その1
リポート11 平和な時間 その1
蛍もおキヌちゃんも用事で来ることのない昼下がり……課題を終わらせてのんびりとTVを見ていると
「みーん」
TVの幼児向けの番組を見て、手足を動かしているチビ。これで前回りとかを覚えているんだろうなあと思っていると
「……お茶のむ?」
お盆の上に急須と2つの湯飲みを持ってリビングに入ってくるシズク。ワンピースにエプロン姿と愛らしさが凄い
「ん~ありがと」
シズクに差し出された湯飲みを受け取る。中を見ると茶柱が立っている
(今日は何か良いことありそうやなぁ……)
膝の上で丸まっているタマモを撫でながら、机の上でTVを見て踊っているチビを見ていると
「……横島、チビって太ってない?」
シズクの言葉にまさかと思ってチビの胴体を掴む。すると非常にもみ応えの良い柔らかな感触がする、なんと言うかむにむにと言う感じだ
「み?」
物凄くタプタプしている。だけど太っているようではないし……だけどこのままだと太ってしまうかもしれないなあ……飛べなくなるとかわいそうだな……チビは飛ぶのが大好きだし……
「んーなんか今度探してくるかなあ」
見た感じはハムスターに近いからくるくる回るあれでも買って来るかなあ。ちょっとチビには小さいかもしれないけど、多分大丈夫だろう。なんなら蛍にそれを元に改造してもらえば良いんだし、俺がそんな事を考えているとシズクが俺を見て
「……私も何か買いたい」
シズクはずっと同じワンピースだし、何か違う服を見てあげないと可哀想かもしれない、いろいろとお世話になっているし
(えーっと金はあるんだよな)
美神さんが振り込んでくれているので、貯金はあるからなにか買った方が良いかもしれない。もうシズクの部屋も出来ているんだし……家具とかもそれなりに必要なはず
「俺はそう言うの判らないから自分で選んでくれるなら良いで?」
本当なら選んであげるのが普通だと思うんだけど、俺にはそう言うのは無理だしな
「……まぁいい自分で買ってくる。だけど途中までは一緒」
まぁデパートに行くわけだし、一緒に出かけてもおかしくはないよな。ただ凄く不機嫌そうなのは何でだ?
「タマモも一緒に行こうな」
俺の横で丸くなって寝ているタマモに声を掛ける。ぱっと起きて擦り寄ってきて
「コン」
おきて尻尾を振っているタマモの頭を撫でる。今日は特に用事もないし、朝のうちに買い物に出かけるとしよう
「……新しい人間の服って言うのも興味がある」
無表情だけど、楽しそうと言う顔をしているシズクを連れてデパートに向かう
「……ほお……」
興味深そうにデパートを見ているシズク、こうして見ると普通の子どもなんだけどなあ……
「みー!みーみー!!!」
楽しそうに鳴いて飛んでいこうとするチビを捕まえて抱き抱える。売り物に悪戯されたら困る、美神さんにも迷惑をかけることになるので可哀想だけど、自由にさせることが出来ない
「みーん」
詰まらなそうにしているチビをしっかりと抱き抱える、ほっておくとどこに飛んで行くか判らないし……こうして抱えておこう
「……横島服売り場は?」
あーそうか、シズクを1人にすると迷子になるかもしれない
「しゃーない、一緒に行くか」
はぐれると困るし、俺はチビとタマモを抱えたまま。シズクと一緒に婦人服売り場に向かう
「……いらない、これもいらない」
シズクはかなりセンスが厳しいらしい、どれもこれもいらないいらないと言って手にも取らない
(あんまり高いのは困るんだけどなあ……)
財布には諭吉さんが2枚。そんなに高い服は困ると思って見ていると、シズクは悩んだ素振りも見せず素早く服を選んだ
「……これで良い」
チラシの品と書かれている、青と白のワンピースと緑色ジャケットとズボンを手にするシズク。2つあわせても8000円程度
「それで良いのか?」
もう少しお洒落で高いのを選ぶと思っていたのに少し予想外だ
「……高いものが良い服って訳じゃ無い。安くてもお洒落な物で良い」
ふーん、そう言うものなのか……まぁシズクが良いなら、それで良いけど……レジで会計を済ませるとシズクはその包みを抱えて
「……だからこれで良いの、ありがとう横島」
買った服を大事そうに抱えているシズク。その姿は外見相応で可愛いと思えたが
(わ、ワイはロリやない!!!)
あかん、最近シズクと一緒にいるせいか、若干ワイの正義が崩れてきているかもしれない
(美神さんの溢れる色気を頼るしかないなあ)
ロリコンになるのは嫌なので、明日にでも美神さんの傍に行こうと思う。蛍かおキヌちゃんでも良いや……ワイはロリコンじゃ無いのだから……
頭を抱えて悶絶している横島を見ているシズクはにやりと計算通りと言う顔をしているのだが、横島がそれに気付くことはなかったのだった……
「さてと今度はチビの奴やな」
ペットコーナーに向かいチビの運動道具を探す。ちょっと大きめのハムスターの台車ってあるのかな?
「これはどうやろか?」
目の前にあるのはハムスターの台車。これならチビの運動に丁度良いと思う
「……グレムリンをハムスター扱いってどうかと思う」
シズクはそう言ってるけど、チビは俺の肩から飛び立って
「みーみーみー♪」
目を輝かせて台車の箱をぺちぺち叩いている。かなり気に入った様で何よりだ
「……悪魔としてのプライドはないの?」
シズクがそう尋ねる。確かにチビはグレムリンだけど……もう8割くらい愛玩動物と化している。野生?なにそれ?美味しいの?状態である
「み?」
シズクの言っている言葉の意味を理解できないで首を傾げている
「……まぁ喜んでいるなら良いけど」
納得行かないという顔をしているシズク。だけどチビが喜んでいるから問題ない
「よーし、チビはこれなー」
その箱を持ち上げて籠に入れる。チビは俺の肩の上から箱の上に乗って
「みーん♪」
これは自分のだと言わんばかりに手を振っている。うんうん、気に入ってくれたみたいで何よりだ
「タマモはどうする?」
頭の上のタマモにそう尋ねる。タマモは近くの商品だなを見ているが……
「クウ」
興味ないと言わんばかりに鳴いて目を閉じる。
「リボンとか首輪とかいらんのか?」
チビにかってタマモに買わないと言うのは不公平だと思い尋ねる。目を閉じているタマモは本当に興味がなさそうだ
「……いらないと言ってるなら無理に買う必要はない。代わりに油揚げでも買えば良い」
シズクがそう言うと今まで何の興味もなさそうにしていたタマモが目を開いて
「コンコン」
早く買いに行こうと言わんばかりに前足を振る。その姿に苦笑しながら、俺は3階の食品売り場へと向かって歩き出した。周囲のおばさん達は中の良い兄妹ねえと言って微笑んでいたりするのだった
横島とシズクが買い物をしている頃。遠く離れた妙神山の小竜姫は深く溜息を吐く
「ミズチの反応がないと思ってましたが、まさか東京にいるなんて」
ミズチを祭る神社から反応が消えていたのは判っていた。だけどまさか東京にいるなんて思ってなかった
「はぁ……早く横島さんが来ないかなあ……」
ここまでで判っていると思うが、今の小竜姫の意識は未来の小竜姫だ。現代の小竜姫が訓練の後で休んでいるのでその隙に姿を見せたのだ。若干姿が変わっているのは未来の自分が表に出ているからだ、現代の小竜姫よりも2サイズ上の胸がその存在感を見せている。
「お久しぶりなの~小竜姫~」
えへへと笑いながら姿を見せるヒャクメ。彼女を見て溜息を吐き
「貴女も戻ってきていたのですね」
ワルキューレとは魔族と神族と言うこと出会う機会はなかったし、ヒャクメは有給であっちこっちに行っていたので全然会う機会がなかった。何時戻ってきたのですか?と尋ねると
「そうよ。横島さんに会いたくて~」
どうもヒャクメも現代のヒャクメを乗っ取る形で……私がそんな事を考えているとヒャクメは
「あ、私は~乗っ取ってないなの~ちゃんとゆっくり時間を掛けて対話したのよ~理解者を求めていた現代のヒャクメは簡単に落ちてくれたなの~」
そう笑うヒャクメ。そうまですんなり行ったのですか……私は中々上手く行かない。その理由は判っている
(属性が相反してますからね)
自分でも自覚しているけど、今の私と現代の私はそのあり方が違う。中々同化出来ない……もう少し時間を掛けないと……
「ふっふっふ~小竜姫に面白い物を見せてあげるなのね~」
鞄を手にするヒャクメ、一体何を見せてくれるのかしら?と首を傾げていると
「みーん♪」
「おーよしよし」
こ、これは!?思わず目を見開いて鞄の画面を覗き込む、横島さんがグレムリンの幼生とボールで遊んでいるのだが
「こ、これは素晴らしいですね」
こんなにほのぼのした光景を見たのは初めてかもしれない。と言うか出来るのなら目の前で見たい
「横島さんがグレムリンを飼ってるんだけど~物凄く可愛いのね!」
た、確かにこれは可愛い。グレムリンではなく、横島さんが!!!
「みー」
すりすりと頬を寄せるグレムリンにくすぐったそうにしている横島さん
「みぎー!」
「こらー逃げるなチビー!!」
ブラシを手に逃げ回るグレムリンを追いかけている横島さん
「よしよし」
「みゅー」
グレムリンを抱っこして寝かしつけている横島さん
「横島さんは凄く面倒見が良いのは知ってるけど、小さい動物にも優しいのね」
蛍さんを溺愛していたのは知ってるけど、動物でもこんなに優しい顔をするなんて知らなかった
「クーン」
そして画面に映る九尾の狐。タマモさんだ……8本目まで尾を取り戻しているのでかなりの力を取り戻しているようだが
「クウクウ」
大妖怪であるプライドなんて無いようで、完全に子狐でペット同然になっている
「横島さんって偶にすごいですよね」
「私もそう思うなのね」
私とヒャクメの呆れたような言葉が重なる。横島さんの優しさは理解していたけど、あの気の難しい九尾の狐があんなにも懐いているなんて本当に驚く
「横島さんらしいのね~」
そう笑うヒャクメ。本当に横島さんらしい、そしてそれと同時に
「早く会いたいですね」
「そうなのね……」
老師から会いに行くのは禁止されている。私が表に出ている時間はとても短い。その短い時間をずっと横島さんの事を考えている
(もう少し、もう少しなんですよね)
私の記憶ではもう少ししたら会える。今会うのは私ではないけれど、それでも私に違いない
(会えば今の私も理解できるはず)
横島さんの中に隠された才能とその膨大な霊力を……彼を戦わせるのは辛い、だけど自分の元で強くなっていく弟子を見るのは何よりも喜びになる
(ああ。早く会いたいです)
神族にとって時間を気にすることはない、永劫に近い時間を生きる事が出来る。態々時間を気にする神なんてほとんどいない、だけど私は今は時間が気になって気になって仕方ない。早く横島さんに会いたい、日に日に増して行く会いたいと言う気持ちが強くなる
(待ってますよ、横島さん、また会える時を……)
現代の私が目覚めていくのが判る。名残惜しいけど……今はここまでのようだ。深い闇に沈んでいく感覚の中……
(早く会いたいなあ……)
横島さんと会えたらどんな話をしようか?私はそんな事ばかりを考えて眠りに落ちるのだった……ヒャクメは現代の小竜姫に会うわけには行かないと、その場を後にした。恐るべし生存本能である
「んん?疲れているのかもしれないですね」
日課の修練を終えて少しお茶を飲みながら休憩をしていたはずなのに、気がついたら眠りに落ちていたようで苦笑していると
「は!?こ、これは?」
机の上の横島の写真を見つける小竜姫。普段ならヒャクメを怒るような物だが……小竜姫は何かを考える素振りを見せてから
「さっ」
その写真を懐に隠し。その場を後にした。どうも現代の小竜姫にも未来の小竜姫の影響がしっかりとでていた。それを見た老師は
「小竜姫にも賭けるかのう……」
自分の弟子に更に賭けの資金を上乗せさせるのだった……
今日私は横島に会いに行きたいのを我慢して、お父さんのビルで調べ物をしていた。
(えーと夜光院柩)
私の知らないGSの名前をデータベースで調べる。すると2人のGSがヒットした、1人は探していた柩。そしてもう1人は
(神宮寺くえす……)
A-ランクのGS。だが表舞台には立っていない、それもそのはず
(暗殺・呪殺・破壊工作特化のGS!?)
対妖怪ではなく、対人間に特化したGS。しかもその性格は極めて凶暴……柩と同様。GS協会には属しているが基本的にはフリーランス
「お父さん。かなり記憶と違う」
夜光院柩にしても神宮寺くえすにしても、私はそんなGSを知らない。
「ふむ。確かに私も知らない、一体どうしてこんな事に?」
存在しないはずのAランクとBランクGS。しかも片方は要注意人物としてリストアップされている。
「これも平行世界の影響なのかしら」
逆行ではなく並行世界への移動、今回の事で間違いないと確信した
「まぁそんなに気にする事もないと思うけどね」
お父さんがそう笑う。確かにそう気にする事もないと思うんだけど
「なんか凄く嫌な予感がするの」
判らないけど、むかむかと嫌な予感がする。敵が増えるような気がしてならないのだ
(うーん、警戒しておきましょう。特にこの神宮寺くえすを……)
仕事の記録を見る限り。それほど大した事件を解決しているようには思えない、だけど写真の顔を見て
(まともな人間じゃ無いのは判る)
色素の抜け落ちた髪。これは間違いなく高密度の魔力を身体に取り込んだ影響だろう
光のない薄い紫の瞳。これは間違いなく人を殺した目……
「お父さん、少し出かけてくる。GS協会に」
神代琉璃さんを助けた私達はアポイトメントなしで話に行ける。これは琉璃さんに聞いたほうが良い
「……そうだね。そのほうが良いかもしれない」
お父さんも神宮寺くえすの写真を見て引き攣った顔をしている。私でも判ったのだからお父さんも気付いたのだろう、神宮寺くえすがその身に宿す闇を……私は急いで階段を駆け下りバイクでGS協会へと向かったのだった……
蛍がGS協会へ向かった頃。東京の外れにある非合法のGSギルドでは
「くひひ、待たせたかい?くえす」
少し手間取って待たせてしまったくえすにそう尋ねる。胸を強調する黒いドレス姿のくえすの足元には
「あが……」
「ぐぎゃあ」
くえすの魔法によって精神を焼き尽くされたであろう馬鹿な男が2人転がっていた。恐らく再起不能だが、まぁボクに何の関係もないので無視する
「私は忙しいの。判りますか?その私の時間を浪費させた事をまず謝りなさい」
ギロリと鋭い目付きで睨んでくるくえす。ボクが持っている稀少な魔導書がなければきっとここにも来てくれなかっただろうと思いながら
「くひひ、悪いね。探してたんだよ」
書斎から持ち出した禁書と呼ばれる魔導書を2冊置く。くえすはそれを手にして暫くしてから
「なるほど確かに本物。それで?私に頼みたい事とは?暗殺ですか?」
にやりと邪悪な笑みを浮かべるくえす、暗殺・呪殺専門の対人に特化したGS。それが神宮寺くえすと言うGSだ……だが彼女が望んでいるのは只1つ。全ての魔法を極めようとする純然たる知識欲。だが魔法とはすなわち、魔族の術。長い年月の間にくえすを歪め、その性格を変えて行った。今はその美貌に近寄ってくる馬鹿を焼き尽くし、骸の上で笑う狂人。ボクの見た未来では魔族に魂を売り渡し、魔族と化してもなお、魔法を極めようとしていた
(だけど今その未来が揺らいでる)
何でか判らないが、その未来が見えなくなった。いや、歴史の分岐点とでも言えば良いのだろうか?そこをきっかけにくえすは変われるかも知れない、そう思えば貴重な文献も惜しくはない
「殺しなんて必要ないよ、ボクの頼みは1つだけ……次のGS試験で魔族が動く、多分神代琉璃から依頼が来ると思う、だからその依頼を引き受けてくれれば良い」
そこでくえすは横島忠夫に会う。それが彼女の人生を変える大きな分岐点だ
「はぁ?それだけでよろしいの?まぁ良いですけど……ではその依頼お受けしますわ、ではこれは頂いていきますわ」
価値にすれば1千万を越える魔導書を2冊。A-ランクのGSを雇うには相応しい額だ。それにどうせボクは魔法を使えないしね……髪をかきあげて去って行く、くえすの背中に
「くえす?もし君が恋をするとしたらどんな人だい?」
くえすは振り返り冷徹な光を宿した目でボクを見て
「興味ありませんわ、私が求めるのは至高の知性。それ以外ありえませんわ」
そう言って不機嫌そうに歩き去っていくくえす、こういう話題は嫌いだからな
「マスター。迷惑かけたね」
「いやいや。構わんよ、馬鹿が2人いただけだ」
そう笑うマスターに小さく礼を言ってギルドを後にする。きっとあの馬鹿2人は裏のネットワークで完全に存在しなかった事にされるのだろう。まぁこの店を利用している以上碌な人間ではないので気にすることもないだろう
(くえす……君も見てみると良い、底抜けの優しい馬鹿を……)
未来を変える横島忠夫。彼とくえすが出会い、そして彼が正しい選択をすればくえすは光に戻れるかもしれない
(ボクの期待を裏切らないでくれよ。横島忠夫)
初めてボクの未来予知を超えた結果を出した男。それが横島忠夫……きっと今回も変えてくれるに違いない、ボクはそんな淡い期待を胸に抱き自分の事務所へと戻っていくのだった……
リポート11 平和な時間 その2へ続く
次回は学校のくだりを書いて見ようと思います。当然チビタマコンビも一緒です。チビ・横島・タマモは3人セットの方が動かしやすいので、これからもそんな感じで動かして行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします