リポート10 無垢なる土竜 その4
コブラに乗って去っていく美神達。横島だけは芦蛍に抱き抱えられているが、あれ警察に見つかれば捕まるなあと思うと更に笑みが零れた。かなりのスピードで遠ざかっていくコブラを見ながらボクは笑っていた。これは予想外にも程がある結末だ
「くひひ、驚いた。本当に驚いたよ」
ボクの見た未来では美神はモグラを討伐し、さっき現れた土竜の老人に攻撃されGSとしての道を絶たれる筈だったと言うのに、横島のおかげでそれを回避した
「……くひ!君は幸運の精霊でも憑いているのかい?」
重傷を負っているが、まさかのミズチの加護。これでは死ぬわけがない……ああ、実に面白い
「貴重なボクの時間を使っただけはあるよ、横島忠夫」
イレギュラーすぎる。ボクには彼の未来がまるで見えない……
「ああ、こんな事は初めてだ」
このボクが見通すことの出来ない未来を持つ青年。なんて面白い存在なのだろうか
「くひひ……今度はボクから会いに行くよ。横島忠夫……」
見て観察するだけじゃ無い、一度会って話をしてみよう。そうすれば何か見えるかもしれない
(ああ、こんなに面白い人間は初めてだ)
このボクがこれだけ興味を持った人間はこれで3人目だ
「くひひ♪これから面白くなりそうだ」
きっとあいつも興味を持つだろうなあ……そう思うと笑みが零れる。ボクの一番最初に興味を持った存在
「黄昏の月も落とすかい?煩悩魔神君?」
僅かに見える未来。そこに見えるのは無数の美女・美少女に囲まれている横島忠夫の姿。そしてそこにはなぜかボクの姿まであった
「くひひ、本当に興味が尽きないね」
確定していた未来を引っ繰り返すその力。
未来が見えないその不透明さ……
何をとっても面白い。そんな事を考えながら事務所に向かっていると
「くひひ!あー惜しいなあ」
唐突に見えた映像には、どす黒いオーラを纏っている少女と戦う幼女の姿。世間一般的に修羅場と言われる光景が見えた……
「くひ!あー本当に惜しいなあ」
近くで見ていたらきっと面白いのに……ボクはそう呟きながらジャケットの前を閉め
「くひ、今年のクリスマスは雪が降るのかい」
見えた未来に笑みを零し、その場を後にしたのだった……
美神さんの運転する車で横島の家まで運んできた。そして
「それで何をするつもり?」
ミズチのシズクと名乗った幼女に尋ねる。外見は幼女だけど、その霊力は私よりも多いし……水神で竜神なのだから治療術を覚えているのかもしれないと思いながら尋ねるとシズクは
「……加護を授け直して霊力の同調をしてから治療する、心配ない直ぐ終わる」
リビングで横たわっている横島の様子を確認しながらそう告げる。加護ってあれよね?タマモの奴と同じ……
「フー!!!」
タマモが8本の尾を立ててシズクを威嚇している。それは間違いなく自分のものに手を出すなと言う意思表示に見えた
(私も嫌なんだけどなあ……)
ただいまの時間では病院も厄珍堂もやってない、横島を心配するならシズクの言うとおりにするしかない
「それでどんな効果があるのよ?」
美神さんに至ってはその加護に興味があるようで私とかの気持ちはガン無視だ。
「……水は命の源、こいつの身体が強いのは私の加護がまだ魂に残っているから……」
これは驚愕の新事実かもしれない……まさか横島の驚異的な回復力がシズクの加護だなんて……もしかすると逆行前の世界にもシズクが居たから、横島のあの驚異的な生命力があったのかもしれない……
【横島さんはロリじゃ無いから大丈夫、横島さんはロリじゃ無いから大丈夫】
体育座りをして繰り返しそう呟いているおキヌさんは結構やばい感じだ
「み?」
机の上に座ってみかんを食べているチビだけが、大人しくしていた
「……それじゃあ直ぐに済むから」
シズクが寝ている横島の額に軽く口付けを落とす。額が一番チャクラに近いからだろう。横島とシズクの身体が青く光る
「……ん。これで霊力の同調は終わった……じゃあ治療を始める」
やっとか……もっと早く……ってえ!?
【「「なんで服を脱ぐ!?」」】
私と美神さんとおキヌさんの絶叫が重なる。着ていたワンピースを捲り上げて下着姿になったシズクに怒鳴ると
「……あんまり見るな、恥ずかしい」
「じゃあ服を着なさいよ!!」
恥ずかしいって言うなら服を着ればいい。これは間違いではない筈だ。だがシズクは首を振って
「……これは必要な事だから」
そう言われるとどうしようもない、もっと治療系の術を覚えて置けば良かったと今更ながらに後悔した
「……ではよいしょ」
【「何で脱がす!?」】
「グルゥッ!!!」
躊躇う事無く横島の上着を脱がせるシズクにそう叫ぶ。ついでにタマモは吼えた、美神さんはコーヒー飲むわとキッチンに逃げた。
「……黙ってろ」
凄まじい形相で睨まれうっと呻く事しかできない。見た目は子供だけど、凄まじい霊力を持った竜神だ。その威圧感は半端ではない
「……ん」
上半身を裸にした横島の背中に水をかけながら、しがみ付くシズク。もう傍目から見たら犯罪にしか思えないのだが、治療だと聞いているから妨害するわけには行かない
「……んんッ……あふう……」
なんか段々シズクの声に艶が混じってきて、喘いでいる様に見える。
(これ本当に治療!?私騙されてない!?)
なんか絶対騙されている気がする!でも治療……いや、これ騙されて……止めに入るかどうかと悩んでいるうちに
「……ん♪完了」
そう笑って立ち上がったシズクの手から光が溢れる、これで治療完了と言うことなのだろうか?シズクがワンピースを着ようとするが、それよりも早く横島が身体を起こして
「ううーん、あれ?なんで俺の家?ってどわあ!?」
体を起こした横島が目の前の半裸のシズクを鼻血を出して気絶する。これは目覚めに見た所為……だと思いたい。横島はロリコンじゃないって言ってたからシズクに反応したのではなく、目覚めて直ぐの半裸に驚いたのだと思いたい
「でも随分あっさりと終わったわね?服を脱ぐ必要はあったのかしら?」
騙されていたのは?と思いシズクにそう尋ねるとシズクは
「……大有り。だって……私が気持ちいい」
シズクの勝ち誇った笑みを見た私とおキヌさんは同時に立ち上がる。もう終わったのだから我慢する必要はない
「【表出ろ!コラぁッ!!!!】」
もう私も我慢の限界だ。まだ私は横島の頬にも額にもキスしてないのに、あんな光景を目の前で見せ付けられなくてはならない!それも治療と思って我慢したのに自分が気持ちいいから?ふざけるな!!!
【ふふふふふふ、悪い蛇にはお仕置きが必要ですよね?ふふふふふふふふふふ】
おキヌさんもどす黒いオーラを撒き散らしながらシズクを見下ろしている
「なにこの惨劇!?なにがあったの!?」
カーペットに飛び散っている鮮血を見て絶叫している美神さん。悪いけど今は説明している時間が無い、このロリを躾けなければならないからだ。シズクはにやりと笑い
「……上等。私に勝てると思ってるの?」
全身から水を噴出し臨戦態勢になっている。私はソーサーと破魔札を手に庭に出て、おキヌさんはポルターガイストで包丁を浮かべて庭に出た
~~暫くお待ちください~~非常に危険な事になっているので音声だけでお楽しみください
「この!蛇がアアアア!!」
「……蛇じゃなくて龍神。このつるぺた」
「きっさまああああああああああッ!!!!!」
ドゴンッ!!
バーンッ!!!
ばっしゃああああああんっ!!!!
【躾けて上げます。オチビさん】
「……やってみれば?ストーカー」
【ふふふふふふふふふふふ!!!】
ヒュンヒュンッ!!!
ドスドスドスッ!!!
「……遊びにもならない」
バッシャアアアアンッ!!!
「……ううう、ま、負けた」
【勝てないですう】
水でびしょびしょになりつつ横島の家に戻る。外見が子供だから油断した。相手は水神ミズチ、封印されている私じゃ勝てない。いや封印がなくても勝てないかもしれない
「ワイはロリじゃ無い、ワイはロリじゃ無い」
体育座りで繰り返し呟く横島。これはかなり精神的に来ているのかもしれない、とは言え私達もかなり精神的に来ている
「……さてこれで納得行ったでしょ?じゃあ横島、私もこの家へ「絶対にノウッ!!!」
腕をバツにして叫ぶ横島。発音がなんてたどたどしいの?シズクは少し落ち込んだ様子で
「……なんで?」
「ワイはロリコンやないからな!「……黙れ」はぐう!?」
シズクのボデイブローで沈黙する横島。普段なら怒るタイミングだけど動けない
「……お前がなんと言おうが、私はここにいる。良いな?」
横島を見下ろすシズク。横島は痙攣しながら「イエス。マム」と呟いた。私とおキヌさんが何も言えないし、と言うか動けない
「これでまた戦力が増すわね、良いことだわー」
水神ミズチを戦力として換算している美神さんが止めてくれる訳もなく、こうして水神ミズチのシズクが横島の家で暮らすことになったのだった……
((な、納得行くものかあ))
絶対あのロリを追い出してみせる、私とおキヌさんはそう誓ったのだった……
折角の満月なのに、横島は美神の攻撃と精神的なダメージのせいで早々に寝てしまった
「横島の馬鹿」
楽しみにしていたのに……これでまた次の満月までしゃべることの出来ない狐のままだ
「……あの玉藻前も恋すれば人間と変わらないね」
にやりと笑いながら私の隣に現れるシズク。その手には酒の瓶
「どこから持って来たのよ、それ」
横島の家には酒なんてなかったはずだけど……
「……水の幻影で化けて買って来た、久しぶりに再会した旧友との再会を祝って」
そう笑うシズクだけどそんな事を思っていないのはその目を見れば判る
「謝らないわよ、私は悪くない」
横島に加護を授けた時、別の加護があるのは判っていた。それでもだそれでも私の加護を授けた
「……悪い訳がない。加護を授けるのはそれだけ大事と言う事。私は高島は好きだったが、横島は良く判らない」
そう笑ってコップに酒を注ぐシズク。見た目幼女なのにと思っていると
「……ん」
差し出されたコップ。少し考えてから中身を一気に飲み干す、妖怪がこの程度で酔うわけがないから
「私は横島が好き。高島はどうでも良い」
シズクが横島に高島を重ねてみているのなら許す事は出来ない。あのお人よしの横島を別の誰かに重ねて見るなんて許せない
「……そう怖い顔をしなくても良いだろう?人間と妖怪は違う。価値観もな」
妖怪の中では一夫多妻なんておかしい話ではない、だけどそれはあくまで同じ種族の中での話だ
「良いの?他のミズチに呼ばれてるんじゃないの?」
「……その言葉そっくりそのまま返す」
シズクの言葉に小さく呻く、私も妖狐の頭領として呼ばれているけどここにいるのだから
「……妖怪が幅を利かせている時代は終わった、ここからは自分の好きに生きても良いはず」
「珍しく良いことを言うわね」
昔は妖怪と言うだけで恐れられたし、追われた。だけど今はそんな事も少ない
「……高島と横島は良く似ているから、私は直ぐ好きになる」
シズクとあったときは既に神社に縛られていた。それをしたのが高島という陰陽師なのだろう
「一途過ぎるのも考え物ね」
下手をしたら地雷女一歩手前よねと思いながら言うと
「……良いじゃ無い、それだけ思いが深いのよ」
ぐいーっと酒を煽るシズク。姿が子供だから違和感ありまくりね
「そう、そうね。だけど横島は私のだからね」
譲らない、これだけは絶対に譲らない。早く人間の姿でずっといれるようになりたい、そうすれば横島を私の物に出来る
「……ふふふふ。さぁ?」
奪ってやるという意思を感じさせるシズク。これだから蛇は嫌いなのよ
「横島には近づけさせないから」
明日にはまた獣に戻っているけど、その姿でも横島を護れる
「……それもまた面白いかもしれない」
酔っているせいか上機嫌のシズク。本当に何を考えているのか判らない奴……
「私はもう寝るから。横島の部屋に来ないでよ」
「……何故?」
不思議そうな顔をしているシズク。こいつ絶対来るつもりだったわね……
「横島にシズクの霊力はきついでしょ?押さえれないんだから大人しくしてなさい」
シズクの霊力を押さえることは出来ない、それに蛇の姿が嫌いだから戻るとは思えない、だから私は狐の姿に戻り横島の部屋へと向かった……だがこの時私は気付くべきだった
「……にや」
全て計算通りと言いたげなシズクの邪悪な笑みに……そして朝になって気付いたのだ、私のこの行動自体もシズクの計算のうちだったのだと……
「うお……」
目を開けると目の前に飛び込んできたのはふさふさのタマモの尻尾。籠に入った形跡もないので、そのまま俺の上に来たたんだろうなあと苦笑しつつ
「なんや寝ぼけてるんか」
タマモを起こさないように気をつけ、抱き上げ籠に寝かして部屋を出る。
(悪いことをしたなあ)
昨日は満月だったからタマモと話せる日だったのに、眠ってしまった。今度何か埋め合わせをしないとなぁと思っているとぐーっと腹が音を鳴らす。
「ふああああ……あー腹へった」
昨日は結局何も食べないで寝たから腹空いたと呟きリビングに向かい
「うおお!?どうした!?なにがあった!?」
リビングで蹲っている蛍とおキヌちゃん。物凄く沈鬱した雰囲気で
「ま、負けたロリに負けた……」
【私のアイデンティティが……】
本当に何があったんだ!?俺が混乱していると
「……さっさと座れ、ご飯が冷める」
シズクがエプロン姿でお玉を装備したシズクが腰に手を当ててこっちを見つめていた。
(お、俺は今混乱している!?蛍とおキヌちゃんが自信を失っていて、目の前には幼女・エプロン・お玉……まさかロリおかん!?ロリおかんなのか!?」
それは都市伝説の中にしか存在しない、ロリ属性であり、おかん属性と言う究極の存在。そんな存在がまさか目の前に存在するなんて!?俺が混乱しているとシズクは
「……馬鹿な事を言ってないで早く座って食べろ」
「へぶう!?」
シズクの投げたお玉が顔面にめり込んだ、どうやら声に出ていたようだ
「……そこのも食べてみればいい、腕の差を思い知れ」
にやりと笑うシズクとよろよろと立ち上がる蛍とおキヌちゃんを見ながら机の上を見る
(おお、すげえ)
味噌汁に大根と揚げの煮物に白菜の浅漬けに魚の干物。しかもチビにはカットされた果物の盛合わせ
「料理上手なんだな」
こんなに小さいのにと感心しながら言うとシズクは
「……当然。世話になるのだから家事をするのは当然」
にっこりと笑うシズク。その顔は慈愛に満ちているような気もしたが激しい嫌な予感を感じさせる笑みだった
「頂きます」
とりあえず飯を食おうと思い、味噌汁へ手を伸ばしたのだった
「うーまーいぞー!」
なんだこの味噌汁は!?今まで食べたどんな味噌汁よりも美味い!?口から思わず何か出たとおもうほどに
「「うう……」」
号泣しながら味噌汁を啜っている蛍とおキヌちゃん。間違いなくあの涙は自分のプライドをへし折られた涙なのだろう……
(うーむ。しかし本当に美味い)
ご飯は甘いし、味噌汁は塩加減が絶妙。妖怪なのに凄いと思わずにはいられなかった
「ご馳走様でした」
【「……ご馳走様でした」】
魂の抜け落ちたかのような顔で手を合わせる蛍とおキヌちゃん、なんてフォローすれば良いのか判らなかったが
「いや、蛍とおキヌちゃんの味噌汁も好きだよ?」
うん、シズクのも美味いけど、蛍とおキヌちゃんの味噌汁も美味しいとフォローしていると
「……寺子屋に遅れる。早く行け」
弁当箱を差し出しながら言うシズク。なんか口は悪いけど凄く良い子なのか?俺はシズクと言う少女が何を考えているのか今一理解できないと思いつつ、その弁当を受け取り学校に向かう準備をして出かけて行ったのだった……
くう……なにこの幼女。スペック高すぎよ……ここまで絶望的な戦力差を感じたのは初めてだ
「……ふふふ」
勝ち誇ったこの顔が更に腹が立つ。だがここで力で勝負に出るのは頭の悪い証拠……別の方法を考えないと
(絶対へこます)
もっと料理を勉強しようと決意を固める。そしてそれと同時になんとかしてシズクを横島の家から追い出す事を考えないと
「……早く帰れ。横島が家に帰ってくるまでに部屋を掃除するんだから」
箒を手にしているシズク。なんでミズチなんて大妖怪なのにここまで家庭的なスキルを装備しているのよ……
「おキヌさん、どうしようか?」
横島の家を半分追い出されるように後にする。私の記憶ではシズクなんて存在しなかった
【取り戻します。あのキッチンは私の聖域なのですから】
料理に絶対の自信を持っているおキヌさんが握り拳を作る。自分の得意分野を奪われたそのショックは大きいだろうなあと思う
「じゃあ料理の本を買ってきて私の家で作ってみましょう。あの幼女にいつまでも負けてられないわ」
【そうですね!そうしましょう】
まずはシズクが作れないであろう、洋食から勉強する事を決め、早速近所の本屋へ走ったのだった
「みーみー」
掃除をしているシズクの手元のはたきに纏わりつくチビ
「……」
無言で別の所の埃を払うシズクだがチビはチビで
「みーん♪」
遊んでもらっているのだと思いはたきを追い回す。シズクは無言ではたきを机の上に置く
「み?」
遊んでくれないの?と見上げてくるチビを抱っこして
「……散歩行く?」
リードを見て尋ねるとチビはリードを見て嬉しそうに尻尾を振る。シズクはその様子を見て小さく微笑み
「……行こう」
鍵を持っていないので水の結界を出入り口に張ったシズクは、リードを持って目を輝かせているチビからリードを受け取り
「みっみー♪」
嬉しそうに鳴くチビの首輪にリードを繋いで散歩に出かけていくのだった……
別件リポート1トトカルチョ途中経過
リポート11に入る前に別件リポートとして短い話ですが、横島争奪トトカルチョの途中経過をいれようと思います
今後出るかもしれないキャラもちょろっと出すので楽しみにしていてください
それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします