神様死すべし慈悲はない   作:トメィト
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どうして何時も何時もイベント直前で終わってしまうのだろうか……。
今回もシエルのときと同じで、ルフス・カリギュラ戦には入りません。それは次回となります。


第三十三話





ドクンドクンと心臓が大きな音を立てて脈を打つ。その大きさは周囲の人にまで聞こえているのではないかと思えるほどだ。現在俺は目の前の人物に壁際まで追い詰められている。顔の横には腕がありいわゆる壁ドンと呼ばれる体勢だ。


 目の前の人物もなにやら興奮しているのかその息は荒く、目は鋭くぎらついている。俺はその目を見るたびに心臓が早くなるのを感じていた。だんだんと距離が縮まっていく。気がつけば目の前には俺に壁ドンをしている人物の顔があった。


 あぁ。認めよう。今俺が抱いている感情を。目の前の人物のことを見ていると胸の鼓動が早くなる。その目を見ていると身体が石になったように動かなくなる。そう、俺が抱いている感情は――――――――








































 ――――――――――――――恐怖だ。



 「仁慈お前、エイジスで赤いカリギュラを見たって本当か!?そいつはどこに行った!?さっさと答えろ!!」


 「答える、答えますから!ちょっと離れてくれませんかねぇ!?」

 
 唇が接触しそうなくらい近いので色々と危ないんですけどっ!?
 
 
 グイっとさらに顔を近づけてくる目の前の人物―――ギルさんを何とか引き剥がして距離をとり息を整える。深く深呼吸をしながら俺は周囲で顔を赤くし、俺とギルさんをちらちら見ていた連中を睨みつける。てめぇら黙ってみてないで助けろや。あ、ちなみに妙に興奮した様子でこちらを見ていたラケル博士は全力でスルーの方向で。今のあの人はいつもとはまた別のベクトルで怖い。なんていうか、腐のオーラが半端ない。 
 さて、どうしてこうもラウンジがカオスな状況に陥っているのかというと、俺があの赤いカリギュラ?と出会って追い返し、無事に極東支部に帰還したときのことだ。

 


            ――――――――――――――――――――――


 
 いつものごとくラウンジで食事を取っていると、つい最近に会ったギルさんがお世話になったという真壁ハルオミさんが話しかけてきたのだ。内容はギルさんの過去。おそらく彼が今も抱え込んでいるもいるものについてである。
 

 「俺たちが居たグラスゴー支部は、俺とギルを含めて神機使いが三人しか居ないちゃっちい場所だったんだ。で、そのもう一人の神機使いが俺たちのチームの隊長を務めていた。名前はケイト……ケイト・ロウリー。ま……俺の嫁だったんだけどね」
 

 「………」


 「なんでそんな疑わしそうな目で見るんだよ」


 「だって真壁さん。いかにも三枚目って感じじゃないですか」


 「お前三枚目男子なめんなよ?いまどき顔だけの二枚目より女性を楽しませたりすることができる三枚目のほうがモテるんだぜ?……って違う違う。そんな事を話したいわけじゃない。話を戻すぞ」


 真壁さんが咳払いをして変な方向に行きかけた雰囲気を直し、再び語りだす。


 「さっきも言ったように俺たちの支部は三人しか神機使いが居なかったわけだが、極東みたいにわんさかアラガミは沸かないし、大型アラガミだって数ヶ月に一回現れるか現れないかくらいのものだったから、何とかなってたんだ」


 「その日も小型アラガミ数体の掃討っていう簡単な任務でな。ちっとばかしアラガミ同士の距離があるから二手に分かれてさっさと終わらせようって別々にアラガミを狩った。俺のほうはすぐに終わったさ。たかがオウガテイル三体だからな。でも、ケイトたちのほうはそう行かなかったらしい。通信がかかって来てケイトの切羽詰った声が聞こえてきた。なんでも今までに見たことのない新種だったらしい」


 「俺はすぐにケイトたちに合流しようとした。だが、距離が離れていたために二手に分かれたんだ。そう簡単に合流できるはずもなく、俺が到着したころにはもうケイトの姿はなかった。あるのはケイトの服の一部を地面に縫い付けているギルの神機と赤い腕輪を抱いてただただ泣いているギルだけだった……」


 真壁さんの握っているグラスがピキっと嫌な音を立てる。おそらく真壁さんはそのときのことを思い出し、自然と腕に力が入っているのだろう。


 「……あいつは俺に気付くとひたすらに謝ってきたよ。ケイトは新種のアラガミとの戦闘で神機使いの命綱である腕輪をやられて、アラガミになるまで時間がなくギルに自分を殺すように頼んだらしい。それでギルも苦しい葛藤の末にケイトの頼みを受けた。多分ギルが無愛想な態度をとるのは怖いからなんだろうな。一度、大事なものを自分で壊したからこそもう二度とそんなものは作らないとしているのかもしれない」


 なるほど。これが一番最初に会ったころ、ロミオ先輩を殴り飛ばした理由か。大事な人を殺すという体験したグラスゴー支部のころのことを聞かれてつい反射的にやってしまったんだろう。真壁さんが言うには、マスコミがギルさんのことについて好き勝手聞いて、言いふらしたらしいからな。そうやって自分の記憶を探って考えている俺の姿を思い話で沈ませてしまったと思ったらしい真壁さんは声音を先程までの重苦しいものではなく、初めて会ったときのような明るい声音に変え言葉を紡ぐ。


 「いや、悪かったな。こんな思い話をしちゃって」


 「別に大丈夫ですよ。……ただ、どうして俺にこの話をしたんですか?」


 真壁さんとは昨日会ったばかりで、しかも軽く自己紹介をした程度の仲である。そんな人に自分の大切な仲間であるギルさんの抱えているものを話したのはいささか不自然に思う。
 

 「……あぁ、それはな。お前がケイトに似てるからだよ。実力の話じゃないぞ?俺のケイトはお前みたいな化け物じゃない」


 「今の言葉いりましたかねぇ……」


 「念のためだよ念のため。でだ、何が似てるかって言うと雰囲気だな」


 「雰囲気ですか?」


 「そうだ。何とて言うかこう、その場に居るだけで活力が沸いてくる存在というか『コイツと一緒なら何でもできる』と思わせてくれる……そんな雰囲気だ」


 「へぇー自分のことだからかあんまりそうは思いませんけどね。どちらかといえば『コイツまた何かやらかしてくれるんじゃないだろうな』と思われてそうですけどね」


 「それは……あー、確かに」


 「ですよね」


 俺なりに今までの噂を考慮して考えた結果である。正解だという自信ははあった。同時に悲しくもなったが。
 普通にすればいいじゃないと思われるかもしれないが、ぶっちゃけ相手の意表を突くということで俺の行動も割かし有効だったりするのだ。アラガミだって俺の今までにない動作に動揺し、自身の動きを止めていたこともある。つまり、今まで俺は好き勝手に動いていたのではなく、あえてそうしていたのだッ!


 「それは結果的にそうなっただけだろ……ったく、真面目な話をしていたはずなのにそんな空気じゃなくなっちまったな」


 「シリアスなんてくだらねぇ!俺の話を聞けー!」


 「色々混ざってんな……ま、いいや今日は話を聞いてくれてありがとうな。また一杯やろうぜ。今度は楽しい話をつまみにしてな」


 持っているグラスを一気に傾けて中身を空にすると、そういい残して席を立とうとする。……あ、そういえば。


 「すいません。今更聞くのも何なんですが……ギルさんたちと交戦したアラガミってどんなのなんですか?」


 「ホント今更だな……空気入れ替えてから聞くか?普通……ギルが言うには相手は『赤いカリギュラ』だったらしい」


 赤い……カリギュラ……?ま、まさか。こんなことがありえるのか?でも首元に神機刺さってたし、いくらか傷も負っていたし……。というか、先の出来事は何年前の話だ?


 「そうですか。ちなみにその出来事が起こったのはいつですか?」


 「2071年。今から三年前のことだ」


 「なら……ケイトさんが持ってた神機、全体的に淡いピンク色で刀身はロングブレード、銃身はアサルトじゃありませんか?」


 「――――――――――っ!?どうしてお前さんがそれを知ってる。話を聞いていた様子からすると知り合いってわけではなさそうだが……」


 俺の質問に息を呑む真壁さん。その反応を見れば俺の言ったことが正解だということが分かった。これは確定かな。
 あの、赤いカリギュラの件はかなり危険なので、サカキ博士をはじめとする極東の偉い人達にはすでに伝えてある。おそらくは明日にでも情報が回ってくるだろう。なら、本人に言ってもいいかな。特に隠すほどのことじゃないし万が一、一人で倒しに行こうとしたらとめればいいだけだ。


 「……落ち着いて聞いてください、真壁さん。実は今日の任務で首に先程言った神機が刺さった赤いカリギュラと接触しました」


 「――――――――本当か?」


 急に与えられた怨敵の情報に今まで浮かべていた表情を全て消し、能面のような顔で確認を取る真壁さん。


 「はい。サカキ支部長並びにそれに近しい役職の人にオペレーターのヒバリさんにはすでに報告してあります。多分、明日にでも正式に情報が出回ることになるでしょう」


 「そうか………ようやくだ。ようやく、過去に決着をつけるときが来た……。仁慈、ありがとうな。そのこと教えてくれて」


 「いえ、どうせ明日にでも知れ渡る情報ですから。……先程も言った通り、明日には極東支部にいる人にはこのことが伝わり、討伐任務が行われるでしょう。急ぐ気持ちも分かりますが、今日のところはゆっくり休んだほうがいいと思いますよ」


 「ハハッ、さすがに今から行こうとは思わねぇよ。まぁ、心配してくれてありがとうな。俺は大丈夫だが、万が一ギルがこのことを知ったらお前さんのほうで止めといてくれ。あいつ絶対に一人で行こうとするぞ」


 「アハハ、そうですね。もしそうなったらそうしておきます」


 その後、お互いに笑いあって真壁さんはラウンジを出て行った。彼を見送り、まだ少しばかり残っていたご飯を完食しようと再び料理に向き直ろうとしたとき、ものすっごい形相で近付いてくるギルさんを見たのであった。





         ――――――――――――――




 まさかもうすでに情報が出回っているとは思いもしなかった。サカキ博士仕事はっやーい。
 


 「で、俺の答えですけどあの赤いカリギュラがどこに行ったのかはわかりません」


 あっという間にどこかに行ってしまったしな。方向だけはかろうじてわかったが、詳しくどこに行ったのかなんて分かるわけがない。おそらくその辺はすでに極東支部が動いているはずだ。

 
 「そうか……つかみかかって悪かったな」


 それだけ言い残して、どこかに――――おそらく赤いカリギュラを探しに行こうとする――――ギルさんの腕をつかむ。
 唐突に腕をつかまれたギルさんは今までで一番怖い顔で振り向いた。完全に堅気じゃない顔をしていらっしゃるぜぇ……。


 「何のまねだ」


 「もうすでに観測班による捜索が始まっています。大まかな場所も搾り出せているので明日にはあの赤いカリギュラの居場所も分かるはずです。なので、今日はゆっくり休んで英気を養いましょう」


 「いや、でも……俺は……」


 「今日はもう日が沈みかけていますし、ギルさんだって今日の任務の疲れが残っているでしょう?そんな状態で勝てると思ってるんですか?」


 ジトーという視線をギルさんに送る。俺が言っていることを正論だと考えているのか、ぐっとたじろいだ。このままいけるか?


 「だけど……っ!」


 やっぱり駄目か。まぁ、こっちが無理を言っている側だということは分かっている。三年間も、自分の無力さを嘆いていたであろうギルさんにとってはこの「待つ」という選択肢は非常に酷だ。彼からすればもう充分待ったのだから。
 けど、こっちだってハイ、そうですかといって見送るわけにはいかない。俺は気で戦闘力を測るなんてZ戦士みたいなことはできないが、あのにらみ合いであのカリギュラの実力は分かっている。少なくとも疲労の色が見えるギルさんでかなう相手ではない。
 うーん、こうなっては仕方がない。少々強引だけど……。

 「仁慈、いいから離せ!これは俺の問d」
 「ATEMI」


 ドサッ


 ギルさんの体がラウンジの床に落ちる。
 いっても聞かないならこうするしかないな。すみません、ギルさん。明日になれば真壁さんも居るし、堂々と戦えますから今はゆっくりと寝てください。
 よっこいしょと、ギルさんの体を肩に担いで運びながら俺はそう思った。