その1
リポート1 もう1度始めよう その1
逆行装置の影響で薄れていた意識が徐々に明白になっていく中、私は自分の中に存在する2つの存在をしっかりと認識していた。
1つは私「蛍魔ルシオラ」そしてもう1つは「横島蛍」似ているけど、違う私たちは本来なら互いに異物と認識し、どちらかを消滅させようとするのだが、私達は1つの所で共通の意識があり、同一の存在として認識していた。それは
「横島への愛」
「お父さんへの愛」
私の横島に対する独占的かつ一途な愛と
蛍の横島に対する病的なファザコン
それが絶妙な具合でミックスされ、私と蛍の意識も1つへと統一されるのを感じていると、閉じた瞼に日差しが当たっているのを感じ、私は目を開けたのだった
「……妙神山じゃあないわね」
とりあえず目を開けて妙神山じゃなかった事に安堵したが、この時点ではまだ逆行の成功したかもわからない
「とりあえず……えーと」
今の自分の服装を確認する、普通のブラウスにスカート。六道女学院の制服でも、戦闘服でもないことに安心し。次に最重要アイテムである最高指導者の手紙があることを確認する
(アシュ様への接触はもう少し後で良いわね)
まずはアシュ様はどうでも良いので、まずは横島の確認!アシュ様に会うのはそれからでも良いわ!そして目立たないように横島の気配を探して歩き出したのだった。なお蛍は気づいていないが、その徒歩のスピードは競歩並みだったことを追記する
「どちくしょー!!男は顔か!こんちくしょーッ!!!」
黒の学生服姿で叫ぶ少年。私の知る横島よりも数段若いそして目の幅の涙を流しているのを見て
(ああ。横島だ)
そうそう横島はこうじゃないの駄目なのだ。スケベで女好きで馬鹿で、だけど優しくて、思いやりがある。逆行したんだから、矯正するべきとか言う人もいるかもしれないけど
(横島はこうじゃないと駄目なのよ)
趣味が悪いといわれようが構わないわ。横島は横島らしくしていてくれないといけないから
(さてと名残惜しいけど、今は退散ね)
今横島の前に行ってナンパされても良いけど、まずはこの時代で暮らす下地を作らないといけない……そのためには
(アシュ様と接触ね)
横島を確認してるから、ここからやっと本来の目的で動けると安堵する。この世界に横島がいるかどうかを確認しないと落ち着かないからだ。横島がここに存在している事を確認できたのだから、第一目標は達した。もう少し後で会おうと思っていたアシュ様に会おうと思えるのは、間違いなく横島を見ることが出来た事による安堵からだろう
「さーてアシュ様の人間界の拠点はどこだったかしらねえ」
南極のバベルの塔じゃなくて。確か東京にもあったはずよね?ルシオラの記憶を探ろうとしてふと顔を上げて
「あー思い出した」
芦グループとかかれた巨大な企業看板。アシュ様は確か芦・優太郎という偽名を持ってたことを思い出し、私はその看板に書かれている地図を暗記して芦グループのビルへと歩き出したのだった
(はー流石アシュ様。凄いわね)
ビルの入り口には何重にも張り巡らされた結界があり、人間は疎か神族・魔族でさえ認識できないだろう。だけど私はアシュ様の娘でもあるわけだし、しっかりと認識できていた
(私ってどっちよりな訳?)
蛍をベースに私になったのか?私をベースに蛍になったのか?そこは気になるけど、認識できるってことは私ベースなのよね?とかを考えながらビルの中に入ると
「き、貴様何者だ!?なぜアシュタロス様の結界の中に入れる!?」
上ずった声を出す老人。一瞬誰?と思ったけど直ぐに判った。土偶羅魔具羅様だ。土偶型の演算ロボで、確か魔界軍のジークが引き取ったのよね?とかを思い出しながら
「土偶羅魔具羅様。悪いんだけど早急にアシュタロス様に繋いでくれないかな?コスモプロセッサの事で話をしたいんだけど?」
極秘事項のことを知っている人間の小娘と言うことで攻撃に移ろうとした土偶羅魔具羅様の腕を掴んで
「へし折っても良いかしら?」
「あいだだだ!!あいだーッ!!!」
イタイイタイと暴れている土偶羅魔具羅様の腕を締め上げていると
「良いだろう。私が話を聞こうじゃないか。お嬢さん」
人間に擬態したアシュ様が階段から降りてくる。土偶羅魔具羅様は気づかなかったけど、アシュ様は気付いてたみたいね。今の私は霊力に加えてアシュ様の魔力に近い魔力を放つ事ができるんだから
「急に来て申し訳ありません。ですが至急の用がありましたので」
「それも含めて話を聞こうじゃないか?さぁこっちだ」
エレベーターのほうに歩いていくアシュ様の後をついて歩き、エレベーターへと乗り込んだ
(ここからが正念場!私の未来はここで決まる!)
アシュ様を味方につけることが出来れば、これほど頼もしい味方はいないのだから
「さ?どうぞ」
何故か私と同質の魔力を持つ少女を自分の部屋に招きいれ気づいた事は1つ
(今私が作ろうとしている造魔と同じ顔だな)
私芦優太郎ことアシュタロスは下級の魔族を作り出す能力がある。そして魂の結晶を手にするために造ろうとしていた部下と同じ顔をしている少女を見つめていると
「まずはこうして話し合う機会を作っていただき感謝します。アシュ様」
「それは構わないよ。私の名前を知っているという事は魔族かね?」
違うと判っているが一応尋ねると目の前の少女は
「はい。半分は魔族です。正確には今から3年後に貴方が作る。ルシオラの転生体です」
その言葉に思わず眉が動く。蛍魔ルシオラ。蜂魔べスパ。蝶魔パピリオ。今私が作ろうとしている部下の名前の1つだからだ
(この話は誰も知らないはず、では何故この娘が)
この娘の正体がわからず困惑していると娘はポケットの中からビー玉状のものを取り出す
「それは文珠かね?」
万能の霊具珠。文献で見たことも、実際に見たこともあるが、こうして目の前で見るのは何百年ぶりだろうか?
「はい。私の父が作ったものです。アシュ様さえ良ければ、これを使って私の記憶を伝えようと思うのですが」
その言葉に少しだけ考える。万能の霊具「文珠」ならば使いようによっては私を滅ぼすことも出来るが、単体では不可能だ
「良いだろう許可しよう」
「ありがとうございます。では楽にしてください」
文珠が浮かびあがり、中に伝の文字が浮かぶ。それと同時に私の脳裏に途方も無い量の情報が流れ込んできた
作り出した部下が私を裏切った事、その裏切った魔族は横島という私とも因縁のある人間の転生者だった
魂の結晶を奪ったメフィストの転生者を見つけ出し、コスモプロセッサを起動した事
横島に自分の霊基基盤を与え消滅したルシオラ
そして私は本来の私の望みを叶え。満足し消えていった……
ルシオラは横島の子供として転生したが、それを良しとせず逆行してきたと
「これはまた随分ととんでもない記憶だ」
思わず肩を竦めてしまう。私は本来望みを叶えることが出来たので良いが、まさか自分の恋を叶えるために逆行してくるとは
「そしてこれを私の時代の最高指導者から預かってきました。アシュ様の望み「魂の牢獄」からの解放を約束するので、その代わりにこなして欲しい仕事の内容です」
差し出された手紙の封を切り中身を改める。神族と魔族の最高指導者から特別な許可を得て発行される書類だ
「……過激派神族と魔族の炙り出しの為に私に敢えて悪の振りをしろっとそれをこなせば、報酬として魂の牢獄からの解放と約束する……それとトトカルチョの胴元依頼」
神族最高指導者・魔族最高指導者。連名による聖字とルーン文字による連盟契約書。これならば私の存在を変えることも不可能ではない。しかしトトカルチョの胴元依頼とはなんだ?と首を傾げていると
「破格の条件だと思いますが?」
確かにこれは破格の条件だ……しかしこれをはいそうですかと引き受けることなんて出来はしない。何千年も前から準備してきた事なのだし……逆行してきたルシオラには悪いと思いながらも断ろうと思った瞬間
ドクン!
「ぐがあ!?」
突然身体の中で何かが大きく脈打つ。それは徐々に大きくなっていき……私と言う存在を変えていく……
「あ、アシュ様!?」
驚いている娘。ルシオラの顔を見るととんでもない愛情の念を感じる。これは間違いない
(消滅させて貰った私の押さえ込んでいた記憶が私の中へ流れ込んでくる)
私は元々は豊穣神。深い愛情を持つ神族だった……だが自身の目的のために封じ込めていた感情が濁流のように私の中に流れ込んでくる。最高指導者が私の石頭を懸念しての事だとわかるが
(無意味だよ。最高指導者、私が如何するなんか決めている)
心配そうに私を覗き込んでいるルシオラの頭に手を置いて
「良いだろう。その話を引き受けるよ、ルシオラ。そして今回は私の目的のためではなく、娘のお前の幸せを思って行動しようじゃないか!!!」
わしゃわしゃとその頭を撫でる。過激派神族と魔族をおびき出すだけで魂の牢獄から解放してくれる。それを何故断る理由がある!
「良いんですか!?アシュ様!」
「アシュ様なんて呼ばなくても良いさ。お父さんだ!」
私は娘の幸せのために生きるぞ最高指導者ーッ!!!!私は心の中で声も高らかに叫ぶのだった
アシュタロスの叫びを聞いた最高指導者達はでっかい汗を流しながら
「効き過ぎや無いか?」
「これは私も予想外です」
あの手紙の中に封じ込められていたのは確かに別のアシュタロスの記憶なのだが、特別にもう1つ封じ込めていた物があった
それは逆行の際にどうするか扱いに困った。横島の蛍への愛情だ……
「凄い化学変化やな」
「横島さんの愛情が強かったんですよ」
煩悩魔神などと言われていたが、その実女性に優しく。そして思いやりのある横島の溢れんばかりの娘への愛情と別のアシュタロスの記憶が超レベルでミックスされてこの時代のアシュタロスが崩壊してしまったことに最高指導者達は汗を流さずにはいられなかった。しかし
「これで上手く回りそうやな」
「ですね♪これからが楽しみです」
未来の自分からの手紙を受け取り、ここから面白いことになっていくことを知っているこの時代の最高指導者達は手にしているメモを見て
「わいは、小竜姫の目覚めが早いとおもうんやけど?」
「私はタマモさんですね」
誰に賭けるのか?と言うことをニヤニヤ顔で相談していたりするのだった……
リポート1 もう1度始めよう その2へ続く
今回の話は短めでした。次回からがルシオラ、いや蛍さんの悪巧みの開始の回になります。私の意見ですがアシュ様は救済されるべき人だと思っているので壊れアシュ様に変身して貰いましたのであしからず。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします