神様死すべし慈悲はない   作:トメィト

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だんだんと投稿が遅くなって申し訳ない。
今回は歓迎会とシエルさんの頼みごとパート2です。


第二十七話

 

 

 歓迎会 

 

  

 それは来賓や新メンバーを歓迎する意を込められて開かれるものである。しかし、大体はその後の人間関係などを円滑にするために用いられるものである。いきなり仕事関係ではなくこういった催しで接触したほうが有効なこともあるため、新しいメンバーが来た場合に歓迎会をするのは実に合理的である。あるのだが、

 

 

 「何だこの突き刺さる視線は……」

 

 

 現在、第一部隊との任務を終え歓迎会の会場であるラウンジに来ている俺だったが、周囲の視線がいたい。なんというかつい最近までフライア職員に向けられていた視線に似たものが四方八方から俺の体を貫いてくる。

 

 

 ―――おかしいぞ、歓迎会のはずなのに全然歓迎されている気がしない。いったいなんでなんですかねぇ……。

 

 

 時々ヒソヒソ声に混ざって自分の名前が聞こえてくる。これは陰口ですね(確信)

 ハァと落ち込んだ気持ちをため息と共に外へ出し気分を切り替えた俺は、テーブルの上においてあるさまざまな料理に向かっていく。

 藤木さんの言った通り、極東の料理はどれもこれもおいしそうな見た目をしており、実際に持っていた皿に盛り付け口に運んでみれば、この世界に来てから食べた料理の中でもかなり美味しかった。

 しばらく自分に向けられている視線を忘れる意味も込めて料理を口へ次々入れていると誰かがこちらに近付いているような気配がした。が……そこはスルー。

 視線の件も含めて考えるといい要件だとは思えない。

 再び意識を料理に向ける。うまうま。

 

 

 俺の目の前で十歳前後の女の子が笑った。俺の食べっぷりがそんなにおかしかったのだろうか?少々ショックだ。思わず箸を置いてしまったぜ……。

 

 

 「あの……」

 

 

 近くで声がかかる。高さからして女性のようだ。けれどナナやシエルの声ではないので俺には関係ないと無視する。こういう場合って反応したら大体違う人に向けて話しかけてたりするんだよね。いったいそれでなんど変な目で見られたことか。確認、大事。

 

 

 「あの……!」

 

 

 再び近くで声がする。心なしか先程より声音が強い。これはおこですわ。呼ばれてる人早く返事してあげてー。

 

 

 「あの!」

 

 

 もう何なんだよ。いい加減反応してやれよ。

 俺は軽く頭を上げてクルリとあたりを一通り見渡す。すると比較的近くに居た女の子と目が合った。……なんかどっかで見たことある気がする。どこだっけな?

 

 

 「やっと反応したね」

 

 

 どうやらこの女の子が呼びかけていたのは俺だったらしい。ごめんね。過去の経験と現在進行形で突き刺さる視線の所為で反応しようなんて思ってなかったんだ。

 

 

 「……どちら様?」

 

 

 本当、どっかで見たことある気がするんだよ。それもつい最近。多少記憶を引っ張り出して探してみたけど心当たりがなかったので素直に聞いてみることにした。

 聞かれた本人はピシッと一瞬固まったが、すぐに気を取り直して口を開いた。

 

 

 

 「そういえば二回とも私が一方的に見てただけだったっけ……初めまして、私は葦原ユノと申します」

 

 

 

 葦原……ユノ……随分変わった苗字だな。しかも書きづらそう。書類とか書くとき大変そうだな。

 ん?葦原……あっ、思い出した。いつぞやロミオ先輩が熱くキモく語ってた歌手だ。それにこの人、俺が部屋から出たときにロミオ先輩と話していた子か!

 よくよく考えたらつい数時間前のことだったか……。それは見覚えありますわ。というかすぐに思いつかなかったのが心配になるレベル。

 

 

 「どうも、樫原仁慈です」

 

 

 自己紹介をされたのでとりあえず俺も返しておく。

 それにしても、ロミオ先輩が御執心の歌手さんがいったい何の用だ?特に用がないなら正直早くどこかに行ってほしい。

 嫌いとかではないんだけど、俺に向けられる視線が強くなったし、よく知るニット帽まで俺に恨みを載せた視線をぶつけるようになってるから。

 いつの間にかできていた亀裂がさらに広がる音が聞こえてくるぜぇ……。

 

 

 「よろしくお願いします仁慈さん。私、こうして同じくらいの年の人とあまり話したことがなくて……フライアで見かけたときぜひ話がしてみたいと思ったんです!」

 

 

 「そ、そうですか……」

 

 

 同い年くらいの子ならこのラウンジにゴロゴロ居るじゃないか。もうすでに話したって言うなら何もいえないけど。

 これ以上俺の人間関係が致命的に成らないように何とか早々に離れてもらうための策を練るがこの人まったく離れない。この人一回話し出したらなかなかとまらないんですよ。だからこう適当に返事を返しつつ並行して考え事ができるんだけどさ。しかし、この流れはどこかで見たことがある。ちょうど俺がブラッドに入ったばかりのときに会ったジュリウス隊長みたいな雰囲気g……あ(察し)

 

 

 「それでですね……?何ですか、そのわが子を見守る母親のような目は?」

 

 

 「……なんでもありませんよ」

 

 

 ばれたか。さすがに視線が露骨過ぎたか。

 ジトーとこちらを見つめる葦原さんから視線をそらす。すると、たまたま向いた方向にマイクテストをしている藤木さんが居た。

 

 

 「あー、あー、テステス……うっし、オッケー。はい、皆さんご注目ー!本日は足元の悪い中極東支部にお越しくださいまして誠にありがとうございます」

 

 

 藤木さんが演説を始めたことにより、葦原さんの意識が藤木さんへと移る。おかげで葦原さんのことを『ぼ』で始まり『ち』で終わり、真ん中に『っ』が入る人だと思っていたことをごまかすことができた。

 

 

 「そしてブラッドの皆さん!改めて、極東支部へようこそ!これから一緒に戦う仲間として、ジュリウスさん!これから一言ご挨拶いただきたいと思う次第です!」

 

 

 藤木さんの腕がシエルと話していていたジュリウスさんのほうを指す。急に話を振られたからだろう。ジュリウスさんの表情が一瞬固まる。そして、

 

 

( ゚д゚)(ジュリウス)      ( ゚д゚ )(ジュリウス)

 

 

 

 こっちみんな。

 急に話を振られて戸惑うのは分かるし、ついつい周囲の人の顔色を確認したくなるのも分かる。だがその顔は駄目だ。

 俺は首を振ることで自分の意思を伝える。無理です。俺にはどうすることもできません。

 何とか正しく伝わったのか、ジュリウス隊長はあきらめたような表情をした後、藤木さんのところに向かい口を開いた。

 

 

 「ご紹介に預かりました、極地化技術開発局所属ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです。極東支部を守り抜いてきた先輩方に恥じぬよう懸命に、任務を努めさせていただきます。ご指導、ご鞭撻のほど……何卒、よろしくお願いします」

 

 

 「すごーい、隊長っぽーい……コウタ先輩も見習ってほしいなー」

 

 

 「エリナ、うるさいよ!はぁいっ、ジュリウスさん、ありがとうございました!えー、続きまして!ユノさん、お帰りなさい。どうぞ、ユノさんも何か一言!」

 

 

 「えっ」

 

 

 なんで貴女までこっち見るんですかね。

 ジュリウス隊長と違って距離が近いので、なにか言われる前に拍手をして、無理やり彼女を押し出す。

 俺の拍手に続いて周りからも拍手が上がる。そうなると、前に出ないわけには行かないので葦原さんから恨めしい目で見られた。フッ、計画通り……!

 この後は彼女が歌を歌い、歓迎会に出席していた全員に癒しを与えて終了した。この日は歌を聴いたからかいつもより良く眠れました。

 

 

 

 

      

 

               ――――――――――――

 

 

 

 

 「今日仁慈さんに任務は入っていませんよ」

 

 

 「休日キタコレ」

 

 

 歓迎会の翌日。極東支部のオペレーター、竹田ヒバリさんから告げられた言葉に俺は歓喜した。神機使いの貴重な休日。どう使おうか、普段より頭を働かせて模索する。

 いつぞやみたいに自堕落に過ごすのもいいし、今後のことを考えてターミナルでこの世界についてさらに詳しく調べてみるのもひとつの手だろう。

 

 

 「あ!でも、シエルさんが仁慈さんに何か頼みごとがあるそうですよ?」

 

 

 デジャヴった。

 いつぞやに経験したことと同じ状況だ。このままでは再び休日がつぶれてしまう。しかし、シエルの頼みごとを自分勝手な都合で無視していいのか?否、断じて否である。

 美少女の表情を暗くすることは万死に値するのだ。古事記にもそう書いてある。

 

 

 極東支部で一番人が集まるラウンジに足を運んでみるとシエルをあっさりと発見することができた。俺のことを探しているかと思ったが、どうやら彼女はこの極東で飼われているカピバラに御執心のようだった。それでいいのか。

 

 

 「シエル」

 

 

 「あ、どうも」

 

 

 「どうもじゃないよ。俺に用があったんじゃないの?」

 

 

 「………そういえばそうでした」

 

 

 おい。忘れる程度の用事だったら俺は部屋に帰るぞ。

 

 

 「いや、まってください。前回のバレットのことで新たな事実が発覚したんです」

 

 

 「結構重要だよね」

 

 

 何故そんなことを真面目なシエルが忘れたのか。カピバラさんぱわーだろうか。

 

 

 「それで、何が分かったの?」

 

 

 「あのバレット、リッカさんに調べてもらったところ回復弾のオラクル細胞の結合が変異していたそうです」

 

 

 リッカさん……あぁ、ヴァリアントサイズのデータを欲しがってた人か。ダイアーさんが彼女のことをそう呼んでた気がする。

 

 

 「どんな感じに?」

 

 

 「細胞同士が固着して、エディットができなくなり他の銃身タイプは使えなくなった代わりに進化した、と……その結果として、従来の体力回復に加え、状態異常回復効果が発揮されるバレットになったようです」

 

 

 「へぇ、便利になったもんだね」

 

 

 体力回復と状態異常回復が同時に行えるのはかなりお得だ。今までは回復錠と解毒効果のあるものを別々に服用しなくちゃいけなかったからな。手間が省ける。

 

 

 「その分、改良もできず私が使っている銃身でしか使用することができませんがね。そして、どうしてこうなったのかというと、ブラッド同士の『血の力』による感応波の相互作用ではという予想が立てられているようです」

 

 

 「ブラッドアーツのバレット版ってことか」

 

 

 「そうですね。意志の力によってブラッドアーツのようにバレットが進化したというのが今のところ有力です。名付けるならブラッドバレットといったところでしょうか」

 

 

 「まんまだな」

 

 

 「下手にいじって変な名前になったら目も当てられませんよ?」

 

 

 確かに。なんだったら中学二年生くらいに患った病がぶり返す可能性がある。そんなことは俺もいやなので、名前に関してはこれ以上考えないことにする。

 

 

 「まぁ、なんにせよ。大発明だな」

 

 

 「はい。みんなの役に立ててとても嬉しいです。それで、頼みの件なのですが、このバレットを試験運用しようと思ってまして……君には何らかの状態異常にかかって欲しいのですが……」

 

 

 「可愛い顔しながら中々エグイこと言うね」

 

 

 それと同時に良くそれで俺が同意すると思ったな。おじさんびっくりだよ。

 

 

 「……?君なら多少の状態異常くらいはどうってことないですよね」

 

 

 「語尾にクエスチョンマーク付けろよ。何で断定なんだよ」

 

 

 これは一度某魔王式お話をするしかないか?

 ……やめとこう。人外疑惑が加速する。

 

 

 「それで、一緒に来てくれますか?」

 

 

 「状態異常云々がなければ普通に着いていったかな」

 

 

 「むぅ……なら、私も君が困ったときには力になります。私にできることなら何でも手伝いましょう」

 

 

 まぁ、それでいいか。さっきから「美人さんとイチャイチャしやがって……!」という視線が俺に突き刺さっているからな。さっさと了承して、この場を離れたい。

 

 

 『仕事をする』『部下の頼みを聞く』『両方』やらなくっちゃあならないってのが『副隊長』のつらいところだな。

 (休日を返上する)覚悟はいいか?オレはできてる。

 

 

 

 

 

           ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 「で、何でまたザイゴートなのさ」

 

 

 「毒も吐く、私の銃身に弱い。最高の相手です」

 

 

 もうザイゴートがシエル専用のサンドバックにしか見えなくなってきたわ。

 ふよふよ。こちらに気付いて近付いてくるザイゴートに思わず哀れみの視線を送る。

 俺たちの近くに到着したサイゴートは早速、卵みたいな体を膨らませ、口から紫色のいかにも毒ですという液体を吐き出す。

 

 

 「チャンスです!突撃!」

 

 

 「やかましい」

 

 

 バックステップを踏みながら俺に突撃命令をだすシエル。……たまにこの子のテンションについていけないときがある。

 自ら毒々しい液体に突っ込むというほかから見れば狂ったような行動をとった俺は案の定毒が体中に回り激しい吐き気に襲われる。それを隙と見たのか一体のザイゴートがこちらに来るが神機を一振りして真っ二つに切り捨てる。

 

 

 「うぉえ、頭ガンガンするし気持ち悪い。シエル、回復はよ」

 

 

 「普通はそんな程度じゃすまないはずなんですけどね。ザイゴートも倒してますし」

 

 

 バンッ!とシエルの神機から緑色のレーザーが発射され、俺の体を見事に貫く。今では慣れたものの、神機使いに本当になったばかりの頃は、このレーザーが怖くて回復弾まで避けていたのは俺だけの秘密である。

 レーザーが俺の体を通過してから数秒後、自分の体から毒素が抜け落ちていくような感覚を覚えた。これで、シエルのバレットが異常状態回復効果を持っていることが実証できた。

 

 

 「シエル。治ったぞ」

 

 

 「そのようですね。目的は達成したので、後は殲滅するだけです」

 

 

 神機を銃形態から通常の形態に戻しつつ言う。彼女にしては珍しく刀身を使って戦うようだ。曰く、「今日はそんな気分」とのこと。左様ですか。

 それにしても、ショートってすげぇよな。もう殆ど飛んでるようなものだもん。

 明らかに常軌を逸脱した起動でザイゴートを切りつけていくシエルを視界の端に収めつつそんなことを思う。

 俺のやることといえば、シエルが倒し損ねて、地面に落ちてくるザイゴートを刈り取るくらいなので前述したようなくだらないことを考えていても何ら支障はない。ないのだが……最近、神機の切れ味が悪いのだ。あのやわらかいことに定評のあるザイゴートでさえ、結構な力を入れて神機を振らなければ切れない。サリエルなんかはじかれたし。これは俺だけなんだろうかと、ザイゴートを全て狩り終えたシエルにたずねる。

 

 

 「神機がザイゴートにはじかれる……ですか?」

 

 

 「一瞬だけなんだけどね」

 

 

 「……私はそんなことはありませんね」

 

 

 うーん、神機の使い方が悪いのだろうか?

 

 

 「確かに君の神機の扱い方は異常ですがおそらくは違います。単純に武器の所為のではないですか?あのクロガネ、精鋭部隊にのみ配備されるとうたっていますが実はそこまでたいした武器ではないんですよ」

 

 

 今明かされる衝撃の真実ゥ!俺の配られた神機はたいしたことがなかった!

 今度グレムに会ったらマジで一発ブン殴ってやろうか。

 

 

 淡々と帰還の準備をしながら俺は考える。そして、ある一人の人物が思い浮かんだ。

 そうだ、リッカさんとやらにデータの対価として神機の強化でも頼もう。神機のことで希望が見えた俺は上機嫌でシエルの手伝いをし、極東に帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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