神様死すべし慈悲はない   作:トメィト
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遅くなって申し訳ありません。


第三十二話




 「ウボァー」

 
 ま、まさかラケル博士から一時間も説教を食らうとは夢にも思わなかった……しかも正座。身体的なことを言われてもいつもの笑顔で受け流すと思っていたんだが、彼女にもそういう普通の感性があったらしい。
 

 「うわぁ、ゴキゴキ鳴ってるよ」


 ずっと同じ体勢で居たので首や肩、腰を軽く捻って体を解す。動かすたびに音が鳴って若干怖い。戦々恐々としながらも早歩きでエントランスまで戻ってくる。さっきはラケル博士に拉致された所為で大天使ムツミエルのご飯食べれなかったからな。ムツミちゃんも小さいから急がないとご飯抜きになる。


 「……仁慈」


 「あれ、どうしたんですかギルさん?」


 エレベータからラウンジの入り口までの最短ルートを早歩きで移動していると、おかしな連中しか居ないブラッド隊でもっともまともな兄貴分であるギルさんに呼び止められる。
 実はギルさんから話しかけられるのは結構レアだったりする。なんというかこっちが話しかければしっかり反応してくれるが自ら会話はしないタイプなのだ。今朝話しかけられたばっかりだけど。本当ですよ?心中で無駄なことを考えていると、ギルさんが今までに聞いたことのないような声音で言った。


 「未だにラウンジで語り合っている馬鹿二人を何とかしてくれないか?」


 「知りません。管轄外です」


 そんな事言われても困るんですけど……。それに、俺が言わなくてもギルさんが少し睨みを利かせればあの二人、喜んで首を縦に振ると思うんだよ。本人には失礼だけどギルさんは怖い顔してるし。
 そう、ストレートに告げるとギルさんはギロリと目の端を吊り上げてこちらを睨む。

 
 「うん。その表情ですよ、ギルさん。というわけでそのままラウンジに行きましょうねー」


 彼の無言の抗議を華麗に受け流し、その背中に回ってぐいぐい押しながらラウンジを目指す。こんなところで足止めを食らっているわけには行かないんだ。ご飯のためにも。
 

 「よぉ、ギル。久しぶりだな」


 「ハ、ハル……さん……?」

 
 どうやらとことん俺に飯を食わせたくないらしいな。世界の修正力かナニカが働いてるんじゃないの?
 どことなく完治した病気の症状に似たようなことを考えつつ、ギルさんを呼んだ男性に視線を向ける。
 第一印象は外見はチャラ男っぽいのに内面は普通に二枚目のお兄さんと言った感じだろうか。内面のことはギルさんにかける声音と表情で判断させてもらった。多分そんな外れてないだろ。
 あ、あと専用BGMも持ってそう。\ッターン!/
 

 それにしてもギルさんの反応から言って昔の知り合い……それも結構近しい仲で尊敬もしくはそれに順する感情を持ってそうだ。さっきまで浮かべていた恐ろしい表情がすっかり鳴りを潜め、何時も通りの無愛想な表情に戻っている。

 
 「ハルさんも極東に来ていたんですね」


 「あぁ。一応ここは俺の故郷だからな。……それにしても、言ってなかったか?」


 「聞いてませんよ」


 呆れたように言うギルさんだったがその声音にはどこか歓喜の色が読み取れた。まぁ、さっきも言ったとおりそれなり以上の信頼関係を築いていたみたいだし、その反応も自然なものかな。
 せっかくの会話を邪魔しては悪いと周りの空気に自分の気配を同化させて自分の存在感を限りなくゼロに近づける。フフフ……どこからも現れるコンゴウに気付かれまいと磨いたアサシンスキルが役に立ったぜ。
 べ、別に早くラウンジでご飯が食べたいとか思ってないんだからねっ!
 ……うぉえ、余計なことしなけりゃよかった。


 何はともあれ、気配を消すことに成功した俺は足音を立てないようにスゥーっと彼らの後ろに回りこんで、反対側の階段へ向かおうとするが俺のこの行動は肩に乗せられたギルさんの腕によって阻止される。


 「(お前のことを紹介するからまだ行くな。あと、久しぶりに会って距離感がつかめないから、とりあえず居てくれ)」


 「(こいつ直接脳内に……!)」

 
 だんだんと異物が肉の中に入っていく感覚を味わいながら、戦慄する。って言うか、絶対最後に付け足したのが本音だろ。いい年なんですから一人で頑張ってくださいよ。


 「ハルさん。コイツは今俺が所属している部隊の副隊長で樫原仁慈。仁慈、この人は俺がグラスゴー支部に居たときにお世話になった真壁ハルオミさんだ」


 逃げられる前に紹介し退路を無くしたか……。仕方ない、もしもの場合ご飯はあきらめよう。


 「初めまして。一応フェンリル極地化技術開発局所属ブラッド隊の副隊長をやらせて頂いております樫原仁慈です」


 「おう、お前さんが噂のブラッド隊の副隊長さんか。思っていたより若いな……。俺は真壁ハルオミ、さっきギルが言っていた通りこいつとはグラスゴー支部に居たときからの知り合いだ。ギルがなにかやらかしたら遠慮せずに言ってくれ。こいつの扱いに関してはプロ級だ」


 「ハルさん……」


 カラカラと笑う真壁さんに対してギルさんは肩落としている。どれもこれもあまり見ない反応で新鮮だなぁ。


 「あ、そうだ言い忘れてた。俺も一応極東の第四部隊の隊長をしてるんだ。ナニカの任務で一緒になったときはよろしくな。ま、隊長といっても俺を含めて二人しか居ない部隊だけどな」


 そう言った直後、真壁さんの背後にある階段の上から女の人の声が聞こえて来る。なんかファミレスでいつも皿を割ってそうな声だ。



 「ハルさーん。サカキ博士への報告、先に行ってますよー」


 「へいよー。……あれが第四部隊の唯一の隊員、台場カノンちゃんだ。神機使いとしての腕前はちょっとアレだが、胸が大きいからいいかなって思ってる」


 「……ハルさん。また査問会に呼び出されたいんですか」


 "また”ということは過去に呼ばれたことがあるのか……。内容はセクハラといったところかね?


 「大丈夫だ、問題ない。……さて、あまり引き止めてもあれだし何よりカノンちゃんが先に行っているしな。そろそろ行くわ。………ギル、今度一緒に一杯やろうぜ」


 ギルさんにそういい残して真壁さんは、階段を登って行ってしまった。一方残された側のギルさんはなにやら複雑そうな顔で階段を登っていった真壁さんを見送っていた。
 多分、ブラッドに来たときに荒れてた理由は真壁さんにも関係あるんだろう。
 

 まぁ、本人がなにか言わない限りは関わらないけどね。何も知らない奴がなにかいっても効果は見込めないし、逆に火に油を注ぐようなことになりかねない。
 下手に聞いていつぞやのロミオ先輩のようになったら目も当てられない。こういう場合は助けを求められたら助けるというスタンスが一番いいのさ。




           ――――――――――――――――――



 「死ぬがよい」


 咬刃展開状態のヴァリアントサイズを振り上げた後、目の前に居るボルグ・カムランに向かって全体重を乗せて振り下ろす。ボルグ・カムランも急いで両腕を合わせて盾を作り俺の攻撃を防ごうとするが、残念ながら俺のほうが早かった。ボルグ・カムランが盾を作る前にヴァリアントサイズはその頭上に突き刺さった。その光景が真剣白刃取りを失敗したみたいで少し笑えた。「キッシャァァァア!!」と声を上げながら苦しむボルグ・カムランを楽にしてやろうと咬刃展開状態の神機を元の形に戻す。その際元の形に戻ろうと蠢く刃がボルグ・カムランの頭を削りながら戻ってくるのは仕方のないことである。え?楽にしてやるんじゃないかって?アレは嘘だ。


 神機が元の形に戻るころにはボルグ・カムランの体は真っ二つに切断されていて子どもが見たらトラウマになること間違いなしのスプラッタな状態になっていた。
 いつぞやに手こずらせてくれたお返しと張り切った結果なのだが、どうやらやりすぎてしまったらしい。


 「竹田さん終わりましたよ」


 『はい。こちらでも確認しました。珍しいことに今回は乱入してくるアラガミが居ませんでしたね。おかげで私も安心してサポートできました』


 「なんかごめんなさい」


 オペレーターの皆様には何時も感謝しております。何故だか分からないけど俺が任務を受けると十中八九他のアラガミが乱入してくる。そんな環境下でも死なないで生き残れたのはオペレーターのサポートのおかげである。一応俺もアラガミについては勉強しているが、まだまだ足りないことが多いからなぁ。


 「それで次の任務は何でしたっけ?」


 『エイジス島に出現したアラガミの掃討です。第一部隊と合同の任務になりますね』



 「分かりました。今から向かいます」


 
          ―――――――――――――――




 「ということでやってきました。よろしくお願いしますね、藤木さん」


 「なかなかすさまじいな、お前」


 平気な顔をして、エイジスにやってきた仁慈に思わずそう言ってしまう。こいつの姿が俺の友人兼同期にどうしても重なるんだよなぁ。実際、神機使いになってまだそこまで時間が経過していないにも関わらずブラッドの副隊長なんて役職についてるし。極東の神機使いから見ても戦い方があいつやリンドウさん並のキチ〇イ戦術だし。今だって、


 『ガアァァァアア!!』


 「海へ帰れ」


 『仁慈さんが海から現れたグボロ・グボロを神機で弾き返しました!グボロ・グボロは撤退した模様です!』


 「あの人が使ってんのヴァリアントサイズじゃないの!?」


 「フッ、我が友がそこまでするのなら僕も黙ってみているわけにはいかない。行くぞポラーシュターン!エミールスーパーウルトラシャイニンググレート騎士道ぉぉぉぉおおおお!!」


 「あぁ……もう!こうなったら私もやってやるんだからっ!」


 あーあ、仁慈に影響されてエミールは突っ込んで行くし、エリナはエリナで限界点振り切って行っちゃったし……もう駄目かもわからんね。
 でも、それで何とかうまくいっているのもあいつとそっくりだな。……まるで本当にあいつと一緒に仕事してるみたいだ。


 「これで粗方片付きましたね」


 ダン!と音を立てて今しがた自分が倒したアラガミの死体を踏みつける仁慈。ナチュラルにひどいな。


 『――――!?ここから南方約1kmの地点に大型アラガミの反応あり!ものすごい速度でエイジス島に向かっています!接触予測時間はおよそ二十秒!』


 「はいはい。いつものこといつものこと」


 切羽詰ったヒバリさんの声に投げやり気味に仁慈が呟く。その様子に若干同情しつつ俺はみんなに指示を出す。

 
「げっ!?マジかよ、ついてないなぁ……。陣形を整える!仁慈は前方その後ろにエリナ、エミール後方に俺が配置し、アラガミが来たらみんなで袋叩きにしてやれ!」


 そうして全員が配置についたところでヒバリさんが言っていたアラガミがエイジスに侵入を果たした瞬間俺は目を見開いた。


 「カリ……ギュラ……ッ!?」


 そう。エイジスに進入してきたアラガミは近年報告されるようになったハンニバルという竜のような風貌を持ったアラガミの神属接触禁忌種であるカリギュラであった。接触禁忌種と銘打っているだけあり、その戦闘力は非常に高く未だ新人の域を出ないエリナとエミールではかなり厳しい相手だ。

 
 しかも、普通のカリギュラが青色であるのに対しこのカリギュラは赤色をしている。ここに来て新種とかマジで勘弁して欲しいね……!


 「やだ、かっこいい……」


 「言ってる場合!?さっきといい今の反応といいアンタおかしいんじゃないの!?あのアラガミは接触禁忌種なのよ!?普通の神機使いじゃ相手にならないんだから」


 「もうすでに何体か狩ってるからへいきへいき」


 「しまった。コイツ普通の神機使いじゃなかった……」


 あまりにも場違いな仁慈の反応にすぐ食いついたエリナだったが、仁慈の言葉を聞いて呆れ天を仰いだ。
 俺も驚いた。まさかもう接触禁忌種とも戦っているのか……。あれ?あいつよりおかしいんじゃないか?

 
 「それにコイツ、すでにいくつもの傷を負っています。おそらくは体の回復のためにここに来たんでしょう。回復しに現れたのに戦闘を行うなんて本末転倒なことはさすがにしないと思いますよ」


 確かに、よくよく見てみれば赤いカリギュラの片方の腕にある篭手は破損しているし、首元には誰かの神機が刺さったままである。背中にある翼状のブースターも欠けているし軽くない傷を負っていることが確認できた。
 赤いカリギュラは低い声でうなりながらこちらを向いていて、仁慈は笑顔でそれと真正面から向き合っていた。数十秒お互いに見合った後、赤いカリギュラはクルリと体を翻し、エイジスの穴から外へ出て行った。……逃げたのか?


 「はぁ~~~……よかった、生きてた……」


 「くっ!騎士でありながら……動けなかったとは……不覚……ッ!」


 がしゃん


 自分の持っていた神機を落とすと同時にその場にへたり込んだ二人。まぁ、新人にはつらいよな。
 それにしても……


 「これはしばらく荒れるぞ」


 「そうですね」


 今回は見逃してもらったが、どこかで傷を回復させているに違いない。極東地域で行う任務にあいつが乱入してくるという想定を常にして行動をしないと駄目だな。まったくどうしてこうポンポン厄介ごとが舞い込んでくるのか。
 ホント極東は地獄だぜ!フゥハハハーハアー!……はぁ。