リポート12 吸血鬼の夜 その3
(ここはどこだろうか?)
酷い衝撃を受けたのは覚えているだが……どうも意識がハッキリしない……生暖かい闇の中不思議な感覚が俺を包んでいた……
(これは……)
浮かんでは消えていくを繰り返す様々な記憶の数々……
(なんだよこれ……)
だけどこれは俺の記憶じゃ無い……
どこか判らない場所で白い衣装を着て破魔札を手に、悪霊を払っている陰陽師の姿……
(これが高島なのか?)
俺だけが読むことが出来る陰陽術の本を書いた陰陽師「高島」その記憶を見ているのかもしれない
(今度はなんだ!?)
今度俺の脳裏に浮かんだのはさっき見ていた景色とは違う、今度は俺も知っている現代風の風景の数々。そして記憶の中心にいるのは青いスーツ姿の青年が破魔札と光り輝く緑の刃で悪霊を退治している姿
(この光ってもしかして)
あの外道を叩きのめす時に使って、視力を一時的にだが失う原因になった緑色の篭手……
(何かが判るような気がする)
交互に浮かんでは消えていく。2つの時代……の記憶……
(何かが掴めそうな気がする)
飛行機で神宮寺さんに言われた、役立たずや無能の言葉をどうしても思い出してしまう……ここで見ている物を覚える事が出来ていれば、少しは役に立てるかもしれない……そう思った瞬間
「横島!」
急に身体が浮上するのを感じ、目を開けると
「横島ぁ!!良かった!良かった!!!」
「……良かった、意識が無いからどうすれば良いのかと」
【横島さん。良かったぁ……】
心配そうな顔で俺を見ている蛍とシズクとおキヌちゃん……それとべったりと肌に張り付いているシャツには赤い血痕の後、だけど傷がないのはなんでなんだろうか?と思いながらゆっくりと身体を起こし
「ここは……」
周囲を確認するとそこは飛行機ではなく、クルーザーの上だった……揺れる船体が少しばかり気持ち悪い
「飛行機が不時着させて、近くのクルーザーを乗っ取ったのよ。大丈夫?横島君。冥子念の為にショウトラで「わふーん♪」みっぐああああああ!!」
美神さんの言葉を遮って冥子ちゃんの影から飛び出してきたショウトラに背後から突撃され
【「「横島ぁ!?(さぁん!?」」】
蛍達の悲鳴を聞きながら再び意識を失ったのだった……
ショウトラ頼むから弱っているときは突撃しないでくれ、そして
「ショウトラちゃん~駄目よ~そんな事をしたら~」
間延びした声でショウトラを注意している冥子ちゃん。飼い主なんだからもう少し厳しくしつけて……俺はそんな事を考えながら意識を失ったのだった……
飛行機不時着の衝撃のせいか意識を失っていた横島君を何とかクルーザーに引き上げた所までは良いのだが、完全に意識を失っているし、服も出血のせいで赤く染まっていた。今はショウトラがヒーリングをしているけど
「わふわふ」
嬉しそうに横島君の上に乗って嘗め回しているので、回復よりもダメージのほうが大きそうに見える
「それで?いい加減に本当のことを話してくれない?ピート、シルフィー」
多分唐巣先生の入れ知恵されたんだろうけど……この2人は人間じゃ無いというのは判っていた。口を紡ぐシルフィーとピートに
「どう考えてもあの蝙蝠は誰かに操られて移動していたわ。敵はなんなの?そろそろ教えてくれても良いんじゃないかしら?」
私が畳み掛けるように言うとピートがゆっくりと口を開き
「敵は……判りません。ただブラドー島で長いこと眠りについていたブラドーが目覚めたのです。自らを封印し、眠っているブラドーが自分から起きるとは考えられない、何かあると思っているんですが……特定は出来てません……」
始祖の吸血鬼を操ることが出来る魔族……それだけでもとんでもない話だ。出来れば出発前に話をして欲しかったと思う
「ブラドーは穏健派でね?でも吸血衝動を抑えることが出来ないから結界を張って、城で眠っているんだ。出来ればまた眠りに着かせてあげたいんだ。ブラドーは吸血鬼だけど……人間が好きだから。操られて誰かを殺すなんてことはさせたくないの」
シルフィーとピートの説明を聞いていた蛍ちゃんが
「でも島の外で襲われたわよね?それって結界が弱まっているか、ブラドーの力が増しているって事よね?」
確かに蛍ちゃんの言う通りだ、それに飛行機からある程度の道具を持ち出す事は出来たが、それでも万全ではないし……
「まぁここまで来たのに引き返すわけにも行かないワケ」
飛行機が墜落したせいで船でローマに戻るのは難しいし
「まぁ悪いけどそう言うわけで船は徴収するけど良いわよね?」
こくこくと壊れたおもちゃのように頷くこのクルーザーの持ち主に頼み、私達はブラドー島に向かったのだった
「あいたた」
ショウトラのヒーリングが効いて目を覚ました横島君に駆け寄る、蛍ちゃんやタマモを見ながら
「念入りに警戒して進みましょう。それなりに対策も必要だし」
エミと私とカオスの3人でブラドー島の攻略の準備を進めるのだった……冥子は
「良かったわ~横島君が目を覚まして」
「心配させて申し訳ないっす」
横島君の傍でニコニコ笑っているのを見て
(横島君も本当に変わっているのばかりを引き付けるわね)
九尾の狐のタマモにグレムリンのチビにミズチのシズクに式神。中々これだけ人外に好かれるGSって言うのも珍しいわねえと苦笑していると
「見えてきたよ。あれがブラドー島」
シルフィーの指の先を見ると古城が島の中心に鎮座している小さな島が見える
「あれがブラドー島ですか。まぁボロイだけの城ですこと」
キャビンから出てきて馬鹿にするかのように笑うくえす。彼女はそのままにやりと笑うと船首の方に向かって行った
「なんであいつがいるワケ?」
私は琉璃とくえすの話し合いは聞いていたけど、いくらなんでもくえすを手駒として使うのは早すぎるような気がする。
「さぁね。私も流石にそこまでは知らないわ。なんにせよこれからが本番よ、気をつけて行きましょう」
まずは唐巣神父と合流して拠点を決めて、どういう風に攻めるのか?その全てを話し合わないといけない
(夜が近いのが不安ね)
既に太陽は大分傾いている。この様子だと島につくまでに日が暮れてしまう……夜は吸血鬼の時間だ
(これはかなり気を引き締めて行かないとね)
油断すると全員吸血鬼になって終わりだ、そうならない様に気をつけないと……不安を感じながら私達はブラドー島に降り立ったのだった……
クルーザーの持ち主は当然ながら、一般人なので全員を降ろすとあっと言う間に見えなくなった。まぁ当然だよな
「なぁ?シルフィーちゃん。これ帰りは大丈夫なのか?」
見たところ飛行機とかもないしどうやって帰るんだ?と尋ねると
「ブラドーを再度封印したら船が出せるよ、だから心配しないで」
そう言うことなら大丈夫か。俺はタマモとチビをそれぞれ頭と肩の上に乗せてから
「そろそろ上がって来いよ~」
海で浮かんでいるシズクに声を掛ける。念の為に水を蓄えていくと言っていたけど、そんなに必要ない筈だ。ただうつ伏せで漂っているので、なんか怖い……
「……判った」
海から出てきたばかりは水浸しだったが直ぐ乾くシズクを見ながら、近くの丘の上で双眼鏡を手にしている美神さんとエミさんを見て
「なにをしてるんや?」
直ぐに移動すると思っていたのだが、まだ上陸した場所にいる。段々日が暮れているのに大丈夫なのか?と思い尋ねると冥子ちゃんが
「初めてくる所だから~周囲を確認して、結界を張りやすい場所を探してるのよ~」
ぽやぽやしている冥子ちゃんだけど、さすがプロのGSだ。知識が多い、これでもう少し落ち着いてくれてたらなぁ……
「それに島中に邪悪な霊力が満ちているから吸血鬼の気配を探すのも難しいのよ。美神さん達がどう動くかを決めるまでは待ってましょう?」
まぁ蛍の言うとおりか。マリアとおキヌちゃんは吸血鬼に見つかっても平気と言うことで周囲を窺っているから近くには居ない、鞄に腰掛け離れた所で腕組している神宮寺さんを見ていると
「方向性が決まったわよ!移動するから全員荷物を持ちなさい」
美神さんの指示が海辺に響く、鞄を背負って歩き出すとシズクが
「……何故あの魔女を気に掛ける?」
魔女?神宮寺さんの事か?何もそんなに怖がる事はないのにと思っていると
「私からも言うわよ。横島。あんまりあの人には近づかないほうが良い」
蛍にも近づかないほうが良いと言われ、俺は1人で歩いている神宮寺さんを見て
「なんでや?普通の人なのになんでそんなに警戒せないかんの?」
俺から見ると1人で泣いているように見える。だからほっておけないのだが
「あたしが説明するワケ。神宮寺くえす。若いGSだけどAランクに格付けされているGSよ」
俺と蛍の話を聞いていたエミさんが、歩くスピードを少し緩めて俺に神宮寺さんの事を教えてくれる
「Aランクって凄いじゃ無いですか」
俺達と同年代でAランク。それはすごい事だと思う。余計話を聞いた方が良いと思っていると
「だけど彼女はそれと同時に危険人物として警戒されてるワケ。あたしも黒魔術を使うけど、あたしよりも強力で破壊力に特化している彼女を危険視するGSは多いわけ。それに妖怪や悪魔撲滅派の人間を至高と考える相手だから、横島との理想とは対極の位置の人間よ」
そんな事を言われてもなぁ……あれだけの美少女をなんでそんなに忌み嫌うかなあ。俺にはとても寂しそうにしているようにしか見えないんだけど……
「横島が美女・美少女の味方って言うのは判るわ。だけど彼女だけは駄目よ、そんな事をしても絶対に横島には感謝しない。むしろ邪魔をしたって怒るわ。だから彼女に関わるのはやめて。お願いだから」
。むしろ邪魔をしたって怒るわ。だから彼女に関わるのはやめて。お願いだから」
「……私も反対する。あれは危険すぎる」
蛍とシズクにそう言われわかったと小さくうなずくとマリアとおキヌちゃんが姿を見せて
「近くに村を見つけましたが・誰も・居ません・襲撃された・後では・ないでしょうか?」
【それとこれ多分唐巣神父の眼鏡ですよね?】
おキヌちゃんが手にしている眼鏡を見たピートとシルフィーちゃんが
「僕だ!おーい!戻ったぞ!!誰か!誰かいないのかー!!!」
「兄さんと私が戻ったよ!皆ー!どこー!」
シルフィーちゃんとピートが叫ぶが何の反応もない……まさか死
「吸血鬼に血を吸われて僕にされてるのよ。それにその状態ならまだ助けれるわ、不安に思うのは早いわよ」
そう笑って俺の肩を叩く美神さん。励ましてくれているのだと判りありがとうございますと小さく返事を返す
「しかしそれにしても教会がどこにもないわね……それにもしかして……」
周囲を見て何かをぶつぶつと呟いている美神さん。蛍も周囲を調べている、何を調べているのか判れば俺も手伝えるんだけど……
「令子~それなりに頑丈な建物を見つけたワケ。そこを拠点にするわよ!夜が来る前に準備をするから手伝いなさい」
エミさんの声に思案顔を止めた美神さんは俺と蛍を見て
「聞こえたわね。夜が来るまでに篭城する準備をするわよ、本格的に動くのは明日の朝からきっちり準備するわよ!」
握り拳を作る美神さんに頷き、俺と蛍はエミさんが見つけたという頑丈そうな建物の方へと歩き出したのだった……
その頃ブラドー城では苦悶……そして怨嗟の叫びが木霊していた
「ぐああああ、おのれおのれおのれおのれえええええ!!!良くも良くも!余を目覚めさせたなあ!!!」
怨嗟の声と苦痛の叫びだけが繰り返し響き渡る。城の王座のある部屋で蹲る黒いマント姿の青年「ブラドー」は全身から魔力を放つ事で自身を覆いつくそうしている黒い霧を弾こうとしているが、闇は纏わりつくようにして離れる気配がない
「ぐうおおおおおお!!!」
苦悶の悲鳴だけが古城に響き渡る……それはこの世に目覚めたくなかった、ブラドーの嘆きの声だったのかもしれない……そして
「ぐうう、貴様の思い通りにはさせない……」
魔力を解放する事により、一時的に体の自由を取り戻したブラドーはよろめきながら立ち上がり
「油断した。この吸血鬼ブラドーともあろう物が、魔族に身体を奪われかけるとは」
永い眠りから強制的に目覚めさせられたブラドー、本来持つその霊的防御力が極端に低下していた……その隙に身体を持たぬ魔族に身体を奪うために寄生されてしまったのだ
「全てはあの神父に託した……後は任せるぞ……我が息子、娘よ」
倒れかけながらもブラドーは王座の裏に回りこむ。そこは城の防衛装置を稼動させている魔法陣が刻まれていた
「貴様の思い通りにはさせぬ」
指輪を外し魔法陣に埋め込む、すると城を覆っていた魔力が弾け飛ぶ。それを見て満足げに頷いたブラドーはその場に倒れたが、直ぐに立ち上がり
「良くもここまで抵抗してくれたな」
起き上がったブラドーの声は冷酷な響きを持ち、そしてその目は真紅に輝いているのだった……そして太陽が沈み月が顔を出した……それは長い吸血鬼の夜が始まると言う証拠だった……
リポート12 吸血鬼の夜 その4へ続く
次回は戦闘回を始めていこうと思います。そしてこの作品ではブラドーは悪ではないので覚えておいてください。ピートに妹がいるのもその理由の1つですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします