それとブラドー戦を始めていこうかな?とか思っております。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします
リポート12 吸血鬼の夜 その7
突然響いた轟音と同時に落ちて来た瓦礫。多分だけど、上でくえすが何かしたんだと思うけど、他にもいるんだからそう言うのは考慮しなさいよ……私はそれを回避する事が出来たけど……
「皆大丈夫!?」
冥子を除けば全員運動神経の良い連中ばかりだから大丈夫だと思うけど、心配になりそう尋ねると
「大丈夫だよ。美神君、冥子君も無事だよ」
唐巣先生が冥子の手を引きながら姿を見せる。このタイミングで冥子が暴走したりしたら全滅だから良い判断をしてくれたとおもう
「ワシも大丈夫じゃよ。マリアがいるからのう」
「イエス・ドクター・カオス」
カオスのほうはマリアがフォローして無事。蛍ちゃんとエミの方はと言えば
「こっちも大丈夫です。美神さん」
「こういう時に吸血鬼って便利って思うね」
ピートがエミとシルフィーちゃんが蛍ちゃんを抱えて瓦礫を回避していた。
「そう。皆無事ならいいわ……それにしても急にどうしたのかしら?」
今まではこんな事はなかったし、仮にくえすだとしても、こんな古い城で馬鹿みたいな威力の魔法を連発するような考え無しじゃ無い……
「ピート。ブラドーの力が増してきたって事で良いのかしら?」
今まで動きが無かったのが不思議なくらいなのだ。向こうも私達の存在には気付いているはずだ
「正確には父に取り憑いている魔族の力が増していると思います」
ピートがそう呟く、ブラドーが今まで抵抗していたから妨害が少なかった。だけどそれが無くなったから、本格的にブラドーが動き出したのだろう……
「急がないと不味い事になるわ。完全にブラドーの意識が奪われる前に王座の間に向かいましょう」
このまま完全にブラドーの意識が完全に無くなってしまえば、間違いなく魔族はブラドーの魔力を使って破壊の限りを尽くすだろう
「まだ間に合うと私は思うよ、急ごう。ピート君、シルフィー君、案内を頼むよ」
この城に暮らしていたピートとシルフィーちゃんなら近道を知っているはず。2人も真剣な顔で頷き
「こっちです、急ぎましょう」
「急いで、少し危ないけど……この道しかない」
2人が走り出した先は床が抜けていたり、今にも崩壊しそうな通路だ。だけど時間がないからこんな危険な道でも進まなければならない、私は後ろのほうで困った顔をしている冥子。確かに冥子の運動神経じゃ、ここを通るのは難しそうね。無駄に霊力を消耗させるわけには行かなかったから、式神を召喚するなってきつく言ってたけど……これじゃあ仕方ないわね
「冥子はインダラを召喚しなさい」
「はーい」
この通路は冥子に進む事はできないだろう。ここは確実性を取ってインダラに運ばせたほうが安全だ、途中でこけて暴走なんて洒落にならないからだ
「じゃあ先に行くワケ」
エミがピートの後を追って崩壊した通路の安全な場所を踏んで、軽やかにジャンプしながら先に進んでいく。私は持って来た除霊具を見て
「マリア。悪いけどお願い」
大量の除霊具を抱えたままではこの通路を進む事はできない。ここはマリアに頼むのが得策だ
「任せて・ください」
結構な重量があるはずなのに軽々と担ぎ上げるマリア。本当に頼もしいわねと苦笑しているとカオスが
「うむ。マリアに任せておけば安心じゃよ」
にかっと笑い老人とは思えない動きで崩壊した通路を進んでいくカオス。頭だけじゃなくて運動神経もいいようだ
「さ、蛍ちゃん行くわよ」
横島君の姿が見えないからか、目に見えて元気のない蛍ちゃんに声を掛ける。だがその顔は不安と言うよりかは怒っているような顔をして
「どうかしたの?」
思わずそう尋ねると蛍ちゃんは小さく頷き、手の骨を鳴らしながら
「横島が浮気をしている気がするんです」
ぼそりと呟く蛍ちゃん。どうしてこれだけ器量よしの子がこんなに横島君に拘るのかが、今だ全く判らないけど、私とは好みが違うのだろうと思いながら
「おキヌちゃんなら大丈夫でしょ?シズクとタマモがいるし」
そもそもあの水神は自分の加護を横島君に授けたのだから自分の物と宣言している。蛍ちゃんも敵視しているようだし、なによりおキヌちゃんも嫌っているようなので心配ないと言うと
「違います。神宮寺です」
「いや、それはないでしょ?」
あのプライドの塊のようなくえすが横島君を気に掛ける要素は何もない、良くてもあの人外の打たれ強さに興味を持って実験材料程度でしょ?と思いながら、崩壊した通路を蛍ちゃんと進んでいると
「美神さんは判ってないんです。横島は普通じゃ無い人間にはとても好かれるんです」
その言い方だと蛍ちゃん自身も普通じゃ無いって言ってるような物よね。でもあのくえすが横島君に惹かれる訳がないと思いながら崩壊した通路を抜けると
「なにしてるのよ?」
唐巣先生やエミが通路の真ん中で立ち止まっているし、冥子は冥子で
「えうえう……」
なんかうろたえてるし……とは言え時間がないので押しのけて先に進もうとして
「はぁ?」
目の前の光景に思わず絶句した何故ならば……
「全く、霊力を使えもしないのにとんだ無茶をするのですね。この馬鹿は」
「ううーん」
ぶつぶつ文句を言いながら、巨大なたんこぶを作って気絶している横島君にヒーリングをしているくえすの姿。それは私の思考を停止させるのに充分すぎる光景だった、くえすは魔女の中では最高位に位置するだろう、ただし黒魔法の扱いにおいてはだが、そんなくえすがヒーリングをしている。この光景はありえないのだ……
(横島君は一体何をしたの……)
信じられないにも程がある。横島君は確かに魔の眷属との相性は良いだろう。あの妖怪とかに好かれるところを見ればそれは確実だ。だが魔女と言われ、GSの中でも厄介者とされているくえすにまで好かれるようになるなんて思ってなかった。
「ふっふふふふふふ、ヨコシマアあああああッ!!!!」
私の後ろにいた蛍ちゃんがそう怒鳴ると横島君が咄嗟に顔を上げる。くえすにヒーリングを掛けられていたのだから、当然その顔はくえすの胸に飛び込む
「は、はひいい!?ほ、ほた「沈みなさい!」ふぐあああああああ!?」
霊力を込めた肘打ちを叩き込まれ痙攣する横島君。それを見ていたピートが
「あ、あの横島さん死んでしまったのでは?」
飛び散った血痕と痙攣している素振りを見れば不安になるのは当然だが
「心配ないわよ、あの程度じゃ横島君は死なないわ」
「あの程度!?」
驚いているピートとシルフィーちゃんの目の前で
「いやいや!蛍さん!これは浮気とかではなくてですね?」
「「生きてた!?」」
頭から噴水のように血を噴出しながら蛍ちゃんに言い訳をしようとする横島君だが
「あ゛?」
ドスの利いた蛍ちゃんの声に即座に土下座して
「すんませんっしたーッ!!!」
降参の意を示すのだった……しかしそれにしても……心配そうと言う訳ではない、だがちらちらと横島君を見ているくえす。面白くなさそうな顔をしているのがどうも気になった……
(なんか凄いのかもしれないわね、横島君)
妖使いとか聞いてたけど、もしかすると曰くつきとかそう言う人間に好かれるだけなんじゃ?と私は思うのだった……そしてふと目を振り向いた視線の先に
「……」
瓦礫の山の下から伸びている腕を見つけた。もしかしてこの腕の主が最後の凶暴な吸血鬼?痙攣しているみたいだから生きてはいるみたいだけど
「マリア、ガーリックパウダー頂戴」
時間が経って回復されて挟み撃ちになっても面白くないのでここで確実に仕留めて置こうと思い、マリアにガーリックパウダーをくれと頼む
「どうぞ」
ガーリックパウダーを瓦礫の隙間に突っ込み、中身を全てぶちまける。瓦礫の下からくぐもった悲鳴と激しく痙攣する腕……しかしそれはほんの数秒の事で、最後に大きく手を伸ばして、腕は完全に動かなくなった。これで安心ね
哀れ、最後の凶暴な吸血鬼は顔を見せることもなく、ガーリックパウダーによって戦闘不能にされてしまうのだった……
あの人本当に人間なのかな?単独行動をしていたときの話を聞いている美神さんの隣で、私は横島さんを見てそんな事を思っていた
(兄さん、あの人、実は吸血鬼とか?)
あの体力と回復力を見るとその線も考えられるけど
(それはないとおもうよ。同属の気配もしないしね)
まぁそうだよね、吸血鬼だから同属の気配には敏感だ。だから横島さんは普通の人間のはず
(面白いって言うか凄い人間もいるんだなあ)
ブラドー島と言う狭い世界にいた私にとってはこの横島さんと言う人間は本当に興味深かった
「……今治してやる」
凄まじい霊力を持っている水神のシズクに
「クウ」
8本の尾を振って横島さんを心配そうにしている九尾の狐のタマモに
「みーみー!」
肩の上で短い手を振って何かをアピールしているグレムリンのチビ
(外の人間ってこんなに面白い人間がいるんだなあ)
ブラドー島には人間と吸血鬼と私と兄さんみたいなハーフがいる。ずっと一緒に暮らしていたから普通に思っていたけど、普通は人間は妖怪とかを怖がるはずなのに……外の世界にも横島さんみたいな人がいるんだなあと思っていると
「所でなんでくえすと横島君が上から落ちてくるのよ?おかしくない?」
横島さんの話を聞いた美神さんがそう呟く。そう言えばそうだ、3階へ続く階段は私達が登ってきた階段だけだ、他の階段は存在しないはずなのに
「上の階?おかしいですわね。私もそこのへっぽこも「横島はへっぽこじゃないわ!」……まぁどうでもいいですが、階段なんて登ってないですわ」
横島さんの隣の蛍さん。ボロボロなので自分が面倒を見ると言っていたが、横島さんを痛めつけたのは蛍さん自身と言うことを忘れてはならないとおもう
「……まさか、マリア。この周辺の空間の把握を始めてくれ」
ドクターカオスが何かを感じ取った様子でそう呟く、だけどまだ時計では昼間の筈だ。お父さんと戦ったとしてもかなり有利に戦えるのは間違いないはずなのにどうしてここまで警戒するのだろうか?
「確かに妙な感じがするワケ……」
エミさんまでもが険しい顔をしている。どうしてそんなに警戒しているのだろうか?私にはそれが判らない
【美神さん。外はもう夜です!どうなってるんですか!?】
おキヌさんが壁から顔を出してそう叫ぶ。それを聞いた兄さんと私は
「そんな馬鹿な!?まだ太陽は出ていますよ!?」
「それに時計だってまだ昼間を指しています!」
ありえない、まだ夜になっているはずがないのだから、そんなことは絶対にありえない
「魔族の仕業と見ていいだろうね。この城の中は既に魔力で迷宮になっていた……つまり」
唐巣先生が窓に手を伸ばし、窓ガラスを砕く。するとさっきまで城の中に入ってきた日の光は消え、代わりに闇夜が視界に広がった
「うお……信じられん。こんな事も出来るのか?魔族って言うのは」
横島さんが信じられないという感じで呟く。だが私も信じたくはなかった、夜は吸血鬼の時間。こんな状態でお父さんと戦うのは危険すぎる。しかし……
「引き返せば確実にブラドーの心は魔族に支配される。どうやら覚悟を決めて進むしかないようじゃな」
ドクターカオスの言う通りだ。お父さんが完全に魔族に支配される前に倒さなければならない……引き帰えしている時間はない
「……私の水は問題なく使える。ある程度は役に立つとおもう」
シズクがそう呟く始祖の吸血鬼の弱点に数えられる。流水……水神のシズクが正直言って今の私達の切り札になるだろう
「まぁいいわ、進みましょう。もう私達には進むしかないんだから」
美神さんの言葉に頷き。私と兄さんは再び先頭に立ち暗い通路を歩き出した、夜……それは吸血鬼の時間。そんな中でお父さんに勝つ事が出来るのだろうか?私はそんな不安を感じながら最上階へと続く階段を目指して歩き出したのだった……
なんか段々空気が重くなってきたなあ、それに身体も痛むし……神宮寺さんの肘打ちと蛍のボディのダメージが思いのほか大きい
「……これで良し。横島、水」
俺の傷を治してくれたシズクが手を差し出す。俺は手提げ鞄から水のペットボトルを取り出して渡すと凄い勢いで飲んでいく、いや吸収していく
(凄いもんだ)
シズクは水を蓄えることで力を増す。だから多めに水を持って来ていて正解だったのかも知れない
「みー……みー……」
チビが何かに怯えるかのように俺のジャケットの中に潜り込んでいく、タマモも
「フー!」
尾を逆立てて威嚇している……これはもしかして
「そうよ、近いわ。横島は下がって」
蛍も険しい顔をしている。どうやらブラドーがいる部屋が近いようだ。言われた通り後方に下がる
「横島君も気をつけてね~?」
インダラの上で心配そうに声を掛けてくれる冥子ちゃんに頷く、正直言って俺に出来ることなんて殆どない。
(あの時の拳が使えれば)
黒板を叩き潰すときに使ったあの拳。霊力を収束して作り出す拳らしいが、残念ながら使う事はできない。いや使う事は出来るのだが
(直ぐ消えるし、後遺症がなぁ……)
あの時は左目の失明に手足の麻痺と言う軽くない後遺症が残った。蛍と美神さんから使う事が禁止されているので今俺が出来るのは不安定な陰陽術による支援程度だ。
(まだ俺に出来ることはないんだよなあ)
いつまでも蛍に護られているのでは余りにみっともない。早く何とかしたいと思っていると
「焦るんじゃないぞ、焦る気持ちは判るが、それが後々後悔する事になる」
「カオスのじーさん」
俺の肩に手を置いて笑うカオスのじーさん。その姿は孫を見る老人のように優しいものだった
「時間を掛ければいい。ワシが翻訳してやった陰陽術の本もあるじゃろう?焦らずじっくり力をつけるんじゃ」
にかっと笑うカオスのじーさん。カオスのじーさんほど長く生きている人間はいない、だからその言葉には重みがあった
「……うん」
「うむうむ。それで良いのじゃ」
かかかっと笑うカオスのじーさんを見ていると頭に手を置かれた気がして顔を上げると
「頑張ってね~横島君」
にこりと笑い俺の頭を撫でている冥子ちゃん。この人は本当に年上なのか年下なのか良く判らない人だなと思っていると、大きな扉の前に着く
「ここが父さんのいる部屋です」
扉越しだが判る、妙に空気が重いと……俺が冷や汗を流しているとおキヌちゃんが傍に来て
【ちょっと私にもきついので傍にいさせてください】
青い顔をしているおキヌちゃんに頷く、幽霊だからこういう気配の影響をモロに受けてしまうのだろう
「じゃあ行くわよ!!!」
美神さんが扉を蹴り破り、その後について王座の前に入る。そこで俺が見たのは
「ぐうう!ぴ、ピエトロ?……し、シルフィー?な、何故戻ってきた!この愚か者が!!!」
ピートと同じ顔をした青年が苦しそうに胸を押さえながらそう一喝する。それは只の声だったのに風となり俺の身体を後方へと押した
「……大丈夫」
シズクが回り込んで押さえてくれたから大丈夫だったが、そのままでは弾き飛ばされていたかもしれない
「もう……無理だ。余にはもうこの魔族を抑えるだけの力がない」
胸を押さえてその場に蹲るブラドーにピートとシルフィーちゃんが駆け寄ろうとするが
「ダメだ!今は近づいたら駄目だ。君達まで狂わされるぞ!」
唐巣神父が険しい顔をして2人の腕を掴む。ブラドーは美神さんやカオスのじーさんを見て
「1度は戦った錬金術師カオスよ……歳を取ったなあ……もう余は駄目だ、なんとしてもこの場で余を殺せ!!余は……人間が好きだ……愚かしいが、それゆえに美しい人間が好きだ……」
よろよろと立ち上がるブラドーの目が真紅に輝き、どす黒い光がその身体を覆っていく
「なんとしてもこの場で余を殺せ!まだ満月ではない……良いか!躊躇うな!父は「うるせえよ」ぐぐあああああああああ!!!」
ブラドーの口から飛び出した耳障りな声、それに続くかのように響いたブラドーの苦悶の絶叫と黒い風の嵐
「マリア!障壁を!」
「イエス・ドクター・カオス」
「「「精霊石よ!!!」」」
マリアの手足から放たれた光と美神さんと唐巣神父が精霊石を投げて結界を作り出し、その黒い嵐を防ぐ。そしてその嵐が収まったとき俺達の目の前には
「くふふふふ、この身体は貰ったぞ!!」
悪魔を思わせる姿へと変わり果てたブラドーの姿があった。それを見たエミさんと美神さんがそれぞれブーメランと神通棍を構えるその隣で
「「そ、そんな父さん……が」」
俺には膝を付いて、泣きそうな顔をしてブラドーを見つめる、2人の震えた小さな声がやけに大きく聞こえたのだった……
リポート12 吸血鬼の夜 その8へ続く
次回からは戦闘回で行きたいと思います。大分長く続くと思いますが、よろしくお願いします。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします