ついでにサブタイトル詐欺。
「…………」
「…………」
いきなりの遭遇でなんというか……どうすればいいのか分からない。分からないが、ここで不確定要素は排除しておくべきか?
彼女が特異点であることはまず間違いない。ならば、いずれにせよ終末捕食を起こす事態となりうるのだろう。ここで排除しておけばとりあえず赤い雨が降るまでの間、終末捕食が起きることはない。
そんなことを考えながら彼女のことを見ていたからだろうか。彼女は唐突に体を震わせて、近くの物陰に隠れる。
だが、俺から離れていくそぶりは見せず、じっと物陰に隠れつつ俺に視線を向けてきた。……一応、敵意にも該当する感情をぶつけていたはずなのに、あの対応はどう考えてもおかしいな。
「ちょっといいかな?」
「…………」
とりあえず、言葉を使ってコンタクトを取ってみる。アラガミならアイサツより先にアンブッシュするが、特異点とはぶっちゃけ居ても居なくても不都合が生じるために唯排除すればいいというわけではないのだ(熱い手のひら返し)
え?言ってることがさっきと違う?流石に、敵意の無い人型を殺すには俺も抵抗感があるんですよ……。まぁ、敵対関係と分かれば容赦なくヤるけど。
「あー………もう敵意はない、よ?」
「…………」
神機をその場において両手を上げる。
しかし、特異点の彼女は意味がわからないらしく壁から出した頭を傾けた。……そうか、いくら人型をしていたとしても彼女はアラガミかそれに限りなく近い存在。言語は通じないし、無防備サインを出したところで意味不明だろう。
特異点の彼女はまったく反応しなかったのに、アラガミは無防備な俺に反応したらしい。俺の近くに姿を形成したアラガミ、コンゴウは神機を持っていない俺の姿を見てドスドスと突進してきた。
そんなお馬鹿なコンゴウの突進にあわせて軽くその場で跳躍。ちょうど俺が居た位置にコンゴウが来たとき、その頭を掴んで地面に叩き付けた。
重い音を響かせながら地面に陥没するコンゴウ。その背中に踵落しを食らわせて背中についている空気を出すパイプをぶっ壊す。結合崩壊で苦しむコンゴウの隣においてある神機をひょいと拾い上げて結合崩壊しているところに神機を捻り込むように入れる。そこからは何時も通り、体内で捕食形態にして中身を喰らい尽くす。ついでにコアも食べておく。
アンブッシュをかまそうとした不埒者を倒し、再び特異点の彼女に視線を向けると、そこに彼女は居なかった。
いつの間にか俺の隣まで来ていた。
「うぉ!?」
まったく気付かなかった。
彼女に敵意が無かったからよかったもののアラガミだったら即喰われて死んでいた。
若干冷や汗ものの体験をした俺とは違い特異点の彼女は暢気に俺の神機を覗き込んでいた。もしかして、特異点だから今喰らったコンゴウのコアが欲しかったりするのだろうか……。
「………」
「…………(クイクイ」
あってるっぽい。
俺の袖を引っ張り何かを訴えるように上目遣いで俺を見る。
……ここで、餌付けしておいたほうが後々よい結果を残すかもしれない。
神機を捕食形態にして、先ほど捕食したコアを吐き出させる。
すると特異点の彼女はそのコアをおいしそうに食べた。……特異点はその性質上アラガミのコアしか捕食しないのか。
さて、そろそろ戻らなくてはユウさん達が俺を探しに来てしまうだろう。コアを食べ終わって満面の笑みを向ける特異点の彼女の頭に手を乗せて優しく撫でる。
「じゃ、俺はもうそろそろ行くとするよ」
その後、俺はそれだけ言うと迎えのヘリがいるところまで向かう。ちょっとだけ後ろを振り返ってみると、特異点の彼女が笑顔で手を振ってくれた。
それを見て、俺も小さく振り返した。
………頭に手を触れたときに完全に彼女の気配を覚えた。これで次からはもっと接触しやすくなったはずだ。このことはサカキ博士に報告だけしておくとしよう。
―――――――――――――――――
極東支部に帰ってから、サカキ博士に軽く特異点を見つけたとだけ報告した。
「そ、それは本当かい!?」
「まず間違いないでしょう」
「で、その特異点は今一体何処にいるんだい!?」
「さぁ?」
俺の気の抜けた返事に珍しくサカキ博士はずっこけた。なんかすごい面白い。
「あのね……この件はとても大事なことなんだよ?一歩間違えれば、人類の滅亡につながるんだ」
「えぇ、身をもって知ってますよ。しかし、問題ありません。特異点の気配はしっかりと覚えています。近くに行けばどのあたりにいるのかわかりますし、一応餌付けもしておいたので、次に俺を見つけたときは向こうから来ると思いますよ」
どうやら、向こうは同属意識を持っていたみたいだし。
餌付けもしておいたから今回よりも好意的に来るだろう。
「そ、そうかい?」
「今確保しても、逆に支部長に確保される可能性のほうが高いですよ」
「確かにその通りだね。まずはあの部屋を作ることが何よりの急務だ」
あの部屋とは、中のものを完全にシャットアウトすることが出来る部屋のことである。それさえあれば俺達が特異点を確保して、かくまっても向こうからは見つけることが出来ないという仕組みだ。
「出来たら教えてください。特異点の元に案内しますので」
「あぁ、わかったよ。……そういえば、ロシア支部からヨハンが連れて来た新型君の主治医の身元がわかったよ。……君の予想通り、オオグルマダイゴという精神科医は存在しないらしい」
「やっぱりですか」
サカキ博士の予想通りの言葉に俺は軽く返事を返す。
彼は現支部長ヨハネスが目をつけてアリサさんにつけたのだろう。ロシアにいたときから色々手を回していたのかね。
「それにしても、よく彼が正規のものではないとわかったね。新型君の記憶から見たのかな?」
「簡単なことですよ。白衣さえ無ければ浮浪者みたいな外見ですし、何より……患者の前でタバコを吸うやつが医療に携わっているわけがないですから」
「なるほどね」
「じゃ、今からアリサさんのお見舞いに行ってきます。単純に気になるし、もしかしたら感応現象を通して新たな情報を手に入れることが出来るかもしれませんから。あ、あとオオグルマの身柄確保しておいてください。後で聞くことがあるので」
それだけを言い残し、アリサさんが眠っている病室を目指す。今は鎮静剤の効果で寝ているらしく前回のように暴れることなくおとなしく布団で眠っている。
そういえば、アリサさんの評価は思いっきりがた落ちなんだよなぁ……。元々高圧的な態度だったし、リンドウさんの消息不明に一枚噛んでしまったし、これからどうなるんだろうか。何をどうやったらあんなにまともな人になるんだろうか……。
そんな事を考えつつ、彼女の手に触れてみる。
すると前回と同様に彼女の記憶が流れてきた。
かくれんぼのようなものをする小さい頃のアリサさん。
それを探しにきた彼女の両親。
そして最後に、両親を目の前で食べたディアウス・ピター。
彼女の嘆きを最後に場面が入れ替わる。
今度は彼女がオオグルマに仕込みを受けているときの映像だった。
……なるほど、彼女がリンドウさんを狙ったのはこういう理由か。典型的な催眠術による刷り込みか。
精神が不安定のときに受けたから余計に強力な効果を発揮したんだな。それを考慮すると、咄嗟にリンドウさんから弾を外したのはかなりすごいことだ。
彼女の記憶を狙って盗み見るという若干……いや、十分外道といわれること間違いない行動をしつつ、そこから得た情報を吟味する。十中八九現支部長の差し金だろうなぁ。オオグルマを用意したのも彼だし。まず確定。
アリサさんに直接殺させる気だったな。それで死体はあの場に集まったアラガミに実行犯共々食べてもらおうと思った、という感じか?
……でも、それなら特務として俺をあの場に突っ込む必要はない。もしかして、俺もついでに始末しようとしたか?
もし、そうだとしたら今後も狙われる可能性がある。アリサさんのほうも彼らにとっては未だ利用価値のある人間だ。手綱は向こうが握っている以上、オオグルマはさっさとこちらで抑えておいたほうがいいかもしれない。
そこまで考えていると、アリサさんがパチリと目を開けた。一瞬暴れるかと思ったが、彼女の瞳はしっかり焦点が定まっていた。普通に正気らしい。
「あれ……私は……」
「目が覚めましたか」
声をかけると彼女がこっちのほうを向く。
そして俺と認識したとたん何故か顔を赤くした。なんでや。
「あ、あの……手」
あぁ、手を握ってたのが恥ずかしかったのか。
すぐさま手をはなして彼女に謝罪する。謝罪は鮮度が大事だ。後、完成度。
「い、いえ。別に嫌ではありません。………私を心配していたという感情がちゃんと伝わってきましたので」
情報収集も多少入っていた身としてはとても申し訳なくなるな。その表情は。
「この前も、こうして手を握ってくれていたのは貴方だったんですね」
「あれ、覚えているんですか?」
「いえ、覚えてはいません。唯、まるで両親に抱きしめられているような……落ち着くような感情が流れてきたことは覚えています……今回と同じように」
「そんなに老けてますかね……」
確かにナナのときも、そんな感じだったけどさ。
「でも今回はそれだけではありませんでした。貴方の昔の記憶も少しだけ流れてきました」
マジか。
それはものによってはかなり不味いぞ。
もし、未来のこととか、そうじゃなくても俺が半アラガミとか特異点についさっき会いましたとかが知られたら物凄く厄介だ。
「スタングレネードを片手にアラガミから逃げつつ、食料を確保する……そんなときの記憶……」
なるほど、
「貴方も、そうなんですか?」
アリサさんにそう聞かれたため俺は正直に見たものを話す。
すると彼女は自身のトラウマについて教えてくれた。
ちょっとした出来心で両親を困らせてやろうと、隠れたこと。
両親が探しに来たときにアラガミが現れたこと。
自分はそのアラガミに怯えて出ていけなかったこと。
神機使いとなって両親の敵が討てると思ったこと。
自分でもどうしてリンドウさんを狙ったのかわからないということ。
それら全てを話してくれた。
「あの時……あの時、もっと早く私が出ていれば、パパとママは……ッ!」
「……厳しいことを言うようだけど。その時、アリサさんが出て行ったとしても両親と一緒に食べられていただけだと思う」
「それでも……それでもよかったッ!1人ぼっちで残されるくらいなら、一緒に死んだほうがよかった!そうすれば、リンドウさんも……!」
「そんなこと言わない。それを言っちゃったら、誰よりもアリサさんのお父さんとお母さんが悲しむ」
俺の言葉にピクリと反応を示す。
「確かに、1人残されたほうは辛い。悲しい。寂しい。……けど、それでも、アリサさんの両親は生きていて欲しかったと思う」
「そんなのわからないじゃない!もしかしたら、私のことを恨んでいるかもしれない。憎んでいるかもしれない!」
「なら、俺が言おう」
ここで、言葉を切ってアリサさんの手を握りつつ、言葉を紡ぐ。
「………生きていてくれて、ありがとう。死なないでいてくれてありがとう。こうして俺と言葉を交わしてくれて、触れ合ってくれて……ありがとう」
最後まで言い切ると、アリサさんの目には涙が浮かんでいた。
「あ、あぁ……うわあああああああああああああああ」
涙はすぐに零れ落ち、彼女は俺に抱きついてきた。
俺は黙ってそれを受け入れて、抱き返す。
きっと彼女には甘えられる人が居なかったんだろう。頼れる人、支えてくれる人がいなかったのだろう。今まで1人で頑張ってきたのだろう。だからこそ、そんな頑張ってきた彼女が今まで我慢した分の涙を出し切るまではこうして安心させてあげようと、背中をポンポンと叩きつつ思った。
―――――――病室の外からこちらをのぞいているオオグルマに殺気をブチ当てながら。
まぁ、私が書ける物はこんなもんですよね。
あ、文句は受け付けませんので。