神様死すべし慈悲はない   作:トメィト

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休日だから頑張ってみた。
今回は割りと重要な話が合ったりするかも?


第四十三話

 

 

 

 

 

 前回の冒頭でもちょこっと言ったとおり、最近アラガミの活動が活発化しつつある。しかも本来なら喰らい合うことがある別種のアラガミ同士でもだ。

 この状況に深刻と思いつつも楽しんで研究をしていたサカキ支部長によると、イェン・ツィーのような感応種の仕業である可能性が高いという結論を出した。感応種は特殊な感応波で周囲のアラガミ……いや、オラクル細胞の活動を操る能力を持っている。この不可解なアラガミの結託にも一応の説明がつく。

 というわけで、現在俺たちブラッドは大忙しなのだ。なんせ感応種に対応できるのがブラッドしか居ないから。反応がある場所に片っ端から駆り出されている。

 ……でもこれも今のうちだけな気がするんだよなぁ。極東の人ならいつの間にか感応種と戦えるようになっていても不思議じゃない。

 

 

 「ジュリウス隊長ーなんかそれっぽいアラガミ居ましたかー?」

 

 

 俺のところにはイェン・ツィーしか居なかったんだが。

 

 

 『いや、こっちには出ていないな。一応、感応種が出たから倒しておいたが』

 

 

 「どんな奴ですか?」

 

 

 『グボロ・グボロの親戚みたいな奴だ。あいつが近くに居るとき、バースト状態にも似た感じになった』

 

 

 「新種じゃん」

 

 

 何さらっと討伐してくれちゃってんの?この人。俺たちが今探しているのはまさにそういう新種なんですけど……。

 前情報もなしに討伐してくるとかさすがすぎてもはや何もいえない。

 

 

 『安心しろ。コアは既に確保してある』

 

 

 「それはよかったです」

 

 

 これでコアがなかったら発狂してたな。極東支部に居るサカキ支部長が。そんな事にならなくてホントよかった。

 ジュリウス隊長はいつも通りっと……次は。

 

 

 『もしもし?』

 

 

 「あ、ギルさんですか?そっちの方はどうですか?」

 

 

 『ソレっぽい奴は見つかってないな。とうもろこしみたいなアラガミは見つけたが』

 

 

 「何ですかそれ」

 

 

 とうもろこしみたいなアラガミって……。まったく想像できないんでど……。

 頭の中で割り箸刺して四つんばいで周りのものを捕食していくとうもろこしという我ながらカオスな光景が思い浮かんだ。

 

 

 『なんか周囲のアラガミのオラクルを吸収して自分が強くなる、変わった能力を持っていたな』

 

 

 「新種じゃん」

 

 

 ギルさんまでさらっと何言ってるんですかねぇ?あの入隊当初の常識が残っていたギルさんは何処へ行ってしまったの?

 しかもちゃっかり過去形で、もう倒しちゃってるじゃないですかやだー。

 

 

 『ロミオがチートすぎるんだよ』

 

 

 「把握」

 

 

 『おい。最近俺血の力だけピックアップされてるけど、滅多に使ってないからな?今回のようにイレギュラーな事態にしか使ってないからな!?俺自身も強くなってるからな!?』

 

 

 焦った様子で俺とギルさんの通信に割り込んでくるロミオ先輩。どうやら俺たちの会話を聞いて、自分が血の力ありきの人間だと思われていると考えて割り込んできたのだろう。

 大丈夫大丈夫。俺たちはちゃんとわかってるから。

 

 

 『でも、血の力が強力すぎてそっちの方しか印象が……』

 

 

 「それ以上いけない」

 

 

 通信越しにロミオ先輩が泣いているのが分かる。しくしくって音が聞こえてくるし。

 とりあえずギルさんのほうも問題なし。

 最後は……。

 

 

 『はい。何か御用ですか?』

 

 

 「俺のところははずれだったから……そっちはどうかなと思って」

 

 

 『こちらはサリエル型のアラガミを一体発見し、討伐しました』

 

 

 「堕天種?それとも接触禁忌種?」

 

 

 『銃での攻撃しか通らなかったところを見ると、おそらく新種かと』

 

 

 「もう何なのこいつら?」

 

 

 どいつもこいつも打ち合わせでもしていたかのように新種に会いやがって。何で俺のとこだけイェン・ツィーなんだよ。あいつもう新種でない上に一人で相手するのすごく面倒くさいんだぞ。

 

 

 『ナナさんが居てくれてよかったです』

 

 

 『ショットガンってゼロ距離で撃つとすごいんだねー』

 

 

 「やめて差し上げろ」

 

 

 アレは真面目に駄目だ。下手すればロミオ先輩の能力並にヤバイ。前にナナと任務に行ったとき転ばしたコンゴウの顔面にぶち込んだところを見たことがあるのだが、コンゴウの顔はしめやかに爆発四散。ハガンコンゴウなんて可愛く見えるくらいの惨状だった。サツバツ。

 

 

 『コアの回収も済みましたのでこれから帰還しようと思います』

 

 

 『仁慈ー。また後でねー』

 

 

 ナナの言葉を最後に通信が切れる。

 このまま帰るのは俺だけ働いていないみたいでなんか嫌な感じだなぁ。

 どうしたものかと頭を抱えてみても、俺がここからアラガミを探し回るしか方法はない。一応、目標を討伐した扱いの今の俺には竹田さんも付いていないしな。

 もう諦めて帰ろうか。もし誰かがからかってきたらOHANASHIでもすればいいだろ。

 

 

 しかし、そう考えるときに限ってあっさり帰れなくなったりするものだ。特に神機使いを始めた俺にはそれが顕著に現れる。なんだったら一級フラグ建築士を名乗っていいレベル。

 

 

 唐突に背筋に寒気を感じて、本能のままにその場を飛退いてみれば先程まで居た地面に燃えた岩が飛来していた。

 あのまま居たら俺の体は爆発四散していたことだろう。……あれ?なんかデジャヴ?

 ほぼ確信に近い予感を抱きつつ背後を振り返ってみれば、案の定そこには以前いいようにボコボコにされた感応種マルドゥークの姿があった。顔には俺がつけた傷があり、同種の別固体ということではなく、正真正銘あの時のマルドゥークである。

 

 

 しかも今回は二体のガルムを引き連れてのご登場である。こいつは一応認可されているが、コアを持ち帰ったことは一度もなかったな。これはちょうどいい。これを倒せば俺は感応種の未確認コアを手に入れることができ、尚且ついつぞやの仕返しができるというわけだ。

 

 

 俺は無線を極東支部のオペレーター宛にすると、短くマルドゥークとの戦闘に入ると告げて返事も待たずに切る。いや、聞いているかどうかすら危ういけどね。形式的に、ね。

 

 

 「――――ォォォオオオオオオオオオオオオン!!」

 

 

 マルドゥークが天に向かって咆えると俺たちが血の力を使うときと同じように紅い波動がマルドゥークの周りに渦巻いた。それに呼応するかのようにガルムたちも俺に牙を見せる。 

 俺は戦闘態勢を整えたガルムとマルドゥークを見据え、ニィと唇の端っこを釣り上げた。

 

 

 「いつぞやの恨み晴らさないでおくべきか!」

 

 

 世紀末地域極東で接触禁忌アラガミをはじめとする様々なアラガミと戦ってきた俺の力を見るがいい、マルドゥーク!

 

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――

 

 

 

 

 人と化け物の勝負に始まりの合図なんてものは存在しない。

 仁慈はマルドゥークに向けて言葉をぶつけると同時に自らが引き出せる最大の力を持ってして地面を蹴り、加速する。

 五秒も経たずにトップスピードに到達すると、まずは一番近くに居たガルムの顔に自らが構えていた神機を目視できないほどの速さで振り切った。

 

 

 切られたガルムがその巨体を地面に横たえると、残りもう一匹のガルムがようやく動き出した。そう、仁慈の速さにガルムの体が反応することができなかったのだ。

 両前足に供えられているガントレットに焔を灯し、無防備な仁慈の背中に振り下ろす。

 仁慈はその攻撃を、たった今倒したガルムの死体を蹴り、まるで背面跳びのような格好でソレを回避する。そしてガルムが地面にガントレットを打ちつけた瞬間に脊椎の部分を自身の体を横回転させることで切り裂いた。

 立体機動でも使っているのかと突っ込みたくなる動きである。

 

 

 一瞬ともいえる時間でガルム二体を倒してしまった仁慈に一歩後ろに下がるマルドゥーク。その様子は何だこれ聞いてないぞ?と戸惑いの感情が浮かんでいるようだった。実際にアラガミに感情があるのかは分からないが。

 このままだとまずいと悟ったか、マルドゥークは先程よりも激しく紅い波動を周囲に撒き散らし、半径約五百メートル内に居た大中小全てのアラガミを集める。

 

 

 集まったアラガミはサッと見た限りでも50体は確実に居る。しかし、そんな状況の中でも仁慈は笑う。いや、笑うというより嗤うと表現したほうが適切かもしれない。

 まるで必死にアラガミを呼び寄せ、生き残ろうとするマルドゥークを馬鹿にするかのように。

 ケラケラと嗤いながら一歩一歩確実に距離を詰めてていく。

 

 

 「グッ……ゥォォォオオオオオオオオオオオン!!」

 

 

 恐怖を振り払うように咆えるマルドゥーク。集められたアラガミはその咆哮を突撃の命令と受け取りいっせいに仁慈へと殺到した。

 まず、一番槍として仁慈の元へとたどり着いたのはザイゴートやシユウと言った飛行が可能なアラガミである。彼らは滑空でついた勢いを上乗せして、突進を繰り出す。人間の倍以上ある質量に速度が加われば、例え仁慈でもひとたまりもない。

 

 

 しかし彼は回避行動をとらなかった。

 

 

 

 ―――――殺った!

 

 

 この時、ザイゴートとシユウはそう感じたであろう。だが、彼らが考えていたようにはならなかった。

 仁慈は自分に向かってくるザイゴートの勢いを利用し、神機をその場で構えるだけでザイゴートを切り裂き、次に襲ってきたシユウは地面にしゃがみ、仁慈の上を通るタイミングで頭を蹴り上げた。神機使いとはいえ人間のものとは思えない力を不意に受けたシユウはなすすべもなく無防備な状態で宙に投げ出される。最後には、下から銃形態にした神機で寸分の狂いもなくコアを撃ち抜かれ絶命した。

 

 

 空中で崩壊していくシユウの身体をチラリと視界の隅に収めて、今度はこちらから行くぞとアラガミの群れに突撃をかました。

 

 

 一番近くに居たコンゴウはその転がりを跳び越えることで回避されさらに空中で逆さになったタイミングで神機をプレデターフォームに切り替え、自分の下を転がっていこうとするコンゴウを捕まえる。

 地面に着地するために身体を戻すときの勢いを利用し、コンゴウをアラガミの群れに投げ飛ばす。それと同時に着地。咬刃展開状態にしたヴァリアントサイズを横薙ぎにして前方に固まっていたアラガミを真っ二つにした。

 

 

 それを見て、サリエルを含めた遠距離を得意とするアラガミ達が距離をとり攻撃しようとするも仁慈はヴァリアントサイズを音を置き去りにする速度で振るい、飛ぶ斬撃を作り出しそれに血の力を込めて飛ばした。もはや新たなブラッドアーツといってもいいくらいである。

 

 

 至近距離は駄目。遠距離に徹しても斬撃が飛んで来る。

 本能のみで生きているアラガミもとてつもなく逃げ出したかった。

 しかし、

 

 

 「………キヒヒッ」

 

 

 逃げれるわけがない。

 こちらを見てもはや狂っているとしかいえない表情を浮かべている元人間の姿を確認し本能がそう叫んでいた。

 標的となっているマルドゥークもそうである。どう考えても自分の顔に傷をつけた人物ではない。その人物の皮をかぶったおぞましいナニカだとしか考えられない。

 

 

 「―――――――ォォオオオアアアアアアアア!!!」

 

 

 『グォオオオオオオオオオ!!』

 

 

 もはや逃げることは不可能。

 生き残るには戦うしかない。某ライダーも言っていた。「戦わなければ生き残れない」と。

 

 

 マルドゥークは己にある全ての力を引き出し、自身の能力と集めたアラガミたちの力を最大限まで引き出す。

 そして、震える本能をねじ伏せて人の形をしたナニカに全速力でアラガミを率いて向かっていった。

 

 

 

 

 

              ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 マルドゥークの討伐は特に何の問題もなく終了した。

 いやー途中から、予想以上にマルドゥークが弱く感じちゃうものだから思わず笑いがこみ上げてきちゃった。

 

 

 そんで、マルドゥークのコアを捕食した後は速やかに極東に戻ってきてコアをリッカさんに渡した現在。俺は新種の感応種と戦ったブラッドメンバーの意見を纏めてサカキ支部長に報告しようとしている。何故かラケル博士を連れて。

 

 

 なんで付いて来るんですかね?

 

 

 「私もサカキ支部長とお話があるのよ」

 

 

 ラケル博士とサカキ支部長の組み合わせ?何それ一番やっちゃいけない組み合わせでしょ。変わったとはいえ、マッドの気は残っているみたいなんだからさ。

 

 

 「合体できる神機兵……ロマンがあふれるわね」

 

 

 「おい、今何て言った?」

 

 

 元が元だから合体しても空中分解しそうで怖いんだが……。あ、でも有人制御の神機兵だったら某弓兵出てきたし大丈夫か?

 そんな感じでラケル博士と話しながら歩いていると、目的地である支部長室から色黒のワイルド系イケメンが出てきた。

 誰だこのイケメン。見たことないけど……。

 イケメンのほうもこっちに気付いたのか、俺―――正確には俺の右手に付いている腕輪を見ている。

 

 

 「その黒い腕輪……なるほど。噂のキ〇ガイ集団ブラッドってやつか……」

 

 

 「第一声がそれかよ」

 

 

 まさか初対面の相手にキチ呼ばわりされるとは思わなかった。

 思わずツッコミを入れる。その直後に俺に押されているラケル博士が少し驚いたような声音で目の前のイケメンに話しかけた。

 

 

 「貴方……シックザール前支部長の……?」

 

 

 「ん?……ああ、ソーマ・シックザール。ヨハネス・フォン・シックザールの息子だ」

 

 

 あれ?お知り合いですか?

 そんな疑問を抱く俺だが、話は俺のことを置き去りにして進む。

 

 

 「やはり……。貴方のお父様に大変お世話になったラケル・クラウディウスと申します。ぜひ一度お会いして、直接お礼を申し上げたいと思っておりました」

 

 

 「そうか。一応受け取っておこう。壊れて混ざった成り損ないのよしみでな」

 

 

 「……フフ。そうですね。お互い大事なものに逃げられたもの同士……仲良くできそうですわ」

 

 

 何この会話?謎過ぎるんですけど。

 通じてるの?お互いに理解し合えてます?

 ……なんで頭のいい人の会話ってこう遠回しなんだろう。サカキ支部長もそんな感じだし。

 この感じだとさっき会話に出てきたこの人のお父さんも遠回しな会話してたのかなぁ。

 

 

 「それにしても」

 

 シックザールさんとラケル博士の異次元会話についていけないので、まったく関係ないことに思考能力を割り振っていると、急にシックザールさんがこちらを向いた。なんぞ?

 

 

 「お前は不思議なやつだな。俺たちと同じ感じがするが、俺のダチにも似た気配を感じる」

 

 

 俺がラケル博士やシックザールさんと似たような気配……だと……? 

 ……中二病かな?

 

 

 結局シックザールさんはそれ以上語らずに、いい神機使いになれと言って去っていった。

 

 

 本当に、頭のいい人の考えることは分からん。

 そうは考えるものの、彼の言ったことが妙に頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書き終えて思ったこと。

仁慈君主人公じゃないよね。
むしろ、マルドゥークが主人公だったよね。

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