次回からは前の吸血鬼の夜みたいな感じで長いレポートにしてみようと思っています。バイパーの話ですからね、多分長くなると思うんです。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします
リポート16 鋼鉄の姉妹の再誕 その3
ガチガチ……静かな部屋に響く、歯と歯を打ち合わせる音……優太郎とカオスだ。部下である、土偶羅魔具羅に救助され、5日ぶりに氷の棺から解放された。なお氷の棺はまだ健在だったので、出力に気をつけ土偶羅魔具羅が火炎放射で解凍した。若干髪が焦げた程度で済んだのは、流石は魔神と言うべきなのだろうが、いかに魔神と不老不死と言えど、5日も氷の中に閉じ込められれば体力も魔力も消耗する。つまり今の2人はお互いに魔神と魔人と言うべき人間よりも上位の存在でありながら弱りきっていた。今ならそこらへんの子供に殴られただけでもKOされかねい程に体力と魔力を消耗していた
「「ぶえーくしょんっ!!!」」
本来ならここまで弱る事が無いのだが、優太郎は徹底的に殴られダメージが蓄積した後に、カオスは完全に無防備な状態で……つまり防御するという考えがないときに飲み込まれたので、かなりのダメージを受けてしまったのだ
「どうぞ」
体を温める魔法薬を差し出してきた土偶。コップの中に入っている薬を一気に飲み干す
「「おお……温まる」」
飲んだ時は温い水と言う感じだったのだが、飲んだ瞬間身体の中から一気に暖かくなった。確か……土偶羅魔具羅だったか。短時間でこれだけの効力を持つ薬を練成するとは
「いい部下がいるなあ、優太郎よ」
蛍のお嬢ちゃんはしっかりとジャミングを掛けて、直ぐに見つけることが出来ないようにするなどして、色々と工作をしてからこの廃ビルを後にした。正直解凍しに来てくれるまでこのままだと思っていたのに、見つけ出してくれた土偶羅魔具羅には正直感謝しているし、素晴らしいと思う。マリアにはワシの生命の危機を察知したら助けに来てくれるように頼んでいたのだが、マリアがこなかったことを考えると相当なジャミングが掛けられていた筈だからだ
「うむ!土偶羅魔具羅は私の頼もしい助手さ!家事から料理まで何でもしてくれるぞ!」
それは何か違うのではないだろうか?お嬢ちゃんに殴られたり、怒られたりして料理を作ってもらえないことが多いのだろうか?
「……私は良かれと思っているんだけどねえ」
「完全に空回りしておるな。馬鹿親」
ワシは逆行の記憶があるから知っておるが、自分の娘として作り、そして小僧の娘として蘇り。そしてその2つの存在が1つになり生まれた芦蛍。惜しみない愛を注ぐことが出来るのは何故か?それは逆行する前の小僧の記憶
「なんとも魔神ともあろうものがのう」
優太郎はそんな自分を自覚している。自分じゃ無い感情が自分の中にあることを悟り、そしてそれを是とした。この気持ちは間違いではないと……優太郎はワシの考えている事を感じ取ったのか小さく微笑んでから
「今日はとりあえず休みましょうか?」
何も言わないでくれとその目が語っている。それに本人が良いと言っているのならワシが言う事は何も無い、それにワシも似たような者じゃしな
「そうじゃな。まずは風呂、それから晩酌と行くかのう。流石に腹が減った」
5日間も氷の棺に閉じ込められたので身体も痛いしのうと笑うと優太郎もつられて笑いながら
「檜の風呂があるのでそこへ」
「やれやれ。魔科学の悪用じゃなあ?」
こんな所に魔法でゲートを作って温泉を引くとは何を考えておるんじゃ?と言うとあははっと乾いた笑い声を上げる優太郎に苦笑しながら、明日にもマリアとテレサを迎えに行くかの?予定よりもずれてしまっているし、怒ってはいないと思うが、そこだけが不安じゃなあ。小僧と美神に大事に扱って貰っておれば良いんじゃが……そんな不安を抱きながら優太郎に案内されその檜風呂へと向かうのだった。その後は魔界の酒と久しぶりの食事を楽しんだのじゃが
「「頭痛い」」
2人して飲みすぎてしまい、二日酔いで布団に転がったまま動く事が出来ないのであった……あ、明日こそは迎えに行くぞ……マリア、テレサぁ……
テレサが家でシズクに家事を習ってから6日が経った。最初はおっかなびっくりと言う感じでやっていたのだが、今では堂々とした物である
「なー?タマモー?なんで俺の家に蛍の着替えが普通にあるんだろうなー?」
「クウ?」
横島がちょっと壊れてきてるけど、まぁ大丈夫だと思う。横島は女好きではあるが、攻められると弱い純情な部分がある。だからさも当然のように私が寝泊りしている事に精神が耐え切れなくなってきたのだろう
(いや、私も確かに恥ずかしいんだけどね)
予定では3日の筈だったから……一泊二日のつもりだったんだけど、気がつけばかなりの日数を横島の家で過ごしている。
(同棲とは言いがたいなあ)
最終的な目的地と言えばそこなんだけど……今は邪魔者が多すぎる
「……大分良くなっている。後は応用力を身につければ良い」
「そ、そうかな?」
テレサに裁縫を教えているシズク。せめてシズクがいなければもう少し過ごしやすかったしと思うんだけどなあ……そもそも私が家に帰らないのはお父さんが馬鹿な事をしたからだ、なんで私の敵になるって判っているマリアさんとテレサに人間と同じ身体を与えたのかわからない……それにお父さんとドクターカオスの事だから。人間に出来ることは、間違いなくすべて出来るようにしているはず、それこそ子供だって……そう考えるとマリアさんはとんでもない強敵になる、性格も良いし、スタイルも良いし……良し決めた。
(うん、今日は家に帰ろう。んで叩きのめそう)
お父さんとドクターカオスを閉じ込めた氷の棺が破壊されたのは判っているから、寄り道をせずに家に帰ろう。そしてお父さんを叩きのめそう……これは決まりだ
「さてと、じゃあ横島。今日の勉強を始めましょうか?」
「あー。うん。判った」
GSの勉強を始めると言うと抱えていたタマモを膝の上に乗せて、筆記用具を用意する横島。やはり書いたほうがしっかりと覚えることが出来ると思うのでこうしてノートに書かせている
(でもやっぱり大分基礎が出来て来てるわよね)
今の横島は私の知っている横島よりもはるかに基礎が出来ている。それに陰陽術に栄光の手よりも更に強力な霊力の篭手……しかもまだまだ伸び代がある……これで横島がしっかりと霊力を覚えたらどうなるのか?それが楽しみになってきた
「んーあーえーと」
何かを考え込んでいる様子の横島。また何か思いついたのかしら?横島は突拍子もないことを思いつく、それがしっかりと私でも知らない応用だったりするので面白い
「どうかした?」
「ん、いやあ。陰陽術で行くとタマモは火でシズクは水だろ?」
確かにその通りだ。タマモは妖狐の中でも最上位の九尾の狐。そしてシズクはミズチの中でも取り分け強力なオロチの系譜に属する。恐らく火の妖怪の中でタマモより強力な妖怪は存在せず、また竜神にして水神のシズクよりも強力な水と龍に属する神は存在しないだろう。タマモとシズクの加護を受けている横島は今の段階でも十分に強いGSと言えるだけの能力を持っている
「んで、俺が使えるのは火と雷の陰陽術と少しの水だろ?じゃあ雷ってどこから来たんだ?タマモとシズクの加護があるからって考えると雷ってどこから来たんだろ?元々俺の属性なのか?」
その言葉を聞いて、私はハッとした。私には横島の霊的な属性なんて判らない、だけど雷を使えるのは心当たりがある。それは美神さんの前世であり、私達の姉に当たる人造魔族
(メフィストフェレスの加護……?)
ありえない話ではない、シズクの加護でさえ同じ平安時代から現代まで残っていた。そして美神さんにあった事で加護が復活した。その可能性は充分に考えられる……だけどそんな話を横島にするわけには行かない。どうしよう、なんて言おうか……それを必死に考えていると視界の隅で
「みむー!」
電池を持ってぱちぱちと放電しているチビを見て、これだ!と思った
「チビじゃ無いかしら?ほら、あれ見てよ」
部屋の隅で電池を抱えて放電しているチビの方を指差す。横島もそれを見ておおっと手を叩いて
「そっか!チビかー!納得した」
「みむう?」
名前を呼ばれて不思議そうにしているチビ。本当にいいタイミングだったわ……正直なんて言おうか困ったし……それに本当にチビの加護で雷を使えている可能性もあるのだから、嘘はついていない。
(お父さんに相談はしておきましょう)
私では判らないのでお父さんに相談する事にしよう。魔神だから一時的に戦闘不能になっても直ぐ回復するだろうし
「ミー!」
元気良く鳴いて横島に擦り寄るチビ、ちなみに放電していたので毛が逆立って何の生き物なのかますます判らなくなっている
「じゃあ。横島少し休憩してて良いわ」
チビが来て構って構ってっと擦り寄っているからか、タマモも顔を上げている。そんな状態では勉強にならないのでここで休憩にする。それに家に帰るから荷物も纏めておきたいしね、部屋の隅においてある着替えとか私物を鞄の中にしまっていると
ピンポーン
チャイムの音が鳴る。その音に顔を上げたテレサは少しだけ残念そうな顔をして
「カオスと姉さんが迎えに来たみたいだね」
「……また来れば良い。私は暇をしているから」
この6日の間に随分と仲良くなったみたいね。まぁいいことなのかもしれない、テレサの人格形成には人との触れ合いが必要だと思うし、まぁシズクみたいに腹黒になられても困るけど
「そっか、じゃあ玄関まで見送りに行くよテレサ」
テレサと暮らしたのは中々に楽しかったし、私も見送りに行くと言うとテレサは少し驚いた顔をしてから、柔らかく微笑んで
「ありがと、また遊びに来るよ。横島も蛍も、シズクも優しいし、チビとタマモは可愛いしね」
そう笑うテレサと一緒に玄関まで見送りに行ったんだけど、玄関では予想外の光景が広がっていた
「ドクターカオス。わ、私は頑張りました。おキヌさんの……お、おおおおお、キヌキヌ!?」
「テレサァ!早くマリアを担いでくれえ!精神に過負荷が!このままではマリアの人格がおかしくなる!」
「「「何があったの!?」」」
美神さんの家でマリアが何を見たのか?そしてどんな過酷な生活をしていたのか?それが激しく気になったが、ドクターカオスの適切な処置でなんとかなったらしい。横島がおキヌさんを恐れて、なんか壊れかけていたのでシズクに横島を預け、私は家へ帰るのだった。そして家で私はハンマーはハンマーでもネイルハンマーを2振り装備し、お父さんの部屋を蹴り開ける。突然の事に驚いているお父さんは動揺しきっているのか敬語で
「ほ、蛍さん?何事ですか!?」
混乱していて敬語なのはどうでも良い、それに青い顔をしているのは、身体が冷えているのか、それとも恐怖なのかは判らないけど、まぁそんな事はどうでも良いので無視する。まずは私を裏切ったことに対する制裁を与えなければ
「さて?お父さん?部屋のスミでガタガタふるえて命乞いをする心の準備はOK?」
「いやいや!?無理!その形状は「じゃあ?逝っときましょうか?」ッま!駄目ッ!ぎゃあああああああッ!!!」
ベッドに寝転んでいて録に動くことの出来ない、お父さんの頭目掛けて本気でネイルハンマーを振り下ろした。最近増え続ける知らない女性とか、その他もろもろの怒りを全てお父さんに文字通り叩きつけるのだった……
東京の外れの森の中に響き渡る絶叫と爆発音。そして月の光を浴びて美しく輝く銀髪を翻す少女……くえすだ。彼女は長い髪をかき上げながら、自身の服についた砂埃を払って今倒したばかりの魔族を分析していた……
最近魔族の動きが活発になっていますわね。私は手にしていた魔道書を閉じ、消滅していく魔族の分身体を見つめる。この魔族は本体からの魔力を受け、同じ知性を持ち合わせている高レベルの分身体。本体よりは弱いがと、それでも並のGSが倒せる相手ではない
(やれやれ、随分とこき使ってくれますこと)
神代琉璃が私に与えた依頼。それは今日本国内で目撃情報の多い魔族の調査……これは1回や2回で終わる仕事ではなく、しかも依頼の期間が設定されていない。魔族の目撃情報が無くなるまでは、私は神代琉璃の指示に従わなければならない
「この依頼が終わったら呪いでも掛けてやりますかね?」
この神宮寺くえすをなんだと思っているのか、それを徹底的に問い詰めたい。その上で魔炎で神代琉璃を焼き尽くしたいと思う……なんせこれで4回目の魔族との戦闘だ。いくら下位でも強力な相手だ……こうも連戦だと精神的な疲労が大きい
「ふう……まぁ良いですわ。帰るとしましょうか」
とりあえず私の事務所に戻って、ヨーロッパから取り寄せる予定の魔具の事も考えないといけない
「探したわよ。くえす」
聞こえてきた声に眉を顰める、この声を聞き違えるわけが無い
「何の用ですか?美神令子」
「そう睨まなくてもいいでしょ?私も琉璃に頼まれて魔族の調査をしてるんだから……」
私だけではなかった……しかしそれにしてもとんでもない高額を要求する美神令子にまで依頼をするとは、よっぽど焦っているのですね
「……貴女の助手は?」
ブラドー島で出会った芦蛍と横島忠夫の事を思い出しながら尋ねる。いくらなんでも1人で行動するのは危険だ、私は元々単独行動を得意としているし、魔族に効果的な魔法も知っている。でも道具使いである美神令子が何の道具も持たず、しかも1人で行動してることに違和感を感じていると
「くえすが取り寄せれなかった魔具の事で話があってね」
その言葉に理解する。私が取り寄せるつもりだった、とある魔具……だが私が出した以上の価格で無理やり買い取った相手がいるのは知っていた。あの道具の価値を知っている人間は少ない、少なくともAランクかSランクGSだとは思っていましたが……やはり美神令子でしたか……
「……なるほど、私の邪魔をしてくれたのは貴女でしたか……」
最近日本に流れ込んできて居る魔族。それにはある特徴があった……動物を媒介にし、自身の分身を作り出す悪魔。そしてこれだけの事が出来る魔族となると特定は容易い。
「時間貰えるかしら?」
にやりと笑う美神令子。やれやれ……面倒ですが、仕方ないですね
「本来なら時間なんてありませんが、仕方ありませんわ」
「話が早くて助かるわ。近くに車を停めてあるから行きましょう」
そう笑う美神令子と共に私は森を抜け、美神令子の事務所へと向かうのだった……しかし私も美神令子も気付いて居なかった、私たちを見つめる不気味な道化の姿をした悪魔の姿に……
別件リポート 未熟なGSと錬金術師へ続く
次回は別件リポートで横島とドクターカオスが仲良くなった話を書いて見ようと思います。やはりこういう話も必要だと書いてもらった感想で思った物で、少し短い話になるかもしれないですが、どうかよろしくお願いします