リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS その4
大親分さんとの話し合いの結果。正規の依頼ではないため報酬はそんなに多くないが、今後いくつかの依頼を回してくれる事となった。無論危険な仕事や、警察に捕まるような黒い仕事ではなく、知り合いの土地の除霊などの依頼だ。これは比較的簡単で高収入なので非常にありがたい
「近いうちに正規の依頼を出すさかい。今日はこれで手打ちで頼むなあ?」
かかっと笑う大親分さん、今後も良い付き合いが出来ればいいわねと思っていると
「「!?」」
どこか判らないが非常に強力な魔力を感じて私と蛍ちゃんが同時に顔を青くする。脳裏に浮かぶのは横島君に随分と懐いていた死霊の少女……
「どうしたんか?随分と焦っているようじゃが?」
心配そうに尋ねてくる大親分さん。折角話が纏まり掛けている時に申し訳ないけど、横島君を助けに行かないと
「仕事の話はまた後でお願いします!ちょっと家の助手にトラブルが起きているみたいなので!!」
「ちょ!ちょっと待ちい……」
大親分さんの返事を聞かず、私達は部屋を飛び出し、
「おキヌちゃん!先に様子を見てきて頂戴!」
幽霊のおキヌちゃんなら真っ直ぐに横島君の部屋に行ける。私達は少し回り道をしないといけないので先に行ってと頼む。直ぐに壁を抜けて進んで行くおキヌちゃんを見ながら
「油断してました。随分大人しいから心配ないと思ってたんですけど」
蛍ちゃんがそう呟く、横島君が背負っていたアリスと言う名の死霊はずいぶんと横島君に懐いていた。だから大丈夫だと私も思ってしまった。今までの傾向でもそれは出ていたので、今回も大丈夫だと思ってしまったのだ。横島君の霊力は非常に高い、その霊力と魂を求める悪霊がいるのは当たり前だ。それなのに私は警戒を怠った。おキヌちゃんやシズクって言う前例があったから
(唐巣先生に怒られるわね……)
師匠としての私の行動は間違いなく落第点。唐巣先生に知られたら間違いなく怒られると思っていると
「……横島は霊や動物に好かれる。だから大丈夫と思ってしまった。死霊の類は感情の起伏が激しいのに」
シズクがそう呟く、死霊は悪霊の中でも取り分け危険な部類に入る。感情もあり、身体もあるが、危ういほどに感情の起伏が激しい上に魔力も持つ。除霊するのも難しく、感情があるので痛みで泣いたりするので除霊するのも難しい厄介な存在なのだ
(せめてタマモかチビがいれば)
炎を使えるタマモか電撃を使えるようになったチビがいれば何とか持ちこたえることが出来るはず。横島君の性格では悪霊と判っていても攻撃できるとは思えない
【た、大変です!チビちゃんもタマモちゃんもお昼寝しています!】
おキヌちゃんの言葉に私と蛍ちゃんは更に顔を歪めた。つまり今の横島君は自分1人で死霊を相手にしないといけない……
「急ぐわよ!シズク!判るんでしょ!先導して!」
加護を授けた妖怪と言うのはその対象の居場所が判るらしい、だからシズクに案内してと言うと小さく頷き走り出す
【私先に行きます!】
おキヌちゃんが先に行くと言って姿を消す。操られる可能性があるけど、横島君を1人にするよりかは幾分気がマシだ。死霊相手には多少心もとない霊具の確認をしながら
(もう本当に横島君はトラブルばかり起こすわね!!)
私は心の中でそう怒鳴り、シズクの案内と感じる莫大な魔力を頼りに走り出すのだった……
アリスちゃんの周りに次々と姿を見せている悪霊にゾンビの数々……到底俺1人で対処できる数じゃ無い……それに何よりも
(俺はアリスちゃんを攻撃したくない)
あの子は友達になってくれる?と俺に聞いた。そして自分の友達は皆死んでいるから俺に死んでくれる?と聞いている。そこに悪意はなくて、ただ価値観が少し違うだけなのでは?と思う
(説得すれば充分に判ってくれるはずだ)
幸いな事にアリスちゃんが呼び出したであろう悪霊やゾンビは人間のものではなく、そのほとんどがとても小さい生き物だった。それも怖い生き物ではなく
【二ギャー】
【バウー】
奇妙な鳴声を発している猫とか犬が大半だ。無論悪霊なので攻撃されれば危険だが、何故かその本能に従っていて
【ニギアー♪】
【バウー♪バウー】
蝶を追いかけたり、砂場でごろごろしている。それを見ているととてもではないが、アリスちゃんが危険だとは思えないのだ
「もー!皆!お兄ちゃんをアリスのお友達にしたいんだから頑張ってよー!!!」
手足をじたばたさせて動物の悪霊達に声を掛けているが、全くと言って良いほど反応がない
【ニギャ?】
【バウ?】
なーに?と言わんばかりの態度をしている動物の悪霊……って言うか悪霊って言うよりこれはあれだな。ショウトラとかと同じだな。何匹か遊んで遊んでと言わんばかりに擦り寄ってきているし……
「なぁ?アリスちゃん?話を「もういい!私がするもん!てや!」
なんとか説得を試みようと近づいた瞬間。アリスちゃんが痺れを切らして大きく振りかぶり何かを投げつけてくる、凄まじい勢い迫ってくるそれを見て、即座に当たれば死にかねない、そう判断した俺は
「NOOOOOッ!!!」
頭を抱えて絶叫しながらしゃがむ。アリスちゃんの投げた光球は近くの木を薙ぎ払い、遊具を木っ端微塵に吹っ飛ばした
(なんだあ!?あれは!?)
俺が使える陰陽術や拳よりも遥かに威力が高いぞ!?本当に当たったら死ぬ……冷や汗が流れるのを感じる
「よーし!出来るだけ痛くないようにするからね!早く死んでアリスのお友達になって♪」
もの凄い笑顔で両手に霊力の球を作り出すアリスちゃん。その仕草自体は可愛いのだが
(あかん……死ぬ)
とてもではないが俺の使える霊能力で防げる威力ではない。だから俺に出来ることは1つだけだった、そう今俺が出来る中で最善かつ最高の一手!!!
「みがみさああああん!!!ほたるうううう!!シズクうううう!!!たあすけてえええええッ!!!!」
アリスちゃんに背を向けて全力で逃げる!!!アリスちゃんは逃げていく俺を見て
「判った!ドッジボールだね!逝くよー♪当たったらお兄ちゃんはアリスのお友達ね♪」
「字が違ーう!!!!」
風を裂き凄まじい勢いで迫ってくる紫色の球体を必死で避けながら俺はそう叫ぶのだった……
公園から少し離れたところで奇妙な動きでアリスの攻撃を躱している横島を見ている人影があった
「アシュ?良いのか?あのままではあの人間は危ないぞ?」
「もう少し様子を見てみよう、霊力の覚醒を促すかもしれない」
それは言うまでもなく芦優太郎とアリスの保護者の1人であるネビロスだ。結界を張り魔族を召喚すると最初はネビロスは焦ったが、どうも知らないうちにベリアルに色々と教えられていたようで召喚しているのが低級な動物霊だけだと判ったので様子を見ることにしたのだ
(蛍が来るまでもう少し時間があるんだ。様子を見よう)
近づいてくる蛍の気配はしっかりと把握している。時間的余裕は10分近くある、だからここで少しでも横島君が霊力を覚醒させる可能性を上げる事を考えたほうがいいだろう
「むー!お兄ちゃん!早く死んでよー!!!」
「嫌や!ワイはまだ死にたくなーい!!!」
号泣している横島君と頬を膨れさせているアリスを見る限りではそれも中々難しいかもしれないが……可能性としてある以上観察も大事だろう
「中々に面白い人間だ。あれだけ良くかわせる物だ」
関心と言う感じで呟くネビロス。それは私も感じていた動物霊も横島君を追いかけているのだが
「ほい!」
【ミニャー♪】
猫の幽霊には猫じゃらしを差し出して気をそらせ
「とってこーい!!」
【バウバウバウ!!!】
犬の幽霊には木の枝を投げて自分から遠ざけさせている。あれだけ泣いているのに良く周囲を把握できている物だ
(これも才能かな?)
マルチタスクとまでは言わないが、自分の周囲を良く見ている。蛍が逆行してきた時間の私が負けたのはその視野の広さと適確な支援が出来るからかもしれない。横島君の闘いとは周りを見て仲間を助ける。それこそが彼の真骨頂なのかもしれない
「む?そろそろアリスが限界だ」
肩で息をしているアリス。確かにネビロスとベリアルに鍛えられているから並の死霊よりかは遥かに強いが、それでも子供限界はある。悪霊達が動き回るのに必要な結界にあれだけ霊波砲を撃っていれば魔力がそこをつくのは自明の理だ。その証拠に動物の悪霊は既に魂だけに戻っている。
「アリスちゃーん?お兄ちゃんとお話しようか?」
警戒しながら横島君がアリスに近寄る。横島君の性格上少女を殴ることなんて出来ないので説得をするはずだ
(まぁ仕方ないかな)
まだ横島君が霊力に目覚めるには早すぎたのだろう。もっと早く助けてあげればよかったなあと思っていると
「どうしてお兄ちゃんはアリスのお友達になってくれないの?アリスお兄ちゃん大好きなのに」
悲しそうに言うアリス、横島君がなんて返事をするのだろうか?とネビロスと見ていると
「アリスちゃん?お友達はどうしても死んでないと駄目なの?」
「だってアリスのお友達は死んでるのが普通なんだもん……」
小さい子供を諭すように横島君はアリスの目を見て
「じゃあおにいちゃんがアリスちゃんの生きている友達の最初の1人、これでどうだ?」
「生きていてもお友達なの?」
初めて知ったと言わんばかりに驚いた顔をしているアリス。これはネビロスの育て方が悪いのでは?と見るが目をそらされている。どうやら自覚はあるようだ
「おう、友達だ」
にかっと笑う横島君につられて笑うアリス。これで解決かと思いきや
「家の義娘になにをするかあああ!!」
炎を纏ったベリアルが横島君に突撃して行く、それを見た私とネビロスは声を揃えて
「「あ!?忘れてた!?」」
ベリアルの存在を完全に忘れていた。とてもではないが魔神の攻撃を横島君が耐えれるわけがない、私とネビロスが同時に飛び出そうとした瞬間
【「「私の横島に何する気だああああ!!!!」」】
「ふぐおう!?」
蛍とおキヌ君とシズクの飛び蹴りがベリアルを撃墜した。我が娘ながらとんでもないと言わざるをえない
「お父さん!見てるんでしょ!ダッシュ!走ってここに来て!今すぐ!!!!」
物凄く怒っていると判る蛍の言葉に大変な事になっていると気付いた
「お前はもう少し考えてから行動しような?」
ネビロスの反省しろよ?と言わんばかりの視線を受けながら私は公園へと走ったのだった……
横島が危ないというのに観察していたお父さんを正座させて
「シズク。お願い」
シズクは小さく頷く、さっきまで大量のお茶を飲んでいたので水を沢山溜め込んでいたシズクはお父さんの後ろに回り
「……判った」
シズクが水を掛けて即座に凍結させる。氷の柩に首から下を拘束されたお父さんは
「蛍……寒い「黙れ」はい……」
言葉だけで駄目ならもう完全に凍結させる。これが一番良い処理方法だ
「お兄ちゃんを苛めるお義父さんなんて嫌い」
ちなみに横島を攻撃しようとした赤いスーツの方はアリスちゃんが対応していた。それは只の言葉だったが、かなり強力な一撃だったようで
「……」
赤いスーツの男が白目を向いて倒れる。話を聞く限りではあれがアリスちゃんのお父さんなのだろう
「横島君無事だったの?」
「うっす!アリスちゃんは話せば判ってくれる良い子でした!」
にかっと笑う横島。死霊を言葉で説得するってこれはもう1つの才能よね……って言うかチラチラ横島を見ているアリスちゃんを見ていると判る
(相手は子供、相手は子供)
間違いなくアリスちゃんは横島に好意を持っている。横島は年下に好かれやすいからね、うんこれは仕方ない。だから目くじらを立てるのはやめよう
「あ、あの?蛍さん?俺の肩の骨がきしんでいるんですが?」
「あ?」
「なんでもないです……」
これくらいの嫉妬は我慢して欲しい。シズクが横島に近づこうとするのを目で威嚇しながらちらりと美神さんを見る。黒と赤のスーツの男を見て警戒の色を見せている。お父さんと違って最高指導者が色々しているからばれないけど、2人は違う。美神さんクラスの霊能力者では人間ではないことが判ってしまうようだ
「死霊を娘と呼ぶところ、魔族とお見受けしましたが「私と彼は人間にも魔族にも神族にも関わらない一派の者だ。今回は義娘が出てきてしまったので追いかけてきただけ、直ぐに魔界に戻る。そう問題にしないで欲しい」
赤い方は体育座りをして反応がないので黒い方が答える。多分ネビロスさんよね?美神さんは納得してない様子だったけど、攻撃されても困るので頷いていた
「お姉ちゃんも一緒にアリスの家に来る?」
【ごめんね?お姉ちゃんは横島さんと一緒に居たいから一緒にはいけないよ?】
アリスちゃんがおキヌさんと話をしている。自分と同類だから一緒に来る?と声を掛けていたようだ、一緒に逝ってくれれば敵が減ったのに……と思っていると
「娘さんは家の助手を大分気に入っているようですが、これからはどうすれば?」
警戒の色を強めながら美神さんが尋ねる。アリスちゃんは自分でゲートを作れるようだし、これからもこっちに来ることがあるかもしれない。それを危険視している美神さんの言葉にネビロスさんは
「アリスには好きなようにさせる。迷惑をかけることもあるがよろしく頼む。有事の際は影ながら協力もする、ここは目を瞑ってくれないか?」
高位の魔族にここまで言われたら自分の意見を通すわけにも行かない。美神さんは溜息を吐きながら
「判りました。では何とお呼びすれば?」
美神さんがそう尋ねるとネビロスさんは笑顔で自分の名前を告げた
「黒田黒助。そっちは赤山赤助だ」
100%と偽名だと判る上に適当すぎる名前だ。私と美神さんの目が丸くなっていると
「そんだけ彫り深くてその名前はないわ!」
横島が立ち上がりそう突っ込みを入れる。な、なななななんてことをォ!?私と美神さんが慌てていると
「面白い小僧だ。ムルムルの小僧の言ってた通りだな」
美神さんが絶句している隣で横島はああっと手を叩きながら
「死霊使いの魔神の知り合い?」
「そんな所だ。真名は気にするな。良いな」
少しだけ威圧感を込められ蒼い顔をしている横島を見てそれで良いと頷いた黒田さんは
「赤助。アリス帰ろうか?」
ゲートを作り出しながらそう呟く、赤助はよろよろと立ち上がり転がり落ちるようにゲートへと消えていった。豆腐メンタルにも程があるとおもう。もう駄目だ、もう絶望だと繰り返し呟いているのを見ていると豆腐メンタルにも程があると思う
「ちょっと待って黒おじさん」
アリスちゃんはゲートの前で振り返り横島の方に走って、その服を掴んで
「少し屈んで?」
そう笑うアリスちゃんに猛烈に嫌な予感がした。おキヌちゃんもそれを感じ取ったのか渋い顔をしている、それに気付いていない横島が腰を屈めるとアリスちゃんは横島の頬に軽く触れるだけのキスをする
「ふぇ?」
頬を押さえて赤くなっている横島を見て私とおキヌちゃんとシズクが同時に悲鳴を上げる中
【「「ああ!?」」】
「へへ!お兄ちゃん大好き!また遊びに来るからね!アリスのこと忘れないでね!」
ばいばーいと手を振ってゲートの中に消えていくアリスと黒助さん。呆然としている横島に詰め寄ると横島は手を振りながら
「ち、ちがう!?わ、ワイはロリじゃ「「じゃあその緩んだ顔はなんだああ!!!」」理不尽!?げぼおお!?
横島の弁明を聞くつもりは一切無く、私とおキヌちゃんのアッパーが横島の顎を打ち抜き、その意識を完全に刈り取るのだった……
リポート13 無邪気なゾンビと人斬妖刀と未熟なGS その5へ続く
次回の話はリポート14ドラゴンへの道へ続く話にしようと思います。あとはシメサバ丸の後日談とかですね。魔神2人の偽名の適当間。これもGSらしさですよね?アリスはこれからたまーに出てくるのでどうなるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします
それと現在活動報告でアンケートをしていますので、どうかそちらもよろしくお願いします