アリサさんが落ち着き、再び眠りに入ったのを確認すると俺は外でぶっ倒れていたオオグルマを担ぎ上げてサカキ博士の研究所へ持ち帰る。そんな俺を見てサカキ博士は相変らず仕事が早いねとでもいいたげな表情を浮かべた。
今回のは別に狙ってないんですけどね。
「サカキ博士。ちょっと奥の部屋借りますね」
「別に構わないけど……何をする気なんだい?」
「ちょっとばかし、話を聞かせてもらおうかとおもっただけです」
奥の部屋に入ると俺はオオグルマの肢体を拘束して、ぶら下げる。これで逃げようとしても逃げられない。
後は尋問のための道具をいくつか用意した後、オオグルマの頬にビンタを一発かまして寝ているこいつを文字通り叩き起こす。
「グブァ!?」
オオグルマは汚い叫びを上げた後、ぐったりとした。どうやらビンタ一発では起きれなかったらしい。
仕方がないのでさっきとは逆の頬を加減をしながら叩く。今度はうまく行ったようでオオグルマはしきりに周囲を見渡した後俺を睨みつけてきた。
「こ、これは一体どういうつもりだ!?」
「尋問」
「即答だと!?………まぁ、いい。君、こんなことをして唯で済むとおもっているのかね?私は貴重な新型神機使いの主治医だ。私が居なければ、アリサは使い物にならなんだぞ」
「仲間を攻撃させるようなカウンセリングを行う無能な主治医なんて、必要ないとおもいませんか?」
ピクリと体が反応する。
必死に隠そうとしているようだが、長年外面だけはいい車椅子のマッドと付き合っていた俺からすればお粗末なものだ。何故知っているという驚愕がありありと見ることが出来る。
だが、それだけではないようだ。……どこか心当たりがあるようにも見える。サカキ博士も知っていたし、オオグルマも感応現象のことを知っていたとしても不思議ではないな。
「な、何のことか、わからないな」
「あ、別にそういうのは求めてないのでいいです。話さないなら直接体に聞くので」
「な、何をする気だ!ハッ!まさか……私の体に乱暴する気か!エロ同人みたいに!」
「(無言の腹パン)」
「グボァ!?」
何気持ちの悪いこと言ってんだこの汚っさん。
むしろ、自分のほうこそそっち方面でよく出てきそうな顔の癖に。というか大活躍の癖に。
ゲホゲホ咳き込んでいるオオグルマの顔をアッパーすることで上を向かせる。
そして、彼の前にサカキ博士の部屋で余っていた鋼鉄を目の前にみせる。
「おい、ここに鋼鉄があるじゃろ?」
「ゲフ……ゴフ……?」
「これを、こうじゃ(グシャ」
目の前に出した鋼鉄を握り締めてバラバラにする。それを見てオオグルマは驚愕した。まぁ、普通の神機使いに出来ることじゃないからな。だが、驚くのはまだ早い。
「これがお前が何も話さなかった場合の結末だ」
「!?」
自分の結末をありありと見せつけたのが効果的だったらしい。
驚愕に染まっていた表情は、一気に真っ青になった。
「さて……40秒だけ時間をあげよう。それ以上は、お前が鉄屑になるとおもえ」
「こ、こんなことが許されるとお、思って……ッ!?」
「別に処理の方法ならいくらでもある。このご時世、人を殺しても不思議じゃない化け物がうじゃうじゃいるからな」
サカキ博士もこっち側だし。最悪、夜に縛り上げたコイツを外に放置すればそれで終了だ。元々、枠はないところに支部長が手を回して添えた人物だからフェンリル本部にはばれないし、オオグルマを知っている人たちには不慮の事故で死んだとでも伝えておけばいい。
現支部長も、そこまでコイツに思い入れがあるわけじゃないから、庇って損する状況なら容赦なく切り捨てるだろう。どちらにせよコイツは終わりだ。
「さぁ、どうする?このまま話して楽になるか、アラガミの餌になるか……二つに一つだ」
「………わかった、分かった。私の知っていることを全て話す」
「ついでに、情報を吐いたらこの支部から出て行け。お前の逝き先はこちらで用意してやる」
「わ、わかった……」
そうして俺はオオグルマからリンドウさん襲撃の真相を聞き、彼に細工をした後、彼を解放した。サカキ博士に借りた部屋から出つつ大きく体を解した。尋問なんて久しぶりにやったから疲れたわ。
「……ところで仁慈君。君の言う手配というのは……」
「もちろん、貴方が行うんですよ博士」
「……私は
「星を観測するためにはそれ相応の準備が必要でしょう?今回もその一部ですよ」
「本当に星を観測しに行くわけでは……」
「いいから、やってください。サカキ博士だってあのおっさんは早く追い出したいでしょう?」
「………仕方ないか。私が行うはずだった特異点の確保は既に目処が立っているし、いいだろう。しかし、あのまま普通に離してよかったのかね?普通なら、ヨハンに報告されそうなものだが」
「大丈夫です。それをすれば、あいつの命はありませんから」
「何……?」
「これでも汚い仕事の経験はいくらかあるので」
ニコリと微笑みながらサカキ博士に言う。
俺やリンドウさんの体を調べて実験するために、他から送られてきた神機使いや研究員を秘密裏に処理したこともあるからね。
「………今ほど、君が味方してくれてよかったと思った事はないよ」
「お褒めに預かり光栄です」
――――このときサカキは、何があっても彼とは敵対しないと心に誓ったという。
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サカキが用意した車の中、極東支部から無理矢理追い出される形となったオオグルマは懐から携帯を取り出した。
自分がアリサから引き離されたことで、彼女はもう使い物にならなくなったことと自分を追い出した仁慈の存在をヨハネスに知らせるためだ。
ヨハネスの番号を押し、電話を掛けようとしたとき、急に自分の体から激痛が走った。あまりの苦しさに車の中でのたうち回る。
そう、これこそが仁慈が行った対策。
彼はオオグルマを解放する際にもう一度だけ失神(物理)をさせて自分の血を一滴オオグルマの体内に送っていた。
もちろんその血は彼の腕から出たもの……それすなわち、殆どオラクル細胞とも言っても過言ではない。一応、人間の部位の代わりとして機能しているため通常はこのようなことは起こりえない。しかし、仁慈は自身の血の力である喚起を使い、オオグルマの中にある自分のオラクル細胞を活性化させたのである。
活性化したオラクル細胞はオオグルマの体内をどんどん捕食していく……それが、彼の感じている激痛の正体である。
ここまでタイミングよく喚起を使ったのはオオグルマが使っている眼鏡にサカキ博士(未来)が作り出した小型盗聴器をつけたからである。
サカキ博士(未来)はこれを使って人の弱みを握り時々自分の研究を手伝わせていた。これはその時仁慈が押収したものである。
「ガッ……ア、……ア……」
こうしてオオグルマダイゴという人物は、アラガミになることでその生涯を終えた。
そして、それを感知した仁慈によって捕食され、彼がどうやって死んだのかは永久に分からなくなったのである。
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流石に俺の細胞は野放しに出来ないから仕方ないよね。
元オオグルマ、現アラガミをさくっと丸々捕食した俺はそう考えつつ極東に帰って来た。サカキ博士はどん引きである。
しかし、上に立つものであれば大体持っている技能だ。何を生かし何を切り捨てるか……それを判別し、実行に移すことはごく当たり前である。
その翌日。
アリサさんが復帰したらしい。
先ほど、ユウさんとコウタさんに報告しているのを見た。アリサさんの影口を叩いていた神機使いもいるが、身から出た錆なので放置。
彼らを見返すにはそれ相応のことをしたほうが一番早い。時には口で説明するより行動したほうがいいこともあるからね。
出撃ゲート近くから聞こえてくる会話を聞きながらそんなことを考えつつ、階段を下りる。すると、俺の後ろからドタドタと何かが追ってきた。
振り返るとそこには復帰したばかりのアリサさんが居た。病衣よりも露出度が高い格好に相変わらず痴女疑惑が俺の脳裏を掠めるが気にしないようにしつつ話しかけた。
「えっと……どうかしました?」
「……実は私。戦い方をまた1から学ぼうと考えていて……その指導をお願いしたいんです。今度こそ、本当に自分の力で大切な人を守りたいんです」
彼女が言った言葉にちょっとばかりびっくりする。
いくら俺が彼女を慰めたからといって、戦い方を教わるレベルにまでになるとは……。
と、俺が考えていることを悪い意味に捉えたらしいアリサさんは不安そうな顔でこちらをのぞきこんできた。
「もしかして、ご迷惑でしたか?貴方も、私みたいな人と一緒にいるのは……嫌ですか?」
ヤバイ。彼女を不安がらせるのは得策とは言えない。俺は急いで彼女の言葉を否定した。
「そんな事はありませんよ。少々驚いただけです」
「でも……」
えぇい、さっきの陰口を聞いて若干ナーバスになっているのか。
「大丈夫です。それに言ったでしょう?生きていてくれてありがとう、と。アリサさんのことをいなくなって欲しいなんておもいませんよ」
精神が不安定ならば安心させてあげなくてはならない。彼女の場合は過去の記憶とリンドウさんのことで自分が生きていていいのか疑問に思っている。それを解消するにはその人の事を必要だとしっかり伝えることが出来る人が必要だ。
「……そうですか」
「はい。それで、指導の件でしたね。もちろんいいですが……結構厳しいですよ?」
安心して微笑むアリサさんにそういうと、彼女は表情を引き締めてコクリと頷いた。とりあえず、簡単なものをひとつ受けようかと移動する。
すると今度はユウさんも俺のことを追いかけてきた。
「ねぇ、仁慈。その指導に俺も参加していいかな?」
「ユウさんもですか?」
ぶっちゃけ、ユウさんは教えなくても十分に化け物になるとおもうんだけど。というか現在もめきめきとその片鱗を見せていると評判だけど。この前も、ボルグ・カムランとクアトリガを討伐したらしいし。
「うん。やっぱり、行動の模倣だけでは限界があるからさ……」
何このひとこわい。
そこまで一緒に任務を受けたわけじゃないのに、それだけで俺の動きを模倣しただと?
この人本当に唯の神機使いだよね?俺と同じく半分以上アラガミとかそんなんじゃないよね?
まぁ、断る理由もないのでユウさんの同行を許可した。
こうして、新型神機使い三人によるアラガミ殲滅方法を身につけるための特訓が始まったのである。
アリサ「(彼なら安心するし、強いしこれ以上ない人ですよね……)」
仁慈「(アレだけで俺の動きを模倣するとか流石すぎる……すぐに教えることなんてなくなるんじゃないかな)」
ユウ「(ダメだ……模倣じゃ彼にはたどり着けない……これを機に俺もみんなを守れる力をつけなければ……)」