神様死すべし慈悲はない   作:トメィト

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第十二話

 

 

『―――――、いつまで寝ているの?早く起きなさい』

 

 

どこかで聞いたことのある女性の声が優しげに言う。

それに反応した声も、どこかなじみのある未成熟な懐かしい感じの声だった。

 

 

『嫌です、眠いです、寝かせてください、お休み』

 

 

『まったく……いいから起きなさい。早く起きないと解体(バラ)すわよ』

 

 

『貴方が言うと冗談に全く聞こえなんですがねぇ!!』

 

 

女性のマジトーンに急いで起きたと思われる未成熟な声。

 

 

『あら、やっと起きたのね。フフフ、残念。そのまま寝ていれば解体(バラ)していいと、神もおっしゃられていたのに』

 

 

『い い わ け あるかぁあぁああああ!!』

 

 

フフフと上品に笑いながら物騒なことを言う女性の声に思わず叫びを上げる未成熟な声。

 

 

なんか、妙に懐かしく感じるのと同時に、無性に誰かに切れたくなってきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なんだ、今の夢」

 

 

見覚えのない白い天井が見える部屋(まぁ、病室だよな)で俺が開口一番に呟いたのはそんな言葉だった。

他にも、あの白いアラガミを追っ払った後どうしたんだろうとか、エミールさんは大丈夫だろうかとかいろいろあるんだけど……見た夢があまりにも自分の何かに触れるものだったんだよね。

昔の記憶を夢で見た感じが一番近いんだけど、俺には全く覚えがない。

なのにどことなく懐かしいと思えるものがあった。

 

 

「不思議だねぇ」

 

 

「何が不思議なんだ?」

 

 

「あ、ジュリウス隊長」

 

 

何時の間にやら、病室に入っていたジュリウス隊長が俺の独り言に反応し首をかしげていた。

独り言を聞かれていたとは……滅茶苦茶恥ずかしいな。

 

 

「いえ、別に何でもありませんよ。それよりエミールさんは大丈夫でしたか?」

 

 

あの白い狼みたいなアラガミにやられたこともあるし、そもそも気絶した状態でその辺に放置はかなりまずかったのではと、いまさらになって思い至る。

…ひょっこりアラガミが出現したら確実に死んでいたんじゃなかろうか?

 

 

「あぁ。彼ならあのアラガミを追い払った後合流してな。その時にはすでに意識も回復しておりお前に大層感謝していたよ」

 

 

俺の疑問にジュリウス隊長は、傷ついた僕を庇いながら戦うなんて……まさしく騎士…ッ!とエミールさんの物まねをしながら無事を伝えてくれた。

地味に似てるな、物まね。色合いのせいかな?

 

 

「あははー……そうですか」

 

 

いくら不意に襲われたとはいえ、自分の対応がかなり危ないものだったことを自覚したのでエミールさんの感謝が俺の良心をすさまじい勢いで削っていく。

しかも、先ほども言った通り地味に似ているからさらに二割ぐらいましで。

 

 

えぇい、カットカット。

これ以上はちょっとまずそうなので、少々強引だけど別の話題を切り出すことにした。

 

 

「そういえば、俺が気を失ってからどのくらい経ちました?」

 

 

体の硬直具合からしてそこまで時間は経ってないとは思うけど、神機使いになったことで体の不具合に鈍くなっている可能性があるから念のために訊いておく。

何日単位で寝てたらその分の仕事もしなきゃいけないし。

 

 

俺が放った疑問にジュリウス隊長はフッと口の端を少しだけ吊り上げながら答えた。

 

 

「大丈夫だ、お前が気絶してからまだ一日と経っていない。だから休んだ分の仕事をこなそうなんてことも考えなくていい」

 

 

その言葉を聞いてホッと肩を落とす。

いくら世界観がアレと言っても絵具を全色混ぜ込んだ黒より禍々しきブラック企業フェンリルで何日単位で仕事をばっくれたら何させられるかわかったものじゃないからな。

実際にどうなのかは知らないけどさ、なんか本能が警告を鳴らしているんだよねぇ。

 

 

目が覚めてからどことなく感じている違和感に若干首を捻る。だが、今はお見舞いに来てくれたであろうジュリウス隊長と久しぶりに話をしようと意識を切り替えたその時、ドタドタドタと何かがすごい勢いで向かってきているような音が病室の外から聞こえてくる。

 

 

正直、嫌な予感しかしない。

なので、何が起こってもいいように座ったままの態勢ではあるもののある程度の状況には対応できるような態勢を取る。

よっしゃ、来い!

心の中でこうして気合いを入れた瞬間、病室の扉がバン!とすごい音を立てて開き、そこから何やら黒い影がこちらにかなりのスピードで突っ込んできた。

 

 

すぐさま俺は後転するように足を持ち上げ、後ろに転がる。そして、丁度頭と両腕が寝ていたベットに着いた瞬間、腕に思いっきり力を込めて自分の体を空中へ飛ばし黒い影との衝突を回避する。

 

 

目標(おれ)を目の前で見失った黒い影は、急に止まることができず俺が先ほどまで居たベットに激突した。

 

 

「いったー……もう仁慈!避けるなんてひどいよ!怪我人はおとなしくしてなくちゃいけないんだからね!」

 

 

「その怪我人に突撃かまそうとしてきたやつのセリフとは思えないんですがそれは…」

 

 

俺に突撃をかまそうとして回避され文句を言う黒い影改めナナ。

これは少しばかり理不尽すぎやしませんかね?

結構洒落にならない勢いだったんですが。

 

 

「むっ、私とっても心配したんだけどなー。急に仁慈が倒れたからおでんパンだって五つしか喉を通らなくなるくらいには心配したんだから、多少の衝撃くらいは受け止めてもらわないとっ!」

 

 

「その理屈はおかしい」

 

 

心配させたのは悪かったけどさぁ…もう少し状況を考慮してくれよ。あんなのと初見で戦って無傷はさすがに無理だと思うんですがね。

 

 

「分かってるけど、なんかこうやって発散しないと感情がウガーってなっちゃうの!ほんと本当に……心配したんだから……」

 

 

そういってびしっ!と俺を指さすナナ。

よく見れば目元に涙の跡が少しだけ残っており彼女の発言は本当の事だと思わされる。

 

 

「わかった、わかった。次からは気を付けるよ。だから今回は許してくれ」

 

 

「……うん」

 

 

ナナの頭を撫でて彼女の安定を図る。

軽く幼児退行している気もするし、過去に似たような状況で起きたトラウマなんかがあるのかもしれない。

 

 

「………そういえば仁慈。これからのことについて少し話しておこう。と言っても大したことではないがな」

 

 

 

 

ある程度状況が落ち着いた頃を見計らってからジュリウス隊長が口を開いた。

曰く、しばらくしたらラケル博士が俺に起こったことやあの俺を襲ったにくいあんちくしょうの事を教えてくれる。今日一日は念のため休みという事だった。

 

 

どうしよう。せっかくの休みなのにラケル博士うんぬんの下りで急激に仕事がしたくなったんだけど。

 

 

明らかにテンションが下がった俺にジュリウス隊長は全く気付かず、ゆっくりと休めとさわやかな笑顔と共に言って病室を出て行った。

そして、それと入れ違うように病室に入ってくるラケル博士。

 

 

アイエエエエ!ラケル博士!?ラケル博士ナンデ!?

 

 

確かに色々説明するために来るとは言ってたけどさぁ……全然しばらくしたらじゃなかったよ!ジュリウス隊長と入れ違いじゃないか!

ナナも空気読んで出て行ったし、また一対一かよ。

 

 

「体の調子はどう?仁慈」

 

 

「何も問題はありません。強いて言うなら多少疲労が残っているくらいですね」

 

 

俺の回答にそうですかと言ってフフフと笑うラケル博士。

相変わらず読めない人だなぁ、この人。

 

 

「さて、何から話しましょうか……」

 

 

「なら、ひとまずあのアラガミについて聞いて言いですか?」

 

 

「あのアラガミはマルドゥークと呼ばれていて、アラガミの中で感応種と呼ばれる種類に分類されています」

 

 

「感応種?」

 

 

「簡単に言えば感応現象と言われるものを使いほかのアラガミを支配しようとするアラガミの事です。神機もオラクル細胞を用いており一種のアラガミともいえます。エミールさんの神機が動かなくなったのもそれが原因ですね」

 

 

「へぇー。……なら俺やブラットの皆の神機が動いたのは?」

 

 

「貴方達が目覚める血の力、それも一種の感応現象なのです。それのおかげで感応種の支配をうけないと理論上言われていました。確認はまだされていなかったのですが……貴方が証明してくれましたね」

 

 

まったく狙ってませんけどね。

 

 

「じゃあ次に何で俺、あのアラガミに傷をつけることができたんですかね?攻撃を当ててないから真偽は定かではありませんが、どう考えても俺が傷つけられるような相手じゃなかったと思うんですけど」

 

 

「それは貴方が血の力に目覚めたことで使えるようになったブラッドアーツのおかげですね」

 

 

目覚めてたんだ、血の力。

謎の声のインパクトが強すぎて全く気が付かなかったわ。そういえばなんか体から赤いエフェクトとかキィン!っていう高い音とかがなっていた気がしなくもないな。

 

 

「貴方のブラッドアーツは面白いですね。自身の体力と引き換えに攻撃範囲を広め攻撃を強める効果があるようです」

 

 

「……え?じ、じゃあ俺が気を失ったのって……」

 

 

「ブラッドアーツが原因ですね」

 

 

おおぉ……とラケル博士の前で頭を抱えて蹲る。

つ、使い勝手が悪すぎる。

攻撃強化と攻撃範囲拡大はうれしいけど、回復錠が手放せなくなるし何より味方を巻き込む可能性がさらに上がりやがった……ッ!

 

 

「……あぁ、そういえばこちらからも一つ質問させてください」

 

 

「……なんですか」

 

 

ラケル博士の声に反応し抱えていた頭を上げ彼女の方を見る。

するとすぐ目の前に彼女の顔が近づいてきていた。近いって。

 

 

「貴方がマルドゥークに放った咆哮……アレは、なんですか?」

 

 

ついにツッコまれたか。

ブラッドアーツうんぬんでいつかはツッコまれるだろうとは思っていたけどさぁ。

どうしよう……正直に自分の内なる声に耳を傾けた結果ですと言うか?

やだ……中二くさい。

 

 

「火事場の馬鹿力ってやつじゃないですかね?俺死にかけでしたし」

 

 

「……………そうですか。では、そういうことにしておきます」

 

 

顔を離して車いすを反転させるラケル先生。

あの人話す時何であんなに近いんだよ。

 

 

「貴方も今日は早く休みたいでしょうし、お話はこのくらいにしておきましょう。今日はゆっくりと休んでくださいね」

 

 

最後にそういって退室していくラケル先生。

その背中を見送った俺は、彼女が出ていくと同時に病室のベットに倒れ込む。

 

 

新しいブラッドアーツ……どうやって使おうかなぁ。

更に使いどころが難しくなったヴァリアントサイズのことを考えながら俺は再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに、仁慈君が起きていると確信しているような行動をとったナナさんですが情報源は例のアレだったりします。

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