「おぉ、ここが嘆きの平原かぁー」
「フランさんの言ってた通りかなりでかい竜巻があるのな」
ラケル博士との対話と言う名のラスボス戦を乗り越えた俺は、凍る背筋をスルーして上機嫌でベットに入った。
で、現在。
実地訓練とその他もろもろの疲れを回復した俺はフランさんから来ていたと言われた任務に来ていた。
その内容は、嘆きの平原に現れた小型アラガミの殲滅。実地訓練を終えたばかりの新人には妥当と言える内容だ。
始めはヴァリアントサイズで任務を受けることを考えてソロで行こうと思ったらフランさんに止められた。
彼女曰く“実地訓練を終えたばかりで一人とか馬鹿ですか”とのこと。
正論過ぎて何も言い返せなかった。
仕方がないのでその時暇そうにしていたナナを誘い、神機の刀身を変えてこの嘆きの平原に来たのである。
「ねぇ、仁慈。倒すアラガミってなんだっけ?」
「コクーンメイデンを含めた小型アラガミ複数」
「つまり出てくる奴を全員ブッ倒せばいいんだね!」
「人の話聞いてた?」
間違ってないけどさ。その捉え方はどうよ。
眩しい笑顔が発言の物騒さと怖さをさらに引き立てるんですけど……。
どうしてこうなったのか。アラガミを前にすると性格が変わるのかしら?
「それだけは仁慈に言われたくないなー」
ぐぅ正論。
実地訓練であれだけの黒歴史を晒した俺が言えることじゃあなかったね。
ホントあの事を思い出すたびに後悔の念が押し寄せてくるぜ。
『各班配置につきました。いつでも始めてください』
お仕事を始める前からモチベーションを下げていると耳にある通信機からフランさんの声が聞こえてくる。
どうやら準備が整ったらしい。
俺はナナとお互いに頷き合ってから、座り込んでいた高台から跳び下りた。
お仕事始めましょうか。
『目標のアラガミの討伐を確認しました。新人とは思えない速さですね、さすがです』
フッ、たわいなし。
地獄の訓練を乗り越えてきた俺には、このだだっ広い場所で小型の討伐など鼻歌を歌いながらでもできるわ!
「で、ナナさんは一体全体どうしたんです?」
そう俺が問いかける方向には神機を杖の代わりにして体を震わせながら何とか立っているナナがいる。
ナナはハァハァと荒い息を吐きつつも何とか言葉を紡ぐ。
「仁慈が…頑張って、るから。負けて、られないと…思って。ブースト…ふかしまくったら、こうなった」
「バカだ」
一番初めの訓練でジュリウス隊長に言われなかったっけ?スタミナ切れは死を招くって。実際、やられかけてたし。
「フゥー……仁慈がおかしいんだよー。いや、本当に。神機を投げるなんて控えめに言って頭おかしいと思うなー」
続けて、「貫け、俺のグングニール!」って何さとナナが呟く。
全然控えてないんですがそれは…。
神機投擲については仕方ないと思うんだよね。銃形態にするには時間がなかったし、早くしないとやられてたんはナナの方なんだぜ?
「神機がすぐ隣に刺さった恐怖感を教えてあげてもいいんだよ?」
「ちょっと待てウェイト。わかった、俺が悪かった。フライアに戻ったらおでんパンの量産作業を手伝ってあげるからその振り上げた神機をゆっくりと下すんだ」
ゆっくりと神機を置くナナを見て一息つく。
最近乱暴性が増してきたな。あのであった当初の純粋だった頃のナナはどこに行ったのやら。
「仁慈に穢されたー」
「人聞きの悪いこと言わないでもらえます?」
最近フランさんに「貴方が来てからジュリウス隊長の様子が変なんですよね」って言われたんだぞ。シャレにならんからやめろ。
後、こいつの言っていることデタラメなんで、ナナだけ連れてフライアに帰らないでもらえませんか?
……おい、待て。本気でおいてこうとするな。
ねぇ、ちょっと。待って、マジで。
おい車出すな走り始めるな俺を置いていくな!冗談じゃねーぞ!?
俺の叫びも虚しく、走り去っていく車。
その後姿を呆然と見送る。
「ふ、フフフフウフフ」
思わず笑いがこみあげてくる。
久しぶりですよ……こんなに俺を怒らせた人は……。
「フランさん。少々、帰還が遅れることになりそうですが、構いませんよね」
『……事情はたった今、ナナさんから承りました。護送班にはこちらからよく言い聞かせます。申し訳ありませんが、代わりの迎えが到着するまでしばらくお待ちください』
「謝る必要はありませんよ」
ここで言葉を切ると周辺に再び現れたアラガミ達を一瞥する。
「実はさっきの任務だけじゃあこの新しい刀身であるチャージスピアの具合がいまいちよくわかんなかったんですよ。なので、新しく出てきた
ブツンと通信機を切った俺は先程よりもさらに増えたアラガミ達に神機を向ける。
本当に神機使いになってからこんな展開ばっかだが、今日だけは許してやろう。
「ヒャッハー!自棄喰いじゃあ!!」
世紀末な奇声を上げながら俺はもはやお馴染みとなりつつあるアラガミ、オウガテイルの顔面にチャージスピアを突き刺しに行くのであった。
「あ゛ー……疲れた」
やっとフライアに帰ってくることができたため、その安心感からついつい声にだしてぐったりとしてしまう。ちなみに場所はロビー。
今更自分で言うのもなんだが、大分肝が据わってきたな。
「ねぇ、仁慈」
だらーんとロビーにあるソファーでたれていると、いつの間にか隣に座っていたナナがどこか不安げな表情を浮かべつつ、こちらの顔を覗き込んで話しかけてきた。
「なーにー」
「えーと……その、ごめん…ね?私が言った冗談のせいで仁慈を置いていくような事になっちゃって……」
「あーそのことかー」
別に怒ってないけどね。
フランさんが通信したとき、もうナナの方から状況は教えてもらったとか言ってたし別に気にしてないんだけどなぁ。
チラリとナナの表情を盗み見てみると、いつもの笑顔はなりを潜め、らしくもない暗い表情を浮かべていた。
まったく、何て
俺はたれていた姿勢を持ち上げて、普通に座るとナナの頭を軽く撫でながら言った。
「今回のことは別に気にしてないよ。フランさんからもナナが連絡したことを聞いたし、意図してやってないことはちゃんとわかってるから」
「………うん、ありがと」
するとナナは呟くように答えてからにぱっと笑った。
うん、やっぱナナは笑顔の方がいいよね。
「えへへ~仁慈撫でるの上手いねー」
「ちょ、おまっ、すり寄ってくんなよ。自分の服装考えろ」
「えー?そんなこと考えてるの?仁慈の変態ー」
「すげぇブーメラン投げるな、お前」
こんな感じでその日はずっとナナと一緒に話し合って終わってしまった。
途中になんか白いワンピース来た女の人が通りかかってロミオ先輩がうるさかったのだが、話に夢中で全く気が付いていなかった。
なんか、変なところでシリアスしてナナさんがヒロインのようになってしまった。
そして仁慈君にスルーされるユノェ……。