神様死すべし慈悲はない   作:トメィト

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こっちも投稿。



キュウビさんの一生

 

 

 

 

 我輩はアラガミである。名前はまだない。いつどのように生まれたのかは検討がつかぬ。ただ、今我輩がいるところでのうのうと育っていったことは覚えている。ついでに我輩がこの世に生を受けてから幾許の時が経過したことは自覚している。

 

 

 そんな何の変化もない退屈な時間の中で、我輩は一つの命令を地球(生みの親)から承った。何でもここ最近、極東と呼ばれる場所に我輩たちアラガミを完全に駆逐しえる神機使いという者たちがいるらしい。そのものは、三度にわたり終末捕食を阻止しているとか。

 どうやら地球(生みの親)はそのものたちが居る限り終末捕食の達成はなりえないと考えているようで、原初のアラガミである我輩に排除を頼んできたらしい。

 我輩としては、正直終末捕食が成功しようが失敗しようがどうでもいいのだ。成功すれば我輩も死んでしまう。それは少々いただけない。だが、我輩とて地球(生みの親)には逆らえぬ。

 仕方がないので、我はその生を受けてから初めて自身の故郷とも言える場所から外へと踏み出した。

 

 

 

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 最近我輩の周りを小さい人型がちょろちょろとうろついている。

 この生物は現在地球(生みの親)が目の敵にしている人間という生物だったか。会話を盗み聞く限りどうやら我輩のコアを狙っているらしいが……あまい、貴様ら程度の力ではどうにもならん。

 我輩は自身の尾からオラクルを放出し、こそこそと動き回っている人間達に向けて発射する。

 

 

 ………どうやら一掃出来たらしい。

 周辺に生き物の気配がしないことを確認した我輩は再び極東という場所に向けて歩みを進めた。

 

 

 

 

 

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 また、うっとおしいのが来た。前に追っ払った人間と同じマークがある服を着ていた。一応、この前片付けた奴とは違い武器を持っているようだが、甘い。武器を持った程度でどうにかできるほど我輩は弱いわけではない。

 軽く捻り潰してやろうぞ。

 

 

 

 

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 やばかった。何だアレは。本当に人間なのか?アレこそ化け物だろう?地球(生みの親)が危険視するのも分かる。アレは人間とは完全に別の生き物だ。

 

 

 あの後、我輩は前回と同じように尾からオラクルを凝縮した攻撃を武器を持った人間に向けた。前の人間はそれで死んだのだが、奴は違った。自身が持っている武器を振るい我輩の攻撃を防ぎながら接近し、我輩の体に傷をつけた。そこで我輩はようやく思ったのだ、アレこそが地球(生みの親)が危険視していた神機使いだと。

 

 

 その思考に至ったとき我輩は今まで自分でも使ったことがなかった攻撃をも使用し、神機使いを撃退しようとしたが、奴は強かった次々と繰り出される攻撃の合間を潜り抜け、時に反撃して見せた。今回は神機使いが途中で撤退したからいいが、我輩のほうも危なかった。今は受けた傷を癒すためにある一箇所にとどまっている。しかし、これからもあやつのような神機使いを相手にするとすれば我輩も自身の戦い方を確立しなければならない。

 しばらくは寄り道をしつつ、自身の動かし方を体になじませてから極東に向かうとしよう。この借りは必ず返すぞ。金の篭手を持つ神機使い。

 

 

 

 

 

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 また神機使いが来た。しかし、今回のは金の篭手を持つ神機使いではなかった。弱かった。我輩が尾を一振りすれば勝手にしり込みをし、逃げていく弱者であった。

 むぅ……どうにも神機使いというのは個々でその強さにブレがある。我輩たちアラガミはその固体の種類によってある程度の強さが固定化されているために強さが測りやすいのだが……神機使いはそうもいかぬ。今のところ、我輩の脅威となる者は金の篭手を持つ神機使いのみではあるが……今後もそういった輩が現れるやもしれん。

 慢心はせず、確実に潰すようにしよう。

 

 

 

 

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 今日、我輩と対峙した神機使いが我輩のことを「キュウビ」と名称していた。どうやら人間や神機使いの中で我輩はキュウビと呼ばれているようだ。

 キュウビ、キュウビか……。良い名だ。我輩はこの呼び名が気に入った。やはり、それなりに長く生きている身としては名の一つや二つくらいは欲しいものだ。

 戦った神機使いは強くなかったが、キュウビという名を教えてくれたこともあり、そいつは見逃してやった。

 運が良かったな。そこまで強くない神機使い。

 

 

 

 

 

 

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 我輩はアラガミである。名はキュウビ。

 うむ、名があるというのはやはりいい。あの時聞けて幸いであった。

 

 

 そのことはいいとして、今回我輩の身に変化が起きた。

 なんと全身が黒く染まり、我輩を含めたアラガミの頭上に、球体を作り出すことが出来るようになった。

 その球体には偏食因子、もしくはオラクルの動きを阻害する物質が出ているらしく、その球体が出来ていないアラガミ達が次々とその場で倒れふせていた。しばらくすると元の状態に戻ったが、再び成ろうとすればその場で黒化できることが判明した。

 ふむ……強いといえば強いのだが、この状態はちとオラクルの消費が激しい。なるべくは成らないようにするとしよう。

 

 

 

 

 

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 ついに極東と呼ばれる場所に着いた。

 ここに地球(生みの親)が危険と危惧する神機使いがいるのであろう。よくよく気配を探ってみれば、あの金の篭手を持つ神機使いの気配も感じることが出来た。

 決戦の日は近い。待っていろ、神機使いたちよ。我輩が直々に葬ってくれる。

 

 

 

 

 

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 待って、待って。確かに地球(生みの親)が危惧した存在ということは知っていた。三度にもわたって終末捕食を防いでいることも知っている。でも、アレはないだろう?おかしいだろう?人間として、神機使いとして越えてはならない一線を越えているだろう?あれは。

 

 

 

 

 我輩は、我輩の事を感知し倒しに来たであろう神機使いたちと対峙した。人数は五人。1人は我輩も一度戦ったことのある金の篭手を持つ神機使い。ほか2人は我輩達アラガミと似たような気配を持つ神機使いと、残りの2人は普通の神機使いだった。

 

 

 我輩は開幕の合図の意味も込めた攻撃を尾から放つ。

 金の篭手を持つ神機使いはやはり、自分に当たる攻撃だけを手に持っている武器で切り払い防いでいる。女の神機使いと我輩達に近い気配を持つ神機使いの片割れは、武器に備え付けられている盾を使って我輩の攻撃をやり過ごしていた。ここまでは分かる。今まで見たことのある防ぎ方であったからだ。

 

 

 だが、普通の神機使いと思われた金髪の神機使いと我輩達に似た気配を持つ銀髪の神機使いはお互いがお互いの体を踏み台にしつつ、空中で回避を行っていた。しかも、踏み台にしたほうもされたほうも、お互いがしっかりと我輩が放った攻撃が当たらない場所に移動している。あの身のこなしはおかしいだろう。

 それだけではない。我輩達に気配が近い神機使いが金髪の神機使いを空中に放り投げたかと思うとアラガミである我輩にも捕らえられない速度で接近し、素手で我輩の首元を持つと地面に叩き付けた。神機使いが、片手で。

 我輩は信じられなかった。その神機使いに続いて金の篭手を持つ神機使いも我輩の事を地面に押さえつけた。まったく動けなかった。あの筋力はおかしい。

 その後、残りの神機使いたちが動けない我輩に好き勝手に攻撃し始めた。我輩は黒化をして何とか全員を吹き飛ばしたが、受けたダメージは少なくない。

 

 

 あれらは今まで戦ってきた神機使いとは桁が違う。神機使いとではなく同じアラガミを相手にすると考えて、自身の体に一切慢心せず戦わなければならない。

 

 

 

 

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 無理だった。

 黒化し、我輩の頭上に黒い球体を作った。それで金の篭手を持つ神機使いと女の神機使い。我輩達と同じ気配のする神機使いの片割れは封じることが出来た。しかし、もう片方の銀髪の神機使いと金髪の神機使いはそれで止まらなかった。

 

 

 自身の中に存在する偏食因子の活動が限りなく消極的になっているにも関わらず。先程と変わらない身のこなしで我輩に襲い掛かってきた。

 我輩も唯黙ってやられるわけではない。因子をまとって突撃したり、尾から今までとは比較にならないくらいのオラクルを射出したり、周囲にバリアを作り周りを焼き払う凝縮した高濃度のオラクルを発射したりした。

 

 

 しかし、奴らは突撃を銀髪の神機使いが受け止めたり、尾から放ったオラクルを金髪の神機使いが全て正面から叩き斬り、挙句の果てに二人そろってバリアを突き破って攻撃してきたりした。

 

 

 勝てるわけがない。

 薄れ行く意識の中で、金の篭手を持つ神機使いがこういった。お前は運がなかったと。

 

 

 我輩は全身全霊で同意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

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 「仁慈君イェーイ!」

 

 

 「ユウさんイェーイ!」

 

 

 

 今俺の前では2人の神機使いがキュウビの前でハイタッチをしている。その場面だけ見れば強敵を協力して倒したためのハイタッチだと思うだろう。実際にキュウビは強敵だった。俺が戦ったときよりもはるかに強くなり、途中では黒化して俺たち神機使いの偏食因子の活動を制限しやがった。

 

 

 だけど、どう考えても相手が悪かった。よりにもよってこのキュウビ、ユウと仁慈が極東支部に滞在しているときに出現してしまったのである。

 後半俺、アリサ、ソーマは寝ているだけになってしまったが戦いはしっかりと見ていた。ユウと仁慈は実に息のあったコンビネーションでキュウビを追い詰め見事に倒していた。ぶっちゃけ途中でキュウビのことが不憫で不憫でたまらなかった。アリサとソーマも同じことを考えていたのか盛り上がっているユウと仁慈のほうを見てどこか微妙な表情を浮かべていた。

 

 

 

 まぁ、何だ。

 

 

 

 あの2人が居る限り、人類は安泰だろうなぁ。

 

 

 俺は懐から取り出したタバコに火をつけ、ボロボロに成ったキュウビの屍骸を視界に入れながらそんな事を考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




地球「もうだめだぁ……おしまいだぁ……」

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