その1
リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その1
大親分さんとの依頼がたくさん来ていたのでそれをメインに最近は蛍ちゃんと横島君の除霊訓練をしていたんだけど……
【ギッシャアアアア!!!】
「ほぎゃああああ!?」
予定よりも遥かに悪霊が強いというパターンが多かった。偶々だろうと思っていたけど、今回はCランクの依頼なのにAランク相当の悪霊が出てきてしまった。悪霊の拳を喰らって悲鳴を上げながら倒れる横島君を見て眉を顰める。今回はDランクに近い、Cランクの依頼。横島君でも充分対処できると思っていたのに……
(最近おかしいわ!)
念入りに事前調査をしているのにこんなことになるなんてことは普通はありえない。破魔札を取り出して
「シズク!チビ!」
自分の名前を呼ばれたシズクとチビは即座に水の壁と電撃を走らせる。その間に悪霊に殴られて意識を失っている横島君の前に立ち
「蛍ちゃんとおキヌちゃんは手当て!ここは私に任せない!」
目で頷き即座に応急処置を始める、2人のほうに行かせないように気をつけながら
【ギギャギャギャ!!!】
「くらいなさいッ!!」
奇声を上げながら突っ込んできた悪霊の牙を回避して、そのまま額に破魔札を貼り付けて上半身を吹き飛ばす
「ふーこれで終わりかしらね」
早く横島君をちゃんと手当てできる所に連れて行かないと、車を近くに停めてよかったわねと思いながら振り返った所で
「美神さん!まだです!」
蛍ちゃんの怒声に振り返ると上半身を消し飛ばされた悪霊が下半身だけで走ってきていて
(しくじった!?)
良く見ると下半身にも目と口が現れている、元々あの悪霊は2体で1体の悪霊だったのだ。だから調べた書類と目の前の悪霊の霊力が合致しなかったのだ。腕をクロスして防御の姿勢に入るが
「……反撃の準備を」
「コーンッ!!!」
【ギギャア!?】
シズクの水鉄砲とタマモの狐火が悪霊の体勢を大きく崩す、その隙に神通棍を取り出し
「こっのおお!!!」
渾身の霊力を込めた一撃を悪霊へと叩き込み消滅させる。思わずその場にへたり込みながら
(1度唐巣先生に相談しよう……)
最近こんな事ばかり……ブラドー島での魔族の事もある。なにか私の知らない所で何か動いているのかもしれない……もしもなにか起きているとしたら、私は行かないといけない。霊能力者の修行場「妙神山」へと……
相談したいことがあると言う美神君からの電話。丁度私も美神君に電話しようと思っていたタイミングなので丁度良かった
「唐巣先生。はい、お湯です」
「あ、ああ。ありがとうシルフィー君」
ブラドー島に残ったピート君の代わりに私の助手をしてくれているシルフィー君。世襲制と言うこともあり、しばらくはピート君がブラドー島に戻り島民を導くという形でまとまった。掃除に洗濯に料理などはピート君よりも遥かに上手いし手際もいい、さすがは女の子と言った所だ。掃除をしてきますねーと箒を手に出て行くシルフィー君の背中を見ながら、私はブラドー島での横島君の戦いの事を思い出していた……
(あの横島君の一撃は凄まじかったからなあ)
今思い出しても横島君のあの一撃は凄まじかった。魔族を強制除霊する、口で言うのは簡単だがそれを実行できる人間がどれだけいるだろうか?そんな事が出来る人間は私は知らない
(あんな力技でブラドーが生きているということ自体が信じられない)
あれだけ魂に深く寄生していた魔族を力尽くで除霊すれば間違いなく、その反動でブラドーは死んでいるはずだ。だが横島君の攻撃で全身打撲程度の怪我はしているが、休んでいれば回復する傷だ。これは普通はありえないことだ、強制除霊は廃人となる危険性が極めて高い除霊方法の1つなのだから……
(間違いなく世界有数のGSになるだけの才能を横島君は持っている……いやそれだけじゃない)
妖怪と心を通わせる才能に、陰陽術の才、それに霊力を圧縮する技能もある。どれもが一流レベルの物だが、同時に鍛えることが出来ない物でもある
(そろそろ本格的に考えさせた方がいいかもしれないね)
美神君も感じているだろう。横島君をどの方向性で育てるのか?これはもしかすると最近の悪霊の増加現象よりも重大な事だ。今日態々ここに美神君が尋ねてくるのもそれが大きいのかもしれないね
「唐巣先生。美神さん達が尋ねてきましたよ?」
教会の外を掃除していたシルフィー君が戻ってくる。どうやら大分考え事をしていたようだ
「唐巣先生も苦戦しているみたいですね」
「はは。判るかい?」
私を見てそう尋ねてくる美神君。腕の所に包帯を巻いているのを見る限り、美神君も大分苦戦しているようだ
「唐巣神父。お茶とお菓子を買って来たので、これを食べながら話をしましょうか?」
蛍君の言葉に頷き、机の引き出しから琉璃君から回ってきた最近の除霊現場で起きている悪霊の増加現象の書類を取り出したのだった……
「やっぱり私の所だけじゃなかったんですね」
饅頭を頬張りながら呟く美神君に頷き返しながら、急須を手にして緑茶を湯飲みに注ぐ
「ああ、Cランクの所でAランク相当の悪霊が出て若手が負傷する事件が多発している」
私や美神君だから何とか乗り切ることが出来ているが、良くて大怪我、最悪の場合死の可能性がでてくるほどに危険な状態だ
「シズクちゃんは本当にお水で良いの?」
「……構わない」
難しい話についてこれない横島君達はのんびりしている。まぁまだ見習いだから仕方ないと言えば仕方ないが
(もう少し知識をつけて欲しいかな)
攻撃力だけならGSの中でも有数なのだから、もう少し専門的な知識を身に付けてくれれば次のGS試験に出ることも視野に入れることが出来る。だけどそれは美神君の考える事だから口にはしない
「唐巣神父はどうなってると考えていますか?」
蛍君の問い掛け。恐らく美神君と蛍君も既に私と同じ答えを出していると思う
「へーピートはブラドー島に残ったんだ?」
「はい、お兄ちゃんの方がお父さんも安心すると思いますし、唐巣先生は生活力0だから心配になってしまうじゃ無いですか」
笑顔で毒を吐いているシルフィー君の言葉に胸が痛かった。別に生活力0って訳じゃ無いと思うんだけどなあ
【良い人過ぎるんですよね、唐巣神父は】
「……騙されて痛い目を見るか、利用されて捨てられるタイプ」
「あ、あのな?皆、あんまり唐巣神父を苛めないでくれるか?泣きそうな顔をしてるから」
「「「豆腐メンタル?」」」
………どうして私はこんなに精神的に追い詰められているのだろうか?私が何をしたって言うんだ……精神的に大ダメージを受けながら
「ムルムルの出現にブラドーに寄生していた魔族。どうも魔族が動いているのが原因だろうね、しかも高位の魔族がね」
どうも美神君と蛍君も同じ答えのようで渋い顔をしている。高位の魔族が動けばそれだけで悪霊のランクは上がる、魔族の魔力を取り込むことで変質する悪霊がいてもおかしくない
「所で横島君。私あんまりここら辺に詳しくないんですよ?良かったら案内「……散れ」つ、冷たいいい!!!!」
シルフィー君が横島君に声を掛けているとシズク君の氷水が炸裂して悶絶している。シルフィー君はピート君よりも吸血鬼の血が濃いから流水とかは苦手なんだよなあ……シルフィー君にとっては自分が吸血鬼と人間のハーフだから必要以上に人間に関わるような性格じゃなかったけど
(横島君を見ていると近づきたくなるのかな?)
横島君の傍には妖怪に幽霊が集まる。シルフィー君もそれに魅かれているのかもしれない……でもこれでもう少し明るくなってくれるかもしれないのでそのままにしておこう
「それで唐巣先生にお願いがあるんですが」
言いにくそうにしている美神君に苦笑しながらもう1つの引き出しから2つの封筒を取り出して
「片方は美神君と蛍君への紹介状。もう1つは横島君に対する手紙だ、妙神山に行きたいのだろう?」
驚いた顔をしている美神君。だがこれでも私は彼女の師匠として何年も一緒にいた、だから彼女の考えていることは全部判っているつもりだ
「唐巣先生……ありがとうございます」
笑顔で礼を言う美神君。確かに妙神山は霊能力者にとっては最高の修行場だが、それ以上に危険な場所でもある。そこに行くには異界を通る必要があり、そのまま迷い込んでしまえば脱出出来る可能性は限りなく0だ。それに修行自体も危険だ
「正直言うとまだ早いと思っている、だから無理をしないでくれよ?」
「ありがとうございます。弟子を2人も連れて行くんだから無茶はしません」
そう笑う美神君を見ながら紹介状を用意したのは間違いだったかな?と少しだけ後悔するのだった……だが美神君なら大丈夫と言う妙な安心感もあり、そして何よりも
(小竜姫様なら横島君の正しい道を示すことが出来るかもしれない)
武神として名を馳せた小竜姫様なら横島君のこれからの進路を示してくれるかもしれない。そんな事を考えながら横島君のほうを見るそこでは
「……ん」
「え?なに?抱っこしろとか?」
「……うん」
「フー!!!」
「みー♪」
【横島さん!?】
「なに!?わいがなにをしたっていうんやああ!?」
シズク君やタマモやチビに囲まれている横島君の絶叫が聞こえて、妙神山は沢山の妖怪がいるから大丈夫かなあと更に不安を感じつつ、お土産の饅頭を頬張るのだった……
妙神山と言う修行場に向かうという美神さんと蛍について俺もその場所に行くことにした。本当なら死ぬかもしれない場所に行くのは嫌だったが、そこならば俺のこれからの霊力の修行の方向性が決まるかもしれないと聞いて怖いとは思ったが、一緒に行くことにしたのだ、少しでも強くなる可能性があるならそれに賭けてみたいというのは間違いではない筈だ
「本当にこれを登るんすか?」
電車とバスを乗り継いできたとんでもなく切り立った山の入り口を見ながら美神さんに訪ねる。しっかりとした防寒具と登山用の装備をしているが、それでも危険な雰囲気を感じる。
「……大丈夫。私がいれば並みの妖怪は近寄れない」
胸を張るような仕草を見せるシズク、そして頭の上のタマモに肩の上のチビ、両手に鞄を持っている俺はタマモ達を頼るしかないので
「頼むで」
小さく呟くと任せろと言わんばかりに鳴くチビとタマモ。妙神山で少しは霊力の覚醒があればなあと思う
「行くわよ。横島気をつけてね?」
「そうよ、落ちたら死ぬわよ」
美神さんと蛍の言葉に頷き、2人の後をついて妙神山に続く山へと足を踏み入れるのだった……
「……ぜーぜー……だいぶきついっすね」
登山を始めて1時間と少し……かなりの急勾配でかなり息苦しい……だが美神さんは険しい顔をして俺を見て
「まだまだこれからよ、ここはまだ大分なだらかなほうなのよ?」
これで!?じゃあ山頂まではどれほどあるのだろうか?考えるだけでも恐ろしい。もしかしてこれだけ重装備なのはそこに行くのに2~3日掛かるからじゃ?と俺が不安を感じていると蛍が
「まぁ1日はキャンプになるわね。それも中々楽しいんじゃないかしら?」
キャンプかあ。そう言うのはもっとほのぼのした環境がいいなあ。こんな如何にも何か出ますなんて場所じゃなくて
「みー?」
「コン」
チビとタマモは野生が刺激されたのか、凄く元気で走っている。お願いだからあんまり遠く行かないで欲しい、こんな山の中ではぐれたら合流するのに一苦労しそうだし……そんな不安を感じてチビとタマモを呼び寄せているとおキヌちゃんがゆっくりと降りてきて
【美神さん。地図の通りもう少し先に開けた場所があるみたいですよ?】
「じゃあ今夜はそこでキャンプね。ほら頑張りなさいよ?横島君?」
からかうように笑う美神さんに大丈夫っすと返事を返す。自分で思うよりも体力はついているのであと少しくらいは問題ないだろう……むしろ大変な状態になっているのは
「……み、水……」
山の中と言うことで水分が足りなくなってへばっているシズクの方だろう。とは言え背中に鞄を背負っているのでシズクをおんぶする事は出来ない……
「ほら、頑張れ」
「……う、うん」
弱っているシズクの手を握り、頭の上にタマモ、肩の上にチビを乗せて俺はゆっくりと美神さんと蛍の後を追って歩き出したのだった……
横島達が必死で妙神山を登っている頃……異界の森を歩む青年の姿があった。その姿は時代錯誤と言われてもおかしくない着物姿に加え、その頭には犬の耳と尻尾があった……彼は人間ではなく人狼と呼ばれる種族だった
「待っていろよ、シロ。なんとしても薬を持ち帰るぞ」
彼の脳裏に浮かぶのは人狼の里で高熱を出して寝込んでいるまだ幼い娘の姿……突然激しい頭痛を訴えた彼の娘はとんでもない高熱を出して床に伏せている。このままでは死の危険があると悟った彼は村長の制止の声も聞かず、異界の住む天狗から薬を授かるために妙神山の近くの異界に足を踏み入れていた
「……かならず助ける。お前は拙者の宝なのだ」
彼の妻は娘を生むと同時に死んでしまい、残された彼の家族は娘であるシロだけだった。だからこそ勝ち目がないと判っていてもなお天狗を探しているのだ。残された自分の家族を失うわけには行かないと、そして妻と約束していた娘を護るという誓いを護るために……強い意志を宿し彼は霧で視界の悪い森の中を進んでいくのだった……
リポート14 ちょっぴり危険な恋する龍神様♪ その2へ続く
名前だけですが、シロが出て来ましたね。原作ではでないシロの父親も出して行くつもりです。親馬鹿キャラは書いていて楽しいですからね、シロが熱を出していた時期が詳しく明記されてなかったので美神達が妙神山に行くタイミングにして見ました。次回は父親をメインに書いて行こうと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします