ないとすれば障害は全て消えたことにも等しい。さて、特異点や終末捕食を廻って渦巻くこの一連の騒動、どうなるか……。また終末捕食がおきてそれに飲み込まれるっていうのは嫌だなぁ。
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「おや……?」
「あれ?」
サカキ博士の研究所を後にして、自室に帰ろうとするとエリックさんとばったり出会ってしまった。別に出会ったからなんだって話だけど。
「やぁ、久しぶりだね。仁慈君」
「毎回すれ違ったりはしてますけど、こうして話すのは確かに久しぶりですね」
「今度時間があったらエリナと遊んでやってくれないかい?どうやら僕の語りがあまりにも華麗だったものだから、また君に会いたいと言い出してしまってね」
「嘘や誇張は控えてくれませんかね?それを含めて何とか丸く治めるの誰だとおもっているんですか」
何度注意してもまったく言うことを聴いてくれないエリックさんに向けて苦情を言い放つ。そんな俺に彼はハハハと笑うと、胸を張ってこう答えた。
「大丈夫だ!最近では僕やソーマの話も交えている」
「全然大丈夫じゃないんですけど。俺の話聞いてくれてました?」
一体それで何が大丈夫だというのだろうか……。話す内容は何も改善されていないではないか……。
まぁ、それは今はいいか。
「それで、俺を呼びとめたのはなんですか?」
「ん?あぁ、そうだ。これも僕にとっては重要なことだけど、本題は別だ」
ここでいったん言葉を区切ると、何時も華麗華麗言っているときのような馬鹿な表情ではなく、フォーデルヴァイデ家次期当主としての真面目な表情を浮かべて言葉を紡ぐ。
「……どうやら、この極東近くで行われている人類最後の楽園であるエイジスを作る計画がそろそろ佳境になってきているらしい。僕の家にも一応知らせが来たよ」
「ふむふむ」
エイジス計画が佳境……それは俺の知っている知識と掛け合わせて考えるのであれば、終末捕食を起こすアラガミ、ノヴァの皮の部分が出来上がったということを意味する。つまり、終末捕食に王手がかかったと言う事だ。……特異点の彼女の重要度がこれでかなり上がったな。
「でもね、そこまで多くの人間には触れ回ってないみたいだ。ここの人たちに聞いても、誰もが首を傾げるばかりだったから……おそらくは、ある程度人々を選別しているんだろう。流石の楽園も、全ての人間を収容できなかったらしい」
エリックさんはそう言うが、実際は違う。ロケットで次世代へと残る人を選別しているのだ。そしてそれは、神機使いたちにはまだ内緒にしてある。エリックさんがいち早く知ることが出来たのはお金持ちだからだろう。何かあった時、お金をすんなりと借りることが出来るように、近くの権力者や財力のある者にはある程度を話しているのだと思う。
「ま、それか初めから楽園なんてないのかもね。もう既に終わっている計画を隠れ蓑にして別の計画を進めるなんて、よくある話しだしさ」
鋭い。
この人たまにこういうこと言うから本当に油断ならないよな。やましいことはあんまりなけど、こうも感が鋭いとピクリと来るわ。
「そうかもしれません。……情報、助かりました。詳しくは言えませんが、助かりました」
「いいさ。あの時、僕のほうから言い出したことだ。自分から言い出したことを破るのは華麗じゃない。もちろん、君のほうから助けを求めてもらっても構わないよ。出来る限りのことはやってみるさ。それが戦闘でも、それ以外でも」
「本当にありがとうございます」
やはりいい人だ。華麗華麗言っているけどいい人だ。本当に反射的に助けちゃったけど、助けてよかったと思う。
「そうそう、最後に言うけど。ソーマのこと誤解しないでくれよ。彼は色々あったからあんな態度を取っているけど、いいやつだよ」
「大丈夫です。分かってますから」
それならいい、とだけ言い残してエリックさんは自室へと戻っていった。俺も寝るとしますかね。
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俺は今、壮絶なピンチに襲われている。
それは、神機使いになってから体験した中でも上位に入るくらいの状況だ。もし、同じ状況に立っているのがユウさんレベルの頭のおかしい人じゃなければ、恐怖に足を取られ、無様に許しを請う事しか出来なくなるくらいだ。
「実は、ボルグ・カムランの堕天種が出たんですけど……わ、私と一緒に行ってくれませんか?」
それは誤射姫、カノンさんとの任務。それも、2人きりである。
なんでも彼女、ここ最近で実力を伸ばし続けるアリサさんに影響されて、積極的にアラガミ討伐に出ているらしい。その一環として、この前ユウさんと一緒にクアドリガの討伐に出たという。
そこまでは別に普通だが、問題はここからだ。なんとその任務でカノンさんは誤射率0%という奇跡を起こしたらしい。それは彼女に大きな自信を付けさせた。だから、今度はよく知らない人とも組んでみようという無駄な冒険心を働かせて俺を誘ったらしい。
……うん。ぶっちゃけ、オチは見えている。どうせユウさんがカノンさんの誤射をよけつつクアドリガと戦ったに違いない。カノンさんと任務に出た日のユウさんは何時もの三割増しで疲れていたからまず間違いない。
ヤバイ。正直断りたい。この前、極東の人はレベルが高いよなとユウさんに声高々と語っていたコウタさんに押し付けて、ウロヴォロスをいじめに行きたい。だが……
「あの……だめ、ですか……?」
通常時のカノンさんの頼みを断るという罪悪感が半端じゃない。戦闘時は、やくざもアラガミも泣いて逃げ出すような人格に変貌するというのに、日常生活時のいい人ぶりがとんでもなく俺の良心に響く。
俺の知っているカノンさんより三年若いカノンさんだぞ?俺が関わり始めた頃のカノンさんは神機使いになってからそれなりの年月を重ねていた。しかし、このカノンさんは違う。威力は俺の知るカノンさんより低いだろうが、頻度は絶対こっちのほうが高い。もうどっちに集中すればいいのか分からない状況になるのはもはや、水が高いところから低いところへと流れていくことと同じくらい当然のことだ。
……どうする、俺。どうする!?
ところで、いきなりなんですけど仁慈のプロフィールって必要ですかね?
見切り発車で書いている(進行形)なのでそういうのあまり考えたことなかったんですけど……別にいらないならいらないでいいですけどね。