リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その5
あの石の巨人を倒した事で美神さんの影法師に鎧が装着された。これはあれだろうか?霊的な防御力が上がったという事なのだろうか?
【小竜姫さん。これは防御力が上がったってことなんですか?】
おキヌさんがそう尋ねると小竜姫様は穏やかに笑いながら
「ええ、そのとおりです。霊の攻撃に対しての防御力と耐久力が上昇したのです。並みの悪霊の攻撃なら全然平気ですよ」
そこまで防御力が上がるんだ……そこまでの効果があるとは正直予想外だ
「とは言え、ここの修行場での攻撃は軽減することが出来ないので慢心せずに立ち向かうことをお勧めしますよ。なんせ次の試練で何人か死んでいるのですからね」
その言葉を聞いた横島が青い顔をしながら美神さんに近寄って
「ここでリタイアして帰るって言うのはどうですかね?死んでしまったらどうにもならないですよ?」
まぁ確かにその気持ちは判る。だけどそれにうんと言う美神さんではないし、小竜姫様でもないだろう
「いやよ、私は最後までやるわよ」
ほらね、美神さんが帰るなんて言う訳ないじゃ無い。横島が心配しているのは理解しているようで
「心配ないわよ。さくっと勝つから黙ってみてなさい」
ウィンクしながら言う美神さん。こういう強気のところが美神さんらしくて良いのよね。これでこそって感じがする
「途中棄権は認めません。パワーアップするか、死ぬかがここでの決まりです」
小竜姫様がそう言うと潜ってきた門が消えたように見える。
(へえ……小竜姫様って幻術も出来たんだ)
門を消したかのように見せているのだ、幻術が得意な私にはちゃんと見えている。小竜姫様って真っ向勝負だけかと思っていたけど、こういう搦め手も出来たんだと感心している中
「元々途中棄権をするつもりなんてないわ。ほら、次の試練を始めましょう?」
美神さんの言葉に頷き小竜姫様が法円に指を向けて
「禍刀羅守!出ませい!!!」
法円が光り輝きそこから4本の刃を持つ昆虫のような異形が姿を見せる
「随分と悪趣味ねー」
「刺々しいデザインですね」
「……見た目で威圧するタイプ?」
私達が口々に現れた禍刀羅守の評価をしていると
「グケケケケー!!!」
おぞましい雄叫びを上げてストーンサークルの切り上げて、その巨岩を両断しその刃をべろりと舐めている禍刀羅守
「本当に悪趣味ねー」
美神さんが頭を抱えて苦笑する。私も同じように苦笑しかけて
「美神さん!危ない!」
横島がそう叫んだ瞬間禍刀羅守が一瞬で間合いを詰めてその刃を振るう
「ぐっくう!?」
影法師がダメージを受けたので美神さんが苦しそうに呻き声を上げる
「こらッ禍刀羅守ッ!!!私はまだ開始の合図をしてませんよ!!!」
小竜姫様がそう怒鳴るが禍刀羅守は馬鹿にしたような表情で
「グケッ!グケ!!!」
そんな事は関係ないと言わんばかりに笑う禍刀羅守を見た小竜姫様が
「私の言うことが聞けないと言うのですね!!!なら試合は止めです!私が……「待って!」
小竜姫様が刀を抜こうとしたが、美神さんがそれを止め前に出ながら
「あんたがやっつけたら私のパワーアップにはならないんでしょ!なら私が倒すわ!!」
「それはそうですけど……それでは公平な戦いには……」
小竜姫様が考え直すように言うが美神さんはその言葉を遮って
「大丈夫よ!この程度のダメージなんて!行くわよ!影法師!!」
美神さんがそう叫ぶ、影法師はその言葉に呼応すかのように禍刀羅守に向かうが
「グケケ」
馬鹿にするかのように笑うと一瞬で影法師の背後に回りこみその背中に一撃を叩き込む
「くっ!」
胸を押さえて蹲る美神さん。どう考えても最初の一撃のダメージが大きすぎる。小竜姫様もそれを理解したのか
「やはり最初のダメージが大きすぎたようですね、仕方ありません特例として助太刀を認めます」
そう言って私の方に歩いてきて私の頭に触れ
「貴女の影法師を抜き出します。気を楽にしてください」
その言葉に頷き深呼吸してリラックスすると私の背中から何かが抜け出してくる感じがした。
(あ、やっぱりなんだ……)
私の影法師はバイザーを身に付けた女性の姿。それは私……芦蛍ではなく、ルシオラとしての姿。もしかしたらと思っていたけど……こうして見ると納得してしまう
「さあ!行きましょうか!影法師!」
私の言葉に頷き、美神さんの影法師の助けに向かう影法師の背中を見つめていると背後で
「……ルシオラさん……ああ、そうだったんですね」
ぼそりと呟かれた小竜姫様の言葉にはどこか暗い何かが混じった重い物で少しだけ恐怖を感じるのだった……だけど今は美神さんを助ける事を考え、自らの影法師を美神さんの救助に向かわせるのだった……
ぼんやりとした意識が徐々にはっきりとしてくる。現在の私の意識が消えて、未来の私の意識が浮上してくる
(ルシオラさんの影法師を呼び出したからでしょうか)
ルシオラさん……いや、今は芦蛍さんですね。その影法師は私も知っている蛍魔ルシオラの姿、その姿を見て私の意識が浮上してきたのだろう……
「はー蛍の影法師も美人……あいたたたた!!シズク!シズクぅ!無言で爪を立てるなあ!痛い!痛いからああ!!」
横島さんの隣はミズチの姿、やっぱり横島さんの所に向かったんですね、なんて羨ましい
(もうタマモもいるんですね)
横島さんの膝の上で丸くなっているタマモさん。それ自体は知っていたけど、こうして見ると随分と自然な感じがして少しだけ羨ましいと思ってしまった。まぁそれは今は置いておいてもいい、他の問題があるからだ
(さて、どうしますかね)
禍刀羅守と戦っている美神さんと蛍さんの影法師を見る。私の記憶では横島さんの影法師だったけど、蛍さんの影法師になっている……まぁそれはそれでも構わない、懐の中の手紙には横島さんの進むべき霊能力の道に対する助言を求める旨の文が書かれていたから……それに暫く滞在してくれるつもりらしいし……
(でもこのままだとどうなるのかしら?)
あの時は私は横島さんの影法師に逆鱗を触られて竜になって妙神山を破壊してしまった。一応老師もいらっしゃいますが、そんな事をしたら絶対に如意棒で殴られて横島さん達が帰るまで確実に説教です
(ここは上手く切り上げるべきですかね)
禍刀羅守の奇襲の件もありますし、それを理由に稽古を切り上げても……
【そんな事をすれば説教じゃ、小竜姫】
頭の中に響く老師の声……ううっ……私の考えていることがばれてる……うーん適度な所で切り上げれば大丈夫かなあ……どうしよう?どうしようと考えているうちに
「美神さん!今です!」
「OK!蛍ちゃん!」
蛍さんの影法師が禍刀羅守の視界を一瞬幻術で惑わし、その一瞬で美神さんの影法師の切り上げの一撃に引っ繰り返される禍刀羅守……これで勝負有ですね
「その子はひっくり返ると自分で起き上がれないんですよ。ですから、この勝負も美神さんの勝ちですね」
禍刀羅守が消滅し、美神さんの影法師の手にする槍の中に吸い込まれ、槍の形状が薙刀に変化する
(凄まじいコンビネーションですね)
蛍さんはやはり美神さんのことを良く知っている。もしかすると横島さんと美神さんが組んでいる時よりも強いかもしれない……そう考えると少しだけ本気で戦ってみたい気もするけど
(駄目駄目、暴走する危険性を考えないと)
あの時とは状況は違うけど、世界の修正力の事もある。なにをきっかけに暴走するかもしれないのだから、ここは試練のみに集中するべきだろう
「では最後の試練は私との組稽古になります」
げっと呻く美神さん、まぁ確かに龍族相手に影法師を使ったとしても勝てるわけがないのだから不味いと思うのは当然ですね
「……お前弱い物虐めが好きだったのか?」
シズクさんがそんな事を呟く、ええっと驚いた横島さんの責めるような視線を向けられて
「違いますからね!ちゃんとした稽古です。私との戦いの中で霊力の引き出し方を掴んで貰うんです!」
霊力と言うのは強い霊力に引かれて上昇することが多い。だからそれを目的とした稽古です!と怒鳴ると
「ああー安心した。シズク、あんまり酷いことを言うのは駄目だぞ?」
「……竜族は凶暴だからありえない話じゃ無い」
なんでそう私を敵視するんですかね……いえ、私も敵だとは思っていますが、それはそれ、これはこれと言う物でこういう時にそう言うことを言うのは止めてほしい
「では10分ほど休憩してから最後の稽古を始めます、霊力の集中と身体を休めていてくださいね」
そう声をかけて修錬場を出て、姿見の前に立つ……まだ幼い私の姿がそこにはあった
(竜珠が戻るのは大分先ですね……はぁ……)
竜族は角の生え変わりと竜珠をえる事で成人と扱われ、私は角生え変わりはしたけどまだ竜珠は手にすることが出来ていない。
(大分成長したのになあ……)
背はあんまり伸びなかったけど体型はかなり女性らしくなっていたのになあと思うと、思わず溜息が出る……
(横島さんが帰ったら私も修行しよう。少しでも早く竜珠を手にするために)
あの時の私は今の妙神山の管理人と言う立場に納得していた。だけど今は違う、早く竜珠を手にし自身の霊格を上げたいと思っている。竜族の結婚が許されるのは竜珠を手にすることが条件なのだから……
「私は頑張りますから」
自分に言い聞かせるように握り拳を作る。竜珠を手にして、私は横島さんに私の本当の名前を教えて、その名で呼んで欲しいのだ。小竜姫と言うのは役職としての名前なのだから……自分の名前を呼んで貰う為に修行を頑張ろうと心に誓い、気合を入れてから私は修錬場へと戻るのだった……
チャポーン……貸切の湯船の中に落ちてくる雫の音が響き渡る
「ふはあ……」
肩までしっかりと漬かりながら深い溜息を吐く、登山で疲れ切った身体に染み込んで来る温泉が実に気持ちいい
「みーむ……」
風呂桶の中で温泉を楽しんでいるチビと湯船に入ろうかと悩んでいる様子のタマモを見ながら
(それにしても凄かったなあ……)
頭の上の手ぬぐいで顔を拭いながら思い出すのは美神さんと蛍の最後の訓練だ。霊力の相乗効果とかで美神さんと蛍の霊力を引き上げるために小竜姫様と組み手をしていたのだが俺には殆ど見えなくてシズクに解説してもらってたんだが……周囲から聞こえてくる音だけでも激しい戦いをしているのだと判った
(はー俺も明日はほんの少しでも霊力が覚醒するんかなあ……)
明日は俺の影法師を出して霊力の方向性を見極めるらしいんだけど……
(俺の霊力の方向性ってなんなんだろうなあ……)
陰陽術とか妖使いの才能があるとは聞いているけど、自分ではそんな実感もないしなぁ……
「こ、コン!ココン……」
犬かきで風呂に入ってくるタマモを抱える。あのままだとなんか溺れそうでかなり不安だし……
「桶に入るか?」
チビに桶風呂を作る時は嫌だと言っていたが、今の溺れかけたので判ったのか
「くう……」
弱々しく鳴くタマモの為に桶にお湯を張ってその中に入れてやると
「クウ……」
桶の縁に顎を乗せて気持ち良さそうに鳴いているタマモ。後でドライヤーで乾かしてやらんとなあ……
(はー夕飯が楽しみだなあ……)
なんでも霊力の回復に適した食材で料理を小竜姫様が作ってくれるらしいので楽しみだなと思っていると
「ん?」
突然目の前に影が落ちる……ま、まさかぁ……顔を上げると飛び掛ってくる巨大な影……モグラちゃんだ
「きゅーん♪♪」
「どわあああああ!!!!」
ザッパーンッと凄まじい音が響き渡る。咄嗟に回避することが出来たけどむちゃくちゃ驚いた
「コーン!!!!」
「み!むむうううう!!」
「ああ!!チビ!タマモ!!!」
モグラちゃんが飛び込んできた衝撃でタマモとチビの風呂桶がひっくり返って、湯船で溺れているチビとタマモを救助して桶の中に戻す
「うきゅ?」
何か悪い事した?と言う感じで首を傾げているモグラちゃんに苦笑していると、モグラちゃんは
「きゅっ!きゅー」
楽しそうに鳴きながら泳ぎ始める。モグラって泳げるんだ……こうしてみるのは初めてだけど、モグラが泳げるって事を始めて知るのだった……
「暴れるなよー」
「みー♪」
「くう」
鞄からドライヤーを出してチビとタマモを乾かす。いつもの毛玉フォームへと変化したチビとタマモに軽くブラッシングをしているとモグラちゃんが
「きゅ?」
俺のズボンの裾をくわえてこっちを見ている。いや良く見ると台の上のドライヤーを見つめている
「ん?モグラちゃんもして欲しいのか?」
ドライヤーとブラシを手にしてモグラちゃんに尋ねると、そのつぶらな目をキラキラとさせながら
「うきゅ!」
こくこくと頷くモグラちゃんに苦笑しながらドライヤーで乾かしてブラシを通す。ただモグラちゃんは物凄く大きいのでドライヤーをかけるのもかなりの重労働だったが
「きゅー♪」
「おお、もふもふ……」
ふかふかと身体が膨らんでいるモグラちゃん。これは抱き枕みたいな感じでいいかもしれないなぁ……思わず座ってもふもふしていると
【横島さーん?もう直ぐご飯ですよ?まだお風呂に入っているんですか?】
暖簾の外から聞こえてくるおキヌちゃんの声。どうもモグラちゃんを乾かすのに大分時間が掛かってしまったようだ……いやもしかするともふっていて時間に気付かなかった可能性もある。
「おーう、今出たから直ぐ行く~!」
頭の上にタマモ、肩の上にチビを乗せたところで足元のモグラちゃんに
「一緒に来るか?」
「きゅ!」
前足を上げて自分も自分もと言いたげな素振りを見せているモグラちゃんの頭を撫でて、モグラちゃんを連れて食事に向かうのだった
「あー変わった味だけど美味かったな」
初めて食べる味だったけど、なんか体の中から綺麗になっていく感じがして気分爽快って感じだ。精進料理らしく肉と魚は全く使われてないが、肉と魚の食感に近いように野菜や豆腐が料理されていて食いでがあって美味かった。シズクと蛍とおキヌちゃんが1口食べるごとに何かを考え込むような素振りを見せていた、何が使われているのか?を考えていたのかもしれない。
「くうくう」
「みーむむ」
既に丸くなって眠る体勢になっている。今日は籠はないのでタオルを掛けて、俺も欠伸をしながら布団に潜り込んで眠りに落ちるのだった……
翌朝俺は信じられない光景を見ることになる。障子から差し込む光が顔に当たり目を覚ます……多分普段起きる時間より早いと思うが、寝る時間も早かったので2度寝しようとも思わず、そのまま起きる事にした
「ふあああ……良く寝た……」
布団から身体を起こして座ったまま背伸びをする。筋肉痛になっていると思っていたけど、全然平気だ。これもシズクのおかげなのかもしれないな、霊力で回復力を高めるだったかな?と思いながら振り返る
「すぷーすぷー」
部屋の隅では小山のようなモグラちゃんが眠っている。鼻提灯が出ているのが可愛いとおもうのと同時に
(潰されなくて良かった……)
何度も何度も押し潰されているので、寝ている間に押し潰されなくて良かったと安堵しながら軽くストレッチをしながら
「じゃチビ散歩行くか?」
「みむ!」
リードをくわえてそわそわしているチビにそう声をかけ、まだ寝ているモグラちゃんとタマモを起こさないように気をつけながら部屋を後にしたのだった……
リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その6へ続く
次回は横島の霊能力の方向性の話をしていこうと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします