リポート11 平和な時間 その2
冬休みに入る前の最後の登校日。荷物なんて殆どないので鞄を置いていこうと思ったのだが
「コーン」
いつの間にか鞄の中に潜り込んで顔を出しているタマモ。そしてその後ろから
「みー!みー!!」
昨日買った台車をずりずりと押してきて、俺の目の前の台車の前で両手を振って
「みーん♪」
物凄く嬉しそうに鳴いているチビ、これは連れて行かないと駄目そうだ
「しゃーないなー」
まぁ昼で終わるんだし良いか、と割り切り台車を鞄の中に入れて、ついでにチビも摘んで鞄の中に入れて鞄を背負う
「横島。寄り道しないですぐ帰ってくるのよ?」
久しぶりに家にいる蛍に判っていると頷く
「判ってるって」
クリスマスが近いからクリスマスプレゼントや準備の事もある。それに仲の良い友人っと言えるやつもいないし、寄り道する理由はない
「……大丈夫。私が迎えに行く」
シズクがエプロンで手を拭きながら姿を見せる。寒いほうが調子が出るそうなので半袖で見ているこっちが寒い
「「いや。止めてくれ」」
俺と蛍が同時に言う。半袖ミニスカートのシズクが学校に来ると何を言われるか判らない
「……じゃあお昼を作ってる」
ぼそっと呟いてキッチンに戻っていくシズク。悪いことをしたかな?と思ってみていると
「あんまり気にしないで良いわ。シズクはあれはあれで強かだから何か企んでいたかもしれないわよ?」
そう言われるとますます怖い。俺は鞄を担ぎ
「じゃあ行ってくる。あんまり喧嘩とかしないでくれよ」
部屋とか水浸しになるからなと付け加え、俺は家を後にしたのだった……なお残されたシズクと蛍は
「「……」」
互いに互いを睨みあうか、監視するというとんでもなく重い空気を作っていた
「……さて、何を思って横島に近づく、魔族」
「さぁ?答えるとおもう?蛇」
横島がいたら号泣して逃げ出すような殺伐とした空気がそこにはあった……
「うーす」
「みーん」
「ココーン」
鞄から顔を出して鳴声を上げるチビとタマモ。
「おーう。横島おはよーさん、相変わらず動物には好かれるな」
友人Aの言葉にまぁなと返事を返し自分の机に座る
「みっみ」
もぞもぞと鞄から這い出してくるチビ。タマモは寒いのか俺の膝の上で丸くなっている。どうもチビは寒さには強いようだ
「みーむ!」
シャーペンを手にぶんぶんっと振っているチャンバラのつもりなのだろうか?
「それじゃあーSHRを始めるぞー」
教師が入って来たので机の上のチビを鞄に戻す
「みーん♪」
鞄からひょっこっと顔を出しているチビを見ていると
「横島。お前は終業式に参加しなくて良い」
なんか嫌な予感がする……これも霊感って奴か……
「せんせーなんで横島だけ?」
「それはな……横島、備品倉庫の掃除だ。公休を使ってるんだ、それくらいやれ」
くう……まさかこんな所でGSのアルバイトの影響があるなんて……体育館に行く同級生に見送られ、頭の上にタマモを乗せたまま備品倉庫に向かったのだった……
モグラの妖怪との一件のレポートをGS協会に提出する為に私は朝からGS協会に足を運んでいた。元々調査の依頼なんで報酬は少な目の100万だったが
(まぁ良いか)
横島君の精神的な成長のことを考えれば、それで良い。横島君の妖使いの才能は私の考えているのよりも遥かに上だったわけだ……今後はそう言う才能を伸ばす方向でも良いかもしれない
(さーて早く報酬を貰ってゆっくりしましょう)
クリスマスも近いし、依頼は受けないで皆で遊ぶのも良いかも?と思っていると
「だから早く神代琉璃に繋ぎなさいと言っているのです。この無能」
受付の係員を脅している黒いドレスの少女……その手にはどす黒い漆黒の魔力が込められているのが、この距離でも判る。私は溜息を吐きながら
「何してるのよ、神宮寺くえす」
GSの中では禁忌とまで言われてる彼女の腕を掴む、その腕は細いが信じられない力が込められているのが触れている所から判る……なんで私がこんな事をと思うが、ここで廃人が増えるのを見過ごすことも出来なかった。なんと言うか横島君とかといるようになってから自分が少し甘くなっているような気がする。
「誰に断って私に触れているのですか?貴方から消し飛ばしますか?美神令子」
どんよりとした目で私を睨み返す神宮寺くえす。私も睨み返しながら
「こんな所で馬鹿やってるんじゃないわよ。私も琉璃の所に行くから来なさい」
このままおいて行くと受付が死にかねない。今も霊力に当てられて青い顔をしている
「ふん、まぁ良いですわ。こんなくだらない用事はさっさと終わらせたいですから」
そう言ってドレスのスカートを翻しエレベーターに向かっていくくえす、私は受付に
「怖かったわね、少し休むと良いわ」
青い顔をしている若い職員にそう声をかけ、くえすの後を追いかけたのだった。
「確かに、それでは報酬の方を1階で受け取ってください」
琉璃にレポートを渡し、報酬を受領するためのカードを受け取る。これで私の用事は終わりだけど
「用が済んだらさっさと帰ったらどうです?」
私を見ているくえす。その目には苛立ちが見える……本当に短気ね。もう少し心に余裕が持てないのかしら?
「悪いのですが、美神さんには個人的な用事があるので、残って頂きます」
琉璃の言葉に整った顔を歪めるくえす。そのままソファーから立ち上がり
「早くGS免許を、今日はそれだけのために来たのですから」
資格停止処分を受けたって言うのは本当だったんだ、まぁ魔術使いだから色々あくどい事をしてるだろうし、当然かもしれない
「条件は今度私が出す依頼を無条件かつ無報酬で引き受ける事、それと合法・非合法関係なしに私が依頼を出すまでGSとしての活動をしないこと……判りましたね?」
「判っていますわ」
どうして私がと言う顔をしているくえすの前におかれた契約書。それは特別な呪術処理をされた契約書
「ずいぶんと念入りな事で」
「自分の今までの行動を考えてみたら?」
にらみ合うくえすと琉璃だったが、くえすは素早く羽ペンでサインして
「これでよろしいんでしょう?それでは御機嫌よう」
もう用はない、私の姿も琉璃の姿もその目に入れる事無く、くえすは琉璃の部屋を後にした。扉の外から感じる魔力から転移魔法か何かで自分の家へと転移したのだろう。あの若さで凄まじい才能だとは思うが、相変わらず性格が最低だ
「あんなのにGS免許を出して良いの?」
私的には永久的に剥奪していれば良いのにと思いながら尋ねる。前に1度だけ仕事を一緒にしたが、人質ごと悪霊を焼き尽くしたその姿を見て、こいつは危険だと思っていた
「念のためです。ところでクリスマスパーティの準備のほうは?」
GS協会長神代琉璃ではなく、私の友人としての神代琉璃が姿を見せる。私はにっこりと笑いながら
「そうですか!楽しみですね」
ニコニコと笑う琉璃。ここ数年封印されていたのだから楽しい事なんて無かっただろうし、折角だから誘う事にしたのだ
「あー本当に楽しみ!それじゃあ美神さん。明日よろしくお願いしますね」
任せておいてと返事を返し部屋を後にする。琉璃がくえすに免許の再発行をした……
(なにかきな臭いわね)
くえす程の危険人物をGSとして復帰させる、これは何かあるかもしれない
(一応道具を揃えておきますか)
くえすを復帰させたのだからきっと私にも声が掛かるだろうと判断し、道具を買い足す事を決めながら私はGS協会を後にしたのだった……
私はずっとこの場所でその時を待っていた、何時だったか忘れたが、私は私の記憶を取り戻した。神隠しを繰り返していた机妖怪「愛子」ではなく、横島除霊事務所職員「愛子」としての記憶を……
(まだかなあ……)
それを思い出してからは人を攫うのは止めた。無論最低限の人数は残しているが、解放できる人間は解放した。私は只待っているだけ
(片思いの相手を待つのも青春よね!)
なんで今ここにいるのか?とかそう言うのはどうでも良い。また横島君に会える、美神さんの物になってしまう前の……
(楽しみだな)
妖怪だからと勝手に負い目を感じて何もしなかった。だけどこうして戻って来れたのだから、もう1度関係をやり直す事だって出来る。
(はあー結構長いのね)
自分の中の学校世界で時間を潰しているが、まだまだその時が来ない。学校世界もそれはそれで面白いのだが、横島君と過ごした日々の方が面白いからどうしても物足りなさを感じている
「うっわあ、汚れてるなあ」
この声は!?思わず机から具現化しかけるが、それを耐えて目だけを具現化させて見ると横島君が頭の上にタマモちゃんを乗せていた。
(どうして?)
どうして今タマモちゃんと一緒なのかが気になったが、こうして会えた……今のうちに飲み込んで……
(いやいや、駄目よ愛子)
欲望に任せて行動すると碌な事にならない。だからここは大人しく見ているだけにしよう……そんな事を考えていると
「よいしょ」
私の上にハムスターの台車をおく横島君。何でこんな物を持っているんだろうか?と思ってみていると
「みみー!」
ハムスターよりも少し大きい何かが私の上に乗って、トチトチと台車にのって
「み~~~~~♪」
楽しそうに鳴きながらぐるぐると回り始める。え、えーとこれはどういうことなの?何が起きているの?横島君が妖怪に好かれるのは知ってるけど、なにこのハムスター(?)は
「みーみーん」
楽しそうに鳴いて台車をぐるぐる回しているハムスター(?)
「さーてじゃあ掃除をするかあ」
はたきを手に備品倉庫の片づけを始める横島君。す、隙だらけね……今なら飲み込めるかも……
(は!?)
私を見つめている視線に気付く、そちらのほうを見ると
(た、タマモちゃん!?)
じーっとタマモちゃんが私を見ている。いやハムスター?を見ているのかな?と思っていると
(今飲み込もうとしたわよね?愛子?)
頭に響く声、いけない……私だと気付いてる……
(な、何の事かなぁ)
私だと気付いているので念話で返事を返す。タマモちゃんはふーんっと興味なさそうな声で返事を返す
(飲み込んでたら燃やしてあげたのに)
その尾に青黒い炎を灯しているタマモちゃん。あ、危ない所だった……もし飲み込んでいたら横島君に会う前に死んでいた……
(まぁ監視はするけどね。変なことをしたら燃やすわよ)
尾を立てて私を警戒しているタマモちゃん。うう……見ていることしか出来ないのかあ……いやそれでも良いと自分を励ます
「うーし、こんな感じかな」
2時間きっちり備品倉庫を片付ける横島君。け、結局ずっと見ているだけだった……
(はぁ……結局何も出来なかったなあ……)
溜息を吐きながら出て行こうとする横島君を見ていると
「よーし、チビ帰る用意しようかあ?」
鞄に台車をしまい、ハムスターを摘みあげる横島君。あーあ……見ることが出来ただけかあ……小さく溜息を吐いていると
「ん?あ、ああそうやな。この机も掃除しないとな」
(う、うええ!?)
えっえ!?私の事!?雑巾を絞っている横島君
(や、やややや!!駄目駄目!!駄目だからぁ)
当然だが私の言葉は横島君には届かない。タマモちゃんが目を伏せて
(ご愁傷様。骨は捨てていくわ)
慈悲も何一つない言葉。もしかするとタマモちゃんも被害者なのかも?しかし私も今まさに被害者になろうとしている。近づいてくる横島君が物凄く怖い
「よーし♪」
鼻歌を歌いながら雑巾を手に私に手を伸ばす横島君。この机は私自身だから
(ひひゃあああああ!!!!)
想い人の少年に身体を磨かれると言うなんとも言いがたい。羞恥心と何とも言えない高揚感を感じながら
(こ、声を出したら駄目ええええ)
口を両手で押さえて必死に耐える。私の目の前では
(ご愁傷様)
哀れと言わんばかりの顔をしているタマモちゃん。私はその視線に必死に耐えるのだった……
「さーて帰るかあ」
タマモとチビを頭の上と肩の上に乗せた横島が備品倉庫を出て行った後
「あ、あひ……あはぁ」
机の上でぐったりとする古いセーラー服を着込んだ黒髪の少女の姿が備品倉庫に現れたのだった……
備品倉庫の掃除を終えてから家に帰ると
「……おかえり」
玄関掃除をしていたシズクに出迎えられる
「ただいま」
おかえりと言われるのは嬉しいなあと思い家の中に入ると
「おかえり。横島」
笑顔の蛍に出迎えられる。俺は鞄をリビングの机の上に置いて
「何を作ってるんや?」
良い香りがするので何を作っているんだ?と尋ねると蛍はお玉を手に笑顔で
「クリームシチューよ。横島は好き?」
「俺は何でも好きやで」
嫌いな物は殆どない、それに最近和食続きだったから洋食って言うのは嬉しいなあ、手を洗って鞄から台車を机の上に置くと
「み!」
チビが直ぐ机の上に上って遊び始める。よっぽどあの台車が気に入ってるんだなあと思いながら机の上の雑誌に手を伸ばす
(クリスマスに何を買うかなあ)
蛍とシズクのプレゼント。それにチビとタマモのプレゼント……色々と入用だなあ
(だけど喜んで欲しいしなぁ)
その為なら、少し多めに金を使わないとなぁ……お世話になっている美神さんにも何かを買わないとなぁ……
(でもおキヌちゃんには何を買えば良いんだろう?)
幽霊のおキヌちゃんに何を買えば良いのか判らない。うーん幽霊だからなあ……
(厄珍堂に相談するかな)
蛍や美神さんには相談できない。自分からおキヌちゃんへのクリスマスプレゼントなのだから、蛍と美神さんには聞けない……俺は雑誌と財布の中身を考えながら何を買うのか必死に考えるのだった……
なお横島がおキヌへのプレゼントをどうするか悩んでいる頃。おキヌはと言うと
【えへへ。今度は前より張り切っちゃいます♪】
逆行してきた事で前よりも編み物の腕が上がっていたおキヌはマフラーだけではなく、セーター、手袋をセットで編んでいた
【横島さん喜んでくれるかなぁ♪】
うっとりとした顔で編み物を続けるおキヌは、仕上げの段階で自分と横島のイニシャルを入れるかどうか?をとても幸せそうな顔で悩んでいるのだった
リポート11 平和な時間 その3へ続く
次回は原作3巻の「おキヌちゃんのクリスマス」の話に入って行こうと思います。この後は「極楽愚連隊西へ」の話に入って行こうと思います。これもかなりのオリジナルの色を入れて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします