神様死すべし慈悲はない   作:トメィト
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第三十五話という番外編に近いナニカ。
とんでもないキャラ崩壊が含まれているのでご注意ください。


第三十五話

 「よう、仁慈」


 「あれ?真壁さん?」


 ルフス・カリギュラを倒し、忙しかった極東が落ち着きを取り戻したある日。珍しく仕事も頼まれ事もないので久しぶりにゆっくり一日を過ごせるとわくわくしていた俺に真壁さんが話しかけてきた。


 「まったく……以前から思ってたがお前は固いなぁ。もっとフランクにいこうぜ。呼び方とか話し方とかさ」


 「は、はぁ……。分かりました。……それでハルオミさん。何か用ですか?」


 「殆ど何も変わってねぇじゃねーか。ったく……いや何、この間のルフス・カリギュラの件で色々世話になったからな。お返しに食事でもおごってやろうと思ってさ。どうだ?」


 「そうですね。ちょうど朝ごはんを食べるところだったので、お願いします」


 こういうときの好意は素直に受け取っとけってばあちゃんも言ってた。


 「よっし、じゃあ行くか!」


 「すぐ後ろにあるんですからそんなわざわざ言わなくても……」


 ウィーンとラウンジの扉を開き、真っ先にムツミちゃんが料理を作っている中央に向かう。いつも座っている真ん中の席から右に三つずれたところにすわり、オムライスを頼んだ。


 「結構可愛い注文するのな」


 「いけませんか?」


 いいじゃないオムライス。おいしいじゃない。特にムツミちゃんが作るオムライスは卵がふわっふわしているのでなおうまい。
 目の前に出されたふわふわオムライスにパクつきながら、ハルオミさんの様子を伺う。
 こちらの視線に気付いたのか、ハルオミさんはムツミちゃんに出されたお酒から目を外してこちらを向いた。
 と、言うか朝っぱらから酒ですか……。


 「どうした?何か言いたそうな顔だな」


 「朝から酒はいかがなものかと」


 「ったく、お前は本当に固いなぁ。仕事がない今日くらいはいいだろ」

 
 お酒の入ったグラスを傾けながらハルオミさんはどこか懐かしそうに俺を見ながら言った。……もしかしたら、奥さんであるケイトさんとこのようなやり取りをし、そのことを思い出しているのかもしれない。


 「あ、そういえば。お前に聞きたいことがあったんだ」


 「いったいなんですか?」


 やはり仇をとったからといってそんな簡単に折り合いなんてつかないよな。
 ハルオミさんの表情を見ていると何か悪いことをした気分になったので、彼の話に乗っかる。
 俺が聞き返すとハルオミさんはルフス・カリギュラを倒しに行く時と同じくらいに真剣な表情で口を開いた。


 「お前は女性を見るとき……まず、どこを見る?」
 「は?」


 彼の言葉を聞いてほぼノータイムで俺の口から間の抜けた声が漏れる。しかし、それは仕方ないことだと思う。今までで見てきた中で最上級の真面目な表情で放たれた問いがこれだぞ?
 ルフス・カリギュラの時のことを知っているからこそ、さらにギャップが大変なことになり、俺の頭の中を混乱させる。


 「えーっと……何言ってるんですか?」

 
 認めたくない。奥さんのことを思い出してしんみりしていたと思った人が、こんなくそまじめな表情で女性のどこを見るか、と尋ねているなんて。
 唯一の希望を込めて、ハルオミさんに向かって聞き直すも、

 
 「だから、町行く人でも、このアナグラの中にいる職員でも、俺たちと同じ神機使いでも、女性を見るときはまず……どこを見る?」


 聞き間違いじゃなかった。俺の耳は残念なことに正常に機能していたらしい。いや、ハルオミさんの頭がおかしくなったんじゃないのこれ?
 混乱を極め、思わず黙り込む俺にハルオミさんは何を思ったのか呆れた様な顔をすると、


 「もしかして恥ずかしくて言えないのか?……フッ、青いな」


 などと言いやがった。超ブッ飛ばしたい。
 ルフス・カリギュラ戦および、その前のギルさんへの対応などで上がっていたハルオミさんの株が大暴落である。つーかこの人死んだとは言え、奥さんいたんじゃないの?仇とったからってはっちゃちゃけるの早くない?
 これは査問会行きも納得ですわ……。


 「まぁ、そんな恥ずかしがりやなお前に教えてやろう。世間一般の男性は女性を見るときは顔か胸を見るが…………俺は、脚だ」

 
 チャラーチャラララーデッデッデッデデデッデッデッデデデデッデッデッデデデデッツターン!
 

 キメ顔で何言っちゃってるんですかねこの人。
 俺が向けている絶対零度の視線を知ってか知らずか、ハルオミさんはそのまま語りだす。


 「最近の俺のブームはな、脚……それもニーハイだ。本来はオーバーニーと呼ぶべきだが、日本語におけるニーハイとはひざまでの丈のソックスの略称だ。ニーハイの要諦は、ソックスのロゴムとボトムスの間にできる領域、その太ももの……わずかな輝き……」


 「たとえるなら、朝、山の端から顔を出した陽光のような……それが、今、俺が求める女性の美だ。……いいだろ?」


 はい、いいですね。はてしなくどうでもいいです。いつの間にやら周囲に集まっていたハルオミさんをまるで崇める様な視線で見ている極東の男性神機使いたちを眺めながらそんなことを思う。
 前三枚目はモテるとか言ってましたけど、これは無理でしょう。見てくださいよ、周囲にいる女性たちの目を。まるで虫けらを見るかのような冷たい視線を送ってきてますよ。
 まぁ、しかしそのままそのことを伝えるのはさすがにあれなので、適当なことを言ってお茶を濁そうとするが、ハルオミさんのほうが早く口を開いた。


 「どうした、仁慈?ニーハイだぞ。いいと思わないか?」


 「人それぞれだと思います」


 実際俺はうなじが好きだ。そこにさらに浴衣を着ていればなおよし。
 ま、ここでそれを言ったらさらに収集がつかないから言わないけどな。
 
 
 「その通りだ仁慈。俺は外見など見ずに内面で女性を選ぶ」


 至極真面目な顔でそう言いながら俺の背後から顔を出すジュリウス隊長。
 急に話に割り込んでこないでもらえませんかねぇ……。しかし、よくこの会話に入ってこようとしたな。ジュリウス隊長。


 「内面……だと……?」


 突然乱入したジュリウス隊長の言葉にオサレな反応をするハルオミさん。え?何事もなかったかのように始めるんですか?
 

 「そうだ。まるで母親のように全てを包み込み、受け入れてくれる温かさと包容力を兼ね備えている女性が好ましい」


 やだ……言っていることは唯のマザコンとも呼べる内容なのに、ジュリウス隊長が孤児院出身という経歴がその発言を重いものに変えている……。
 見みろ。ハルオミさんの表情が引きつっているじゃないか。しかも、最初と論点が微妙にずれてるし。


 「え、なになに?好きな女の人の部分の話!?俺は当然胸だなー」


 「えぇい!また乱入者か!?」


 微妙に重くなった空気が漂う中、明るいというかここまでくればもう唯の馬鹿じゃね?という声音の声がその重たい空気を吹き飛ばした。これをしたのはブラッドが誇る自称ムードメーカーであるロミオ先輩だ。
 またブラッドか。こいつら本当にエリート部隊なの?思春期真っ盛りの男子高校生かなんかの間違いじゃない?


 「胸か……。それは男ならば誰しもが通る道だ。しかし、そのまま停滞しているものと、ありとあらゆる探索を乗り越えその場所へたどり着いたかによって男の価値が変わってくる部分だ……まさか、コイツは……」


 「真面目に考察を始めなくてよろしい。それに、ハルオミさん。ロミオ先輩の顔をよく見てください。そこまで考えて発言しているようには思えませんよ。きっと思春期で精神年齢が止まっているんでしょう」


 「ぐっはぁ!!」



 『ロミオが死んだ!』 『この人でなし!!』


 誰だ今の。
 ロミオ先輩が入ってきたあたりでハルオミさんの話を聞いていたらしい、ラウンジに居た男性神機使いたちも騒ぎ出す。つーかこの人達、さっきハルさんのこと崇めたような視線で見てた人達だ。
 あぁ……なんか取り返しのつかないことになってしまっている……。
 誰かー!へループ!


 「………一体何がどうなってるんだ?」


 カオスになったラウンジを鎮めようと右往左往する俺の耳にそんな声が届く。
 これはもしや、と声が聞こえたラウンジの入り口のほうを見てみればそこには期待していたこのカオスを鎮める可能性を秘めた人物。ブラッドの兄貴分であるギルさんの姿があった。

 
 ――――きた!ギルさんきた!メイン兄貴きた!これで治まる!


 と、大歓迎状態だった俺はすぐさまギルさんのほうへ向かい事情を説明する。かくかくしかじか。

 
 俺から話を聞き終えたギルさんは、うんうんと頷くと俺に一言「任せておけ」と言い、好き勝手に暴れまくっている極東の男性神機使いたちに向けて口を開いた。


 「お前ら!女性で一番いいところは人それぞれだ!自分の意見を相手に押し付けるんじゃない!」


 あれ!?思ってたのとなんか違うぞ!?予想ではもっと冷ややかな言葉を浴びせるのかと思っていたのに……。


 『おぉ……そうだ。確かにその通りだ……』 『どうしてそんな簡単なことに気付かなかったんだ……』


 治まるんだ!?あの一言でこの事態収束しちゃうんだ!?あの人もハルオミさんと同じで、仇をとってから随分とはっちゃけてますねぇ……!
 いつもとは明らかに違うギルさんに尊敬の眼差しを送る男性神機使い達(馬鹿共)たちを視界の端っこに納めつつ、今回の騒動の主犯格となったものたちを見てみる。


 「……そうか、そんな簡単な話だったんだな……。それに気付かないとは……フッ、俺もまだまだということか」


 「なんて懐のでかさだ。……俺も負けてられないぜ!」


 「ギル……こんなに立派になって……もう、俺が教えられることは何もないな……!」


 分かってはいたがどいつもこいつもろくな反応をしていなかった。ギルさんのほうもさっきまで確実に沈静化されつつあったのに、現在では困惑の表情を浮かべたギルさんを男性神機使い達が崇めて騒ぎ立てているため事態は悪化した。


 「もうやだ……」


 思わずゴンッ!と机に額をぶつけつつ突っ伏す。もう知らない。勝手にすればいいよ。そう思い俺はこの事態の収束を他の人に押し付けることにした。






 ――――――――結果。この事態はラケル博士の冷たい微笑みによってすぐさま終結することとなった。
 今回ばかりはラケル先生に心の底から感謝した。





 ちなみに。どうしてあの時ギルさんがあんな発言をしたのか聞いてみると。


 「いや、ようやく肩の荷が下りたからな。今までみたいに一人を気取らず、積極的に仲間を作ろうと思ってな。とりあえずあの場では周囲に乗っかってみたんだが……失敗したみたいだ」


 などと言っていた。
 ……うん、タイミングが悪かったね。その日、俺はギルさんに一杯お酒を奢りました。