リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その6
チュンチュンと雀が鳴く声で目を覚ます。霊山と呼ばれる妙神山あって霊力の回復量が桁違いね
(んーいい気持ち)
魔力を封印しているブレスレットのおかげで魔力を封じているせいか、霊力もそれに伴った量しか回復してなかったけど周囲の霊力が濃いからか、かなりの量が回復していて身体がすごく軽い。やっぱり霊力はしっかり回復している方が良いわね……とは言え、お父さんのビルはお父さんの霊力と魔力の回復用に調整されているから私には対応してないし……
「あれ?もしかして私が一番起きるの遅い?」
暫く考え事をしていたが、ふと顔を上げるとシズクも美神さんの姿もないことに気付き……慌てて布団を畳んで、寝巻きから私服に着替えて、ぼさぼさの髪を整えて部屋を出る
(横島にだらしないって思われるのは嫌よ)
普段は横島の家に行くことを考えているので早く起きることが出来るが、どうも今日は普段回復していない霊力を回復させるために普段よりも数段深い眠りに落ちてしまったようだ。井戸の冷たい水で手早く顔を洗って居間に移動する
「すいません、寝過ごしました!」
居間では既に美神さん達が朝食を食べていた、美神さんは味噌汁を机の上において
「おはよう蛍ちゃん。小竜姫様が朝食の用意をしてくれてるから早く座りなさいよ」
はいっと小さく返事を返して美神さんの隣に座る。シズクとおキヌさんの姿がないけど……どこへ行ったんだろう?
「近くの山に霊力に満ちた水があるとかで汲みに行ったわよ。おキヌちゃんはシズクの荷物持ちを手伝いに行ったわ」
絶対あれだ、ここまで来るのに飲みまくっていた2Lのペットボトルに水を詰め込むつもりなんだ……ミズチだから水が生命線って知っているけど、2人係で水を汲むって本当にどれだけ汲んで帰るつもりなんだろうか……
「蛍さんも起きたんですね?今味噌汁を温めますから待っててくださいね」
私と美神さんの話を聞いていたのか小竜姫様が顔を出して小さく笑う。昨日の最後の修行の前に感じた威圧感はない
(うーん……どういうことなんだろう?)
二重人格とまでは言わないけれど、どうしてこんなに雰囲気が違うんだろ?後でおキヌさんと話し合ったほうがいいかもしれない
「はいどうぞ。口にあえばいいんですけどね」
穏やかに笑う小竜姫様にお礼を言ってから用意して貰った朝食を食べていると
「おはよーございまーす」
襖が開いて横島が姿を見せる。その後ろにはモグラちゃんがぴったりとついている
「随分と懐いているのね?」
美神さんがからかうような口調で言うと横島は座り込んで
「だってモグラちゃん、可愛いっすよ~」
「うきゅ!」
すりすりと擦り寄ってくるモグラちゃんを抱きしめて頬ずりしている横島
(あーなんか朝からいい物を見たような)
嬉しそうに笑っている横島の笑顔は子供みたいに可愛い、気持ちが和らぐのを感じながら朝食を食べ進めるのだった
小竜姫様の用意してくれた朝食を食べながら机の上のチビを見る
「はい、どうぞ。チビさん」
「みーむ!」
小竜姫様にチビは果物が好きだと言っておいたのでちゃんと切り分けた果物を受け取っているチビ。嬉しそうに果物を食べているチビを見ていると
「うきゅ」
遊んで遊んで!と鼻を摺り寄せてくるモグラちゃん。遊んであげたい所だけど
「今から朝ご飯だから待っててな?」
「……きゅー」
詰まらなそうに鳴いているモグラちゃんの頭を撫でていると
「……いつまでも遊んでないで食べろ。今日は忙しくなるぞ」
【そうですよ?横島さんの修行の事もあるんですからね?】
シズクとおキヌちゃんに注意され、俺はまだ少ししか食べてない朝食を慌ててかき込んで
「ふっぐう!?」
「バカ!慌てて食べるからよ!」
案の定喉に詰まらせ、蛍から差し出された水を一気に飲むのだった……
「では横島さん。修行の方向性をお知りになりたいのですよね?」
朝食を食べ終えた所で小竜姫様が確認と言う感じで尋ねてくる。俺に実感はないが、陰陽術や妖怪と心を通わせる才能などかなり多才らしい。その所為で修行の方向性が判らないと言うのが唐巣神父と美神さんの言葉だ。いつまでも見習いでは意味がないのでここいらで専門家に話を聞きたいと思っている。その点小竜姫様なら間違いはないだろう、昨日の美神さんと蛍の修行風景を見て俺はそう確信していた。きっと俺にも適切なアドバイスをしてくれると……なんせシズク達は好き勝手な事を言うのでどうすれば良いのか判らなくなってしまうのだ。
「……私的には陰陽師を押している」
【私は普通にGSの修行が良いとおもうんですけどね】
「んー私はやっぱりあれじゃないかしら?稀有な妖使いの才能を伸ばすべきだと思うわね。無理に除霊しなくても交渉って言う選択肢が生まれるのはやっぱり良いとおもうのよね」
シズクやおキヌちゃん、それに美神さんも皆言っている事がバラバラなんで困ってるんだよなあと言う視線を小竜姫様に向けると
「……まぁそれだけの才能があれば色々と道があるのも判ります。とりあえずまずは影法師を抜き出して見ましょう。それで横島さんの霊力の方向性が見えると思いますし」
影法師……昨日の美神さんと蛍のか……それで判るなら1度見てみたほうがいいかもしれないと思い頷くと
「ではこちらへ」
そう笑って昨日の修錬場へと案内してくれる小竜姫様だったが
「うきゅ!うきゅうう!」
「コン!コーン!!」
「みむう!みみみーッ!!!」
「判った!判ったから!」
モグラちゃんを筆頭に構え、抱っこしろと言わんばかりに擦り寄ってくるタマモたちに四苦八苦しながら俺は修錬場へと向かうのだった。美神さんと蛍?頑張ってねって笑って先に行っちまったよこんちくしょう
「……早く歩け」
「お前もしれっと背中にしがみ付くな!」
文句を言っても無駄だと判っているが一応シズクに文句を言って、背中にシズク、頭の上にチビ。肩にタマモを乗せた所でそしてモグラちゃんは
「うきゅ♪」
後ろから軽く突進してきて、俺のバランスを崩すと器用に俺をその背中に乗せて楽しそうに鳴いている
「……なんか複雑だなあ」
俺をその背中に乗せて楽しそうに歩き出すモグラちゃん、しかも以外に速い上に安定性も抜群。モグラってすげえと思わず思ってしまうのだった……
こんな影法師初めて見ました……修錬場の中で横島さんの影法師を抜き出して見たのだが、こんな影法師を見たことがない
「はーなんか凄いのが出てきたなあ」
横島さんも驚いた様子で顔を上げている。その視線の先には着物の様な物を着込み、更にその上に赤色の羽織。頭には黒い烏帽子。腰に差している短い脇差に、そして左手には水色の扇子、右手には無骨な手甲と余りにバランスが取れてないにも程がある異形の人型の姿があった
(これは横島さんの魂に影響しているという事でしょうか?)
こうして影法師を抜き出したら判った。影法師から細い霊力の糸が出ており、それがタマモとシズクに繋がっている。恐らく加護を受けているのであの2人の霊力の特性が出ているのだろう
「……あの扇子は私の霊力を感じる。加護が影法師に影響しているみたい」
シズクさんがぼそりと呟く、自身の加護を授けているのだからシズクさんが判るのは当たり前か
「へえ?じゃあ……あの赤い羽織はタマモの加護ってことかしら?」
「コン!」
その通りと言わんばかりになくタマモさん。頬を摺り寄せている所を見ていると本当に懐いているのが良く判る
【それで小竜姫様?横島さんの霊力の方向性ってどうなっているんですか?】
おキヌさんに尋ねられる。私は少し悩んでから横島さんの霊能力の方向性を口にした
「正直に言います。陰陽術も、妖使いも、退魔師としてもその才能は秀でています。これは難しいですが、全部同時に修行した方がいいかもしれないですね」
着物と烏帽子は陰陽術、腰に差している刀は退魔師、扇子は多分妖使いの才能を示していると思うんですよね、美神さんの影法師は薙刀でしたし、蛍さんの影法師は特に武器を持っていなかった。影法師の持つ武器はその人の霊能を示すんですが、ここまで装飾品を身につけていると言う事はそれだけの数の才能を持っていると言うこと……どれかだけを伸ばすというのは正直に言うとかなり惜しいと思ってしまう
「へ?」
間抜けな声を出している横島さんの肩を掴む。こんなに才能に溢れた人材を見たのは初めてだ。しかもそのどれもが稀少な霊能と来ていれば、私としても気合を入れて修行を付けてあげないといけない
「頑張って修行しましょう。ええ、ここにいる間に少しでも霊力の使い方を覚えてください!さぁ!早速修行を始めましょう!とりあえず霊力のコントロールを覚えましょうか。あ、美神さん達は自分で霊力の流れのコントロールの修行をしていてくださいね」
「え。え?待って!俺そんなに一気に覚えれないイイイ!!!」
横島さんの影法師を横島さんの中に戻して、私は妙神山で一番優しいと言われる修行場へと横島さんを引きずっていくのだった……
「あーご愁傷様」
涙目で引きずられていく横島を見て美神と蛍は手を合わせて、それを見送り
「一応おキヌちゃん着いてってくれる?」
【はい!チビちゃんも行きましょうね】
「みむ!」
おキヌとチビが横島と小竜姫の後を追って行くのを確認しながら残された美神と蛍もその場に座禅を組み、上昇した霊力のコントロールの為の精神集中を始めるのだった……
「それにしても不思議ですねー」
私は湯船で汗を流しながら横島さんの事を考えていた。膨大な潜在霊力に様々な霊能の才能を持ち合わせているのにも拘らず、横島さんにはその霊能を使うだけの才能がなかった……いやあれはどちらかと言うと
(魂の防衛本能?)
その膨大な霊力を扱う事が今の身体では無理だと判断しているのか、霊力を引き出すことが出来ないのでいるのだ。これは時間が経って横島さんの身体が出来上がらないと本格的な霊能力の覚醒は難しいかもしれない
(それか……竜気を分ければ……)
私の竜気を貸し与えれば、それを切っ掛けに横島さんの霊力が開放される可能性もありますが……私はここの管理人として特定の誰かに贔屓をする訳にはいかない……そう何か特別な理由でも無ければ竜気を与えることは許されていない
(割と好感を持てる人なんですけどね)
女好きみたいな事を言っていたけど、その癖どうも女性からは一歩引いて対応しているように思える。おキヌさんに汗を拭われたりするときに動揺している素振りを見せていて、それを見て思わず微笑ましい気持ちになってしまった
「横島さん……か」
ここまで修行者の事を考えることは今まで無かった。それになんでかあの人を見ているととても懐かしく、幸せな気分に……
「あ。あら?……今日は少し修行を頑張りすぎましたかね……」
急に眠気が襲ってきた、朝の稽古に、横島さんの修行にと少し頑張りすぎたかもしれない。湯船で眠るわけにも行かないので身体を拭いて着物に着替えた所で
「も、もう駄目……」
浴場の椅子に腰掛けると同時に私は意識を失ってしまったのだった……
しかし眠りに落ちたはずの小竜姫は直ぐに目を覚まし、手早く髪を整えて
「横島さん。今日は私と話をしましょうね」
さっきまでの呼び方と違い、親しみを込めた声色で横島の名前を呼び、嬉しそうに笑いながら浴場を後にするのだった……
なお横島が覗きをしなかった理由はと言うと
「あいたたた……身体が痛い」
瀕死の状態になっており、シズクの手当てを受けていたからである
「……あの馬鹿、もう少し手加減しろ」
朝から身体と霊力を使いすぎたことよる霊体痛と筋肉痛にくわえ、更に
「モグラちゃん?横島に遊んで欲しいのはわかるけど、もう少し手加減って物を覚えなさい。いいわね?」
「きゅー」
横島が訓練している間は遊んでもらえなかったモグラちゃんが訓練が終わると同時に横島へと突進した。モグラちゃんは止まろうとしたのだが止まる事が出来ずそのまま横島の背中に激突。横島はそのままの勢いで吹き飛ばされたのだ。その瞬間横島の脳裏には「モグラは急に止まれない」と言うワケの判らない言葉が浮かんでいたりする
「あー少し楽になった。ありがとなー」
さっきまで動く事が出来ないほどに身体が軋んでいたけど、シズクの手当てのおかげで大分動きやすくなった気がする。それに小竜姫様の稽古はすごく厳しかったが、今まで美神さんが教えてくれなかった、霊力の循環を良くするための座禅とかとか、家でも出来る基礎稽古を色々と教えて貰ったのは本当に良かったと思う
「……心配だから見ていて「はいはい。帰るわよー、シズク」
さりげなく残ろうとしたシズクは蛍に抱えられ強制退去。モグラちゃんは部屋の隅で丸くなり眠る準備。タマモは俺の枕元に自分の籠を引きずってきて寝る準備をして、チビは机の上で丸くなっていた……
「俺も寝るかあ」
横島もまた今日の稽古のハードさもあり、直ぐに布団に潜り込み眠りに落ちるのだった……
リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その7へ続く
次回でやっとタイトルの危険な龍神様に触れていこうと思います。長かったですが、出すタイミングを間違えると大変なことになるので慎重になっていましたが、ちょっと慎重になりすぎたかもしれないですね。それでは次回の少し黒い小竜姫様を楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします